イマーシブ・オーディオ録音の第一人者である入交英雄さんが、昨年奈良駅近くに「ならまちスタジオ」を開設、ここをベースにイマーシブ・オーディオの制作・啓蒙に取り組んでいる。StereoSound ONLINEでは、昨年末に麻倉怜士さんと一緒にならまちスタジオを訪問し、プロの空間でJBLのサウンドバー「BAR1300MK2」の素晴らしいサウンドを体験してきた。今回の連載では、その際にうかがった、ならまちスタジオ開設の狙いやルームチューニングについて紹介する。(取材・まとめ:泉 哲也)
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昨年11月に、ならまちスタジオにJBL「BAR1300MK2」を持ち込んで、イマーシブオーディオ制作環境でどれほどのパフォーマンスが楽しめるかを確認していただいた。その詳細もぜひチェックを!
online.stereosound.co.jp麻倉 やっと「ならまちスタジオ」にお邪魔することができました。ここは入交さんが調音を含めて丹念に環境を追い込んだ空間ということです。まずはこのスタジオを作られた狙いと、環境づくりでこだわった点などをうかがいたいと思います。
入交 わざわざおいでいただき、ありがとうございます。麻倉さんもご存知の通り、私は前職ではWOWOWでイマーシブ・オーディオの開発を担当していました。一昨年WOWOWを退職することになって、引退という選択肢もあったんですが、ちょうどイマーシブ・オーディオの普及の兆しが見え始めてきましたので、これは引退している場合ではないと(笑)。
麻倉 そうですよ、入交さんはイマーシブ・オーディオのイノベーターですからね。このジャンルを牽引していただかないと困ります。
入交 ありがとうございます。大学での立体音響に関する卒研から考えるとイマーシブ・オーディオには約50年は関わっていますので、これが世の中に普及していくためにもうちょっと尽力できればというのが一番の動機です。
麻倉 どうして、奈良という場所を選ばれたんですか?
入交 もともと拙宅は生駒にあり、WOWOWの頃は単身赴任で熱海に住んでいました。そろそろ奈良に戻りたいという気持ちもありましたし、こういった文化を発信するなら別に東京でなくてもいいだろうと。奈良は日本の始まりの地と言われていますが、そこからイマーシブ・オーディオの始まりを見届けるのも、いいんじゃないかと思ったのです。
奈良で物件を探し始めたんですが、古民家などは改修にすごくお金がかかるんです。それでどうしようかと思っていたら、たまたまこのマンションを見つけました。不動産情報誌には店舗用物件と書かれていて、一番端の部屋だけ地下室が付いていたのです。実際には納屋扱いの半地下でしたが、部屋の周りには他の住居がないので、音を出しても大丈夫そうだということで選びました。上の階も自分の部屋ですから、音が響いても問題はありません。スタジオとして使うには、本当に理想的な場所でした。
ならまちスタジオには、AURO-3D用とドルビーアトモス用の2種類のマルチチャンネルスピーカーがセットされ、ミックスや再生するフォーマットに応じて使い分けている
AURO-3D用のサラウンドやサラウンドバックスピーカーは床置きで設置。写真はJBL「BAR1300MK2」の試聴時のもので、ジェネレック「1301A」の上に「BAR1300MK2」の着脱式リアスピーカーを載せている
麻倉 階段を降りた正面側が半地下で、反対には窓があるけど隣の建物まで離れているから心配ない。理想的な物件を見つけられたんですね。スタジオの広さはどれくらいですか?
入交 地下室は広さ26畳、横幅が6.5m、奥行きは7mです。これもちょうどいいサイズでした。
麻倉 正面にフロントL/C/Rスピーカーやモニターが置いてあって、サラウンド、サラウンドバック、トップスピーカーも取り付けられている。まさにイマーシブ・オーディオのための空間ですね。
入交 正確には正面側には調音パネルを取り付けているので、もとの空間よりは少し狭くなっています。この調音パネルはある素材を使ってDIYで自作したものになります。面白いパネルですので、後ほど詳しく紹介させてください。
スピーカーの設置半径は2.2mで、熱海のスタジオでは2mだったので若干広くなっています。ミキシング環境では、スピーカーの設置半径はすごく重要で、経験上は2m〜2.5mぐらいが一番いいと思っています。
麻倉 イマーシブ・オーディオのミキシングにも適した大きさだったんですね。スピーカーやアンプはどういう基準で選んだんでしょう?
