東芝エルイートレーディングのCD/FMワイヤレススピーカーAUREX「AX-XSS100」は、一見ラジカセ風のフォルムにBluetoothスピーカー、CDプレーヤー、FMのチューナー機能を内蔵した一体型オーディオシステム。本機が持つ「イージー・リスニング」の魅力については、前回の山本浩司さんの記事でもおわかりいただけたことだろう。今回はそんなAX-XSS100がどのようにして誕生したのかを、商品企画担当須永哲明さんと、サウンドアドバイザーの桑原光孝さんにインタビューした。インタビュアーは、AX-XSS100のサウンドがすっかりお気に入りの麻倉怜士さん。

今回のインタビューは、麻倉さんの行きつけピザレストラン「ヒッコリーファーム登戸」の一角をお借りして行っている。ピザはもちろん、スモークチキンも絶品で、ランチも大人気のお店です

www.hickory.co.jp

麻倉 今日はよろしくお願いします。自宅でAX-XSS100を1ヵ月ほど使わせてもらいましたが、たいへん気に入っています。何と言っても操作性が抜群です。私のオーディオシステムの場合、CDを聞こうと思ったらプレーヤー、プリアンプ、パワーアンプなどたくさんのスイッチを入れないといけない。しかもパワーアンプは真空管式なので、落ち着くまでに30分くらいはかかります。ちゃんと音を聴くまでの手順がたいへんなんです。これは多くのオーディオファンも同じでしょう。

 でもAX-XSS100は、電源を入れたらすぐに音が出る。しかもその音が、意外と言ってはなんですが(笑)、ものすごくいい! しっかりとした低音と緻密な中音、伸び伸びとした高音が楽しめます。

 今日はこのAX-XSS100がどのように誕生したかについてうかがいたいと思います。まずはおふたりがどんな業務を担当したのか、教えて下さい。

須永 東芝エルイートレーディングの須永です。僕は今回、AX-XSS100の商品企画を担当しました。

桑原 DVASの桑原です。私は2016年に発売されたハイエンドラジカセ「TY-AH1000」から、AUREX(オーレックス)サウンドアドバイザーとして音作りをお手伝いしていました。今回は旧知の須永さんから相談をいただいて、AX-XSS100の全体的な音作りを担当しています。

麻倉 須永さんと桑原さんは、以前は東芝でテレビ関連のお仕事をしていたから、お互い気心も知れていますよね。

須永 同じ会社ではなかったけど、仕事ではけっこう近いところで働いていました(笑)。

麻倉 今回のAX-XSS100は東芝エルイートレーディングの新製品として須永さんが商品企画を担当したということですね。

須永 東芝エルイートレーディングは、ラジカセを23年間作り続けている会社です。一部Bluetoothスピーカーなどもありますが、基本的には他のジャンル、いわゆるハイファイ製品は手掛けていません。

麻倉 そうなんですね。しかし、今回のAX-XSS100は「AUREX」ブランドですよね?

CD/FMワイヤレススピーカーシステム
AUTREX AX-XSS100 ¥49,500(税込)

<CDプレーヤー部>
●チャンネル数:2チャンネルステレオ
●サンプリング周波数:44.1kHz
●再生メディア:CD、CD-R/RW(CD−DA/MP3オーディオファイルで記録された音楽ディスク)
<USBメモリー部>
●再生形式:MP3(MPEG-1 Audio Layer3、〜192kbps)/FLAC/WAV
●対応メモリー:32Mバイト〜32Gバイト、USBフラッシュメモリー(別売)
●再生可能USBメモリー:USB-IF規格認定品(USB1.1、USB2.0)
<FMラジオ部>
●受信周波数:FM:76.0〜108.0MHz(0.1MHzステップ)
<Bluetooth部>
●バージョン:Ver.5.3
●対応コーデック:SBC
<共通部>
●スピーカー:64mmコーン型ウーファー✕2、20mmドーム型ツイーター✕2
●アンプ実用最大出力:25W✕2
●接続端子:3.5mmステレオミニジャック入力、3.5mmステレオミニジャック出力、USBメモリースロット
●消費電力:30W
●寸法/質量:W400×H143×D255mm(突起物含む)/約4.5kg

