夢を諦めた青年が、もう一度自身の夢にかけて立ち上がっていく姿を、震災からの復興を進めている熊本のいまと合わせて描いた『熊本の彼氏』が、10月10日の熊本での先行公開を経て、いよいよ10月24日より全国で公開となる。主演には、タイトルと同名で活動、人気を集めている熊本出身のシンガーソングライター杉本琢弥が務め、映画初出演で初主演の大役に加え、主題歌、劇中歌も担当するなど八面六臂の大活躍。共演には各方面で活躍している多彩なキャストを揃えている。
ここでは、主演・杉本琢弥と、杉本演じる一二三 湊の幼馴染みで、作品の地元・熊本のからし蓮根を営む家の三代目・山之内大和を演じた諸星翔希(7ORDER)の二人にインタビュー。役作りや熊本の魅力、作品の見どころなどを聞いた。
――よろしくお願いします。まずは映画の完成おめでとうございます。しかも、『熊本の彼氏』というタイトルは目を惹きますね。
杉本琢弥(以下、杉本) ありがとうございます。まさかのタイトルですよね。でもこれは、僕がTikTokでやってきたコンテンツがそのまま映画になったというものでもあるんです。だから、とにかくびっくりしました。
――ご自身のコンテンツが採用されて、しかも映画初出演で初主演です。
杉本 こんなことあるんですか? って思いましたね。最初、映画がありますと言われた時は、まだ仮タイトルだったんです。その後正式に決まって、『熊本の彼氏』ですと聞いて、本当ですか! って驚きましたから。でも、僕のコンテンツを知ってくださっている方も数多くいらっしゃるので、そのままのタイトルで映画になった方が、より注目してもらえるだろうとも思いました。
――完成した台本を読んだ時の感想はいかがでしたか?
杉本 僕の実体験を元にして、というわけではないんですけど、ちょっと境遇が似ている部分もあって――1回上京したけど、夢を諦めて戻ってきて……。でも、もう1度頑張ろう、上京しようって思っている――その時の僕とすごく似ている部分があると感じました。
加えて、タイトルの通り、熊本城の復興に向けた動きなど、しっかりと熊本の今も描かれていたので、すごく楽しい作品(映画)になるだろうなと、思っていました。
――諸星さんは、杉本さん演じる「一二三 湊」の幼なじみという設定です。出演が決まった時はどうでしたか?
諸星翔希(以下、諸星) 実は、ここ数年はお芝居をしていなかったので、試練だなって思いました。というのは冗談で(笑)、まずは熊本弁をうまく話せるかなって焦りましたね。がっつり熊本弁を話す役なのでもう、たっくん(杉本)に聞きまくりました。これなんて言うのって聞いて、それをボイスメモに録って、あとで何度も聞き返して練習しました。
杉本 そうそう、このセリフは熊本弁だとどういうニュアンスで話すのか教えてっていう感じで、ずっとやってました。
――すぐにできるものなんですか?
杉本 できてましたね。さすがです。
諸星 いやいやいや、そんなことないですよ。
――歌を覚えるような感覚なのですか?
諸星 そうですね、ニュアンスで覚える部分は歌と一緒かなと思いました。
――英語もできそうですね
諸星 ちょうど今、英語を勉強しているので、発音の感じとか、似ているところはあります。
――さて、話を戻しまして、お二人が演じられたキャラクターについて教えてください。
杉本 湊については、僕と照らし合わせて似ている部分はあるんですけど、性格は真逆なんです。彼は、今に対する自信を持ってなくて、どうしようという状況の中で人に助けられて、いろいろなきっかけがあって、再び上京を目指すっていう感じなんですけど、僕はもう早く行きたくて行きたくてしょうがなかったんです。あとは、彼はどちらかと言えば臆病で、性格もあまり明るい方ではないので、その演じ分けとしては、声色を少し、ワントーン下げて演じたり、あまり大きい声(声量)を出さないところ留意しました。
芝居としてはナチュラルさを基本に、彼だったらこういう雰囲気で話すだろうなっていうことを考えていました。
だから、幼なじみの大和(諸星)と久しぶりの再会をした時は、喜んでいる感じを出すために、声色を少し上げるようにしました。
――諸星さんはいかがですか?
諸星 僕の演じた山之内大和は、元気のあるやつで、ちょっとお調子者なんですけど、湊と再会してからは、心の底から湊の音楽を応援していて、きちんと他人のことを考えられる器の大きい青年だという印象があって、そこは僕自身も持っているので、すごく役に入りやすかったです。
劇中では、とある事件も起きますけど、悩んだり、迷ったりしたとしても、しっかりとそれをプラスに変えていける人間力は感じました。
――登場人物の中では、一人だけ少しいきっている雰囲気もありました(笑)。
諸星 やはり、東京への強い憧れを持っていますからね。
――お二人は、同い年なんですね。今回、共演してみていかがでしたか?
