トム・クルーズの血湧き肉躍る活躍と不屈のヒーローを性と独特のユーモアや人間らしからぬ魅力を存分に楽しもうというこの特集。ここでは昨今人気の高いヘッドホンによる視聴でその魅力を味わうことが主旨だ。

 ヘッドホンはハイファイマンのAudivina LEを選択。独自の極薄振動板「NEO Supernano振動板」を使用し、音響的に透明なステルスマグネット技術を採用した平面磁界型。ユニークなのは、開放型ではなく独自の構造を持つ密閉型であること。特徴的な開放感や広い音場がどう変わっているかも気になるところだ。これをベンチーマークのヘッドホンアンプHPA-4を使いバランス接続した。

 視聴したのは『オール・ユー・ニード・イズ・キル』。日本のライトノベルをハリウッドが実写化しただけでも大きな話題となったが、現役バリバリのトップスター、トム・クルーズが主演することで大きく注目された作品。死んでも過去に戻って再挑戦できるという特殊な能力を得た主人公のケイジが、凶悪な異星人侵略という絶望的な状況を覆していく物語だ。

Headphone
HIFIMAN
Audivina LE
¥63,800 税込

● 型式:密閉型平面磁界型ヘッドホン
● 出力音圧レベル:96dB
● インピーダンス:20Ω
● 質量:449g
● 備考:写真のスタンドは付属しません
● 問合せ先:(株)HIFIMAN JAPAN EMAIL:info@hifiman.jp

 

 

ヘッドホン再生とは思えない方位感と立体感のあるサウンド

UHDブルーレイ
『オール・ユー・ニード・イズ・キル<4K ULTRA HD & ブルーレイセット>(2枚組)』
(ハピネットMM 1000817730)¥6,980税込

●片面3層
●映像:2160p、HEVC、HDR10
●音声:ドルビーアトモス(英語)、ドルビーデジタル5.1ch(日本語)

DATA
『オール・ユー・ニード・イズ・キル』Edge of Tomorrow

● 2014年アメリカ
● 113分
● スタッフ:監督・ダグ・リーマン、原作・桜坂洋、脚本・クリストファー・マッカリー、ジェズ・バターワース、ジョン=ヘンリー・バターワース、撮影・ディオン・ビーブ、音楽・クリストファー・ベック、サウンド・デザイン・ジミー・ボイル
● キャスト:トム・クルーズ、エミリー・ブラント、ビル・パクストン、ブレンダン・グリーソン

日本のライトノベルを原作に、トム・クルーズ主演、ダグ・リーマン監督(『ボーン・アイデンティティー』、『Mr.& Mrs.スミス』)でハリウッド大作として作られたことで大きな話題となった2014年作品。タイムリープをしながらエイリアンと闘うというユニークな設定でありつつ、ドルビーアトモスで作られた初期の作品として人気を博した。サウンド・デザインはジミー・ボイル(『007/慰めの報酬』、『ワンダーウーマン1984』)が担当

 さっそく視聴していこう。軍の情報士官だったはずが上司の命令に逆らったことで二等兵として最前線に送られたケイジが初めての実戦を体験する場面。海岸からのヨーロッパ上陸を目指す奇襲作戦のはずが、異星人たちに全て把握されており、不意打ちどころか一方的に殲滅されていくことになる。

 降下直前にヘリコプターが撃墜され、機動スーツの操作もわからぬまま投下される場面だが、回転しながら落ちる様子がリアルだ。同様に投下された兵士の叫び、銃弾や墜落する機体が目の前をかすめる様子なども迫力たっぷりだし、ケイジの混乱もよく伝わる。

 こうした戦闘場面の銃撃や爆音の迫力もAudivina LEはエネルギー感や力強さも含めてしっかりと伝える。このあたりは密閉型のメリットだ。しかも平面磁界型らしい音場の広さも確保されていて、ドルビーアトモス音声をダウンミックスした2ch再生でも目の回るような回転する様子、様々な音がぐるぐる回る感じをしっかりと再現。ヘッドホン再生とは思えない包囲感と立体感のある音を楽しめた。

 トム・クルーズらしからぬ(?)臆病さをあからさまにしたケイジはあっけなく死亡するが、特殊能力で過去にループする。それを幾度も行ない徐々に経験値を高めることで歴戦の勇士かのような活躍をするようになる。このあたりはリプレイを繰り返すことが前提のゲーム的な展開で、「3歩あるいて右の敵を討つ」など淡々と手順をこなす所作が未来を知る者特有の動きでユーモラスだ。

 Audivina LEは、低音がしっかりと鳴る特徴を持つ音だが、音色的なバランスはニュートラルで、ダイアローグも自然だ。平面磁界型らしく繊細な音の表現や細かな音の情報量も豊かで、ケイジが体験する戦いの世界を緻密に描き出す。

 密閉型のイヤーカップは、楽聖ワーグナーが自らの楽劇を演奏するために作った「バイロイト祝祭劇場」の音響設計に着想を得た多段階の音響減衰効果を持った構造が取り入れられ、いわゆる開放型のイヤーカップと比べると両耳を手で覆ったような感じがあるが、この箱の中にいる雰囲気が、閉塞感ではなくまさに音響の優れた劇場にいる豊かな響きを感じさせる。これは音楽再生で好ましい音場感を描き出す原動力となる。

 映画の再生では、大音響で映画館自体が鳴動している感じを想起させ、ヘッドホン視聴ながらも体感的な迫力に繋がっている。「特有の響き」があるといってもクセの強いものではなく、広く豊かな響きは心地良い程度に調整されており、気になる音への色付けも極小。構造だけでなく素材までも吟味して設計されたそうだが、映画の音を楽しむ点でもなかなか相性がよいと感じた。

再生システムは、パナソニックのUHDブルーレイプレーヤーDP-UB9000(Japan Limited)からアナログ2ch音声をバランス出力、それをベンチマークHPA4に繋ぎ、4ピンXLR端子経由でAudivina LEとバランス接続している

 

広さと閉塞感をともにリアルに再現。映画館にいるような没入感も十分だ

 映画の中で戦いの舞台となる海岸での広い空間だけでなく、建物の中での閉塞感もリアルに再現するなど、音場空間の再現性は見事。平面磁界型ヘッドホンには、ひ弱さを感じやすい傾向があるが、Audivana LEでは低音の力感がしっかり確保されているのも映画鑑賞では好ましい。低音という平面磁界型のまた違った魅力が『オール・ユー・ニード・イズ・キル』の再生で十分に理解できたうえに、映画館にいるような没入感もまた魅力だと感じられた取材だった。

 

リファレンス機器
● 8Kプロジェクター:ビクターDLA-V90R
● スクリーン:オーエス ピュアマットⅢ(120インチ/16:9)
● UHDブルーレイプレーヤー:パナソニックDP-UB9000(Japan Limited)
● コントロールアンプ/ヘッドホンアンプ:ベンチマークHPA4

 

>本記事の掲載は『HiVi 2026年冬号』