思春期の若者が抱えている得も言われぬ不安や悩みを、瑞々しい筆致で映像化した『僕の中に咲く花火』が、いよいよ撮影地・清水監督の地元である名古屋・岐阜での先行公開(8月22日)を経て、8月30日(土)より全国公開される。ここでは、脚本・監督を担い、初の長編を完成させた清水友翔 監督と、主役・大倉稔役:安部伊織、その稔を助ける朱里(じゅり)を演じた葵うたの の3名にインタビューした。
――よろしくお願いします。無事に公開が決まりおめでとうございます。まずは、完成までの流れを教えていただけますか。
清水友翔 監督(以下、清水監督) ありがとうございます。脚本の初稿を書き終えたのが、2022年の終わり頃でした。それを落合(賢)さんに見せて、スタッフ集めを始めたのも大体そのぐらいの時期でしたから、そこから考えると長かったですね。
――2023年の夏には、映画製作へ向けたクラウドファンディングも始まりましたから、結構順調に進んだ?
清水監督 いえいえ、そうでもないですよ。資金調達は落合さんと一緒に二人三脚でやっていましたけど、本当にたいへんでした。知り合いからは“無理じゃないか”って結構言われましたけど、そういう人が最初にお金を出してくれたりして。そうして少しずつお金を出してくれる人が増えていって、個人だけでなく、企業からの協賛も集まり始めて、半年ぐらいでようやく撮影の目途が経った、という感じです。
――資金を集めながら同時に、キャスト・スタッフも決めないといけません。
清水監督 キャスティングについては、専門の会社にお願いしていて、メインの大倉稔と朱里については、書類選考を経て各50人ほどに絞ってからオーディション会場に来てもらって、面接をしました。安部伊織さんと葵うたのさんにお会いしたのは、2023年の春ごろでした。
――お二人の決め手は?
清水監督 オーディションでは、脚本の一部を演じてもらうのですが、僕とプロデューサー、キャスティングディレクターの4名でいいと思う人を選んでもらったところ、お二人の名前が一番挙がっていたので、お願いしようと決めました。お二人とも部屋に入ってきた時から、役の雰囲気が伝わってきたし、お芝居も素晴らしかったので、すごく記憶に残ったからです。
――お二人はオーディションの時のことは覚えていますか?
安部伊織(以下、安部) はい。脚本で描かれている稔は、等身大の高校生で、設定も結構詳しく書かれていたので、難しいという印象はなく、割とすっと(役を)理解できましたので、(脚本を)読んで感じた通りに芝居をしました。
葵うたの(以下、葵) 朱里についても、設定が細かく書かれていたので、人前での振る舞い方とか、抱えている悩みみたいなものをしっかり準備してから、オーディションに臨んだのは覚えています。
――設定が細かく書かれているのは、演じやすいものですか?
葵 細かく書いてあるのは状況だけで、役をどう演じる(解釈する)かはお任せする、みたいな感じですから、そこでの難しさはなかったです。
――話は飛びますが、監督が思い描いていた人物像=稔は、ご自身に一番近いものなのですか?
清水監督 確かにそういう部分はありますね。ただ、自分を主人公にした物語を書こうとしたわけではないので、違うものではありますが、脚本の改稿作業をしていく中でプロデューサーから、“自分だったらどう行動しますか?”と言われながら改稿を進めていたこともあり、自然と自分に寄っていくのは感じました。最終的にすごく自分に近いキャラクターにはなっていますけど、あくまで架空のキャラクターであって、自分ではないと思っています。
――安部さんは、稔をどう捉えましたか?
安部 自分と共通点がたくさんある、というわけではありませんが、思考が後ろ向きになってしまう癖みたいなものは似ていたので、スッと理解はできました。まあ、育ってきた環境は違いますけど、分からないとか、難しいという点はなかったです。それよりも、初めての主演でしたから、そっちの方が緊張しました。いろいろな人に助けられながら頑張りました。
――映像を拝見すると、結構“間”が長く感じました。演じる方としては、演じやすさに違いはありますか?
