LGエレクトロニクス・ジャパンは、今年7月に世界初の透過型ワイヤレス4K有機ELテレビ「LG SIGNATURE OLED T」の受注を開始した。昨年開催されたCES2024で登場し大きな注目を集めた製品がいよいよ日本でも発売されるわけだ。今回は、同社ショウルームにお邪魔して話題の製品のパフォーマンスを間近に体験してきた。麻倉さんは「透明なテレビ」をどのように見たのだろうか。(StereoSound ONLINE)
透過型&ワイヤレス4K有機ELテレビ
OLED LG SIGNATURE OLED T(77T4PJA)
¥11,000,000(税込、2026年1月6日から順次出荷開始)
透明有機ELパネルを搭載したOLED T本体と、オプションの専用ユニットシェルフ(右)の組み合わせ
●AMD FreeSync Premiumテクノロジー
●NVIDIA G-SYNC Compatible
●画面タイプ:4K透過型有機ELテレビ
●リフレッシュレート(垂直走査周波数):120Hz
●HDR (High Dynamic Range):Dolby Vision、HDR10、HLG
●映像エンジン:α11 AI Processor 4K
●Dolby Atmos
●スピーカー:4.2ch
麻倉 今日はよろしくお願いします。昨年のCESに出展されていた透過型有機ELテレビがついに日本でも発売されたとのことで、今日は楽しみにしています。
森 LGエレクトロニクス・ジャパン マーケティングチームの森です。今日はよろしくお願いいたします。
工藤 セールスデパートメント課長の工藤です。今日はおいでいただきありがとうございます。
長井 同じくPRパートマネージャーの長井です。
麻倉 まずは新製品の特長を改めて教えて下さい。既に日本で発売されているんですよね?
工藤 はい、OLED Tは受注を開始していて、既にオーダーもいただいています。
麻倉 実物を見て感銘するところがあったんですね。さて、今見せていただいている状態が正式な仕様ということになるのでしょうか?
工藤 OLED Tは、透過型有機ELパネルとそれを取り付けたスタンド部分でテレビセットを構成しています。チューナー部は別筐体で、パネル部分とはワイヤレス伝送しています。今日はOLED T本体と、オプションの専用ユニットシェルフを並べた状態で展示しました。
麻倉 チューナーはセパレート型で、地デジやBS4Kの放送も受信できると。
長井 テレビとしての機能や仕様は他のシリーズとほぼ変わりません。パネル解像度は4Kで、地デジやBSデジタル、BS4K放送はもちろん、ネット動画やパッケージソフト、ゲームも高品質で表示できます。
信号処理を司るプロセッサーはα11 AIプロセッサー4Kです。視聴している映像のジャンルとシーンをAIが自動認識して画質を最適化する「AI映像プロ」、好きな絵を選ぶだけでAIがユーザー好みの画質を提案する「パーソナルピクチャーウィザード」なども搭載しました。
他にも、ALLM、VRR 4K/120Hz、AMDFreeSync Premiumテクノロジーといったゲーム対応や、4.2chスピーカー内蔵でバーチャル11.1.2chを実現する立体音響機能も搭載済です。
透明有機ELパネルに興味津々の麻倉さん
麻倉 LGテレビとして、ガチのスペック(笑)を備えているんですね。ところで、そもそも透過型有機ELパネルと通常の有機ELパネルはどこが違うのでしょう?
長井 有機ELパネルの構造としては透過型有機ELもこれまでの有機ELも同じです。透過型有機ELパネルは、透明な画素の中に発光部があるとお考えください。
透明部分を広くできれば透明度は上がりますが、発光部分が小さくなるので輝度は下がります。今回は発光効率を上げ、画素内部の透明部の面積を拡大することで、透明度の高いパネルを実現しました。これまでは透過率が40%だったのでB to B用はともかく、民生用には難しいという判断でした。しかし今回のパネルは透過率が向上したので、民生用としての展開が可能になりました。
麻倉 透過型有機ELパネルはB to Bでは普及しているので、製造自体は難しくはありませんよね。あとは民生用として求められる条件にどう対応していくかだったんですね。サイネージ用としては、私もソウルのパン屋さんで使われている様子を見学に行きました。お店の窓越しにパンを作っているところが見えているんだけど、そのウィンドウが透過型有機ELパネルになっていて、商品の紹介や宣伝文句が表示されていました。
あと、青森の五所川原鉄道の「リゾートしらかみ」に搭載された「e-モーションウインドウ」も有名ですよね。列車の窓に透過型有機ELがついていて、景色を見ながら地図がオーバーレイされるなど、面白い形で使われていますね。
ところで、それらのサイネージ用と民生用で有機ELパネルに違いはあるんでしょうか?
