ストリーミングサービスはデジタル信号をネットワーク回線で伝送するのでノイズの影響を受けないと考えがちだが、実際はルーターをはじめ、ネットワークに繋いだ複数の機器からLANケーブルを介してネットワークオーディオ機器にノイズが伝わり、音質に悪影響を及ぼすことがある。それを回避するにはLAN経路上のプレーヤーに近い位置にノイズを遮断するアイソレーターを組み込む手法が有効で、特にQobuzのローンチ以降、ストリーミングの音を極めることに熱心なオーディオファンが注目し始めた。
なかでも電気信号を光信号に変換するオプティカル・アイソレーション(光絶縁)の効果は大きく、光変換モジュールやアイソレーターへの注目度が急上昇。今回紹介するトップウィングのアイテムはオーディオ向けのアイソレーターとしては価格が手頃ということもあり、特に人気が高い。そのラインナップのなかから今回は「LANアイソレーター」と「メディアコンバーター+SFPモジュール」の2アイテムを取り上げ、それぞれの役割を紹介しながら音質改善効果を検証していこう。Qobuzの再生音がどこまでグレードアップできるのか、期待が高まる。
OPT ISO BOXはシンプルに効果的な光絶縁を実現する小函
最も一般的なLANのインターフェイスはRJ45と呼ばれる規格の端子で、大半のネットワークプレーヤーやトランスポート、ミュージックサーバーに備える。LANケーブルでは銅線などメタル導体が信号伝送を担うわけだが、電気/光、光/電気変換機能を内蔵するLANアイソレーターをルーターまたはスイッチングハブとネットワークプレーヤーの間に導入すると、いったん電気信号を光に変換することでネットワーク伝送経路からノイズ成分だけを取り除くことができる。
Optical Isolator
OPT ISO BOX
¥39,600 税込
●型式:光絶縁ツール
●接続端子:LAN端子2系統(RJ45×2)
●通信規格:1Gbps、100Mbps、10Mbps(手動切替え機能あり)
●寸法/質量:W70×H32×D83mm/193g
その重要な役割を担うのがオプティカルLANアイソレーター「OPT ISO BOX」だ。コンパクトな本体に電気/光変換+光/電気変換機能を内蔵しているので、データ側のRJ45端子にルーターまたはスイッチングハブを、オーディオ側のRJ45端子に、ネットワークプレーヤー/トランスポートなどのオーディオ機器からのLANケーブルを繋ぐだけで光変換によるノイズ絶縁が実現する。内部に組み込まれた光変換モジュールのグレードを吟味したり、モジュール同士を繋ぐ光ファイバーをSTリンク規格で接続するなど、耐久性や信頼性にこだわるオーディオ仕様の設計が目を引く。
バッファローのスイッチングハブBS-GS2016/Aと、Qobuzのストリーミング音源の再生を担うデラのN1A/3の間にOPT ISO BOXを繋ぎ、直結時と聴き比べる(接続①)。Marcin Wyrostekの「タンゴ・フォー・アリス」はアコーディオンのキレがより鋭くなり、パーカッションとベースが刻むリズムは躍動感だけでなくテンポの加速感まで感じられるようになった。OPT ISO BOXを加えることで音色やエネルギーバランスが大きく変わることはないのだが、演奏の高揚感とテンションの高さは確実に向上する。取り外した状態でもう一度聴くと、その違いの大きさに驚く。
エコーの広がりやヴォーカルの息遣いなど、微細だが重要な情報を聴き取りやすくなることもこのアイソレーターを使用するメリットの一つだ。音色は変わらないと述べたが、入念に聴き込むと、ブレスを正確に再現しているためか歌の表情に深みが加わる。その結果、フレージングがなめらかになったように感じる効果があるので、同じヴォーカル音源を聴いても印象はかなり違う。
アネッテ・アスクヴィクやニッキ・パロットの音源で確認すると、やはりアイソレーターを取り外したときに、OPT ISO BOXを加えたときの変化の大きさに気付き、すぐにもう一度繋ぎたくなってしまった。ネットワークオーディオではノイズ対策や振動対策の有無に敏感に反応して音が変わることがあるが、光絶縁の効果は特にわかりやすい変化だと思う。
本質的な光絶縁の効果を享受できる2つのSFP関連光絶縁アイテム
スイッチングハブやネットワークプレーヤーの一部の製品でSFPポートの採用が増えているが、そこに電気/光変換を担うSFPモジュールと光ファイバーを繋ぐことでも光LAN伝送を実現できる。今回使用したバッファローのスイッチングハブBS-GS2016AはRJ45ポートに加えてSFPポートがあるので、接続ケーブル自体を光ファイバーに置き換える本格的な光伝送へのアップグレードを試すことができる。一方、ネットワークトランスポートとして用意したデラのN1A/3のLAN端子はRJ45ポートだけでSFPポートは搭載していない。ネットワークプレーヤーもSFPポートの装備は一部の製品に限られるので、完全な光LAN伝送に踏み込むにはハードルが高いのが実情だ。
そうしたケースで光絶縁を実現するためにトップウイングが開発したのが、「OPT LAN Bridge」と「Silent Fidelity SFP」だ。LANとSFPを変換するメディアコンバーターとして設計された前者と、オーディオグレードのSFPモジュールとして新たに開発された後者を組み合わせると、様々なネットワークオーディオ環境で本質的な光絶縁のメリットを手に入れることができる。
Media(RJ45 - SFP)Converter
OPT LAN Bridge
¥44,000 税込