安部 特に長いとは感じませんでしたし、僕自身、そういう間がある作品は好きですから、観てくださる方に、考えさせるというか感じさせるような余白を生み出すものだと思っています。
清水監督 間を長くしたのは、どちらかと言えば自分がそうしたいと思っているのと、そもそも説明ゼリフがあまり好きではないからです。この映画はなるべくリアルに、苦しんでいる人、悩んでいる人、悲しい思いをしている人を描きたいと思っていて、たとえば同じ10秒でも、楽しく遊んでいる人よりも、悩みを持つ人ほうがすごくゆっくり進むだろうと思うんです。だから、本当に苦しんでいる人の“間”を考えた時に、テンポよく進む日常じゃなくて、ずっしりとした重たい日常が、その人を日常なんだろうと思って長くしています。
――それも含め、作品の雰囲気には、監督ご自身の今の年齢や、作品の底に流れる“死”に寄っている印象も強いですね。
清水監督 物語が常に主人公の視点で動くっていうのもありますけど、その視点自体が若い人、尖がって周りが見えていない様子がそのまま映画になっていると、感じることもあります。試写を観た親御さん世代の方々からは、稔の行動に対しての意見というか感想も多くありましたので、ある意味、今の年齢だから作れた映画なんだろうと思います。
――次に、朱里についてお聞きします。登場シーンからかなり目立っていました。
葵 インパクトありましたよね(笑)。脚本ではビジュアルについては語られていなかったので、事前に監督と結構話し合った記憶があります。服装や着こなしを含め、全身からにじみ出てくる雰囲気ってあると思うんです。ただし、あまりエモーショナルにはならないよう留意しました。
――冷めているという感じですか?
葵 冷めているというか、カラッとしている年上の女性という雰囲気でしょうか。劇中では稔の少年性――繊細すぎる感受性とか衝動性みたいなもの――がすごく描かれているので、そこにポッと入ってくる味方、という風に考えていました。
――ある意味、朱里がいたから稔は救われた、という存在ですね。朱里の造形はどのようにしたのでしょう。
清水監督 シンプルに、青春映画にはヒロインが必要だなって考えていたからなんです(笑)。別に、自分の人生でああいう年上の女性と出会って、何かがあった、というわけではないです。
物語の展開上、死という方向に意識が向きがちなので、逆に生のイメージもすごく大事になると思っていて、たとえば、食べることも生だし、涙したり、感動することも生きていることだと感じますけど、青春の中で考えれば性体験もやはり、生きる方に向いている行為だと思っているので、この物語には必要だろうと思って入れています。
――自分の悩みでウツウツとしている稔と、世間ってこんなもんだよと達観している朱里は、相対的というか、一対のイメージも持ちました。
清水監督 そうですね。やはり人と人の化学変化というか、普段出会わないような人同士がぶつかったら、すごく面白いものができるだろう、そのドラマ描きたいと思っていました。加えて、自分もそういう(達観している)人との出会いがすごく好きなんです。スナックのママみたいな人と話すと楽しいので、そういうキャラクターに寄せているところはあります。
――朱里を演じる上での苦労はありましたか?
葵 特に大変だったことはなかったですね。どちらかと言えば、これまでは着飾る役が多かったので、シンプルな服装の朱里は、等身大の感覚でてきたと思います。
――後半、トンネルのシーンでの出来事を経て、特に稔は大きく変わります。
安部 そこは難しかったですね。お芝居もそうですけど、現場には緊張感もあって、ピリピリとした雰囲気の中でセリフのない繊細なお芝居をしないといけませんでしたから。
葵 無音のまま始まるというか、お互いに引き寄せられるみたいなところに、すごいリアリティを感じましたし、それが生きることへの渇望になるシーンだと思っていたので、緊張感もあって(撮影は)たいへんでした。
――その後に描かれる食事のシーンでは、それまで孤食だったものが、家族で食卓を囲んで、という形になりました。もう、稔は大丈夫なのかなと思う反面、撮り方には少し違和感もありました。
安部 確かに。僕の中ではまだ、(稔は)大丈夫ではないなと思っていました。
清水監督 そこも長回しをしているんですけど、実はカメラを揺らしながら少し不自然な感じにしているんです。その意図は、ここでお話するよりも、観ていただいた方に感じ取ってほしいと思います。
――ところで、稔と朱里の今後はどうなるのでしょう?
葵 朱里は自由な存在ですから、フッと消えてしまうんじゃないでしょうか。ある意味、それが朱里の生き方だと思っています。
安部 そうですね、僕もそう思います。
――稔には冒頭で、彼女のような女性がいましたけど。
安部 実は彼女ではなくて、言い方が悪いのですが、自分の目的のために好意を利用しているというか……。当初の脚本には、朱里が帰った後にも出てきて、稔とひと悶着を起こすシーンがあったのですが、カットされてしまって。
清水監督 本当はバイト先が同じという設定があったのですが、予算とかスケジュールの都合で泣く泣くカットしています。
――そういうカットした部分も含めて、完全版の脚本を出したら面白いと思います。
清水監督 本当ですか。見たいという人がたくさんいるようであれば考えたいです。
――ちなみに、このタイトルはどのように決まったのでしょう? 監督の中には何かいつも怒り(花火)が燃え盛っているのですか?
