「自分がアジア人であることを消し去って、西洋と同化していきたい」と考えているに違いない(いくらがんばったところで「名誉白人」扱いがオチだろうが)アジア人夫妻の、なんともキザな姿が最初に飛び込んでくる。子供のレイモンドもお坊ちゃまらしさ丸出しで、やはり英語でしゃべるが、どうやらこの男女の間で生を受けたわけではないようだ。夫は、クワンという名の億万長者。麻薬の密売で富を得ている。妻のジョーイとの関係は恋心や信頼よりも、利害関係がまさっている感じ。そして先に触れたレイモンドは、このジョーイの息子だ。この息子、年齢の割に人間関係の微妙な綾のようなものも知っており、ようするに子供らしくない。そのシチュエーションの中でどうふるまえば自分が一番ソンしないかを、計算しながら動いている感じだ。

 まずこの3名が軸となり、そこに異物として、ルーク・エヴァンス扮する麻薬取締局(DEA)の捜査官ジョンが加わる。物語が進むについてジョンとジョーイの関係が明らかになっていくのも面白いし、ジョーイがただの白人ワナビーの都会人ではなく、相当な田舎に生まれ育った、かなりワイルドな青春時代を過ごしたひとであることも描写されていく。つまりジョーイはあの手この手で「のしあがった」わけである。そして彼女は、驚異的な運転のテクニックの持ち主で、かつてはその才能を生かして違法な物品を届けることに何度も成功していた。「クワンの持つ(持っていた)麻薬に関する帳簿データ」と、それを是が非でも手に入れたいと燃えるルークの意欲を縦軸に、クワンとルークの間で立ち位置を探すジョーイを横軸に、物語とじっくり向き合うのも一興だろう。

 製作・脚本はリュック・ベッソン、出演はほかにルーク・エヴァンス、グイ・ルンメイ等。監督はジョージ・ホワンが担当、台北の街を舞台とするカーアクションも爽快だ。

映画『ドライブ・クレイジー タイペイ・ミッション』

10月24日よりヒューマントラストシネマ渋谷、シネマート新宿 ほか全国順次公開
<スタッフ>
製作・脚本:リュック・ベンソン
監督・脚本:ジョージ・ホアン
製作:ヴィルジニー・ベッソン=シラ
撮影監督:コリン・ワンダースマン
音楽:マッテオ・ロカシューリ
編集:ルーカス・ファビアーニ
配給:アット エンタテインメント
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(C) Photo Hsing-Hsuan Kao