主な特長
●独自開発したDSP「AUREX Sound Processor」を搭載
●クリアーで聞きやすい音を再生する2ウェイスピーカー採用
●周波数特性の乱れを抑え、豊かな音場感を実現する「Corner Cutting Enclosure」を採用

須永 はい、東芝エルイートレーディングは、2016年にTY-AH1000を発売する時に、「Aurex」ブランドを復活させました。一部のハイエンドラジカセ機にはAurexブランドで展開しておりましたが、多くの商品は東芝ブランドで展開しておりました。2023年にAurexをAUREXにリブランディングしまして、今後はAUREXブランドを広めていきたいと考えております。

 個人的には、AUREXはハイエンドオーディオ製品は無理にしても、AUREXの名前にふさわしいオーディオ商品を作りたいと考えたのです。

 AUREXとして弊社で最初に作れる製品は何かと考えた結果が、一体型システムでした。ハードウェア的にはラジカセに近いし、ビジネスとしてはお店の売り場が近い状況もわかっています。そこで自社の技術を活かせる、「CD/FMワイヤレススピーカーシステム」という商品を考えました。

麻倉 となると、AUREXとしてまずは音のいいものを作らなくてはいけません。

須永 極端な言い方になりますが、従来のラジカセはプラスチックっぽい音だと感じていました。本体の構造的にも厚みのある低音を出すのは難しいし、筐体の鳴きとの戦いになってしまう。それもあり、木のエンクロージャーで、しっかりしたスピーカーを作りたいという思いはありました。

麻倉 なるほど、AUREXとして本格的な音がするスピーカーにしたかったと。

須永 ラジカセはとても便利なアイテムだと思っています。それに対してAX-XSS100は少々利便性が落ちたとしても、いい音がするものを作りたかったんです。実はAX-XSS100の企画が成立する前から、桑原さんとはAUREXの新製品ならこうあるべきですよねといった話はしていました。

桑原 あくまでもオーディオファン同士の雑談で、仕事ではありませんでしたが(笑)。

麻倉 さてAX-XSS100は、当初どんな製品をイメージしていたんでしょう?

須永 まずはマーケットの動向から考えました。最近の量販店などでは、一体型ミニコンポのカテゴリーではJVCビクター「EX-D6」の人気が高いので、あの分野が狙い目だと考えたのです。ユーザーターゲットとしては、家ではちゃんとした音を鳴らしたいけど、高級オーディオまでは難しいといった層を想定しました。

エンクロージャー部分にはMDF材を使って、自然な響きを獲得している。バスレフポートの大きさや、ダクトの長さ、形状も最適なものを探したそうです。写真中央上側がFMアンテナ用のコネクター

麻倉 そのためにいい音が必要で、木のエンクロージャーという話になったのですね。最初から木にこだわっていたんですか?

須永 はい、木は使いたかったですね。ただ弊社の場合、これまでの製品がすべて樹脂製だったので、エンクロージャーを木にするだけでも大冒険でした。

桑原 筐体を樹脂で作るには金型が必要ですが、そのコストも馬鹿になりません。今回は木材加工が得意な協力会社と巡り会うことができたので、木でも充分いけるだろうということになったのです。素材はMDFで、内部は左右のスピーカーと中央の電気回路が分かれている3ピース構造です。

麻倉 エンクロージャーには、AUREXブランドを新しく世に問いたいという思いがこめられているんですね。製品作りについては、どんな目標を設定したのでしょう?

須永 AUREXとしてリファレンスになる製品、最高の音を作りたかったですね。東芝エルイートレーディングとして、スピーカーに正直から向き合ったらここまでできるんだと、社内外にアピールしたいという思いもありました。

桑原 簡単に言うと、オーディオ的にちゃんとした音にしたかったんです。

麻倉 そのための、技術的な課題はありましたか?