諸星 こんな仲良くなるんだって思いました。
杉本 本当だよね。
――歌とお芝居という共通点が仲良くなるきっかけだったのでしょうか?
杉本 そうですね。それこそ、大和と一緒に宅飲みするシーンの合間でいろいろな話をして、意気投合して、“今度二人で飲みに行きたいね”っていう感じになりました。
――熊本のお酒を勧めたり?
杉本 しました(笑)。撮影が終わった後に、熊本には大好きなご飯屋さんがあるので、そこに一緒に行って飲み明かしましたよ。
諸星 楽しかったですね。
――ヒロインの坂ノ上茜さんはいかがでしたか?
杉本 僕は2回ぐらい、彼女のラジオにも呼んでもらっていたし、それとは別に熊本の人が集まる会を東京でやっているんですけど、そこでも会っていたので、ついに仕事で一緒になれた! って感動もあったし、なにより頼もしかったです。演技経験も豊富だし、シーンの撮影が終わっての空き時間には、お互い普通に熊本弁で話していたので、熊本の友達っていう感じもありました。
――坂ノ上さん演じる美咲は、湊のことが……。
杉本 ねっ、彼は気づいてないですよね。普通ならなんとなく気づくとは思うんですけど。まあ、そこも湊っぽいなって思います。
諸星 大和自身は美咲に好意を持っているんですけど、どんどんただの友達みたいになっていくし(笑)、“あんたさ”、みたいな感じで軽く殴られるような関係なんですよ。坂ノ上さんとは、アーケードのシーンの撮影で距離がだいぶ縮まった感覚もあって、すげえしっかりした女の友達という雰囲気でした。
杉本 ねっ、しっかりしてるよね。
諸星 してるしてる!
――そのあたりにしておきましょう(焦)。劇中では、熊本城の他にも、ミカン、レンコン、くまモンなど、いろいろなご当地の名産が出てきました。
杉本 僕は、ミカンで有名な大浜の方は行ったことがなかったんですよ。撮影で、あのミカン畑に1日いさせていただいて、本当に気候も良かったですし、もともとは雨の予報だったんですけど撮影中は晴れてくれて、過ごしやすかったです。
ちょうど、夕方の日が沈むあたりで僕が、福田(沙紀)さん演じる川島かおりを好きだったっていう歌を歌うんですけど、そのシーンでの綺麗な景色が、強く記憶に残っています。
――ずっと歌えなかった人が、フッと歌えるようになるところはよかったです。
杉本 ありがとうございます。だからそのシーンでは、あえて発声練習をしないで行ったんです。ずっと歌ってなかった人が本気で歌ったらこうなるだろうなっていうのを表現したくて。
――そのテイク(現場の録音素材)をCDとかデジタルでリリースしてほしいですね。
杉本 うれしいです。現場はほぼ無音の状態で、僕の歌声のほかは、鳥の鳴き声ぐらいしかない感じでした。ただ、あの曲は、撮影中に作ってくださいって言われて作ったものなので、そこしかないんです。
――諸星さんは、杉本さんの歌唱シーンを見て、一緒に歌い出したくはなりませんでしたか?
諸星 いやぁ~、サックス持っていけばよかったって思いましたよ(笑)。大和の性格からして、俺も歌いたいって言い出すんじゃないかなって考えていましたから。
撮影中に曲を作っているっているのを知っていましたので、普通にすごいなって思って見ていました。
――曲作りは、撮影と並行していたんですか?
杉本 はい。ラストに歌う「ドーンライト」っていう楽曲は、撮影後の夜中、ピアノを弾きながら作っていました。
ミカン畑で歌った「君導」はサビの部分しかないんですけど、その後、ストリートではBメロも歌っているんです。撮影の時に、テストが終わってカメラの位置決めをしている10分ぐらいに間に作り足しました。
――Bメロの次は2番、3番も聞いてみたいです。公開までまだ時間もありますし……。
杉本 そうですね、いや勘弁してください(笑)。
――諸星さんのサックスとのコラボも面白そうですね。
杉本 それ、いいですね。
諸星 ぜひ! でも、まだ作曲はできなくて……。いまは、ジャズやインプロ(即興)の勉強をしているので、いずれ。
――月並みな質問になりますけど、印象に残ったシーンやおススメのシーンがありましたらお願いします。
杉本 やはり、熊本県民としては冒頭の熊本城のシーンを見てほしいです。恥ずかしながら、僕もこの映画で学ばせていただきました。2016年の熊本地震での被害から復興している中、その途中の姿ですら、空中回廊を作って見せている。そういったところも、熊本の強さ、たくましさだなってすごく思うし、将来、復興を遂げた先、今の姿が見られなくなっても、映画にはその途中が残されていくことになりますから。熊本城と共に立ち上がる人々の強さ、その心の奥底にある強さみたいなものが、この映画にはすごく投影されているので、そこをぜひ観てほしいです。
諸星 僕は過去に一度、熊本でライブをしたことがあって、それがちょうど、後半に出てくる熊本城ホールなんです。当時、ライブ後に熊本城に観光で行って、石垣が崩れているところを見て、なんで崩れているんだろうって思いましたけど、そうか、復旧というと昔の姿に戻すことだけでなく、きちんとそこを残しながらアップデートしていくところに、感動しました。
今回、映画のお話をいただいて、冒頭部分では、熊本城の今の姿や、歴史も知れるようになっているし、熊本県民の底力と温かさをすごく感じる作品になったと思います。撮影中も、近所のお店の方がおでんを持ってきてくれて。とてもおいしかったのを覚えています。
杉本 あった、あった。めっちゃくちゃおいしかったですよ!
