東大阪市といえば、誰しもその名前を耳にしたことがあるだろう。大阪のみならず、全国的にも古くから「ものづくりの街」として広く知られたところである。
そんな東大阪の林製作所から登場した新たなオーディオグッズを、先日Stereo Sound ONLINEで紹介した(https://online.stereosound.co.jp/_ct/17793911 )。戦後に先々代が文鎮の製造販売から会社を興し、オフィスで活用される事務用品を扱うようになり、そして三代目となる現社長の林 勇帆氏がこれまでは同社が踏み入れたことがないオーディオの世界に目を向け、その第一弾となる「オーディオルームパネル」を生み出したのである。
オーディオルームパネル
GP-03 ¥44,800(税込、3枚連結セット) W1530×H1600×D26mm/10.2kg
GP-04 ¥60,800(税込、4枚連結セット)W2040×H1600×D26mm/13.6kg
GP-01 ¥17,450(税込、追加パネル1枚) W510×H1600×D26mm/3.4kg
主要材質:フレーム=PVC、ABS、クロス(張り布)=ポリエステル
カラー:グリーン、グレージュ、ブラウン
4枚連結セットの「GP-04」
パネルはファスナーでつなぐだけなので、枚数の調整や追加も簡単に行える
オーディオルームパネルは、高さ約800mmのパネルを縦に2枚つないで、それをクロスで包んだ構造になっている。さらにそのクロスに取り付けられているファスナーを使って複数枚を連結できるので、設置環境に応じてサイズを調整可能だ。
普段は畳んでしまっておいて、音楽を聴く際に取り出して試聴位置を囲むように立てるという使い方を想定しているそうで、3枚連結/4枚連結それぞれで図のような置き方が推奨されている。なお本文にもある通り、直線で自立できるようなオプションの安定金具も検討したいとのことだった。
既に記事を読まれた読者の中には “なんでオフィス家具の会社からオーディオグッズ?” と思われた方も少なくないだろう。他でもない、筆者もそのひとりだ。ところが、製品を企画・開発した林社長が大の音楽好きという話を聞き、これは面白そうな開発物語がありそうだと感じたので編集部ともども、同社を訪ねてみた。
「音楽を聴くようになった入り口は小学生ぐらいの時です。親に連れられて行くレンタルCDショップで、今では懐かしい短冊形のシングルCDをレンタルして聴き始めるようになりました。当時は、ヒット曲中心に聴いていたように憶えていますが、次第に、桑田佳祐のソロの曲やザ・イエロー・モンキーが大好きになり、ちょっとませた子供だったかもしれません。高校ぐらいで日本のオルタナティブロックみたいなのとか。高校の時はブラスバンド部でトランペットをやっていました」
音楽を手軽に聴くことが出来る世代とは言え、ご自身でも楽器を演奏していたのだから、“音楽人生”としては充実していたと言えるだろう。その頃は同じ部の後輩の影響でヴェルヴェット・アンダーグランド、パティ・スミス、トム・ウェイツや、ザ・バンドのようなクラシックロックにもはまったという。
「もちろん同時代のレディヘッド、オアシス、ブラーとかも好きでした。大学に入ってからはジャズを聴くようにもなりましたね」
インタビューにご対応いただいた、株式会社 林製作所 代表取締役 社長の林 勇帆さん。謙遜されてはいましたが、結構な音楽ファン&オーディオ愛好家です
やはり原体験として “生の音” を肌身で知っていると、音楽の興味は広がっていくものである。この頃からライブハウス通いや、今もレッスンを続けているギター演奏も始めた。今秋の発表会ではジョシュア・レッドマンの「Yesterdays」を披露したというのだというから恐れ入る。
とはいえ、特にオーディオ機器にこだわるスタイルではなかったという。現在もJVCのウッドコーン搭載ミニコンポを愛用しているそうだ。ただ、楽器を演奏したり、CDを聴く時間が長かったこともあり、オーディオルームパネルを自宅にも導入するまでは、ミニコンポの音に不満もあったという。
「低音が全然響かなかったり、部屋の中でボワッと音だけが響いて、なんか芯が無いな、と感じることはありました。スピーカーの実力が発揮できてない、そんな漠然とした不満ですね。スピーカーを置く位置やインシュレーターを試したり、自分なりに試行錯誤も続けていました」
「オーディオに詳しいわけではないです」と謙遜されるが、いたずらに機器に頼るのではなく、創意工夫でなんとか理想の再生音になるように努力はされていた(いまも、だが)のだから、立派なオーディオ愛好家なのである。そんな時、林社長はオーディオルームパネル開発のヒントとなるものを見つけた。
上側と下側で異なる吸音材を採用。吸音&遮音効果を持たせる工夫も満載
オーディオルームパネルは、上側にリサイクル繊維吸音材、下側には軟質ウレタン吸音材を取り付けてあり、特に中〜高音域(315〜2500Hz)で優れた吸音特性を備えている。また遮音特性にも優れ、中〜高音域では-10dB以上の効果を発揮するそうだ。
製品は上下が分かれた状態で届くので、自分で組み立て&カバーを取り付けることになる。そのための作業スペースは必要なのでご注意を!