須永 独自のDSPとして「AUREX Sound Processor」を開発して、Eilex(アイレックス)の技術を採用したのが一番の挑戦でした。最高の音を狙うんだったら、DSPでしっかりと制御するべきだとわかっていたので、早い段階から桑原さんにアイレックスの技術の中でどれを使うのがいいかという相談もしていました。

桑原 須永さんの最初のコンセプトは、ちゃんとした音のするスピーカーで、さらにDSPも入れたいというものでした。このモデルにDSPが必要かな? と思ったんですが、アイレックスだったら音声信号のアップコンバートを含めた様々な技術を持っていますから、やってみようということになりました。

須永 弊社はこれまでオーディオ解析処理にDSPを使ったことがなかったんです。これからオーディオブランドとして成長していくためにはDSPの使いこなしも必要ですから、そこにも挑戦したいと考えていました。

「AUREX Sound Processor」も新規に開発している。アイレックスの技術も盛り込まれ、BluetoothやCD、FMの音声をアップミックスして高品質で楽しめる

麻倉 読者のために解説しますと、アイレックスはアメリカに本社を置く、オーディオ関係のデジタル技術を開発している会社です。Eilex PRISMという独自のイコライジング技術が知られていますが、これはスピーカーから原音に近い音を出すための補正技術で、実際に東芝やシャープ、ハイセンスの薄型テレビなどにも採用されています。他にも桑原さんの話にあったアップコンバート技術など、優れた技術を持った会社です。

桑原 私自身も前職でアイレックスの技術を搭載したテレビを開発していて、チューニングのノウハウから処理の癖まで理解しています。アイレックスの技術を使えば間違いないという確信もあったので、そこは安心していました。

 さらにアイレックスは測定がひじょうにフレキシブルで、多少の測定の設置のずれとか、環境に左右されないのが強みです(編集部注:1本のマイクを動かしながら部屋の数百ポイントの音を集める)。それをベースにしてゼロバランスを作り、さらに音を聞きながら調整を追い込むことで確実にいい方向に音を仕上げることができます。

須永 実際の開発では、何も調整していない箱にスピーカーやアンプを組み込み、音が出る状態にしました。次にアイレックスを組み込んで、日本から設定データをアメリカに送って試聴するといった流れで進めました。

桑原 そのプロトタイプの筐体で鳴らした音が、始めから素晴らしかったんです。エンクロージャーの設計とユニットのマッチング、バスレフポートの設定がうまくいっていて、低音を含めてきちんとした音のバランスになっていました。ここからアイレックスを使って詰めていけばすごいことになるぞと、俄然やる気になりました(笑)。

麻倉 Eilex PRISMは、実際の音を測定し、その結果とターゲットカーブを専用アプリに入力してVIRフィルターを作成します。このVIRフィルターをDSPにインストールすることでチューニングするわけですが、今回もその手順だったのでしょうか?

桑原 まず試作機の音を測定し、その結果を参考にターゲットカーブを決定、アメリカのアイレックス社でVIRフィルターを作ってから工場に戻してDSPにインストールし直すといった順番で進めていきました。そこでは、今回使っているDSPに合わせた音響設計データのインプリメントも必要でした。すべてのデータのやりとりはメールベースで行っています。

須永 今回DSPを使いたかった理由のひとつが、日本で音響設計をしたかったという点にあります。これまでは音決めのために、担当者が中国の工場まで出かけて、音を聴いて調整を行っていました。でもこのDSPがあれば、ソフトウェアを書き込むだけで同じ音を再現できます。こういった経験をしておかないと、将来的に弊社では音響設計ができなくなるだろうと思っていました。

64mmカーボン振動板ウーファーと24mmチタン・ドーム型ツイーターという本格仕様のユニットを搭載していることに、麻倉さんも驚いた様子

麻倉 本体デザインには、どんなこだわりがあったのでしょう。

須永 高音質に基づいたデザインにしたいというのがコンセプトでした。バッフルのコーナー部を斜めにカットして、形も高音質に寄与するという狙いを見せたかったのです。

 それから、スピーカーユニットをどう際立たせるかも工夫しています。主役はスピーカーですとアピールしたデザインを検討した結果、こういうフォルムに仕上がりました。

桑原 音響的に意味がある形をベースに、これまでの一体型システムでは見たことがないデザインにできないかと考えました。ハイエンドスピーカーなどでエッジを斜めにカットしたデザインにはちゃんと意味があって、それを盛り込むとこんなイメージになるよとデザイナーに提案しました。