入交 機材の大半は熱海から持ってきたものを使っています。一番の違いはトップスピーカーで、熱海のスタジオではトップ(上)とフロアー(下)のスピーカーが違うブランドだったんです。
熱海では、ミッドレイヤー用はジェネレック、ハイレイヤー用はイクリプスを使っていたんですが、そのために空間のつながりで気になる部分もありました。今回は、ミッド用に使っていたジェネレックの「1030A」をハイレイヤー用に回し、ミッドレイヤー用に同じシリーズの「1031A」をネットオークションで手に入れ、13チャンネルを同一ブランドで統一しました。さらにもうひとつ、イクリプス「TD508II」の10チャンネルシステムも比較用に取り付けてあります。
麻倉 熱海スタジオの音も聴かせてもらいましたが、その時よりも音のつながりというか、空間の濃密さが高くなって、低音から高域までの再生レンジも広がった感じがしました。
入交 その点については、全チャンネルを同じブランドのスピーカーで揃えた効果も大きいと思います。もうひとつ、スピーカーを正確に円筒形に配置できたのもよかったですね。
イマーシブ・オーディオ録音の第一人者である入交英雄さん
麻倉 さて、このスタジオでのお仕事はどういう内容になるのでしょうか?
入交 ここで音楽のミキシング、マスタリングをして納品するといった、いわゆるスタジオ作業がベースになります。他に、イマーシブ・オーディオとはどういうものなのかを体験してもらうのも重要なミッションなりますので、試聴会をなるべくたくさん開催していきたいと思っています。
麻倉 熱海でも頻繁に試聴会を開いていましたね。
入交 熱海では、試聴会がきっかけで、実際にシステムを買ってくれた人が6人いらっしゃいました。草の根ではあるんですけども、こういう運動は大切だと思っています。実際に音を聴いたら皆さん感動してくれますし、人づてで試聴会に参加してくれる人も増えてきました。
ならまちスタジオにも既に何組か試聴に来てくれて、そのうちの一組が棚貸しの本屋さんを経営しているので、そこにシステムを導入してみようかなと検討を始めてくれています。
麻倉 といっても、スタジオでは機材を揃えただけではダメで、どういう風に設置するかも大切です。賃貸物件でその環境を実現するために色々な工夫もされているようですが、そのあたりについて教えて下さい。
入交 そこはかなり考えました。予算もないので、DIYでやるにはどうしたらいいのかも工夫したのです(笑)。カーペットも自分で敷いたんですが、これが一番重労働でした。ピアリビングというブランドの防音カーペットで、重さが一枚1kgあるので、150枚ほど並べるだけでも4日かかりました(笑)。
麻倉 そうだったんですか。エッジも綺麗だし、最初からこんな床なのかと思っていました。
ジェネレックの「1030A」ハイトスピーカーは2✕4用用のツールを使った突っ張り板に取り付けている。ドルビーアトモス用のイクリプス「TD308II」は写真スタジオ用の突っ張り棒を使っているとのこと
AURO-3Dでは聴取位置中央真上に「ボイス・オブ・ゴッド」と呼ばれるスピーカーを設置する。ならまちスタジオでは、金属製のトラスを横方向に渡して、そこにスピーカーを取り付けている
入交 次はハイトスピーカーをどうやって固定するかでした。賃貸で釘を使ってはいけないので、色々な方法を調べました。熱海のスタジオでは突っ張り棒を使っていたので、もうちょっと見栄えのいいものはないかと思って探してみたら、2✕4(ツーバイフォー)の木材を突っ張るツールを売っていたんです。木材の上下にスプリングの入ったパーツを取り付けて、天井と床の間でテンションをかけて固定するものです。
麻倉 木材の柱なので部屋に馴染んでいますね。さらに、途中に釘を打てばヘッドホンを吊るしたりと、色々な使い方もできるのがいい。この方法は、賃貸物件でイマーシブ・オーディオを実現しようとしている人には参考になりそうです。
入交 AURO-3Dの場合は、他にもボイス・オブ・ゴッド(天井中央)スピーカーも必要ですから、これをどうやって取り付けたらいいかも皆さん結構悩まれるんです。今回は部屋の両端に取り付けた板に金属製のトラスを固定しました。強度的に大丈夫か心配だったんですが、まったく問題ありませんでした。
麻倉 左右の壁際に先程の突っ張りシステムを使った2×6板を立てて、その上部にトラスが固定されている。確かに、これなら天井に穴を開けずにボイス・オブ・ゴッドが設置できますね。先程お話に出た調音パネルも同じ方法で固定されているんですね。
入交 はい、フロント側を取り囲むように設置しました。2✕2mくらいの木枠を作って、その内側にCALMOFOAM(カルモフォーム)という吸音・遮音素材を取り付けています。表面はベージュのジャージークロスでカバーしています。
麻倉 その吸音材がキモなんですね。どんな素材なのでしょう?