「YouTubeで有名アーティストの自宅スタジオの動画を見て、壁に貼り付けてあるこのスポンジなんやろう、と。調べてみたら録音スタジオ向けの吸音材なんだな、とわかりました。こういうアイテムがあるのなら、音楽を聴く時にリスニングポイントの後ろに設置して、その空間だけでも簡易的に吸音をしたら音が良くなるんじゃないか? そんな思いつきで製品企画を模索しました」
林製作所では、オフィスの防音ニーズに向けた製品として、ブース状に設置してクリアーな音声環境を作る吸音パーティション「吸音タイプZIPLINK パーティション 7連結セット YS-Q7LG」を販売していた。オフィス内でのweb会議など、音の反響や雑音による音声の聞き取りにくさはストレスになってしまう。吸音パーティションを使えば相手の声もよく聞こえるし、自分の声にも集中できる。その効果は既に実証済みだった。このパネルを流用出来ないかと考えたわけである。
「最初は社で扱っている吸音材をいろいろ自宅で試してみて、こんなに音が変わるんや! という感じでした。いわゆる業務用の製品だけでなく、自社の名前を冠したコンシューマー向けの製品を市場に出せないかという長年の課題もありましたので、吸音パネルがそれに相応しいのではないか、とも考えたんです」
そこから製品の完成まで、吸音材の吟味や組み合わせ、設置に適したパネルの大きさについて、自宅での試行錯誤や、社内でのテスト試聴を繰り返しながら製品の精度が高められていった。まさにカット&トライだ。ちなみに試聴で主に繰り返して再生していたのはドナルド・フェイゲンの「ナイトフライ」。もうすっかりオーディオマニアの域である。
自宅オーディオルームの調音も気になっていたという酒井さん。そのテスト結果はいかに?
「オーディオルームパネルを設置すると、定位も良くなって、一気に音楽の情報量が増えるんです。例えばビートルズの曲を聴いていて、こんなところでジョン・レノンがうっすらハモってたんやな! みたいに、今まで聴こえていなかった要素が作品の中に込められていることに気づかされて驚きました。カジュアルに使えるミニコンポでも、本格的な音楽の楽しみ方が出来る、そう確信しました。
その後実施したプロトタイプの社内視聴会でも手応えを感じたものの、最大の壁はこの画期的な商品の魅力を、どのように市場へ伝え、訴求していくかという点でした。そこでお客様の判断に委ねる、クラウドファンディングでのテストマーケティングを選択しました」
Makuakeの結果次第では、製品開発も中止してしまう覚悟だったそうだが、期待していた以上の支援を集めた。晴れて製品化が決まり、販路も拡大しつつある。事実、購入者からの好意的な反応も続々と届いているようだ。オーディオルームパネルに続く、製品展開の構想を林社長は既にお持ちだというのだから頼もしい限りである。
約6畳の自宅オーディオルームで、3種類の設置方法を試した!
というわけで、実際にわが家にオーディオルームパネルを搬入・設置してその効果を確かめてみることにした。
酒井さんの現在のオーディオ&シアタールーム
酒井さんは現在、LGのカービング有機ELモニター「45GR95QE-B」を中心にした5.1.2チャンネルシステムでホームシアターを楽しんでいる。スピーカーはJBL製で、フロントL/RとLEF用に3台のサブウーファーを加えている。このシステムを “相当なボリュウム” で鳴らしているとのことで、オーディオルームパネルによる調音・防音の効果がより明瞭に表れたようです。
実は今の部屋&システムでは “相当なボリュウム” で映画を観たり、音楽を聴いたりする機会が増えたのだが、狭い部屋でボリュウムを上げてしまうので、やや音が飽和しているのでは? と常々感じていたのだ。林社長のお話だと、オーディオルームパネルはそんな我が家の環境にも最適なのでは? と考えた次第だ。
試聴は3連セット(GP-03)で行うことにした。フロント2チャンネルのステレオ再生だとスペース的には4連セット(GP-04)も設置可能だが、ウチの場合はサラウンド再生用のリアスピーカーがある。試しに4枚のパネルを組んでみたところ、視聴位置からリアスピーカーのバッフル面まで隠れてしまう。やはり3枚が最適ということになった。3連が良いか、4連が良いか、お使いのシステムのスピーカーの構成と設置スペースを考慮して選べば良いだろう。
【設置①】3枚連結のオーソドックスな設置を試す
3枚連結したパネルをリアスピーカーの間に設置した状態。パネルの開き角は130〜140度弱と推奨設置より少し広めになっているが、これ以上角度を狭くするとリアスピーカーに被ってしまうのでぎりぎりに合わせている
3連パネルの推奨設置環境で、視聴位置の後方を囲むように130〜140度ほどの角度をつけている。
