ブルース・スプリングスティーンの若き日の葛藤を描いた『スプリングスティーン 孤独のハイウェイ』が、いよいよ今週末の11月14日(金)に劇場公開される。今回、本作の試写会に参加できたのでそのインプレッションを紹介したい。

 『〜孤独のハイウェイ』は、1957年の幼少期に始まり、1981年のライブステージへと、モノクロの映像を挟んでカットバックしながら物語が進んでいく。スプリングスティーンが鬱病を患っていたことは知らなかったが、病と闘いながら、創作に専念する姿もよく捉えられている。

 音楽史としてのエピソードは本稿では置いておくとして、オーディオファンとして興味深かったのは、彼がアルバム『ネブラスカ』の構想を練っている際に、ティアックの4chマルチトラック・カセットレコーダー、サウンドクッキー144を使っていることだ。

 加えてスプリングスティーンが、音楽へのこだわりだけでなく、音のリアリティを求めていたこともよく分かる。レコーディングスタジオのシーンでは、スチューダの24ch仕様テープレコーダーや、スカーリーのカッティングマシンが登場するが、こうしたスタジオでのやり取り、エピソードにも彼の音作りに対する思いがよく現れている。

 その他にも80年代のレコードプレーヤーやカセットレコーダーなど懐かしくもあり、また、へえ〜そうだったのかと言いたくなるショットがオーディオファンの目を釘付けにするし、時代考証のていねいさにも唸ってしまった。

 「ボーン・イン・ザ・USA」を始め、スプリングスティーンのあの粗削りな音の原点も見えてくる。ライブシーンのサウンドは意図的だと思うが、かなりドンシャリに作ってあった。僕自身はスプリングスティーンのアルバムはCDしか持っていないが、こんな強力な低音の体験は初めてだ。立体音響の作りも秀逸。イマーシブではなかったが、車の通り抜けるシーンの疾走感や街中の雑踏のきめ細かい効果音が、場の空気感を運んでくる。

 スプリングスティーン役のジェレミー・アレン・ホワイトがとてもいい雰囲気を醸し出していて、ハリウッドはそっくりさんの宝庫なんだなと改めて感心した。ファンなら絶対に見逃せない佳作であるし、観終わった後は、きっとCDやレコードを聴き直したくなるだろう。

『スプリングスティーン 孤独のハイウェイ』

●11月14日(金)より全国ロードショー
●監督・脚本:スコット・クーパー(原作:ウォーレン・ゼインズ著「Deliver Me from Nowhere」)
●出演:ジェレミー・アレン・ホワイト、ジェレミー・ストロング、ポール・ウォルター・ハウザー、スティーヴン・グレアム、オデッサ・ヤング(フェイ)、他
●プロデューサー:スコット・クーパー、エレン・ゴールドスミス=ヴァイン、エリック・ロビンソン、スコット・ステューバー
●製作総指揮:トレイシー・ランドン、ジョン・ヴァイン、ウォーレン・ゼインズ
●配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン

©2025 20th Century Studios

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映画『スプリングスティーン 孤独のハイウェイ』11月14日(金)公開|本予告(60秒)

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