森 現行のサイネージ用は2Kで民生用は4Kなので、解像度が違います。
長井 民生用では様々なコンテンツが再生されますので、コントラスト性能もきわめて重要です。OLED Tは最新型のMETAパネルと比べると輝度自体は低めになっています。そこで、テレビの向こう側が見える透明モードと、コンテンツに集中できるバックパネルモードを用意しました。
バックパネルモードでは、有機ELパネルの裏側に「T-Curtain Call」(黒いスクリーン)がせり上がってきます。こうすることで、通常のテレビと同じように背後が黒いディスプレイに変わり、没入感のある映像が楽しめるのです。「T-Curtain Call」はリモコンで昇降できます。
「T-Curtain Call」を上げた状態。バックの黒が安定することで、映像にも締まりが出てきます
麻倉 なるほど、視聴環境やソースに応じてふたつの顔を備えていると。有機ELパネルですから、画質はもともと定評がありますからね。
工藤 広いリビングであれば、OLED Tを真ん中に置いていただいて、普段は透明な間仕切りとして使ってもらい、映像を見る時はバックパネルモードで大画面テレビとして活用いただけますよ、という提案も行いたいと思っています。
麻倉 せっかく透明なんだから、ユーザーにもディスプレイの向こうに景色が見えるような設置をして欲しいですね。OLED T越しに東京湾の夜景が見えるとか。
工藤 透明モードでは、画面の下側に情報を表示する「Tバー」も準備しています。テレビなどを写していない時に、時刻、温度、天気や自分が登録しているスポーツの結果といった情報が表示されます。
森 他にもアート画像を表示できますし、OLED Tには水槽の映像などもプリインストールされています。もちろん、自分で撮った写真も表示できます。
麻倉 バックパネルモードでUHDブルーレイを見せていただきましたが、『トップガン マーヴェリック』でも、明るいシーンが綺麗でした。もちろん、通常の有機ELテレビとくらべてまったく遜色がないかと言うと、やっぱり輝度とかコントラストには若干違いがあります。しかし、有機ELの持っているハイコントラストの魅力は充分出ています。
工藤 リビングで、映画ソフトも高画質でご覧いただきたいと思っていましたので、そう言っていただいて安心しました。
麻倉さんが撮影したソウルのパン屋さん店頭。サイネージ用の透明有機ELパネルを設置されている
麻倉 ひとつ気になったのは、表面がグレア処理なんですよね。これは明るい環境でコントラストを稼ぐためには必要なことですが、通常の有機ELテレビと比べると反射がちょっと気になりました。特に天井の照明の反射は目につきましたので、設置時の環境を整える必要はありそうです。
ところで、今回民生用として透過型有機ELテレビを発売したのは、ユーザーからの要望があったのでしょうか?
森 そういったお声もいただいていましたが、まずは技術的に実現できたので製品化してみたいという、メーカーとしての思いもありました。
弊社としては、これまでも超薄型の壁掛け有機ELテレビなど、色々な提案をしてきています。そういったアプローチを通して、どんなニーズがあるかを探っている部分もあると思います。またメーカーとして、常に新しい話題の提供は必要です。LGって凄いなと、日本のユーザーの皆さんに思ってもらいたいという狙いもあります。
麻倉 このテレビの場合、ホームパーティーなどで、どうだ、凄いだろう! と自慢できるのがいいですよね。人より先にいいものを持っているっていうのが、自尊心をくすぐるでしょう。
森 ステータスになると思います。部屋の真ん中に透明なパネルがあって、そこに水槽の映像が写っている。でも実はテレビで、ライブやスポーツも見られるんだよって。
麻倉 透過型有機ELテレビは、消している時はフレームしか見えないのに、電源を入れたら、眼の前に77インチ大画面が浮かび上がる。これはかつてない体験だし、初めて見る人は絶対驚きます。
森 先程申し上げた弊社の壁掛け有機ELテレビは、建築家からの問い合わせ、設置の相談もあります。壁にぴったり取り付けられるということで実際に導入していただいた例もたくさんあるんです。
麻倉 テレビに対する要求ポイントって色々ありますよね。私やStereoSound ONLINEの読者は画質最優先ですが、もちろんライフスタイル、デザイン志向の人もいます。そういう人にとっては、ブラウン管のような大きな箱は問題外でした。その後、薄型テレビが出てきてレイアウトや設置の自由度が高くなった。さらに壁掛け、壁埋め込みが可能になり、無線伝送のおかげでチューナーも隠せるようになった。
その最新形が透過型有機ELテレビだと思います。そんなテレビのスタイル進化、設置についてのストーリーを提案するのもいいんじゃないでしょうか。インテリアテレビの最先端は透過型有機ELです、と。
取材に対応いただいた皆さん。写真右からLG Electronics Japan株式会社 PR Part Manager 長井紀幸さん、Sales Department | CE Sales Team | Sell-Out Management Part 課長 工藤有美さん。麻倉さんの隣がMarketingTeam | Marketing Communication Part 課長 森 斗志也さん
工藤 おっしゃる通りですね。OLED Tは、弊社インテリアテレビの最新版として位置づけられるかもしれません。
麻倉 ちょっと思いついたんですが、今は正面にしか有機ELパネルがついていませんが、裏側にもパネルを取り付けたら、表裏の両方で別々の映像を楽しむこともできそうですね。
「T-Curtain Call」を上げれば、両方で映像を表示しても邪魔にはならないし、音は片方はヘッドホンで聴けば問題ない。普段は透明なのに、映像を見る時は両面ともテレビになるという提案も今までなかったから、唯一無二の商品としてきっと話題を集めますよ!
