デノンから、“The home theater” を標榜するAVアンプ「AVC-X2850H」(¥132,000、税込)が発表された。今週末、9 月19日の発売を予定している。
AVC-X2850Hは、ドルビーアトモス、DTS:Xの再生が可能な一体型モデルだ。7chパワーアンプを搭載しており、最大5.2.2のイマーシブオーディオの再生を楽しめる。型番からも分かる通り「AVR-X2800H」の後継モデルだが、今回からチューナー回路を持たない「AVC」ラインに変更されている(理由は後述)。
この価格帯はデノンAVアンプの中でも売上、人気ともに高く、まさに王道のラインナップだという。同社では “10万円から始める趣味の世界” を提唱するアイテムとして、このゾーンにAVC-2850Hを投入、磨き上げたデノンサウンドを提供するとのことだ。
そのために、新たな音質・操作性改善技術を盛り込んでいる。
その第一が「HDMIジッターリダクション」の搭載だ。デジタル音声については、D/A変化に伴うジッターをどう抑えるかが高音質再生のための大きなキーになる。AVアンプでメインに使われるHDMI接続時も同様で、ジッターを含んだマスタークロックに基づいたD/A変換では、アナログ変換された音にも微妙なずれが生じて、音質劣化を招きかねないという。
そこでAVC-X2850Hでは、HDMI入力ついて独自のジッター抑制アルゴリズムを導入、クリーンなクロックでD/A変換処理を行うことで音質改善を目指している。HDMI入力周りのパーツはAVR-X2800Hと同じだが、このアルゴリズムによってジッター自体は大幅に削減できたそうだ。デノン担当者氏の説明によると、上位モデルで採用されているジッター・リデューサー機能の7割ほどの効果が実現できているという。
もうひとつの進化点として、「チャンネル・レベル・モニタリング機能」を搭載している。その名の通り、サラウンド再生時の各チャンネルの音量をレベルメーターでオンスクリーン表示するもので、特にトップスピーカーがどのように使われているかを視覚的に確認できるものだ。
この機能をオンにすると(リモコンのオプションボタンで操作可能)、画面中央下側に7.1ch分のレベルメーターがオーバーレイ表示され、ほぼリアルタイムで音量レベルを表示してくれる。
なおこの表示はデコーダーからの出力値を元にしているそうで、厳密には、ユーザーが自分の部屋に合わせてレベル調整したものとは異なっている。また2chや5.1ch音声をアップミックスした場合でも(Dolby SurroundとNeural:Xを搭載)、サラウンド再生時のレベルを表示してくれるとのことだ。
そして近年のデノン製品のサウンドポリシーである「Vivid & Spacious」も踏襲する。それに関連した回路面での一番の変更点は、先に書いた通りチューナーレスモデルに変更されたことだ。FMチューナーのような高い周波数を扱う回路は、たとえ受信していなくてもノイズ源になってしまう。そこで今回は回路自体を非搭載にすることで、オーディオ回路全体のノイズを抑えようと考えたわけだ。測定上はほとんど変化がなかったそうだが、実際の音には違いが出てきたと担当者は話していた。
その他にも、音質を決める上で重要となるブロックコンデンサーには上位モデル「AVC-X3800H」と同じ日本製を採用、整流ダイオードもAVC-X3800Hと同じパーツが投入された。本体を支える脚部にもリブ有りフットを採用して、本体の安定性を高めている。
ネットワーク再生を受け持つHEOSモジュールは、AVC-A10Hと同じ最新世代に進化、これに伴ってネットワーク再生時のノイズも抑えられたという。その他、フロントL/Rチャンネル用のパワーアンプは電源の根本から分けてチャンネル間の干渉を排除し、DACセクションや電源回路などにはELNA(
エルナー)製コンデンサーを採用。ワイヤリングやビスの選定、緩衝材の見直しなども、サウンドマスターである山内氏が試聴を通して“最適解”を探っていったそうだ。
電源部についても大型カスタムEIコアトランスを搭載して、余裕のある電源供給を実現。パワー段、プリ部は独立した巻線から供給している。他にミニマルシグナルパスを考慮したレイアウトや、
基板上のパターンを太くするなどの改良により、5ch同時再生時でも定格出力の70%以上という大出力を可能にしている。
