エミライは昨日、同社が輸入販売を手掛けているイギリスPMCのブランド&製品についての説明会を開催した。
エミライは、2011年3月の東日本大震災をきっかけに創業し、今年で15周年を迎える。当時は、日本中が先の見えない不安に包まれていたが、そんな時期に、自分たちにできることで誰かの笑顔や未来に貢献できないかという思いを共有したメンバーによって、同年5月にスタートしている。
社名も “微笑みのある未来” から名付けられており、そこにはユーザーが箱を開ける瞬間のワクワク感であったり、音を鳴らした時の高揚感が、笑顔のある未来につながって欲しいといった願いが込められているそうだ。同社では現在、世界の20ほどのオーディオブランドとパートナーシップを築いており、ハイエンドからポータブルまで幅広い製品を取り扱っている。
そのひとつであるPMCについて、同社の取締役 島幸太郎氏から紹介が行われた。
PMCは35年もの間、世界中のスタジオで愛用されている名門ブランドだ。StereoSound ONLINE読者の中には、日本でも大人気となったブックシェルフスピーカー「TB1」「TB2」やフロアー型の「BB5」といった製品を覚えている方もいらっしゃるだろう。
エミライでは昨年からPMCの取り扱いを始めているが、そこではPMCブランドの音への誠実さに共感し、改めてユーザーにより良い製品をお届けするために誠実であれと、気持ちを新たにするきっかけにもなったとのことだ。
ピーター・トーマス氏(右)とエイドリアン・ローダー氏(左)
そして今回は、PMCのCEOであるOliver Thomas(オリバー・トーマス)氏が来日、同社スピーカーに採用されている技術の概要や優位性について詳しく解説してくれた。
もともとPMCは、BBC(英国放送協会)のスタジオマネージャーであったピーター・トーマス氏(PMCの会長兼オーナー)と親友のエイドリアン・ローダー氏がBBC用リファレンススピーカーを製作したことに始まり、その後ピーター氏がBBCを退職して1991年にイギリスで設立したという。
オリバー氏はピーター氏の御子息で、大学卒業後は自動車業界でデザインエンジニアとして働いていた。2012年にオーディオ業界に転身し、2013年にPMCにR&Dエンジニアとして入社し、エンジニア部門を統括してきた。その後、コマーシャルディレクターを経てCEOに就任している。
PMCのCEO、オリバー・トーマス氏
PMCの企業理念は “ホリスティック(全体的)なアプローチによる設計で、着色のない最高の解像度を持つオーディオ製品を創造する” であり、その一環として “用途に関係なく、同一のボイシングが施されている” そうだ。つまりどのグレードのスピーカーでも同じ品質で楽しめるということで、“一貫性を持って広い帯域でスムーズな指向性を備えているのが特長です。ユーザーは、アーティストの作品を、アーティストが意図したとおりに体験できます” とオリバー氏は話していた。
なおPMCのすべての製品は熟練のエンジニアによってイギリスで製造されているという。“いかに高い品質を維持するかは常に我々の課題となっています。最初の組み立てから最終検査まで、ひとつひとつのスピーカーをちゃんと耳で聴いて、問題がないかを判断して、お客様の手元にお届けすることになります。弊社のメンバーはみんな音響マニアで、DJもいれば、ミュージシャンとして音楽を作ってる人もいます。彼らは仕事というだけではなく、情熱を注ぎながら製品開発をしてきました” とオリバー氏は誇らしげに話していた。
PMCのホルムコートオフィス
そんなPMCの製品はハリウッドのスタジオでも評価されており、『タイタニック』『007 スカイフォール』『グレイテスト・ショーマン』といった作品のミックスでも活躍したそうだ。さらにドルビーアトモスミュージックのミキシングルームにもPMCのスピーカーが採用されているとかで、イマーシブオーディオの制作にも活躍の場を広げている。
そんなPMCは、工場を含めて3箇所の拠点を構えている。ホルムコートのオフィスはデモンストレーションとエンジニアリング、テクニカルサポート、デザイン、管理部門の拠点で、緑に囲まれた中世の趣が残ったオフィスだ。残りのふたつは、サンディが生産施設と倉庫、ルートンは工場として使われているとのことだ。
さてPMCでは、現在合計7つのシリーズをラインナップしており、日本では現在「prophecy」と「prodigy」が販売されている。
PMCのスピーカーにはAdvanced Transmission Lineテクノロジーが採用されている
それらに共通しているのは、独自のATL(Advanced Transmission Line)テクノロジーだ。トランスミッションラインはエンクロージャー内部に長いダクトを設け、バスレフ型や密閉型設計よりも、低音ユニットを効果的かつ効率的に活かせる技術となる。
それ自体は一般的に使われている技術だが、PMCでは高度に補強されたキャビネットや、最低周波数以外のすべてを吸収する吸音材(カスタム設計された化学繊維で、材料や厚みの異なる5種類を組み合わせている)を使うことで、自然でリアリティのある低音再現を可能にしている。
もうひとつの新技術が「Laminair X」だ。こちらはPMCの独自技術「Laminair」の進化版で、F1レーシングの空気力学を応用した気流制御施術とのこと。トランスミッションラインを搭載したスピーカーのベント部(排気部分)の気流の特性を改善し、ノイズと歪みを低減させようというものだ。
「Laminair X」テクノロジー
従来のLaminairでは、ベント部分を複数のフィンで分割することで空気の流れやすさを向上させていた(コスト等の関係からフィンは比較的短くなっていた)。Laminair Xではそれを新たに見直し、2D/3Dシミュレーションによって改良・最適化を加えたという。さらに3Dプリンターで製作したプロトタイプによる測定等を経て、prophecyシリーズに最適な分割数やフィンの長さが選定されている。なおprodigyシリーズでは、Laminairを搭載している。
その他、ツイーターやミッドレンジに組み合わせられているウェーブガイドにも着目。ウェーブガイドにより、特定の周波数帯域内でドライブユニットの志向特性を制御、低域の再現性も向上できるよう形状を追い込んでいる。こちらもシミュレーションとプロトタイプを使った測定の結果、20kHzでより均一な音響分布を実現したそうだ。
これらの技術を採用したprophecyシリーズはブックシェルフ型の「prophecy1」(¥660,000前後、ペア)、トールボーイ型の「prophecy5」(¥1,045,000前後、ペア)、「prophecy7」(¥1,507,000前後、ペア)、「prophecy9」(¥2,090,000前後、ペア)、そしてセンター用の「prophecyC」(¥528,000前後、1本)の5モデルをラインナップしている(すべて税込、市場予想価格)。
prophecyC以外はすべて横幅165mmとコンパクトなフォルムながら、ATLを活かした自然で豊かな低音再生も可能。マルチチャンネル再生用にも最適なラインナップということで、音楽ファン、シアターファンにはぜひ注目していただきたい。