長井 凄いアイデアですね。何だか本当に色々なことができそうです。
麻倉 有機ELパネルは、構造の自由度や進化の余地があるから、まだまだ色々なアイデアが出てくるでしょう。透過型有機ELテレビだって、実際に体験したら、みんな色々な発想をしてくれるんじゃないかと思います。
初めて体験する透明テレビは、有機ELらしい高画質もしっかり備えていた。
新たな映像体験を提案する、LGの取り組みが素晴らしい (麻倉怜士)
有機ELパネルは、我々映像ファンの世界では高画質でハイコントラストというイメージがありますが、実はそれに加えてバーサタリティというか、多様性にも優れたデバイスです。
それは使い道においてで、テレビという商品は、箱型のブラウン管テレビから液晶やプラズマといった薄型テレビになって、それが壁掛けに移行していきました。液晶テレビではそれ以上の変化はあまりなかったんですが、有機ELパネルはものすごく使い道が広いんですよね。
例えば大型化ということでは、製造現場では100インチ前後まで製造されています。これは液晶パネルも同じですが、有機ELは自発光デバイスなので、サイズに関係なくハイコントラストで、色再現もひじょうにいい。高画質ということが担保されています。さらに、パネルの構造上、薄くしやすいというメリットがあります。折り畳みが可能というのも大きな特長です。
また液晶テレビでは絶対できないこととして、発光層が一層しかないので、表面のガラス板を振動させることで、画面から音を出すことができます。この技術はLGを始めとするいくつかのテレビで過去に採用されています。
このように有機ELテレビには本当に様々な切り口があって、我々の映像生活の幅広く広げてくれます。今回登場した透過型有機ELテレビOLED Tは、その最先端といっていいのです。
実物を拝見して、向こう側が見えて、なおかつ手前にテレビの映像が見えるというのは、新しい体験だなと実感しました。技術的にここまでできましたというLGからの画期的な提案と捉えて、ユーザーがテレビのどんな新しい使い方を生み出していけるのかに期待したいですね。OLED Tは、ユーザーが新たな使い方を生み出していく、そんな類の製品だと思うんです。
OLED Tはパネル部とチューナー部で構成されている。パネルはスチール製のフレームに取り付けられておりいわゆる大型テレビにありがちな圧迫感もない
面白いのは、もちろん向こう側が透けて見えるんだけど、同時にちゃんとした有機ELテレビであるということです。パネルが透明なだけではなく、映像をきちんと見たい場合には、内蔵された「T-Curtain Call」が下からせり上がってきて黒い背景になることで、通常の有機ELテレビとして楽しむことができます。そこでは、コントラストも豊かで、色の再現性や視野角にも優れた映像になります。
もうひとつ、透過型パネルを活かした、水槽というか、水族館のような映像を再現できます。まさに水の中を熱帯魚が泳いでいる姿が再現されます。パネルが透明なことが水を象徴していて、なおかつ背後に仕込まれたLED照明の色が変わっていくという仕掛けもあります。
それらの提案を見ても、OLED Tは“従来のテレビの概念” を変えるといっていいでしょう。従来のテレビは、映像を見る時は動作するけれど、映像を見ない時は単に黒い塊だというものでした。しかしOLED Tのような提案が出てくれば、映像を見ない時にも情報表示であったり、あるいは情緒表示というか、美術作品を写したり、デジタル水槽になったりという変化を楽しめる。つまり、見ていない時も楽しめるテレビになっていくんじゃないかと思うんです。
透過型有機ELテレビは、“使わない時に、使うテレビ”です。放送やネット動画を見たり、コンテンツを再生するという使い方以外に、ここまでの用途を備えたテレビというものは、史上初ではないでしょうか。