『シビル・ウォー アメリカ最後の日』(2024年)の衝撃から、1年あまり。アレックス・ガーランド監督の新作『ウォーフェア 戦地最前線』が、いよいよ1月16日(金)に公開となる。前作と同じく戦争を扱った映画ではあるが、架空の内戦を描いた『シビル・ウォー』の続編ではない。元軍人であるレイ・メンドーサがガーランドと共に監督、脚本でクレジットされていることからも分かるように、本作はイラクで行われた軍事作戦を徹底的にリアルタッチで描く、戦争体感映画となっている。

 『シビル・ウォー』にスタント・コーディネーターとして参加していたメンドーサが、実際に立ち会った出来事を、体験できるようにしてみたいとガーランドに打ち明けたところ、映画化への話が進み、両者が共同監督、脚本となり製作が実現した。

 映画は、ある小隊がイラクで任務に就き、一般人が住む家を占拠して通り向かいの家を見張っていたところ、逆に敵側に存在を知られ、襲撃される姿を生々しく描く。冒頭に「この映画は彼らの記憶だけに基づいている」と表記されるように、周辺の詳しい状況や敵側の動きなど、兵士たちが知らないことは一切映されず、またよくある兵士の過去や基地での対応場面なども出てこない。ある意味、完全な密室劇と言っても過言ではない作りになっている。

 また注目ポイントとして伝えておきたいのが、本作にはほぼ音楽がないということ。冒頭、息抜きにエアロビクスを観て盛り上がる場面とエンドロール以外に音楽は一切流れない。このことで観客は感情を音楽で持っていかれることはなく、目の前に映る出来事を段々、自分もそこにいるかのような気持ちで見つめることになっていく。

 もう一点、この映画が素晴らしいのは、長尺映画が多い最近の傾向の中、わずか95分というきわめて短い時間にまとめられていることだ。観れば分かるが、これ以上長くなってしまうと観客の集中力が途切れて、作り手の「戦場を体感してもらいたい」という意図が失われてしまう恐れがある。短い尺にまとめることは至難の業だったと思うが、95分にまとめたことは賞賛されるべきだろう。

 音響デザインを担当したのは、アレックス・ガーランド監督の全作品を担当してきたグレン・フリーマントル。撮影現場では現実に近い効果音を流し、キャストが演技に没入できるよう努めていたそうだ。もちろん現場で収録した音は、実際の音作りのベースにも役立てている。爆発などもCGに頼ることなく、本物の爆破物を使ったそうなので、音も限りなく本物に近いと断言できる。

 筆者は本作をドルビーシネマと通常の5.1ch音声、2回の試写で観ることができた。結果から言うと、5.1ch音声も決して悪くはないのだが、やはりドルビーシネマでの体験が圧倒的だった。

 まずは冒頭、エアロビクスが流れるテレビを食い入るように兵士たちが見つめるオープニング。低音が効いた音楽が徐々に広がりを感じさせる。そして場面は移り、夜中にメインの舞台となる一軒家に移動する兵士たちの姿になる。ここでは画面両端から奥に移動する兵士たちの足音が、その場にいるかのように聴こえ、奥の街灯りがHDR効果で立体感を伴って見えるので、ドルビーシネマならではの長所を感じられるはずだ。家の中で壁をぶち抜くハンマーの音も一音一音が鋭く、これが後の伏線ともなってくる。

 夜が明けてからは、2階で向かいの建物を見張る兵士たちの様子が描かれる。周辺でたくさんの犬が吠えたり、人の往来があるものの、やがて静まり返る流れが緊張を高めていく。そしていきなり窓から手りゅう弾が投げ込まれ、家の中は地獄と化す。この爆発音が実に強烈で、それに続く周囲からの無数の銃撃音が、兵士たちが感じたであろう見えない敵に襲われる恐怖心を、我々も味わわせる。

 ここから、負傷した兵を救うために想像を絶する状況下で救出作戦が始まるのだが、玄関先で大爆発が起きて砂塵が舞う場面など、絶えず何らかの環境音が低音を伴って、ただならぬ空気を演出している。中でも戦闘機が低空を飛ぶ威嚇飛行の場面では、風圧に耳を押さえたくなるほどで、これは家庭環境では味わえない音圧だと感じた。

 本作の真価が発揮されるのは間違いなくドルビーシネマだが、ドルビーアトモスなどの様々なフォーマットでも上映されるので、出来る限り音のいい映画館で鑑賞して欲しい。戦争がどういうものなのか、そしてその怖さを知ることができるはずだ。

『ウォーフェア 戦地最前線』

●2025年 アメリカ●95分●英語●カラー/5.1ch●PG12
●原題『WARFARE』
●脚本・監督:アレックス・ガーランド、レイ・メンドーサ
●キャスト:ディファラオ・ウン=ア=タイ、ウィル・ポールター、ジョセフ・クイン、コズモ・ジャーヴィス、チャールズ・メルトン
●配給:ハピネットファントム・スタジオ

©2025 Real Time Situation LLC. All Rights Reserved.