麻倉 挑戦心も感じる、なかなか見かけないデザインです。

桑原 スピーカーユニットの素材にもこだわりました。TY-AH1000は紙のウーファーとソフトドームツイーターでしたが、今回はハイレゾ対応であることと、音がいいということを形でも表したいと思って、新しい素材に挑戦しています。

 最終的にウーファーはカーボン振動板、ツイーターにはチタン振動板を選んでいます。そのスピーカーユニットも、現地工場まで行って、実際の製品や測定データを見せてもらって選びました。

須永 最終的に2種類に絞って、日本に持ち帰って確認しました。

桑原 カーボン振動板で80mmと64mmのどちらのサイズにするかも悩みました。結果的に64mmユニットを選んだんですが、これは大正解だったと思っています。

 一般的には大口径スピーカーの方が低音が出ると思われがちですが、こういった製品の場合、箱とのマッチングも大事です。今回80mmユニットを使っていたら、ここまでの深い音は出なかったんじゃないでしょうか。

麻倉 そんなこともあるんですか?

桑原 AX-XSS100では、バスレフポートの開口部をフレアー型にするなど、かなり細かい調整をやっています。ポートノイズも低く抑えられているし、エンクロージャーの設計・加工精度が素晴らしいので、まったくビリツキを起こさなかったんです。当初は64mmユニットだから低音はアイレックスで補強しようと考えていたんですが、その必要のない低域がすんなり出てきました。

正面右下のUSBスロットに装着するだけで、USBメモリーに保存した音楽ファイルを再生できる。音声フォーマットはMP3、FLAC、WAVに対応

麻倉 エンクロージャーとユニットのバランス、箱の剛性など色々な条件がぴたりとはまったんですね。

桑原 AX-XSS100はマルチアンプ構成で、ツイーターとウーファーを独立駆動していますが、周波数特性も最初からかなりフラットでした。そこにファインチューンをかけられたので、このサウンドが実現できたと思います。

麻倉 素性のいいものを少しだけ補正するというのは、ある意味DSPの理想的な使い方ですね。

須永 もともとDSPで無理やり調整しようという考えはありませんでした。アコースティックな部分を追い込んだうえで、最終的にここは調整した方がいいだろうといった部分に関してDSPを使おうと思っていたのです。

桑原 音声信号のアップコンバートや圧縮コンテンツの微細信号を復元させる「AUREX HD Remaster」機能も入れています。これもアイレックスの得意なテクノロジーで、須永さんからはこの機能を使ってBluetoothをいい音にしたいと言われていました。

須永 AX-XSS100が一番いい状態にアップコンバートしますから、BluetoothはSBCで送ってくれれば充分ですという発想でした。Bluetoothだけでなく、FMラジオやCDでもアップコンバートの恩恵を受けられますので、その方がいいだろうと考えたんです。

桑原 FM放送の高域情報は15kHzまでと言われており、それ以上の情報はありませんが、それをAUREX HD Remasterでハイレゾ品質に変換しています。AX-XSS100はハイレゾ認証製品なので、それに見合った音質で楽しんでいただこうという狙いです。

須永 いつも使っているBluetooth スピーカーからAX-XSS100に買い替えたら生活が楽しくなった、気軽に高音質で楽しめるようになった、といった体感をしてもらいたいと思っています。また最近はCDプレーヤーも少なくなっていますので、お持ちのCDコレクションをいい音で楽しみたいという方にも注目して欲しいですね。

CDドライブを搭載しているのも、AX-XSS100のこだわり。今回はUAレコードの新譜、情家みえさんの『ボヌール』をチェックしています

麻倉 音質設計でこだわった点はどこでしょう?

