オーディオテクニカから、人気のMCカートリッジ「AT33シリーズ」の後継となる新製品「AT33xシリーズ」が一挙5モデル発表された。ステレオ仕様が3モデル、モノラル仕様が2モデルという陣容だ。型番と価格は下記の通り。発売は10月31日となる。

左から、「AT33xMLB」「AT33xMLD」「AT33xEN」「AT33xMONO I」「AT33xMONO II」

●ステレオ仕様
「AT33xMLB」
 (無垢マイクロリニア針/ボロン無垢テーパーカンチレバー)
 価格:¥126,500(税込)

「AT33xMLD」
 (無垢マイクロリニア針/ジュラルミンテーパーパイプカンチレバー)
 価格:¥110,000(税込)

「AT33xEN」
 (無垢楕円針/ジュラルミンテーパーパイプカンチレバー)
 価格:¥93,500(税込)

●モノラル仕様
「AT33xMONO I」
 (無垢丸針/ジュラルミンパイプカンチレバー/ネオジウムマグネット/パーメンジュールヨーク)
 価格:¥88,000(税込)

「AT33xMONO II」
 (無垢丸針/ジュラルミンパイプカンチレバー/サマリウムコバルトマグネット/純鉄ヨーク)
 価格:¥55,500(税込)

 オーディオテクニカのMCカートリッジは現在、「AT-OC9Xシリーズ」と「AT33シリーズ」が比較的近い価格帯で販売されているそうで、メーカーでは“製品の明確な違い”をよりアピールするために今回、AT33シリーズを刷新。両シリーズの差別化に主眼をおいて製品の企画・開発が行なわれたという。

本AT33xシリーズの開発担当、オーディオテクニカの溝口氏

 それぞれの特徴を、メーカーリリースから引用して端的にまとめると、AT-OC9Xシリーズは“バランスがよく端正で、優等生的なサウンド”という評価であり、新AT33xシリーズでは、“中低域の密度を濃く表現し、肉声に温かみを持って鳴らす”という個性を持った製品になるように開発を進めた、ということだ。それもあり、今回は新機軸がいくつか採用されているほか、開発陣にも若手を積極的に起用している。

 そして、従来は1モデルずつ開発されてきたシリーズモデルを一挙にリニューアルすることで、全体の統一感を持たせることにも留意している。

 なお、近年のハイエンドオーディオプレーヤーに搭載されているトーンアームについて、アームの先端に直接カートリッジを取り付けるインテグレーテッドタイプが増えていることを受けて、新AT33xシリーズでは、カートリッジ側の取付穴をネジ切り仕様として、扱いやすく(直接取り付けられる)しているのも特徴となる。

インテグレーテッド型のトーンアームに取り付けやすいようにした、ネジ切り仕様を採用

 さて、新製品を俯瞰して見てみると、針先が「マイクロリニア」「無垢楕円」(以上、ステレオ仕様)と、「無垢丸針」(モノラル仕様)の3種類。カンチレバーで「ボロン」「ジュラルミンテーパータイプ」(ステレオ)、「ジュラルミンパイプ」(モノラル)の3種類がラインナップされる。マグネットは、「ネオジム」と「サマリウムコバルト」(MONO IIのみ)、ヨークは「パーメンジュール」と「純鉄」(MONO IIのみ)があり、この組み合わせでラインナップが構成されている。ちなみに、サスペンションワイヤーについては、AT-OC9xシリーズのステンレス線(φ0.07)に対し、新AT33xシリーズではピアノ線(φ0.08)としており、これによってコンプライアンス(振動系の変位のしやすさ)は低めの値となり、音質面では、骨格のはっきりした厚みのある中低域の再現に寄与している、そうだ。

保護カバーはスライド式

 磁気回路を支えるベース部には、新開発の亜鉛ダイキャストが採用されており、これはシリーズ共通の仕様となる。従来モデルでは樹脂パーツを採用していたそうだが、質量があり、剛性が高くとれる亜鉛ダイキャストにすることで、音響的な響きに優れ、重心の低い中低域の再生が可能、という効果をもたらしている。ちなみに、カートリッジ自体が重くなりすぎると(15gを超えると)使いづらい部分も出てくるため、亜鉛ダイキャストで増した質量の分、他の部分で軽量化を図り、カートリッジ全体としては10.5gほどに抑えているそうだ。筐体には、亜鉛ダイキャスト・アルミニウム・硬質樹脂という3つの素材を組み合わせ、バランスのいい響きを得られるよう設計されているという。