入交 今日は発売元である松村アクアの松島秀典さんにも同席いただいていますので、説明をお願いしたいと思います。
吸音材のCALMOFOAMを内部に取り付けた大型パネルを3枚自作し、これも突っ張り板を使って固定している。このパネルの効果で残響時間や音のクリアネスが改善できたとか
厚さ5cmほどのCALMOFOAMを、角材の間にとりつけた比較的シンプルな構造ながら、音のチューニングの効果は大きかったそうです
松島 初めまして。松村アクアで産業資材を担当している松島です。弊社はフラワーアレンジ用吸水フォームを日本で唯一製造・販売している会社になります。
麻倉 生け花の吸水フォームと吸音材が関係あるんですか?
松島 もともとは入交さんが毎日放送にお務めの頃に、サーバールームの騒音が大きいので、対策を探されていたことが発端です。その中で株式会社静科さんの「SHIZUKA Stillness Panel」を導入したら、かなり騒音が抑えられたとのことでした。
実は弊社のCALMOFOAMは静科のパネルに使われている吸音材で、そこから興味を持っていただいたそうです。たまたま弊社のお花関係の部材を販売しているショップが毎日放送さんの正面にあり、入交さんがCALMOFOAMについて教えてほしいと相談にみえたのです。そこで、私が説明にうかがうことになりました。
入交 当時は機材がデジタル化している時期で、発熱も激しくなっていたため色々な所にファンが付けられて、コントロールルームの中もうるさくなっていました。最初、機材ラックの扉の裏に静科のパネルを貼り付けてみたら、騒音レベルが7dB下がりました。そこから、音が出るところを全部囲んでみようという話になって、松島さんに相談に行ったんです。
松島 弊社はCALMOFOAMを販売していましたが、吸音パネルとしてどう使うかなどの踏み込んだ部分はわからなかったので、そのあたりについて入交さんに教えていただきました。
麻倉 CALMOFOAMの、吸音材としての凄い所はどこなのでしょう?
入交 グラスウールのような一般的な吸音材は、遮音効果はほとんどありません。しかしCALMOFOAMは、吸音もするけども、遮音効果も備えています。これは他のフォーム素材にはない特長です。
麻倉 CALMOFOAMは昔からある材料なのでしょうか?
