2025年9月2日に、ドルビーから新しいHDR技術「DolbyVision 2」が発表された。現在、UHDブルーレイや動画配信サービスで採用されている「Dolby Vision」の進化版だ。既にハイセンスやCANAL+がDolby Vision 2の採用を発表しているが、その技術詳細については不明な部分も多い。そこでドルビージャパンに協力をいただき、アメリカ本社にメールベースでの質問をお願いした。麻倉さんが気になったDolby Vision 2の詳細について、以下で報告する。なお回答は個人名ではなく、ドルビーラボラトリーとしていただいた。(StereoSound ONLINE)
Q1:DolbyVisionが登場して、10年以上になりますね。このタイミングでなぜ今、Dolby Visionを改訂するのでしょうか? その理由は? また、開発はいつ始まり、どのようなプロセスで完成に至ったのですか?
A1:DolbyVisionは10年以上にわたり、プレミアムHDRの最高品質の基準として、画質の進化に貢献してきました。この成功を礎に、Dolby Vision 2は現代のテレビ視聴体験をさらに向上させることを目的に開発されました。それはDolbyの “すべてのスクリーン、コンテンツ形式、デバイスにおいて画質を向上させる” というミッションに則ったことです。Dolby Vision 2はDolby Visionエコシステムの進化形であり、コンテンツ制作、エンコード、テレビソフトウェア、テレビハードウェアの改良を組み合わせています。
CES2026のDolbyVision 2デモ展示より。制作側のプログラム「Content Intelligence」の効果。右はコントラスト、色再現、ディテイル再現が格段に違う
Q2:なるほど。DolbyVision 2の目標について教えてください。Dolby Vision 2が実現する映像表現はどのようなものですか?
A2:コンテンツ制作者の表現意図とリビングルームでの映像体験との間には少なからずギャップがあります。Dolby Vision 2の目標は、その溝を効果的に埋めることです。カラーグレーディングでの制作者の制作意図と、リビングルームでの視聴体験をこれまで以上に強く結びつけるのがDolby Vision 2です。制作者の意図に忠実に、かつ自動的にテレビの性能を最大限に引き出すことを可能にします。
DolbyVisionの根幹である「コンテンツ意図を正確に再現する」ために、“Content Intelligence(コンテント・インテリジェンス)” という統合的なプログラムを打ち出しました。これにより、制作者が自らの表現意図をより正確に定義できるとともに、最新のディスプレイ技術のポテンシャルを最大限に引き出し、視聴者はよりリアルで魅力的な映像体験が得られます。
Q3:なるほど、DolbyVision 2は制作側と再生側のどちらも、ターゲットにしているのですね。
A3:はい、Dolby Visionは従来から、テレビのモデルごとに最大・最小輝度や色域などの特性を測定し、それぞれの性能に合わせて最適な映像再現を追求してきました。Dolby Vision 2では、この仕組みをさらに進化させました。最新ディスプレイの性能を最大限に引き出しつつ、制作者が付加できる新しいメタデータを通じて、さらに忠実な映像意図再現を目指します。
具体的にはDolbyVision 2には、「Precision Black」「AuthenticMotion」「双方向トーンマッピング」「ゲーム/スポーツコンテンツ最適化」など、従来のDolby Vision IQ(Dolby Visionに明るさの定義を追加)以降の初めての新機能が加わりました。これらの機能群が「Content Intelligence」を構成しています。これらは単独ではなく、相互に動的に関連し、トータルに働きます。つまり「Content Intelligence」は制作現場と視聴者のリビングルームを結ぶ架け橋なのです。
CES2026のDolbyVision 2デモ展示より。「Content Intelligence」。暗部階調とコントラストがまったく違う
Q4:わかりました。ではまず「Precision Black」について、教えてください。
A4:例えば映画やドラマのとても暗いシーン。再生側にはテレビの性能の違いや視聴環境の違いがあるので、一様に見えやすく表示することは容易ではありませんよね。「Precision Black」は、それを制作側からテレビ側までの含めたトータルなアプローチによって、解決に努めるのです。
コンテンツ制作者がカラーグレーディング工程にて、再生側の周辺環境(明るさ)や最低可視黒レベルを定義します。その情報はメタデータとしてコンテンツに組み込まれ、Dolby Vision 2信号の中に保持されます。一方、テレビ側に組み込まれた「DolbyImage Engine」が、このメタデータと併せ、予め測定しておいたテレビの性能情報や、(照度センサー搭載時には)部屋の環境光情報とマッチさせることで、制作者の意図を正確に再現するのです。
「PrecisionBlack」は、制作者のカラーグレーディングで得られたカスタムなメタデータを活用し、テレビ側の性能データと組み合わせることで、暗いシーンでも制作者が定義した正確なコントラスト、階調を再現するのが目的なのです。
Q5:わかりました。「双方向トーンマッピング」はどのような効果を持ちますか? 具体例を挙げて説明してください。
A5:従来のトーンマッピングでは、基準モニター(リファレンスディスプレイ)よりも低い輝度、狭い色域のディスプレイに合わせて映像を調整していました。Dolby Vision 2では初めて、基準モニターよりも性能が高いディスプレイに対しても、どのようにトーンマッピングを行うかを制作者自身が定義できるようになりました。これが「双方向トーンマッピング」です。
いわば、従来の「Bright Mode」をより高度かつインテリジェントに発展させた機能であり、「ContentIntelligence」の全機能と連携することで、コンテンツと視聴デバイスに基づいて、最も臨場感のある本物の映像体験を実現します。
CES2026のDolbyVision 2デモ展示より。テレビ側で持つIMAGE ENGINEという、Dolby Vision2回路の有無。右のDolby Vision2ありは、黒側の階調が緻密に再現されている。中間調のディテイルも明確
