在宅医として数多くの看取りを経験してきた医師・作家の長尾和宏の小説を映像化した『安楽死特区』が1月23日より公開される。近未来の日本を舞台に、“安楽死”を申請できる特区に入居したカップルの苦悩と心情の変化を、静かに、そして激しく描いた注目作。ここでは、高橋伴明監督の作品で映画デビューを飾り、本作では余命を宣告されたラッパーのパートナー藤岡歩を演じた大西礼芳にインタビューした。

――よろしくお願いします。出演おめでとうございます。中々に重たいテーマを扱っている作品ですが、まずは、オファーを受けた時のことを教えて下さい。
 よろしくお願いします。そうですね、私自身、高橋伴明監督には大変お世話になっているので、また監督の映画に出演できることが本当に嬉しいなと思いました。役が経験すること自体は辛いものではありましたけど、そこはあまり考えずに、やらせていただけるだけでうれしいという気持ちでした。

――作品が扱うテーマを聞いた時は?
 安楽死と聞いて、当初は、自ら死を選ぶというイメージがあったので、どういう死を選ぶかというところで、宗教の話とか考え方とか、そういうものを絡めて描かれるのかなと思っていました。監督は、『痛くない死に方』(2020)という作品も作っているので、自分がどういうふうに死ぬか、どういう最期を迎えるかっていうことを、とても考えていらっしゃると思っていたので、この映画を以て、安楽死に対する意見をはっきりと述べることはないだろうと思っていました。

――今回演じられた藤岡歩役については、どのように受け取りましたか?
 当初は、安楽死を許可する国の法律自体に対して反対の意識があるのだと思っていたんです。けれど、演じていくうちに実はそうではなく、国が決めた・作った特区という場所への批判が、彼女の中で最も大きいことだったのかなと気づきました。

――劇中での歩は、パートナーでもある毎熊克哉さん演じる酒匂章太郎と一緒に特区の医者との面談の際、2人揃って安楽死はしません、反対ですと宣言していました。
 そうですね。だから歩を演じる上で難しかったのは、ジャーナリストとしての思いと彼の恋人であるという気持ちが、いつも同時に走っていて場面ごとにその主張が感情に流されているので、自分でも混乱しながら演じていました。

――演じながら、その区分けはできたのでしょうか?
 それは大事にしていました。でも、最後の方のシーンでは、(役同様)自分でもちょっと分からなくなっていたかもしれません。

――物語が進むにつれて、章太郎の主張が変わっていきます。
 そうなんです。歩としては衝撃だったと思いますし、二人の心というか想いも、どんどん変わっていきます。最初は、個人としても、ジャーナリストとしても、(安楽死に)反対の思いが強かったのですが、徐々に、そういう考えもあるのかなっていう風に自身に落とし込んでいった感じです。

 撮影期間中は、歩は反対意識が強かったこともあり、引いた目で安楽死について考えられなかったかもしれません。

――現場では、(演じながらも)反対の意見・思いが強かった。
 そう、ずっと強いままでした。だから、もしかしたら監督の描きたいメッセージを汲み取れないまま、ずっと反対反対っていう意識でやっていたかもしれないと思って、少し反省しています。

――でも、それ自体が作品にグラデーションを与えていたように感じます。中盤で、池田(平田満)が安楽死をする場面で、歩の内面の変化を感じました。
 ありがとうございます。でも、その時――安楽死に向かう旦那を見送る玉美(筒井真理子)の写真を撮りに行けないって、監督に話したんです。死にゆく人の後ろ姿を、奥さんを差し置いて前に行って撮ることはできない、と。そうしたら、「ジャーナリストを出せ」って言われました。

 その後、振り返って筒井さん(玉美)と向き合った時は、本当に玉美さんの写真を撮れなかったです。カメラの向こうの筒井さんを通して、自分も死を見つめたっていう感覚でしょうか。だから、歩はまだ、玉美さんほどの境地には達していない、ということに気づいた瞬間でもあったのだと思います。

――そういう経験を経たからか、歩は、段々素直な感情を出すようになりますし、内面がより強くなっていく印象も受けました。章太郎の心変わりのシーンで見せる表情は記憶に残っています。
 順撮りではありませんけど、監督が、撮影の順番を考えてくださったことも大きいと思います。私自身も、段々と歩の心情を理解できるようになって、脚本になかったセリフが出てくることもありました。

 でも、そのシーンを監督が残してくれたのはものすごく意外でした。というのも、監督は通常、シーンをどんどん削っていく方で、撮影中でも、こんなに削って映画が成立するのかなとか、見てくれる人がついてこられるのかなとか、感じてしまうほどだからです。今回は削るんじゃなくて、付け加えることが多かったように思います。歌に関しても、監督のアレンジがこれまでの作品よりもたくさん入っていました。

――それは、大西さんの芝居――ずっと強気強気できた女性の真の内面が、初めてポロっと見えた――を見て、足していったように感じます。
 ありがとうございます。難しいシーンだったので、監督は「できなかったら後日に回してもいいよ」って言ってくださったのですが、その日にやるつもりだったので、今日やりたいですとお伝えしてやりました。

――なんとか乗り切った。
 はい。でも、最初からあまり力が入っていなかったというか、やらなくちゃいけないという気負いはなかったんです。自分で言うのもアレですけど、演じようとはしていなかった感じです。