映像関連では6系統のHDMI入力と2系統のHDMI出力を搭載。すべてHDCP 2.3対応で、さらに入力4〜6と出力は8K/60Hzと4K/120Hzにも対応済み。HDMI出力端子からは300mAの電源供給が可能なので、電源が必要な長尺HDMIケーブルでも高品位で安定した伝送を可能にしてくれる。HDMI出力(TV1)はeARC対応だ。
HDR(HighDynamic Range)信号は、HDR10、DolbyVision、HLG、HDR10+とDynamic HDRにも対応している。またゲームやVRコンテンツでも使われているALLM(Auto Low Latency Mode)やVRR(Variable Refresh Rate)、QFT(Quick Frame Transport)のパススルーも可能とのことだ。
ストリーミング再生はAmazon Music/AWA/Deezer/Qobuz/Spotify/SoundCloudなどの試聴が可能。ハイレゾ音源も最大5.6 MHz DSD、PCM 192kHz/24ビットに対応済で、ミュージックサーバー(NAS、パソコン)やUSBメモリーに保存したデータを読み込みできる(DSD、WAV、FLAC、Apple Losslessファイルのギャップレス再生にも対応)。AirPlay 2、Bluetooth(送受信)といった機能も備える。
新製品発表会で、AVC-X2850Hの音を確認できた。
まず前モデルAVR-X2800Hとの違いをチェックする。ジェニファー・ウォーンズ『ハンター』の「
アイ・キャント・ハイド」を、CDプレーヤーからのアナログ入力で聴き比べると、同じボリュウム表記なのに音圧感から違う。
AVC-X2850Hでは声の表情や弱音部のディテイル、息遣いのニュアンスもより細かく再現されている。低音の力強さも増している。このあたり、チューナーレス化や新型HEOS回路になったことによる低ノイズ化のメリットが反映されているのかもしれない。
続いてHDMI接続によるUHDブルーレイ再生で『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』と『トップガン・マーヴェリック』を見せてもらう。どちらもドルビーアトモス音声を選び、チャンネル・レベル・モニタリング機能で音量レベルを表示してもらった。
「チャンネル・レベル・モニタリング機能」のレベルメーターは、画面中央下側、映画の字幕などと同じ位置に表示される
『007/ノー・タイム〜』は、トップスピーカーが思っていたより控え目な使い方で、ここぞというときに活用されているのがわかった。これまでのイメージではもっと多用されているのではないかと勝手に想像していたので、ちょっと驚いたくらいだ。
一方の『トップガン〜』は、トップスピーカーを常に使っている印象で、これぞイマーシブオーディオという音作りだ。ダークスターが頭上を通過するシーンでも、重さを伴った音が通り過ぎていく様子を耳と目で確認できるのは新しいサラウンドの楽しみ方だった。
もちろんどちらのサウンドもS/Nに優れたクリーンな音場が再現され、包囲感、没入感も素晴らしい。ボンドの怒りを抑えた声やマドレーヌの怯えたニュアンスもていねいに再現されているし、銃声や爆音、教会の鐘の音もリアルに響いてくる。『トップガン〜』のハンガーや基地内の響きも細かく再現しているし、ダークスターのコックピットの密閉感も息苦しさを感じるほどだった。
AVC-X2850Hは、型番上はAVR-X2800Hからわずかな変化だが、その中身は大きく進化している。ホームシアターを楽しむための第一歩として充分なパフォーマンスを備えたモデルとして、注目してもらいたい一台だ。 (取材・文:泉哲也)
「AVC-X2850H」の主なスペック
●搭載パワーアンプ数:7ch
●定格出力:95W✕2(8Ω、20Hz〜20kHz、THD 0.08%、2ch駆動)、125W✕2(6Ω、1kHz、THD 0.7%、2ch駆動)
●適合インピーダンス:4〜16Ω
●再生周波数帯域:10Hz〜100kHz(+1/-3dB、ダイレクトモード時)
●Bluetooth対応コーデック:SBC
●接続端子:HDMI入力×6(HDMI 4/5/6=8K60AB/4K120AB)、HDMI出力×2(TV1はeARC/ARC対応、8K60AB/4K120AB)、アナログ音声入力×5、PHONO入力(MM)、光デジタル入力×2、サブウーファープリアウト×2、ゾーンプリアウト、ヘッドフォン出力(フロント)、他
●寸法/質量:W434×H167×D341mm/9.5kg(フット、端子、つまみ、アンテナを含む)
●消費電力:500W(待機時0.5W、CECスタンバイ)