オーディオテクニカお得意の巨大模型。亜鉛ダイキャストのハウジングを再現したモック

ステレオカートリッジの違い

 次に、ステレオモデル3機種の違いについて見ていきたい。トップモデルの「AT33xMLB」は、ML(マイクロリニア)針にボロン製のカンチレバーを採用。情報量が多く、応答性が速いのが持ち味となり、メーカーでは、近年から70年代後半以降のレコードとの相性がいい、としている。ミドルモデルの「AT33xMLD」はMLBと同じML針に、ジュラルミンテーパーのカンチレバーを組み合わせることで、楽器や肉声の表現を得意とするそうで、少し古めの録音のロックやジャズとの相性がいい、とする。スタンダードモデルの「AT33xEN」は、無垢楕円針にジュラルミンカンチレバーを組み合わせていて、リラックスして音楽を楽しめる懐の深さを持っている、と謳う。

 実際に3モデルを聴き比べてみると、AT33xMLBはすっきりとしたサウンドで、量感のある低音と、よく伸びる高域の再現性が好ましいもの。AT33xMLDは、空間が大きく力強さを感じるサウンドで、吹き上がりも良好。躍動感のある音を聴かせてくれた。細かい音の再現性はAT33xMLBに軍配が上がるようだ。AT33xENは、空間は少し狭いもののバランスはよく、聴きやすいサウンドを奏でてくれたた。

モノラルカートリッジの違い

 従来のシリーズでは、モノラルモデルであってもステレオモデルと共通の磁気回路を搭載していたそうだが、新しいAT33xシリーズではモノラル発電に最適な形状の磁気回路を開発。これによって発電効率が向上し、結果として音質アップにも貢献している、と謳っている。メーカーの説明では、モノラルカートリッジでは水平方向の音溝振幅しか発電しない構造のため、垂直成分をカットできることからノイズ抑制も効果があるという。また、モノラルレコードをモノラルカートリッジで再生することで、音像の定位が明瞭になり、低域の再現性が大幅に改善される、と説明してくれた。

 さて、「AT33xMONO Ⅰ」「AT33xMONO II」ともに丸針の仕様で、これはステレオレコード登場以前は丸針だったこと、開発過程で楕円針との比較も行なったが、(楕円針に)明確な優位性が言い出せなかったことからの採用になるという。2モデルの大きな違いは、磁気回路とカートリッジのサスペンションだといい、MONO Ⅰはステレオモデルと同様の構成を採用、MONO IIはサスペンションワイヤーの径を太くすることで、立ち上がりがゆっくりでおおらかな雰囲気のサウンドになるそうで、50~60年代のジャズ作品との相性がいい、ということだった。

 実際に音を聴き比べてみると、MONO Ⅰは空間が大きく、細かい音まで聴き取れる解像感の高さが印象的。一方MONO IIは、勢いのあるサウンドで、中域あたりに厚みを感じる再現性。ステレオモデルも含め、新しいAT33xシリーズは5モデルすべてで音色がはっきりと異なるので、好みの音色を選ぶ、探すのも楽しいかもしれない。なお、冒頭にも記したように、AT-OC9Xシリーズとの音色の違いも、狙い通りはっきりと出ているので(亜鉛ダイキャスト採用の影響が大きいらしい)、AT-OC9Xシリーズ VS 新AT33xシリーズを聴き比べて、お気に入りのカートリッジを見つけるのもいいだろう。

 なお、パッケージ(梱包)にも今様の変更が入り、プラスチックが全廃され、紙製のホルダーにカートリッジが取り付けられている。

カートリッジは紙製のホルダーに固定されている

取り付けネジは13mm、10mm、8mm(各ペア)の3セットを同梱

 新AT33xシリーズは、11月29日(土)、30日(日)に、大阪で開催されるハイエンドオーディオイベント「第34回オーディオセッション in OSAKA2025」のオーディオテクニカブースで、国内では初展示される予定だ。