●型式:メディア(RJ45 / SFP)コンバーター
●接続端子:LAN端子2系統(RJ45、SFP)
●対応速度:RJ45・1Gbps、100Mbps、10Mbps(自動切替え)、SFP・1Gbps
●寸法/質量:W120×H28×D80mm/258g
SFP Module
Silent Fidelity SFP
¥44,000 税込
●型式:SFPモジュール
●光伝送方式:双方向長波長マルチモード
●対応速度:1Gbps
●備考:STリンク方式コネクター採用SFPモジュール×2+STリンク方式コネクター採用光ファイバーケーブル(3m)のセット製品
●オプションケーブル:1m、2m、3m(¥5,500 税込)、5m(¥6,600 税込)、10m(¥7,700 税込)、15m(¥8,800 税込)、20m(¥9,900 税込)
今回のハブとサーバーの組合せでは、接続②「BS-GS2016A」のSFPポートと「OPT LAN Bridge」の間を「Silent Fidelity SFP」モジュールで繋ぎ、「OPT LAN Bridge」と「N1A/3」をLANケーブルで繋ぐ方法が一つ。
さらに、接続③「BS-GS2016/A」ハブと「OPT LAN Bridge」間をLANケーブルで繋いだうえで、もう1台の「OPT LAN Bridge」との間を「Silent Fidelity SFP」モジュールで接続、2台めの「OPT LAN Bridge」のRJ45端子からLANケーブルで「N1A/3」へ送り込む<OPT LAN Bridgeの2台使用>という一歩踏み込んだ方法を試す。後者はOPT ISO BOXの光絶縁をさらに突き詰めたアプローチと考えるとわかりやすい。
OPT LAN BridgeはSFPモジュールへの電源供給経路を最適化し、複層基板を導入してノイズを抑えるなど一歩踏み込んだ音質改善に取り組んでいるし、Silent Fidelity SFPもオーディオ用途に特化して短距離伝送専用とし、消費電力を大幅に抑えるなどの工夫を凝らしている。SFPモジュールはペアで提供され、STリンク仕様の3m仕様のマルチモード光ファイバーケーブルが付属する。SFPモジュールと光ファイバーを他の市販品で代用することもできるが、今回はそれも含めて音質を検証してみたい。
接続②の状態でBS-GS2016AハブとOPT LAN Bridge間を、編集部が用意した汎用品を使ったSFPモジュール+光ファイバーケーブルで繋いだ状態でも光絶縁の効果は明瞭に聴き取れた。ギターのリズムのキレとパーカッションの粒立ちが向上し、ヴォーカルの付帯音が消失する効果も大きい。とはいえSilent Fidelity SFPに変更したときのベースとキックドラムの力強さと実在感を体験してしまうと、SFPモジュール&光ファイバーケーブルにも、オーディオグレードの製品を選ぶべきだと考え直すことになる。今回使用した既存のSFPモジュールは通信機器用の汎用品とのことだが、厳密な試聴環境で聴くと帯域バランスが若干高域寄りにシフトしているように感じるし、空間情報にも制約があり、あと一歩追い込みたくなるのだ。
接続③の2台のOPT LAN Bridge間をSilent Fidelity SFPで繋ぐ組合せでは、豊富な情報量と安定した帯域バランスが両立し、声の質感や深みのある陰影表現に魅了される。カントロフのピアノ独奏は音色のパレットが大きく、ダイナミックレンジの広さも含めて一つ上のステージに上がったような印象を受けた。
機器の追加と電気/光変換プロセスの導入で伝送路自体は複雑になるが、その複雑さが逆に純度の高い音を生む。アナログオーディオの常識とは異なるが、デジタルとネットワークの世界では理にかなったアプローチなのだ。
できるだけシンプルに光絶縁を実現したいなら「OPT ISO BOX」を、すでにSFP対応機を使っているなら「OPT LAN Bridge」を導入することからスタートし、Qobuz再生における光絶縁効果の大きさを体感してみてはいかがだろうか。
Column
SFPモジュールの抜き差しはくれぐれも慎重に
SFPは、もともと業務用ネットワーク機器で使われている規格であり、SFPモジュールは頻繁な抜き差しを前提としているものではない。モジュールにあるロックを解除することで、機器側SFPポートからSFPモジュールが抜ける構造だが、正しく取り扱わないとモジュールが抜けなくなり、機器の修理が発生するケースすらあるようだ。Silent Fidelity SFPとOPT LAN Bridgeを取り扱うトップウイングでも、「挿抜方法」の具体的なやり方を動画で公開している(下記のQRコード参照)。ぜひ参考にしていただきたい(編集部)
動画「Silent Fidelity SFPとOPT LAN Bridgeの挿抜方法」はこちら
- YouTube
youtu.be
Column
USB接続で光絶縁を実現する
OPT USB Bridge
SFP接続のメリットを積極的に訴求しているトップウイングでは、USB/SFPのネットワークアダプター「OPT USB Bridge」(¥44,000税込)をリリース、新たな提案を行なっている。実際の使い方は、前段のSFPポート搭載機器からの信号を受けてUSB信号として出力する方法(接続イメージ①)と、USBからの信号をSFPポート搭載機器に受け渡す(接続イメージ②)の2パターンを想定。安定した電源やMEMSクロックの効果により、高いノイズアイソレート性能を実現したという(編集部)
>本記事の掲載は『Qobuzのすべて』