PMA3は是枝重治氏が『管球王国 116号』マイハンディクラフト企画で発表したプリメインアンプです。本記事では、吉田伊織氏による試聴リポートをお届けいたします。

管球式トーンコントロールとフォノ入力を備える小型機。
筐体に散りばめられた美的な配慮にも注目したい

 6GB8という大型出力管を擁したインテグレーテッドアンプというので堂々の大器かと思いきや、現物を見て驚くまいことか。デスクトップ用というほどのサイズであり、これで真空管式のトーンコントロールやフォノイコライザーまで搭載しているのだから実装密度はいかほどか? それについては内部写真でも確認できるのだが、外観について少々。

 第一の注目点は側板が鏡面加工のジュラルミン、正面はアルマイト処理のつや消しということだ。普通は鏡面加工を正面にして美麗さを訴求するだろうに、その逆なのである。

 もうひとつの注目点は前面の美的な配慮だ。無彩色の金属板の上に奥行きのあるツマミ類で機構的な整序感を訴求。つまみの触感をもよおす配慮だ。それに中央から少し右寄りに縦一直線の溝を切り、それを濃い紅色で埋めていることにも注意。その「差し色」の効果はあきらかだし、右側の区分はほぼ正方形となり、左側は1:1.4ぐらいの安定比率(白銀比)となる。白銀比は文庫本や手帳の比率でおなじみ。また縦横比は映画のシネマスコープ、つまり1:2.4くらいであり、これも整序感を条件付けている。

フロントパネル、リアパネルと天板はアルマイト加工が施され、側板は3mm厚ジュラルミンを鏡面加工。左右独立のボリュウムのほか、低域/高域のトーンコントロールも備える。入力は4系統(うち1系統はMMフォノ入力)、スピーカー出力は4、8、16Ωに対応している。

大出力管ならではの包容力に富んだ音。
柔らかなタッチの中に無数の音色が溶け込む

 その音だが、これはかつて体に染み込むほどなじんでいた包容力のある音だ。というのは、私が映画館に勤めていたころ、そこのシアターサプライ会社が東芝系だったので、6GB8プッシュプルのアンプがあったのだ。ただし1980年代半ばにはすでにその在庫が枯渇し、無調整で差し替えられる代替品としてシルバニアの8417が供給されていた。その両者の音はさほど違わなかったけれど、6GB8のほうが低音のゆとりがあり、いくらでも力が湧き出るごとき頼もしさがあった。

 本機はシングル出力だが、そうした大出力管の特徴がしっかり再現されている。それに映画館では迫力の反面、大味な印象もあったのだが、こちらは柔らかなタッチの中に、無数の音色を溶かし込んでは潤いのある味に変換する能力がある。あらゆる音楽分野で富士山の稜線のような雄大さと吉野の桜のようなあでやかさを両立されるわけで、たしかに音楽鑑賞用の設計だ。使いこなしとしては、アンプ手前のL/R独立ボリュウムを絞るとS/Nが改善され、あるいはフォノ入力の際、各種ノイズが聴こえる場合はL/R独立ボリュウムを開き、メインボリュウムを絞るなど対応力がある。

 これを機に、幻の国産大出力管が市場で再評価されることを願っている。

パワーアンプ前段の回路はレイセオン製サブミニチュア管5744のSRPPで構成。出力段は東芝製ビーム管6GB8のUL接続・シングル構成によって出力14W+14Wを得る。フォノイコライザー回路はECC83S/12AX7によるアンペレックス回路を採用。トーンコントロール回路にはシルバニア製ECC81/12AT7を用いる。

スペック
●出力:14W+14W
●入力端子:PHONO 1系統(MM/RCAアンバランス)、LINE 3系統(RCAアンバランス)
●入力インピーダンス:56kΩ(PHONO)、100kΩ(LINE)
●スピーカー出力端子:4/8/16Ω
●使用真空管:ECC83S/12AX7(EMT JPA66 Mk3保守用部品)×2、ECC81/12AT7(Sylvania)×2、5744(Raytheon)×4、6GB8(東芝)×2
●寸法/重量:W330×H150×D325mm/13kg

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