CALMOFOAMを製造・販売している、松村アクア株式会社産業資材部の松島秀典さん
松島 フェノール樹脂(ベークライト)という、世界で初めて発明されたプラスチックになります。石炭から抽出した原料が使われたことから日本名では石炭酸と呼ばれています。硬いプラスチックで、昔はシャネルのボタンとか、黒電話のボディに使われていました。今も様々な用途に使われていてフライパンの持ち手はフェノール樹脂です。現在は石炭からではなく原油由来となっています。
CALMOFOAMはフェノール樹脂を発泡させています。一般的にはプラスチックは個体で、熱を加えたら溶けてくるとお考えでしょうが、フェノール樹脂はその逆で、液体の状態から熱をかけたら固まるんです。そういう特性ですので、プラスチックの中でもひじょうに耐熱性が高い素材になっています。
麻倉 発泡させるということは、作る時にフェノール樹脂を泡立てているんですね。
松島 液体状のフェノール樹脂に多孔質を形成するための界面活性剤や発泡剤など数種類の添加剤を加えて攪拌した後、熱をかけて固めたものになります。構造を電子顕微鏡で見ていただくと、普通のフォーム素材、例えばウレタンフォームは、多孔質どうしがつながったバネ状ですが、CALMOFOAMは砂粒が積み重なったような独立した形の多孔質になっています。こういったフォーム素材は通常は柔らかいものですが、CALMOFOAMはある程度の硬さと無反発性を備えていますので、お花を刺してもホールドできるわけです。
麻倉 なるほど。しかし、その素材が吸音・遮音にも使えるというのは、どんな理由なのでしょう?
松島 CALMOFOAMは、レンガサイズでは重さが50gくらいですが、水を含ませると2kgほどになります。先程申し上げた砂山のような多孔質構造の内側に多くの空気層があるので、これだけの水を含むことができるんです。空気層が多いと空気の透過率も悪くなるので、遮音ができることになります。
またCALMOFOAMの最大の特徴として、中低音の吸音性能が優れています。ここについても、無反発性の多孔質空気層(連続気泡体)が中低域の音波の振動を分散し遮断しているのではないかと推測しています。
麻倉 なるほど、緻密な空気層をもっているから、外からの音も通さないし、吸音効果も期待できる。確かに調音用としても理想的な素材ですね。ところで、中低音というのは、どれくらいの周波数なのでしょう?
松島 500Hzを中心にした帯域に効果的です。
麻倉さんが手にしているのが、DIY用に表面に保護素材を貼り付けたCALMOFOAM。今年の早い時期に吸音用の素材として発売される予定とか
麻倉 ならまちスタジオでの調音パネルの効果はどうだったのでしょうか。
入交 この部屋の場合、何も置いていない状態だと残響時間が3.5秒くらいあったんです。床に防音カーペットを敷いたら2秒ちょっとになり、什器を入れた状態でも1秒以上ありました。そこでCALMOFOAMの調音パネルを部屋の半分ほどにスピーカーを囲う形で設置したら、残響時間はコンマ数秒まで下がりました。CALMOFOAMは低域の残響も抑えてくれるので、全体としての分解能も向上しています。
麻倉 低域の余分な残響までなくなるのは、素晴らしいですね。
入交 この部屋では厚さ5cmのCALMOFOAMを使っていますが、それでも遮音特性(透過損失)は20〜30dBほどあります。これと同じ効果をグラスウールで実現しようと思ったら厚さが30cmくらい必要でしょうから、部屋がかなり狭くなってしまいます。
麻倉 そんなに、ですか(笑)。となると、ならまちスタジオにはなくてはならない存在といえますね。
入交 おっしゃる通りです。なお、CALMOFOAMは難燃性ですが、不燃性ではないので、壁の内側に仕込むことはできないんです。でも、パーテーションとして使う分には問題はないので、そういう製品を作ったらどうですかと提案しているところです。
麻倉 CALMOFOAMを使った調音パネルは製品化されていないんですか?
松島 オーディオ用としての製品は発売していません。というのも、CALMOFOAMは表面を擦ると、削れて細かい粉になってしまうんです。そこで、表面に保護機能を持った吸音材を貼り付けた素材をDIY用として近々販売する予定です。ぜひオーディオファンの皆さんに、ご自身でフレームに取り付けるなどして使っていただきたいと思っています。
入交 CALMOFOAMは、高域を吸いすぎないところも重要なポイントです。グラスウールでがちがちに囲んでしまうと、高音がなくなってつまらない音になることもありますが、CALMOFOAMならそんなこともないのです。このお話をしてもなかなか皆さん信じてくれないんですが、ならまちスタジオがひとつの実例になるといいと思っています。
ならまちスタジオは広さ約26畳で、中央の試聴位置から各フロアースピーカーまでは2.2mで揃えられている
麻倉 その他に、ならまちスタジオで工夫した点はありますか?
