この作品を観るということは、どんな効用を与えるか。アメリカン・ポピュラー・ミュージックを好きな者であれば点と点がつながって線になっていく快感を得ることができるだろうし、いろいろアングルを変えれば、それこそ何千字もの文章を書くこともできるだろう。劇中、ほぼ英語しゃべりっぱなし、つまりとてもセリフが多いのだが、さすが作詞家が主人公だけあって、結構心憎く韻を踏む。その作詞家=ローレンス(日本ではなぜかロレンツ表記)・ハートの最晩年の姿を演じるのは、なんとイーサン・ホークだ。かつて『ブルーに生まれついて』でチェット・ベイカーに扮した彼が、特殊メイクで小柄になり、地毛を剃るだか抜くだかしてハゲ気味になって、全身全霊でハートを演じきる。

 カメラはブロードウェイの劇場街近くにあるレストラン「サーディーズ」の店内からほぼ動かない。この店を私は瀬川昌久さんを通じて知った。瀬川さんは1953~54年、57~59年頃ニューヨークに住んでいた。その瀬川さんのもとに、旧友の三島由紀夫が訪ねてきた。そして「僕の『近代能楽集』がニューヨークで上演されたらなあ。初日上演のあと、サーディーズに集まった批評家たちが僕の作品をあれこれ語っているところを、店の端っこで聞いてみたいよ」というようなことを語ったと、瀬川さんは教えてくれた。

 そのサーディーズの、しかも1943年当時の店内が再現されているのも大きな見どころだし、酒びたりで皮肉屋のハートよりも、健康で明朗なオスカー・ハマースタイン2世との合作を優先した(といっていいだろう)作曲家リチャード・ロジャースの心情も描かれている。ほか、博覧強記の生意気な少年がいい味を出すのだが、これは後年のスティーブン・ソンドハイム(57年に「ウエスト・サイド・ストーリー」の作詞で世に出る)。アメリカン・ミュージカルの未来にしっかりつながっていく、「1943年3月31日の夜」である。ニューヨークがスウィングしていた頃、極東の敵国のキャッチフレーズは「欲しがりません勝つまでは」や「進め一億火の玉だ」だった。

 ラスト近くに流れるトニー・ベネットの「ジス・ファニー・ワールド」も実に良い。リチャード・リンクレイター監督、イーサン・ホーク主演。

映画『ブルーム―ン』

3月6日(金)新宿ピカデリー、TOHOシネマズ シャンテ 他 全国ロードショー

監督:リチャード・リンクレイター 脚本:ロバート・キャプロウ
出演:イーサン・ホーク マーガレット・クアリー ボビー・カナヴェイル アンドリュー・スコット
配給:ロングライド
上映時間:1時間40分|2K SCOPE (2048×858)|5.1ch|翻訳 齋藤敦子
配給:ロングライド
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