《実験目的》今年の10月15日、ビクターの8K D-ILAプロジェクターのDLA-V900RおよびDLA-V800Rを対象にファームウェアアップデートが無償提供され、プロジェクターとしての完成度が大幅に押し上げられた。詳細は別表の通り。画質、操作性、機能性と、非常に多岐におよぶ大規模なアップデートサービスであり、型番を変更して(あるいはMK2モデルとして)新たな製品としてリリースしてもいいのではないか、そう思えてくるほどの内容である。実際、今回のファームウェアアップデートにより、果たしてどれほどの進化を遂げたのか。山中湖ラボにDLA-V900Rを持ち込み、アップデートの前後を比較しながら、その内容を確認していきたい。

DLA-V900R、DLA-V800Rのv2.00アップデート内容

● 新画質モード「Frame Adapt HDR ビビッド」を追加
● 画質モード「Frame Adapt HDR1」「Frame Adapt HDR2」「Frame Adapt HDR ビビッド」に「Highlight Color Control」機能を追加
● 従来のMultiple Pixel Control機能を強化し、「スムーザー」機能を追加
● コンテンツに応じて低遅延モードに自動で切り替わる「ALLM(Auto Low Latency Mode)」機能を追加
● OSDメニューに「ガイド機能」、「明るさ連動モード」、「ダークモード」を追加
● キャリブレーションソフトウェアに「Calibrator」モードを追加
●「Advanced キー」による映像モード・画質調整項目の呼び出し機能を追加

アップデート提供日 : 2025年10月15日

アップデート方法 :
①ユーザーがビクターの当該ホームページからアップデートデータをPCにてダウンロード
②ダウンロードデータを所定の方式に従って解凍、保存したうえでUSBメモリーに保存、③USBメモリーを本体に接続、アップデートを実行

2024年登場のビクターのDLA-V900RとDLA-V800Rは、高出力レーザー光源と高コントラスト反射型液晶型D-ILAパネルの組合せで、最高峰のホームシアター用プロジェクターとして高い評価を獲得している。v2.00ファームウェアでは、鮮やかなHDR映像を目指した「HDRビビッド」モードの追加のほか、OSDメニューの使いやすさ向上、キャリブレーションモードの追加など、ユーザー本位の機能アップデートが盛り込まれている

 

取材は主にパナソニックのDMR-ZR1を用いて実施。DLA-V900Rはアップデート前の個体を借用し、基本画質を確認したのち、v2.00のアップデートを行ない、同一コンテンツで再度視聴を実施。アップデート前後の画質変化を確認した

 

 

HDR感を高めた「HDRビビッド」

 アップデート内容は多岐におよぶが、個人的に気になるのはやはり画質関連。具体的には①Frame Adapt HDR機能の画質モード「HDRビビッド」(HDR10コンテンツ用)の新設、②Frame Adapt HDRの各画質モードに「Highlight Color Control」(強/中/弱)機能の追加、③Multiple Pixel Control(MPC)の「スタンダード」モードの大幅見直しおよび「スムーザー」機能の追加という3項目だ。

 では早速、①から見ていこう。Frame Adapt HDRはHDR10(PQカーブ)の映像内容をフレーム単位で分析して、リアルタイムで最適なトーンマップ処理を行なうというビクター秘蔵の技術であり、信号処理のバス幅は何と18ビットにも達する。

 有機EL、液晶といった直視型のディスプレイと比べて、どうしても最大輝度が限定されるプロジェクターにとって、非常に有用な技法であり、実際、その効果は絶大だ。滑らかな質感を保ちつつ、「HDR感」をしっかりと表現し、プロジェクターにありがちな明るさ不足も気にならない。

 「Frame Adapt HDR」モードの完成によって、HDR10で収録された映像作品の表現力は大幅に引き上げられたわけだが、この技術はプロジェクターとして、素材の持ち味をそのまま素直に引き出すという発想であり、いわば「マスターモニター」的な映像モードと言っていいかもしれない。

 「Frame Adapt HDR」モードには、ほぼ全ての映画作品を安定して再現するだけの対応力がある。反面、作品によってはそこに一味加えて、よりフィルムっぽい映像が欲しいと感じることがあるもの事実だ。となると、次のステップとして期待されるのが、やはりSDR作品で実績のある「シネマモード」や「フィルムモード」といった匠の技を駆使した映像モードだ。