入交 リファレンスとしてちゃんと機能するように、スピーカーの距離や配置について細かく計算しました。スタジオの場合ITU-Rに準じてスピーカーを配置するのが一般的ですが、ITU-Rは基本的に曲座標で、天井スピーカーを含めて球面で配置するようになっているので、一般住宅で実現するのはなかなかたいへんです。しかしドルビーアトモスやAURO-3Dは、各社の資料を調べていただけばわかるんですが、球面配置を目指しているわけではない。ならまちスタジオでは様々な理由からAURO-3Dの配置を採用しました。
麻倉 ドルビーアトモスのミックスはどうするんですか?
入交 イクリプスのスピーカーはドルビーの配置に準拠しています。ちなみにドルビーアトモスのトップスピーカーは、もともとは仰角45度で設置することが推奨されていました。しかし最新の設置ガイドラインでは実質35度になっているんです。
麻倉 そんな変更が行われていたんですか。それではスタジオ側としても困りますよね。
入交 縦方向のファントム定位は上下のスピーカーの開き角が30度を超えると失われていくという研究結果があり、音源を制作する側からみても、仰角30度の設置環境で作った方が様々なシステムで聴いても違和感がないと思っています。
麻倉 ということは、ならまちスタジオのイクリプスも仰角30度で設置してあるんですか?
入交 ドルビーアトモス用のイクリプスは35度、AURO-3D用のジェネレックは30度で設置しました。もしここが45度以上あると、どこに定位しているのか不明瞭となってしまいます。
麻倉 ところで、このスタジオはAURO-3Dの認証を受けたそうですが、それはどういったものなのでしょう?
入交 実際に担当者がお越しになり、AURO-3Dの音源を作るのに相応しい空間かどうか実聴審査し、認定する仕組みです。もちろんAURO-3Dのスピーカー配置等には準拠している必要があります。この認証を取っているのは、日本ではならまちスタジオの他は、WOWOWのオムニクロススタジオだけです。
AURO-3D用音源を制作できるスタジオということを示す認証プレートも取り付けられている
麻倉 晴れて、AURO-3Dの音源も作ることができるんですね。ではそろそろ、ならまちスタジオのイマーシブ・オーディオの音を聴かせてください。
入交 かしこまりました。私が収録した音源をいくつかお聴き下さい。まず八ヶ岳で録音した音源です。以前登山好きの方が試聴にいらっしゃったことがありましたが、どこで収録したか説明する前にこの音を聴いて、「先週八ヶ岳に行ってきたんですが、その時の音にそっくりですね」とおっしゃったことがあって、びっくりしました(笑)。
もうひとつは福井真菜さんのピアノで「月の光」です。やまびこホールで収録したもので、麻倉さんにも別の会場でお聴きたいただいたことがあったと思います。他にも名倉誠人さんのマリンバ演奏やスポーツもお聴きいただきます。
麻倉 ひじょうに濃密なサウンドですね。今回聴かせてもらったすべての音源に、音の濃密さ、密度の高さがありました。音の粒子があらゆる空間に漂っている印象で、それが高密度の空間感や空気感、広がり感につながっています。
直接音の再現もいいですね。名倉さんの演奏でもマリンバを叩く感じがリアルです。音の広がり感は、以前聴いた時もしっかり再現されていたんですが、それ以上にマリンバを叩いた時に出てくる衝撃的な音が明瞭で、それが広がっていく軌跡も見えました。直接音だけではなく、間接音の解像度も高いので、それが濃密感、密度の高さに効いているんじゃないでしょうか。
バチカンのサン・ピエトロ大聖堂での演奏もきわめてワイドレンジで、特に低音が豊かです。音がダイレクトに体に響いて来て、耳で聴くというよりも、体の中に低音が入って来て、そのまま脳に届いているみたいな印象でした。
2チャンネルではなかなか聴けない音ですし、イマーシブ・オーディオとしても直接音と間接音のバランスがとてもいいと思いました。生演奏以上に生々しいというか、そういう体験ができました。
テニスの試合を収録したコンテンツでは、プレイ中はすごく静かになってボールの音もセンターに定位するんだけど、勝負がついて拍手が起きたり、歓声が上がると、音場もふわっと広がるんです。そうった緊張と緩和の切り替えが絶妙で、観衆の感情まで音で感じられました。
