“聖なる牛? なんだろう?”と思って観始めたのだが、「HOLY COW(ホーリー・カウ)」とは、“マジかよ!”“ウソだろ!”といった驚きを表す言葉であるという。フランスのスラングなのだろう。監督を務めた若手ルイーズ・クルヴォワジエは、本作のカンヌ国際映画祭プレミア上映で〈ある視点〉部門ユース賞を受賞。ほか、ジャン・ヴィゴにちなんだジャン・ヴィゴ賞、フランスのアカデミー賞とも称されるセザール賞で最優秀新人監督賞に輝いている。
ルイーズは大胆にも、キャストを演技経験のない者たちでまとめた。農業見本市やモトクロス会場、ストックカーレースなどで声をかけ、それに応じた面々が画面に登場している。どのように役を割り振ったのか、いかなる演技指導をしたのかは謎に包まれているが、結果として(有名俳優がいないためか)、「市井の物語」を実にしっかりと垣間見た、という印象を私は受けた。主人公のトトンヌはグレているというか、投げやりというか、思春期の焦燥を体現するような人物だった。が、チーズ職人だった父の死をきっかけとして、なんで俺がとばかりにその職を継ぐことになり、やがてはチーズ作りの楽しさと深さ、それを通じての人々との手ごたえあるコミュニケーションに開眼していく。
チーズといっても多種多彩だが、物語でモチーフとなるのは、フランス東部のジュラ地方で作られる、あの固い「コンテチーズ」。この映画は、ひとりの人物の成長譚であると同時に、私には「コンテチーズはこうやって作られるのか」という学びを得る場でもあった。
映画『ホーリー・カウ』
10月10日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷、シネ・リーブル池袋ほか全国順次公開
監督:ルイーズ・クルヴォワジエ
出演:クレマン・ファヴォー 、ルナ・ガレ、マティス・ベルナール、ディミトリ・ボードリ、マイウェン・バルテレミ
2024|フランス|92分|フランス語|カラー|2.39:1|5.1ch|日本語字幕:橋本裕充
提供:キングレコード
配給・宣伝:alfazbet
後援:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ
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