清水監督 いえ、そんなことはないです。当初は、8月の夏休み中の物語で、死者との交流みたいなテーマもあったので、「お盆」っていう仮タイトルにしていたんです。でも、それじゃあなんか変だなっていう話になって(笑)、プロデューサーと話し合って、最終的に『僕の中に咲く花火』にしました。
花火は、亡くなった人のメタファとして捉えていて、ヒューって上がっていく花火玉は悲鳴をあげながら生きている人生を、パンって爆発するのが死ぬ瞬間で、その後に空中に漂っている煙が魂、それが最後には上がっていく。そういうイメージで捉えられるとのと、まあ、夏だから花火かなと思って決めました。
――では最後に、読者に向けてのアピールをお願いします。
安部 稔を演じるにあたって、今の等身大の18歳を嘘なくやろうっていうのが、僕の中でのテーマとしてありました。つまりは、大人から見て稔は何を考えているか分からないようにしたかったということです。観てくださる方にはそれを感じ取っていただければと思います。
葵 自分の悩みに向き合ったり、何かをじっと見つめたい時に、この映画ってすごくいいんじゃないかと思います。さきほど話されていた“間”も、生きている人を見ているようなリアルな感覚を受けとれるので、私にとってもすごく好きな作品になりました。だからこそ、今年の夏はたくさんの方に観て欲しいです。
清水監督 映画を1本創るのって、すごく難しかったし、苦しくて、たいへんだったのですが、最初に脚本を見つけてくれた落合さんや、個人でお金を出してくれた先輩・友達、協賛してくださった企業、そしてキャスト・スタッフと出会って、今、作品が完成して配給会社の方と出会うという風に、当初は僕一人で孤独に脚本を書いていた状態から少しずつ人が集まって、こんなにもたくさんの人との輪ができました。なるべく多くの人に観てもらって、その輪を広げていきたいと思います。よろしくお願いします。
映画『僕の中に咲く花火』
8月22日(金)より 名古屋・岐阜先行公開
8月30日(土)より ユーロスペースほか全国順次公開
<キャスト>
安部伊織 葵うたの 角心菜 渡辺哲 / 加藤雅也
水野千春 佐藤菜奈子 平川貴彬 米元学仁 桜木梨奈 田中遥琉 古澤花捺 國元なつき
<スタッフ>
製作:ファイアワークスLLP 制作:フォトシンス 制作協力:Arc’t4Film キャスティングディレクター:髙野力哉 監督補:鐘江稔 衣装:宮本まさ江 音楽:伊藤明日香 編集:和田剛 美術監督:山下修侍 撮影監督:有近るい 録音:飴田秀彦 インティマシーコーディネーター:浅田智穂 ヘア・メイク:奈央 整音:高木創 音響効果:仙崎ケヴィン 阿南美佳 VFX:ヴィナメーション 助監督:石原壮一郎 エグゼクティブプロデューサー:竹内力也 世古哲久 丸山大知 下野泰輔 山本貴士 ラインプロデューサー:高木宏通 プロデューサー:落合賢 脚本・監督:清水友翔 配給:彩プロ
2025/日本/ビスタ/93分/PG-12
(C)ファイアワークスLLP
<ストーリー>
田園風景の豊かな岐阜県にある田舎町。小学校の頃に母親を亡くしている大倉稔は、家にほとんど帰ってこない父親と不登校で引きこもっている妹に頭を悩ませていた。10年前に亡くなった母を未だ忘れられない稔は、死者と交流ができる、と話題の霊媒師を訪ねる。そこで「ドラッグ」が臨死体験に似た働きをすることを知った稔は、死後の世界への好奇心から非行の道を走り始める。そんな折、東京から帰省してきたという年上の女性、朱里と出会う。どこか母親のような優しさを併せ持つ朱里は、稔の心の寂しさを埋めてくれる存在になっていく。しかし、稔の前で起こった不幸な事件が稔の心がこれ以上ないほどに引き裂かれてしまう。死への好奇心が恐怖に変わってしまったことで、彼の胸の内に潜んでいた狂気が姿を現し始めるのだった……。
安部伊織 公式X
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葵うたの 公式サイト
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