 普段は、この役を演じよう、作ろうと思うと力んでしまうのですが、その時は、周りの人たちとすごく繋がっている感覚があって、章太郎だけでなく、周りの医者も、患者も、特区にいる方みんなにそれぞれのドラマがあって、抱えているものがあって、その状況にポンって放り込まれたことで、あまり考えなくても歩自身が思うことをダイレクトにセリフと体で表現できた感じでしょうか。

――場の空気を吸って、そこに生きたという感じでしょうか。
 はい、そういう感じです。すごく大変な作品ではあったけど、ずっと心地良さみたいなものを感じていました。ただ、私は普段、腹を立てることはあまりないのですが、章太郎に対してはずっと腹立たしさみたいなものは抱えていたんです。

 それは、歩に相談せずに自分で勝手に決めてしまうということもあるし、弱っていく彼を見ていると、もちろんそれは彼の責任ではないのですが、その状況に対して、ものすごくムカついていたんです。

――今まで以上に感情が動く撮影だったのですね。ところで大西さんは、役を引きずる方ですか?
 切り替えは早い方ですが、この作品を思い出すだけでもう、涙は出てきます。撮影期間中はずっと、役を引きずっていたのかもしれません。

――話を変えますが、劇中では歌も披露していました。
 歌うことは好きなので、楽しかったです。(ラップには)新鮮さもありましたし、言葉を大事にするジャンルなので、監督の思いが伝わってきました。

――今回、出演しての感想をお願いします。
 出演するにあたって、安楽死に関するさまざまなドキュメンタリーを見たことで、それまでは、自ら死を選ぶ方や、そのご家族の気持ちを勝手に辛いものだと想像していたのですが、当事者にとっては、とても前向きな意識があってのことであると気づかされました。それは、想像もしていなかったことでした。安楽死の良し悪しについて性急に答えを出すべきものではないと思いますし、日本でももう少し(安楽死について)議論される機会が増えたらいいと思います。この作品が議論の増える一助になれば、と思っています。

――最後に、新年を迎えましたので、今後やってみたいことがあればお願いします。
 昨日(取材日の)電子ピアノを注文したので、まずはコードの勉強をして、ゆくゆくは作曲できるようになりたいです。

――ありがとうございました。

映画『安楽死特区』

2026年1月23日(金)より 新宿ピカデリー 他にて公開

■公開記念舞台挨拶■
【日時】1月24日(土) 15:00の回 上映後 舞台挨拶
【会場】新宿ピカデリー
【登壇者】毎熊克哉、大西礼芳、筒井真理子、板谷由夏、gb、余貴美子(以上、出演)、丸山昇一(脚本)、長尾和宏(原作・製作総指揮)、高橋惠子(プロデューサー)(予定・敬称略)

<キャスト>
毎熊克哉 大西礼芳
加藤雅也 筒井真理子 板谷由夏 下元史朗
鳥居功太郎 山﨑翠佳 海空 影山祐子 外波山文明 長尾和宏 くらんけ
友近 gb 田島令子 鈴木砂羽
平田満 余貴美子 奥田瑛二

<スタッフ>
監督:高橋伴明
原作:長尾和宏 小説「安楽死特区」ブックマン社刊
脚本:丸山昇一
配給:渋谷プロダクション
2025年/日本/カラー/シネマスコープ/5.1ch/日本語/129min/
(C)「安楽死特区」製作委員会

<ストーリー>
もしも日本で「安楽死法案」が可決されたら――。国会で「安楽死法案」が可決され、国家戦略特区として「ヒトリシズカ」と名づけられた施設が誕生。安楽死を希望する者が入居し、ケアを受けられるこの施設は、倫理と政治の最前線で物議を醸す存在となっていた。

回復の見込みがない難病を患うラッパー・酒匂章太郎(毎熊克哉)は、進行する病に苦しみながらも、ヒップホップに救いを見出し、言葉を紡ぎ続けていた。共に暮らすのは、チベットで出会ったジャーナリスト・藤岡歩(大西礼芳)。二人は、章太郎が余命半年を宣告された今も、安楽死に反対で、特区の実態を内部から告発することを目的に、「ヒトリシズカ」に入居する。

施設には、末期がんに苦しむ池田(平田満)とその妻の玉美(筒井真理子)、認知症を抱え、完全に呆けないうちに死なせて欲しいと願う元漫才師の真矢(余貴美子)など、それぞれに事情を抱えた入居者たちが暮らしていた。

章太郎の身体は急速に衰え、言葉さえままならなくなり、章太郎は歩に相談もなく、「安楽死を望みます」と考えを一変。歩は、池田の主治医の鳥居(奥田瑛二)の他、章太郎の主治医の尾形(加藤雅也)、三浦(板谷由夏)ら特命医それぞれの想いにも触れ、命と死に真摯に向き合うことを迫られる。

●大西礼芳(Onishi Ayaka)プロフィール
1990年6月29日生まれ、三重県出身

大学在学中に制作された『MADE IN JAPAN ~こらッ!~』(11/高橋伴明監督)でデビュー。主な映画出演作は『菊とギロチン』(18/瀬々敬久監督)、『嵐電』(19/鈴木卓爾監督)、『花と雨』(19/土屋貴史監督)、『夜明けまでバス停で』(22/高橋伴明監督)、「MIRRORLIAR FILMS Season4」『バイバイ』(22/ムロツヨシ監督)、『初級演技レッスン』(24/串田壮史監督)、『また逢いましょう』(25/西田宣善監督)など。

ヘアメイク:廣瀬瑠美
スタイリスト:Lim Lean Lee

公式サイト
https://tristone.co.jp/sp/actors/onishi/