アップデート後のメニュー画面。「ソフト Ver.」が「v2.00」になっている。背景色がデフォルトで黒になり、すっきりと見やすいデザインになった。なお「OSDダークモード」を「オフ」すれば、従来同様のグレーの背景にすることもできる

 

「HDRビビッド」モードが追加されたことがトピック。「高輝度と暗部の階調を両立し、映像全体のコントラスト感と表現力を高めた」モードとのこと。HDR映像をベースにビクター流の絵づくりを行なった映像モードと考えてよいだろう

 

高輝度映像の色の彩度と明るさを調整する「Highlight Color」機能が追加された。デフォルトは両者をバランス良く描く『中』。従来の「Frame Adapt HDR」モードでは、本モードが「弱」と同じパラメーター設定で、輝度重視の設定だった

 

映像転送レートが低いときに、バンディングノイズなどが発生しやすいが、その段差を滑らかにする「スムーザー」パラメーターを追加。インターネットでの配信コンテンツやBDなどのコンテンツで特に活躍しそうな新機能だ

 

 

「Frame Adapt HDRの技を生かしたシネマモード、フィルムモードが欲しい!」

 そんな声に応えて開発されたのが、「HDRビビッド」だ。HDR10収録作品に対して、「明部はより明るく、暗部は階調をより深く沈め、映像全体のコントラスト感と色彩表現をさらに向上。被写体が背景から自然に際立ち、立体感のある映像が楽しめる」(発表資料より)というもの。

 米国盤UHDブルーレイの映画『シビル・ウォー アメリカ最後の日』を再生し、大統領のテレビ演説と内戦による暴動、爆発で始まる冒頭部から、デイライトシーン、ナイトシーンを織り交ぜ、様々な場面を確認していったが、さすが完成度が高い。熟練の技術「Frame Adapt HDR」モードベースの絵づくりが施された画質モードだけあって、明るさ、コントラスト感ともに安定感があり、非線形の処理特有のクセっぽさもまったくと言っていいほど気にならない。

 画質傾向としては、従来の「Frame Adapt HDR」モードに比べると、白が伸びて、黒が沈むというメリハリ調で、色乗りも意欲的で、鮮やかな発色で視線を引きつける。全体として、抑揚のある色濃い絵づくりという印象だが、シーン、シーンの描き分けは単調にはならず、作為を感じさせるようなあざとさはない。

 本作品は基本的に、ラージサイズのイメージセンサーを搭載したソニーの最新シネマカメラVENICE 2とヴィンテージレンズを組み合わせたデジタル撮影が行なわれ、高解像度/高彩度でありながら特徴的なレンズフレアが同居するユニークな画調であるが、どちらかと言えばフラットに感じられる場面が多く、「HDRビビッド」ではほどよくメリハリが効いて、高彩度の色調と巧くフィットしている。

 作品の途中、キルステン・ダンスト演じる主人公の戦場カメラマンのリーが撮影した写真(カラー静止画)とケイリー・スピーニー扮する駆け出しカメラマンのジェシーが撮った写真(モノクロ静止画)が対照的に挿入される演出がなされているが、「HDRビビッド」では映像と写真の対比がより明確になり、印象的なコントラストを生み出している。このあたり明らかに伝統のフィルムモードの血統を感じさせるもの。素直に映画鑑賞の楽しさを実感させてくれる映像モードと言っていいだろう。

 ②は「『Frame Adapt HDR』の各画質モードに対して、高輝度シーンにおける彩度の調整が可能となる新機能『Highlight Color Control』を追加する」(発表資料より)というもの。一部のパナソニック製のUHDブルーレイ再生機との組合せを前提に、HDR10作品の再生時、高輝度側のトーンマッピングを再生機側に任せることで、一定の明るさを確保しつつ、より精密な階調表現を実現する「Pana PQ連動モード」の提案は記憶に新しいところだが、Frame Adapt HDR技術の完成度の向上により、その役割を終え、現行世代機では、同モードは搭載していない。