諸星 マジうまかったし、現場が寒かった(11月末の撮影)ので、体が温まって助かりました。本当に温かい人たちがたくさんいらっしゃるので、この映画を観て、熊本に対して興味持ってほしいと思ったし、紹介されている名所に遊びに行ってほしいです。
杉本 是非、お願いします!
――ちなみに、諸星さんの出身地・神奈川を題材にした『神奈川の彼氏』ができたら、何を紹介しましょう。
諸星 そうですね、神奈川は山、海、温泉といろいろありますから、有名どころから隠れた観光地をピックアップして、ジャズバージョンの曲を作って紹介したら面白そうです。少し大人っぽい(エッチな)要素を入れたいなって思います。
――そういえば、湊と美咲はどうなるんでしょうね。
杉本 どうなるんでしょうね、僕も分かりませんけど、美咲のことですからスッと諦めて、別の恋を探しているような気もします。
――最後に、杉本さんは楽曲も担当されていますけれども、どんな思いを込めて曲を作ったのかお聞かせください。
杉本 まず、主題歌の「ドーンライト」は、その名の通り“夜明け”をテーマに書いたものになっていて、“誰にでもいつかは夜明けは必ず来るから”っていうワードはもちろん、映画のテーマでもある熊本自身の復興とか、今暗闇の中にいる人に一筋の光を灯す、そういう希望になることを込めて書きました。
劇中での湊自身へのエールでもあったし、大和が受けた災難に対する応援でもあったし、人は誰しもが、全てを前向きに明るく過ごせることはないと僕は思っているので、そういった暗闇に立ち止まった時にこの映画を観て、主題歌を聞いて、また前向きになる、熊本城のように立ち上がって頑張ってみようと思ってもらえるように、心を込めて曲を作りましたので、ぜひ聞いていただけたらと思います。
映画『熊本の彼氏』
2025年10月10日(金)TOHOシネマズ 熊本サクラマチ、イオンシネマ熊本にて熊本先行公開中
2025年10月24日(金)ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次ロードショー
<ストーリー>
熊本の旅行代理店に勤める一二三 湊(杉本琢弥)は、同僚の美咲(坂ノ上茜)に半ば強引に誘われ、熊本の名所や名物を紹介するMV制作プロジェクトに参加することになる。乗り気ではなかった湊だが、プロジェクトの取材先で、かつてのミュージシャンであり、今はミカン農園を営む女性・カオリ(福田沙紀)と出会う。
実は、カオリは湊が音楽に夢中だった頃に憧れていた存在だった。再会をきっかけに、湊の心の奥にしまい込んでいた“夢”──シンガーソングライターとして歌うこと──が少しずつよみがえっていく。
かつて湊は、熊本の街角で毎晩のようにギターを抱え、ストリートライブを続けていた。しかし、ある出来事をきっかけに、人前で歌うことをやめてしまった過去があった。その傷を抱えたまま、夢を封印していたのだ。
湊の秘めた想いを知った美咲は、そっと背中を押す。そしてついに、再びマイクを握り、街角に立つ湊。その小さな一歩が、周囲の人々の心を動かし、やがて街全体を巻き込む大きなうねりとなってゆく。震災からの復興を歩む熊本の街で、夢と希望を乗せた歌声が、静か、力強く響き始める──。
<キャスト>
杉本琢弥
坂ノ上茜 福田沙紀/諸星 翔希(7ORDER) 小山銀次郎
川下祐司 井出叶 不知火鈴香 レイザーラモンRG ゆめっち(3時のヒロイン) 池田裕楽(STU48)
廣田昇平(ELVA) 有田空(ELVA) RYUNOSUKE(ROYAL NOVICE) くまモン(熊本県PRキャラクター)
<スタッフ>
監督・脚本:熊谷祐紀
主題歌:杉本琢弥「ドーンライト」
配給:STREET LABO
配給協力:LUDIQUE
製作:映画「熊本の彼氏」製作委員会
(C)2025「熊本の彼氏」製作委員会
●杉本琢弥 公式サイト
https://takuyasugimoto.com/
●諸星翔希(7ORDER)公式X
https://x.com/7order1332
ヘアメイク:花岡 恵