最初に結果からお伝えしておくと、想像していた以上に音場に変化が現れたので驚いた。わが家では主要な音楽ソースとなっている、Apple Musicからここのところのヘビロアルバムを選んだ。まずはポール・マッカートニー率いるウイングスの最新ベストアルバム「WINGS(Deluxe)」から「Band On The Run」(ドルビーアトモス)。
オーディオルームパネルによる吸音効果でS/Nが向上しているのがすぐにわかる。いかにも70年代のバンドサウンド、ベースやドラムの野太さはそのままに、密度感がアップしているのだ。すっきりとしてはいるが、低音の力強さが損なわれているわけではない。さらにボリュウムを上げても煩くはならない。
ステレオ版では同じくポール・マッカートニーの「テイク・イット・アウェイ」「Tug Of War(2015 Remix)」から「Take It Away」や、大貫妙子の「じゃじゃ馬娘」(2025 Re-edit version)を聴いてみたところ、ブラスの厚みや押し出し感がより感じられた。
古い楽曲ばかりではなく、ドルビーアトモスミックスが心地よいサブリナ・カーペンターの「Tears」でも同様の印象となり、ボリュウムを上げたくなるのである。
ここで音源を荒井由実の“耳タコ”ナンバー「あの日にかえりたい(2022 mix)」(ドルビーアトモス)に変えてみたところ、リアスピーカーに振られたバックコーラスの存在感が薄れていることに気づいた。この曲はドルビーアトモス化された時に、従来よりもコーラスワークがよく聴こえるようにミックスが変えられているのだ。リアスピーカーを遮りはしてはいないが、オーディオルームパネルがちょうどスピーカーと同じくらいの高さになる。このパネルは低域だけでなく、高域も吸音しているようだ。
【設置②】3枚のパネルを壁に寄せて仮設置
後ろの壁とスピーカーの隙間にオーディオルームパネルを立てた状態。案外収まりはいいのですが、この状態ではパネルが自立しないので、何かしらの固定方法が必要でしょう
サラウンドシステムでオーディオルームパネルを用いる場合は、少々工夫が必要になるのかもしれない。というわけで、設置方法を変更してみることにした。
そもそも3枚つないだパネルを自立させるために、120〜130度の角度をつけなければならない。だがわが家の場合、この置き方ではリアスピーカーのバッフル面と近づき過ぎるのだ。そこで、試しに3枚のパネルが1列になるように設置してみた。これだとパネルはスピーカーの後ろ側に位置することになり、【設置①】よりも好適ではないかと考えたのだ。
この目論見は正解。「あの日にかえりたい」で気になっていた高域情報の減衰は気にならなくなった。映画ソフトについては、サブウーファーをいじめ抜くUHDブルーレイ『CIVIL WAR』を再生。オーディオルームパネルは効果てきめんで、床を鈍く這い廻るような低音のダボツキが抑えられる。戦闘シーンの低域の表現力により鋭さが加わっている。映画再生にも当然のことながら効くのだ。
Stereo Sound ONLINEの読者の方々にも多い、サラウンドシステム用としてお薦めしたいところなのだが、この設置方法だとパネルが自立しない。この件に関しては、パネルの脚部に安定用パーツを取り付けてパネルが自立するような仕様にはならないかと、取材時に林製作所の林社長に相談済みである。ユーザーの環境に広く対応できるような別売アタッチメントが登場することを期待したい。
※パネル1枚ならびに直線状態での設置はできません。
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以上の比較試聴から、オーディオルームパネルは想像以上に高い効果を上げ、そして使いこなしに各人の創意工夫を求めてくる、面白いオーディオイクイップメントであることを実感した。考えてみれば、このような調音グッズは自室に導入して設置すればそれでOKというものではない。メーカーとしても推奨環境を設定しているが、設置基準の範囲内(パネルの角度や水平な場所への設置)でアレンジが可能なので、セッティング方法はユーザーの数だけ存在することになる。
製品の構想は、“音楽を聴きたいときにパッと設置して、サッと仕舞える” とのことだが、いやいや、簡易的な使い方だけではなく、専用オーディオルームで常用設置したいという声もオーディオファンから出てくるだろう。自らも音楽ファンの林社長のアイデアから続いてどんなオーディオグッズが生み出されるのだろう。ものづくりの街・東大阪発、林製作所からのさらなるオーディオイクイップメントの登場を楽しみにしていようではないか。
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