1997年にフランスで設立されたアトールは、ミッドレンジ・プライスの優秀なオーディオ・エレクトロニクスを数多く生産してきた。「クォリティ至上主義」を金科玉条とせず、バカ高かったり巨大すぎたり重すぎたりという製品をつくらない、またいっぽうでオモチャのようなチャチな安物もつくらない、その真っ当なバランス感覚に則った製品企画にぼくは大いなる好感を抱いている。洗練されたデザインセンスも含め、さすがヨーロッパの良識あるオーディオメーカーだなと思う。

 ここでご紹介するST300 signatureとIN300は、同社の主力ラインとなる300シリーズのネットワークプレーヤーとDAC内蔵プリメインアンプである。このペアで高音質音楽ストリーミングサービスQobuzの音源を聴いてみることにしよう。組み合わせるスピーカーはBowers & Wilkinsの802 D4だ。

 ST300 signatureは、Qobuzの他、TIDALやSpotify、Amazon Musicなどのストリーミングサービスに対応した、いわゆるストリーマーで、Roonの出力先として機能するRoon Ready機でもあるが、ここではiPadにインストールしたQobuzアプリの「Qobuz Connect」機能を用いて様々な音源を再生した。本機は100ステップのアナログボリュウムを備えており、クラスAのゲイン回路を持つ本格プリアンプとしても機能する。昨今人気の高いアクティブスピーカーと組み合わせることで、非常にシンプルなシステムが構成できるわけだ。

 IN300は、旭化成エレクトロニクス製DAC素子を用いたデジタル入力付プリメインアンプ。注目すべきは本格的なアナログ・リニア電源回路だろう。440VAのトロイダルトランスを2基搭載、左右チャンネルで分けた充実した電源回路を構成している。出力段はMOS-FETの3パラレル構成で150W+150W(8Ω)の出力をギャランティしている。構成部品には各種高音質パーツが奢られており、アナログ回路にはムンドルフ製の、デジタル回路にはヴィシェイ製のコンデンサーが用いられているほか、スピーカー端子には専用設計のテルル銅製の高級パーツが使われている。

 

Integrated Amplifier
ATOLL
IN300
¥583,000 税込

●出力:150W×2(8Ω)、260W×2(4Ω)
●接続端子:アナログ音声入力6系統(RCA×5、XLR)、デジタル音声入力5系統(同軸×2、光×2、USB Type B)、プリ出力1系統(RCA)、パワーアンプ入力1系統(RCA)、ヘッドホン出力1系統(標準フォーン)
●備考:Bluetooth入力
●オプション:フォノ入力ボード
●寸法/質量:W440×H100×D320mm/15kg

Network Audio Player
ATOLL
ST300 signature
¥550,000 税込

●型式:ネットワークオーディオプレーヤー
●接続端子:アナログ音声入力2系統(RCA×2)、デジタル音声入力6系統(同軸×2、光×2、USB Type A×2)、アナログ音声出力2系統(RCA、XLR)、デジタル音声出力2系統(同軸、光)、LAN端子1系統(RJ45)ほか
●主な対応ストリーミングサービス:Qobuz、Amazon Music、Deezer、Spotify、TIDALほか
●対応アプリ:ATOLL Signature 2アプリ
●備考:Roon Ready対応、MQAデコード対応、Wi-Fit対応、Bluetooth対応
●寸法/質量:W440×H95×D284mm/7kg

●問合せ先:PROSTO(株)TEL.049(293)3191

 

ST300 signatureは、ネットワークプレーヤーでありながら、デジタル入力4系統のほか、アナログ音声入力も2系統を装備し、コントロールアンプ的な機能も包含した多機能モデル。可変音量調整機能は、デジタル方式ではなく、スイッチ抵抗式100段階アナログ方式を搭載しているこだわりの仕様だ。なお、直近のアップデートでApple AirPlay2にも対応した

 

 

なめらかで艷やかな声と音場の見事な広がりに心奪われる

 ここでは両モデルをアナログ・バランス接続し、音質チェックを行なった。音楽を軽やかにスムーズに描く闊達なサウンドというのがファースト・インプレッション。ジャズ・サックス奏者ブランフォード・マルサリスの新作からバラード「ブロッサム」を聴いてみたが、すっきりと澄明なサウンドステージを強く印象づけながら、ブランフォードのアルトを実在感に富んだ力強い響きで描写し、その隙のないサウンドに「おっ!」となった。価格の枠を超えたアトール・ペアのハイエンドライクな演奏能力、これは凄いぞ、と。

 エベーヌ弦楽四重奏団が演奏するベートーヴェンの弦楽四重奏曲第7番では、非常にクリアーでヌケのよい響きを堪能することができた。4人が弾く弦楽器を精密に解像するというよりは、そのハーモニーの美しさをクローズアップする聴かせ方。音楽美の何たるかを知るメーカーなのだなと深く納得させられた次第。

 ポルトガル出身、オランダで活躍する女性シンガー、マリア・メンデスのライヴ作品で聴けるホール・プレゼンスの生々しさにも驚かされた。ストリングスを従えたゴージャスなサウンドがスピーカーの外側までワイドに広がり、きりりと引き締まったヴォーカルがシャープにファントム定位する。ファドの伝統に根差したジャズを標榜するマリア・メンデスの艶のある伸びやかなヴォーカルの質感も極めて良い印象だ。

 1990年代にぼくがもっともよく聴いたアルバムといえば、ブラジルの至宝、カエターノ・ヴェローゾのラテン楽曲集『粋な男』。その中から滋味深いバラード「ペガート」を聴いてみたが、そのヴォーカルのなめらかさ、艶やかさに心を奪われた。加えてサウンドステージの見事な広がりにアトール・コンビの実力の高さを再認識させられることに。

 ST300 signatureのデジタル同軸出力をIN300に繋いだ音も確認してみたが、比較するとアナログ・バランス接続のほうが好ましかった。デジタル同軸接続は音場表現がやや小ぶりとなり、聴き応え、聴き味の良さもアナログ接続が上回る印象だ。

 パーツ、デバイスの入手を含め、メイド・イン・フランスに強いこだわりを持つアトールならではの音の美。このペアのサウンドをぜひ多くの音楽ファンにお聴きいただきたいと思う。

 

再生楽曲はこちら>

https://open.qobuz.com/playlist/37969312

 

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