最後の福井さんのピアノも素晴らしいですね。ひじょうにゆっくりしたトーンの演奏なんですけれど、低音から和音の中間まで、すべての音情報がダイレクトに聴こえてきました。しかもイマーシブ・オーディオではピアノの直接音の素晴らしさも分かるし、やまびこホールの響き、質のよさも同時に感じられる。すごく贅沢な音が聴けたなと思いました。
まとめると、ならまちスタジオの音は、低域から高域まで全帯域に渡って密度が高い。さらに凝縮感がありながら、同時に広がりも持っている。入交さんは以前から、イマーシブ・オーディオでは直接音と間接音がちゃんとした形で表現されることが重要だとおっしゃっていましたが、それをすごくいいシチュエーションで体験できました。今日は素晴らしい経験をさせていただき、ありがとうございました。
入交 こちらこそ、素晴らしい評価をいただきありがとうございます。ならまちスタジオも、もっと完成度を上げていきますので、ぜひまた遊びに来て下さい。
配信で楽しむイマーシブ・オーディオ。「Pure Audio Streaming」と「Auro Masters」を聴く
今回、ならまちスタジオではHDDやディスクメディアに加えて、ストリーミング配信によるイマーシブ・オーディオも試聴している。これは「Pure Audio Streaming」と「Auro Masters」というふたつのサービスで、「Pure Audio Streaming」は昨年のミュンヘンハイエンドショーで発表されたロスレス&非圧縮を実現するサービスだ。一方の「Auro Masters」は、AURO-3Dの最新技術「AURO-CX」を採用したイマーシブ・オーディオの配信サービスとなる。
今回は、入交さんがミックス作業を手掛けた音源で、「Pure Audio Streaming」のプレビューサイトにアップした素材を特別に使って、その可能性を体験させてもらった。
入交 今日は名倉誠人さんの音源をならまちスタジオでイマーシブ・オーディオにミックスしたものをアメリカに送って、Pure Audio Streaming側でエンコードした音源を再生できる状態にしています。ならまちスタジオでエンコードしたファイルを直接AVアンプにインプットする音源も用意していますので、それぞれを聴き比べてください。
麻倉 AURO-3Dは海外エンコードで、それを配信経由で聴いている。もう一つは入交さんがエンコードした音源を直接ローカルで聴いているという違いですね。
入交 そういった違いはありますが、ストリ−ミング、つまり海外のサーバーからのデータをリアルタイム再生する音もかなりいいレベルになっていると思いますので、ぜひ聴き比べて下さい。
ーーPure Audio Streamingをならまちスタジオで再生
麻倉 Pure Audio Streamingのサウンドも立派ですね。確かにローカル再生と比べても遜色ないと思いました。配信でこれだけのサウンドが聴けるとなると、オーディオファン的にも嬉しいと思います。
入交 配信のサウンドがここまでのレベルになってくると、パッケージメディアでなくてはいけないということもなくなってきそうですね。
麻倉 今後はAURO-CXなどの新しいコーデックも出てきますから、さらに高音質化が期待できますね。
入交さんが手掛けたイマーシブレコーディング
今回の取材時に再生したイマーシブ・オーディオ作品は、パッケージソフト等で発売されているものも多い。以下でその主なタイトルを紹介する。
「未来のノスタルジー“ジャポニスム”– Nostalgie duFutur “Le Japonisme”1~3」(福井真菜)
※麻倉さんが試聴した「月の光」はVol.3に収録
「未来のノスタルジー “ハルモニア” – Nostalgie duFutur “Harmonia”」(福井真菜)
「冨田勲・源氏物語幻想交響絵巻」
「月の沙漠〜シルクロード 弦奏の旅路〜」
「Bob James Trio/Feel Like Making Live!」
「Mr.BIG/The BIG Finish Live」