桑原 充実した低音が出なければ話になりませんので、低域がどれくらいまで確保できるかが重要でした。先程申し上げたように筐体の素性がよかったので、アイレックスで若干ブーストはかけてはいますが、無理はしないでしっかりした低音が再現できています。

 そこに組み合わせる高域も、フラットな状態でもかなりバランスが良かったんです。ですので、ごくわずかに補正をかけただけで、普段聴いている音に対して違和感がないという部分を目指していきました。

麻倉 私も開発中のAX-XSS100の音を聴かせてもらいました。音を聴くまでは、ちょっといいラジカセ程度だろうと思っていたんですが、全然違っていたのでびっくりしました。ボーカルも実体感があってよかったですよ。

須永 商品企画としてこだわったのは、声の再現をしっかり、はっきりさせたいというところでした。そこについても、帯域をフラットにすることで声が自然に聴こえるんだということに今回気がつきました。

麻倉 さて、AX-XSS100は発売されて2ヵ月ほど経過していますが、店頭での評判はいかがですか?

須永 全国の家電量販店や東芝ストアなどに幅広く展示していただいています。実際に取り扱っていただいているお店の方ともお会いしていますが、これは女性に売れる製品だといったお声もいただいています。

桑原 女性に売れる製品というのは、どういうことでしょう?

須永 その方がおっしゃるには、音の感情性が違うそうです。男性はスペックで買っていくけど、女性は感覚・直感で選ぶそうです。

 例えばその方のお店で、たまたまいらっしゃった女性のお客さんにAX-XSS100の音を聴いてもらったそうです。そのお客さんは一度帰ったんですが、夕方にまた来店して、あの音が忘れられないから買わないと後悔すると思って戻ってきたと言ってくれたそうなんです。

コーナー部分を面取りした個性的なデザインは、反射を抑えて高音質を実現するためのこだわりとか。見慣れてくるとかっこいいですね、と麻倉さん

麻倉 まさに、音の良さで売れているということですね。女性には音の本質が分かるんだろうなぁ。世代的にはどうでしょう?

須永 20代の女性店員が、私も買いたいと言ってくれました。当初は20代のユーザーはいないだろうと思っていたんですが、案外多くて驚きました。もしかしたら、オーディオ業界的にもマーケットの掘り起こしができるんじゃないかと期待していまです。

麻倉 AX-XSS100は、ラジカセってこんなものでしょうみたいな先入観を覆す、まったく違う魅力を提案しています。この完成度であれば、東芝エルイートレーディングとしても第2弾を考えているんじゃないですか?

須永 長期計画には入っていますが、時期などは未定です。一番大切なことは、ラジカセ屋も本気になればこんなすごい製品が作れるということだと思っています。商品企画的には、この価格帯で、これだけの音が鳴らせることが証明できたのが最大の成果だと思っています。

桑原 このタイプの商品にDSPを搭載できたのは、画期的だと思います。最初に須永さんからDSPを入れたいと言われた時は、さすがに無理だろうと思ったんですが、社内外を含めて色々な方の協力を得て、アイレックス技術まで入れられたのが嬉しかったですね。

麻倉 DSPチップもコストアップにつながりますからね。

桑原 正確に言うと、もともとのSOCの中に入っていたDSPの能力が、アイレックスに対応できるぐらい高かったんです。もちろん組み込み作業は改めてやる必要はありましたが、入れられる要素はあったということです。

麻倉 なるほど、リソースとメモリーがちゃんとあったと。

桑原 しかもベンダーさんがそれを調達できたのもラッキーでした。過去にもDSPを搭載できないかチャレンジしていたんですが、そのICは使えないとか、そのスペックだと入れられないということもあったのです。

須永 弊社としては、AUREXをオーディオブランドにしたい、ラジカセのブランドからオーディオブランドに進化したいという思いはあります。そのためにはちゃんとしたスピーカーとDSPが必要だと思っていました。

 また最近のオーディオ機器で、日本メーカーが、音の味付けとして日本人のことだけを考えて作った製品はAX-XSS100ぐらいだと思います。近年のオーディオ機器の音作りはグローバル傾向の音作りになっていて、中級機であってもドンシャリ傾向だと感じています。でもAX-XSS100は、思い切って日本人向けのハイファイトーンにできたと思っています。