Q6:最近は、コントラスト、色域ともに、格段にテレビ性能が上がってきましたから、必要な措置ですね。「Authentic Motion」(オーセンティック・モーション)について教えてください。
A6:「Authentic Motion」は、Dolby VisionのHDR映像でのメリットをさらに強化させる目的で開発されました。テレビの大型化・高輝度化に伴い、特に明るい背景でのパンショットなど、24fpsコンテンツで不自然なジャダー(カクつき)が発生しやすくなっています。そこで、制作者が各シーンの不要なジャダーを回避する機能として開発されました。
「AuthenticMotion」は、Dolby Vision 2信号内に含まれるメタデータを通じて、各シーンに応じたテレビ側のフレーム補間を制御するのです。これにより、制作者の動きに関する意図を反映した処理が、テレビ側で実現できます。この機能は、メタデータを通じて制作者自身が管理でき、「Content Intelligence」の支援により、問題が起こりやすいシーンを特定し、その箇所にのみ適切な量の補正(デジャダー)を加えることが可能です。
Q7:これは待ち望まれていた機能ですね。フレーム補間など、動きのがたつきを取る機能はありますが、宇宙遊泳的な不自然な動きになる場合も散見されましたから。
A7:適用はあくまで制作者の判断に基づき、映像全体ではなく特定のショットやシーンのみに限定されます。これにより、制作者と視聴者の間のちょうどよい案配のところで、制作者の意図を損なうことなく、視聴者にとって最も自然で心地よい動き表現を実現します。
Q8:DolbyVision 2はAIを使うのでしょうか。日本のテレビメーカーはすでにAIを用いてコンテンツ種類の識別や環境検出、画質調整を行っています
A8:DolbyVision 2は制作段階にてAIを活用し、アーティストのワークフロー効率化を支援します。例えば、AIは映像のジャダー(カクつき)が顕著に現れる可能性があるショットを検出し、制作者が「AuthenticMotion」機能を使うかどうか、またその程度を判断できるようにします。開発中の新しい制作ツール群により、制作者がカラーグレーディングハウスで、また(配信サービスでは)Dolby Vision配信パイプラインにおいても、ドルビー製のAI画像解析エンジンを活用して制作者主導のトーンマッピングを効率的に利用できるようにします。
一方、テレビ側ではDolby Vision 2はAIを使用しません。いわゆる「AI画質モード」やその他のテレビ側単独の後処理技術とは大きく異なり、制作者の創作意図に沿って動作する点が大きな違いです。そのため、制作意図を損なうこともありません。
CES2026のDolbyVision 2デモ展示より。右のIMAGE ENGINE内蔵テレビは明部の階調が緻密で、ディテイルも豊富
Q9:DolbyVision 2の基本仕様(最大輝度10,000cd/平方メートル、12bit色深度、BT.2020色域)に変更はありますか?
A9:DolbyVision信号の基本仕様(最大輝度やビット深度など)は、従来から大きな変更はありません。一方で、DolbyVision 2では、カラーグレーディングでの制作意図をより正確にリビングルームへ橋渡しするための新しいツール群と、映像の “忠実性” と “臨場感”を高めるための、映像処理・表示制御に関する新たな機能群がテレビ側に追加されたのは前述のとおりです。
Q10:DolbyVision 2対応ディスプレイの要件は決まっていますか?
A10:ここまでは、新しいDolby VisionとしてのDolby Vision 2を説明してきましたが、テレビ製品のスペックブランドとして、普及用の「Dolby Vision 2」、高級機用の「Dolby Vision 2 Max」のふたつがあります。
ベーシックのDolbyVision 2は、「Content Intelligence」やテレビ側に組み込まれた「Dolby Image Engine」といった新機能を備えます。Dolby Vision2 Maxは、それに加えてより高性能なディスプレイ向けに設計された追加機能も提供します。「AuthenticMotion」「双方向トーンマッピング」、映像品質にこだわりがある方向けの高度な調整ツール、キャリブレーション機能……などです。
Q11:テレビ側の要件は?
A11:Dolby Vision 2およびDolby Vision 2 Maxに対応するためには、テレビメーカー側で新しいDolbyVision 2用Image Engineをハードウェアレベルでサポートすることが最低条件となります。
DolbyVision 2 Maxを製品に搭載する場合は、これに加えて照度センサー対応やフレーム補間に関してのハードウェア要件が最低限必要です。また既存のDolby Visionコンテンツとの後方互換性も確保されており、対応テレビでは従来作品でも改善された画質を楽しめます。
CES2026のDolbyVision 2デモ展示より。右のIMAGE ENGINE内蔵テレビは明部の階調が緻密で、ディテイルも豊富
Q12:プロジェクター機器に関する要件は確定しましたか?
A12:現時点で発表できる情報はありません。現在は、テレビ向けの最新技術の導入に注力しています。
Q13:UHDブルーレイやストリーミングでDolby Vision 2を採用する予定はありますか? 既存のプレーヤーやデバイスで再生可能ですか?
A13:DolbyVision 2コンテンツの伝送メディアには特に制限はありませんが、現状では未定です。
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Dolby Visionはコンテンツとテレビの世界を変えた。制作→テレビという系で、トータルでHDRを貫徹させることの意義はきわめて大きかった。Dolby Vision 2はさらにコンテンツ側の意図が最終端末のテレビに色濃く反映されるのが、進化点だ。前述したように、ドルビーは「“すべてのスクリーン、コンテンツ形式、デバイスにおいて画質を向上させる” というミッションを持つ。ぜひプロジェクターでのDolby Vision 2定義も推進して欲しい。