 プロジェクター単独で同等の効果が得られるようになったという判断での仕様だが、実は課題がひとつ残されていた。それは高輝度のシーンで発色が弱まり、特に4,000nitでグレーディングされた映像で、ハイライト部が伸びたシーンでは、明るさと彩度のバランスが崩れやすいことである。

 そこで今回目指したのが、輝度と彩度のバランス調整能力を高め、細部まで明るく鮮やかで、メリハリのあるHDR映像を表現することだ。画質メニューの「HDR設定」から「Highlight Color」を選ぶと、『弱』、『中』、『強』の設定が可能。明るさ重視の『弱』なのか、色再現重視の『強』なのか、コンテンツや視聴環境、あるいはユーザーの好みに応じて、柔軟な調整が行なえるというわけだ。

 4,000nitのマスターディスプレイによってグレーディングされた映画『PAN ネバーランド、夢のはじまり』のUHDブルーレイを再生して、CGで作られた4,000nit前後の高輝度成分が収められたチャプター7(2つの太陽が浮かび上がる!)を中心に確認したが、その効果は明らかだ。従来と同等の設定となる『弱』では2つの太陽は鮮明に浮かび上がるが、ハイライト部は白に近く、色はほとんど感じることはできない。

 そのまま『中』を選択。するとどうだろう、ハイライト部の明るさはわずかに抑えられるものの、ほのかに赤みがさして、その周辺に広がる朱色に染まった空と、滑らかなグラデーションとして表現される。空間の繋がりがスムーズになったことで、自然な奥行感、立体感が得られる印象だ。

 『強』を選ぶとさらに色濃く再現されるものの、光源の輝きがグッと抑えられ、やや輝度が低い方の太陽の存在は、ほとんど感じられなくなってしまった。このあたりの見え方の違いについて、好みもあるため、一概に善し悪しを決めつけることはできないが、忠実再生という見方をすると、『中』が好ましいだろう。

藤原さんは普段、JVCの家庭用4Kレーザープロジェクターの初号機DLA-Z1を使用。それと入れ替えるようにDLA-V900Rを設置して、テストを行なった。スクリーンはキクチ製グレースマット100の150インチ/シネスコだ

写真の『シビル・ウォー アメリカ最後の日』『UHD HDR BENCHMARK』(以上、米国盤)、『メッセージ』、『PAN ネバーランド、夢のはじまり』などのUHDブルーレイを中心に、BS4K放送も含めて様々なコンテンツを視聴した

 

 

新機能「スムーザー」は、効果の塩梅が絶妙

 最後は③のMPCの画質のチューニングの最適化と「スムーザー」機能を追加。前者については低解像度の作品(主にHD収録作品)を表示する場合、従来、やや過剰傾向だった輪郭補正、ディテイル描写のチューニングを微調整し、自然なタッチの8K表示として再現するというもの。

 今回は、映画、音楽ライヴ、野球中継など、録画済のデジタル放送コンテンツを再生して確認したが、確かに従来に比べると輪郭が細く、すっきりして、微小信号も穏やかな調子で描きだせるようになった。野球中継ではもう少し尖鋭感を上げたいと感じたが、エンハンス調整で輪郭がキリッと締まり、自然なフォーカス感が得られた。

 「スムーザー」機能は映像データ圧縮などによって生じるバンディングノイズ対策の意味合いが強いようだが、どちらかと言えば効果は控えめで、細かなノイズをターゲットにしている印象だ。

 この類の画像処理は副作用も大きく、やりすぎは禁物。まさにちょうど良い加減の効かせ方で、さすがプロジェクター画質を熟知したビクターだけのことはある。

 

実験結果

期待を大きく超える内容。表現力が大幅向上!

画質面に絞ってアップデート内容について確認しだが、その効果は期待値を大きく超えるものであり、DLA-V900Rの表現力は確実に押し上げられた。特にFrame Adapt HDR技術を生かした新画質モード「HDRビビッド」の仕上がりが良好で、映画作品を中心に、様々なコンテンツを再度、確認してみたいという思いが高まった。DLA-V900R、V800Rユーザーの方々は、年末年始、映画三昧の日々を満喫できることになるだろう。

 

●問合せ先 : JVCケンウッド
カスタマーサポートセンター 0120-2727-87

DLA-V900R

DLA-V800R

>本記事の掲載は『HiVi 2026年冬号』