①「ベルリオーズ:幻想交響曲 第4楽章<断頭台への行進>/クラウス・マケラ指揮パリ管弦楽団」 96kHz/24ビット
②「ヨハン・シュトラウス:Wiener Blut、Walzer/トゥガン・ソヒエフ指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団」 96kHz/24ビット
③「伊福部昭:怪獣大戦争<マーチ>/竹本泰蔵 指揮 日本フィルハーモニー交響楽団」 192kHz/24ビット
④「モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲 第3番 第1楽章/クロエ・チュア(vn)シンガポール交響楽団」 96kHz/24ビット
⑤「スティーヴ・ライヒ:砂漠の音楽<ⅢA. slow>/久石譲 指揮FUTURE ORCHESTRA CLASSICS」 96kHz/24ビット
⑥「Umbra/ゴーゴー・ペンギン」 48kHz/24ビット
⑦「Ray of Light(Sasha Twilo Mix Edit)/マドンナ」 96kHz/24ビット
⑧「Never Lost/Kokoroko」 96kHz/24ビット
⑨「Family Life/Neil Young」 192kHz/24ビット
⑩「Monday to Friday/XinU」 44.1kHz/16ビット
今回紹介する10曲のプレイリストはこちら> https://open.qobuz.com/playlist/34481011
① 2024年12月録音。冒頭のセンターに位置するティンパニ、センターやや右で奏でるチェロ強奏の切れ込みのシャープさと輪郭感、第1ヴァイオリンのアクセント感と伸びの鋭さには脱帽。ファゴットのコケティッシュさが音場を絢爛に彩る。録音はたいへん優秀。左右の拡がりに加え、奥行も豊潤。パリ管弦楽団の明晰で綿密な臨場感が、そのまま録られている。ティンパニの轟きも迫力満点。フィナーレのトゥッティの強烈さ。一撃が空気を鋭く割く。
② 今年のサマーナイトコンサートのアンコール、「ウィーン気質」は毎年の定番曲。第1ワルツのヴァイオリンの跳躍旋律に掛けた艶々したポルタメントの色っぽいこと。まさに耳の快感。屋外での収録なので、いつものムジークフェライン・ザールとは違う、空気感だ。軽妙な音調と、開放的でクリアーな雰囲気が心地好く、空気の流れが快活だ。
③ 伊福部昭の生誕110年を記念した『音の怪獣〜こどものためのいふくべあきら』作品に収められた名曲。本曲「怪獣大戦争」のマーチは、様々な円谷映画で人類を守る自衛隊側の勇壮な血湧き踊る音楽として、味方の発進、攻撃シーンで活用されている。伊福部らしい強烈かつ執拗な刻みに乗って、トランペットが爽快な旋律を奏で、そこにピッコロの鋭いオブリガードが加わる。編成は大きいが、音は実に鮮明、コントラストが明瞭で、弦と管、そして打楽器のパートが明確に分離。2021年3月東京音楽大学で録音。
④ シンガポールの天才ヴァイオリニストのクロエ・チュアのモーツァルト。手前に扇形にせり出した弦楽とセンターに位置する木管群との対比が鮮やか。間接音、直接音いずれも情報量は多いが、透明感が高いため、濃密な音場の中での音像がクリアーだ。演奏は、旋律線をくっきりと描き出す、明瞭で感情が豊か。繊細に研ぎ澄まされたモーツァルトだ。前にせり出し豊穣で立体的な音場に包まれ、晴れやかな祝祭的な音楽を愉しむ。
⑤ 久石譲とFUTURE ORCHESTRA CLASSICSによるスティーヴ・ライヒの「砂漠の音楽」日本初演のライヴ収録(2024年7月31日、8月1日、東京・サントリーホール)。同じ旋律を繰り返すミニマルに陶酔。金管と合唱が加わり、弦の声部が増え、それらが、二つのスピーカーの間に隙間なく音像イメージを形成。同じ旋律線に高域から低域まで声部が重なる周波数的な重層感と、音場での複数声部パートが左右に展開するという二重の重層感。録音はたいへん優秀。新時代のオーディオチェックソースとしても活用できよう。
⑥ ゴーゴー・ペンギンの第7作『Necessary Fictions』から冒頭曲。センターのパーカッションにベースが加わり、音場全体を覆い、筝が右チャンネルにて印象的なフレーズを奏で、さらにドラムスが強烈にその存在を現わし、ピアノが陶酔的な叩きを演じる。まさに音の万華鏡。音場には隙間がないほど音が詰まり、タイトなプレッシャーで聴き手に向かって襲ってくる。快感!
⑦ 冒頭の左右にピンポン的に飛ぶエレクトリック音が快感。バスドラが一定のリズムで刻むうえを、まるで宇宙遊泳的な効果音が飛び交う。2chだが、その音場の枠を激しく飛び出すような、複数の音が飛翔する。マドンナは音量バランス的にバンドの一員として、その激しいグルーブを支えるイメージ。この曲の主役は、明らかにバスドラの一定リズムの激しい叩きだ。そのオスティナート(執拗反復)はオーディオ的というより宇宙的。低域がしっかり再生できないシステムでは難しい。
⑧ ロンドンを拠点に活動する8人組のアフロ・ジャズバンドKokoroko(ウルホボ語で、強くあれの意味)の第2弾アルバム『TUFF TIMES NEVER LAST』の冒頭曲。センターのドラムスが強烈。中央ベースの低音も偉容で、金管がアフリカ的。多種多用の音域と音色の楽器群、声質が異なる複数声の交錯がオーディオ的にも面白い。録音も優秀。各楽器とヴォーカルがくっきりと主張し、絡み合ってもクリアーに描く。特にベースの低音の明瞭度、キレが凄い。
⑨ ニール・ヤングが彼のバンドCHROME HEARTSと共同で制作した新アルバム『Talkin To The Trees』からの冒頭曲。センターに陣取るニール・ヤングの明瞭ではきはきしたハイトーンの艶々したヴォーカルは、ヒューマンな味わいだ。ハーモニカの鋭い明晰さも心地好い。録音は楽器、ヴォーカルが明瞭で、音場の透明感も高い。スネアドラムのスナッピーの音がくっきり。
⑩ XinU(シンユウ)は、日本の女性シンガーソングライター。冒頭から音が厚い。センターのスネアワークの輪郭と叩きの衝撃が強烈だ。センターのヴォーカルは超オンマイクで、音像輪郭がタイト。歌詞のメッセージと歌表現の機微が見事にシンクロ。半音転調により、緩やかに盛り上がる様がダイナミックだ。エッジが立った音調も、XinUの表現にリンクしている。
候補として試聴した曲のプレイリストはこちら> https://open.qobuz.com/playlist/34483173
>本記事の掲載は『HiVi 2025年秋号』