麻倉 それは面白い視点です。そういった発想も今後は必要になっていくことでしょう。AX-XSS100がこれからどんな進化をしていくのか、おふたりの活躍に期待しています。

左が東芝エルイートレーディング株式会社 事業統括部 オーディオ事業部 国内商品部 商品企画担当の須永哲明さん。右はAUREXサウンドアドバイザー(DVAS合同会社 CEO)の桑原光孝さん

(撮影:土屋 宏)

AX-XSS100には、開発陣・技術陣の熱い思いが凝縮されている。
“音楽を聴く” ための、ワン・アンド・オンリーなシステムだ ⋯⋯ 麻倉怜士

 今回AX-XSS100を自宅で1ヵ月ほど使ってみました。ジャンルを超えた音というか、こんな小さな筐体からこんな音がするのかというのが、最初の驚きでした。

 まず、情家みえさんのCD『ボヌール』の「ラバー・カム・バック・トゥ・ミー」冒頭、ピアノの和音がひじょうに本格的です。和音の一音一音がはっきり分かるし、質感もひじょうにいい。あの演奏ではスタンウェイのフルコンサートピアノを使っているんですが、まさにその音がする。一般的に小型一体型システムでは、音がドンシャリになるか、逆にひじょうに音が薄くなるかで、人工的に感じることが多いんです。でも、AX-XSS100は想像もしなかったいい音が出てきます。

 情家さんの声も、本人がそこで歌っているんじゃないかというぐらいのオーディオ的な再現です。本人が耳元で歌っていて、なおかつボディ感も備わっているような音像イメージが出るというのは、こういった一体型システムでは初めての体験でした。

 さらにサビに入った時のベースに迫力があって、低音の面積と体積がすごく大きい。この後のベースは、ピチカート奏法で急激に下がっていくんですが、その音階がちゃんと見えました。キレが良くて、一音一音がどんな速くても、ちゃんと明確に分かれている、それが音から聴き取れたのです。

 オーケストラの『フィガロの結婚』もよかったですよ。低音の安定感もあって、バイオリンの領域まできちっと出ています。スコアが見えるというか、バイオリンがメインの旋律を弾いている時にビオラが分散和音的に響くんですが、それがちゃんと聴けるんです。

 私も昔からラジカセを使ってきていますが、音源に入っている音がここまできちんと出る一体型システムは初めてでした。オーディオ的なクォリティで驚いてきて、音楽性まで備わっている。

 AX-XSS100は一体型システムの中でも抜群に音がいい。音にこだわっている人でも、このハイエンドの雰囲気や、音がきちんと出るというところを楽しめるでしょう。本当に革命的で、よくこんな製品ができたなと思います。

 今日色々お話を聞いて、作り手にも製品に対する熱いこだわりがあったということ、最先端の技術が投入されていること、適切なオーディオ的トリートメントがなされていることがよくわかりました。これって、本当に奇跡的なことだと思います。

 AX-XSS100は “音楽を聴く” 製品です。モニター的に音を検証する高性能さもあるけれど、ジャズだったらジャズのグルーブが出るし、クラシックだったらオーケストラの勢いとか重層感も楽しめる。ジャンルに応じて適切な、楽しめる音を聴かせてくれるというのが一番の魅力でした。

 AX-XSS100はお近くの量販店の店頭、ラジカセコーナー近くに置いてあるはずですので、この記事を読んだ方は、いつも聴いている音源を持っていって、その音を体験していただきたいですね。きっとAX-XSS100の “ワン・アンド・オンリー” さがわかってもらえると思います。そのサウンドが気に入ったら、ぜひAX-XSS100で快適な音楽生活を送ってください。

麻倉さんもオススメの、ピザレストラン「ヒッコリーファーム登戸」

 今回は、小田急&JR登戸駅から徒歩5分のピザレストラン「ヒッコリーファーム登戸」にお邪魔して、座談会&撮影を行った。様々な種類のピザはもちろん、グラタン、ドリアなどなど、どれを選んでも絶品、麻倉さんの折り紙付きです。お近くに行かれた際はぜひご賞味ください。