高音質ジャズレーベルの、ウルトラアート(UA)レコードから、新アルバム『BONHEUR』(ボヌール=フランス語で“幸せ”の意味)が発売される。価格は¥4000(税抜)で、9月10日(水)から全国のレコード店で販売を予定。本日からディスクユニオンとAmazonで予約受付をスタートしている。また9月10日からストリーミングサービスQobuzでのハイレゾダウンロード(リニアPCM)も行われる。
『BONHEUR』 ¥4000(税抜、9月10日発売)
<収録曲>ラバー・カムバック・トゥ・ミー、メディテーション、ホワット・ザ・ワールド・ニード・イズ・ラブ、オーバー・ザ・レインボウ、ザ・シャドウ・オブ・ユア・スマイル、イット・ドント・ミーン・ア・シング、ラブ・イズ・メニー・スプレンディド・シング、アルフィー、
マン・アンド・オンリー・ラブ、アイ・キャン・シー・クリアリー・ナウ
<制作スタッフ>●プロデューサー:潮晴男、麻倉怜士●レコーディング・エンジニア/塩澤利安(日本コロムビア)●アシスタント・エンジニア:久志本英理(日本コロムビア)、鄭エキショウ(ポニーキャニオン)●マスタリング・エンジニア/山下久美子
「ボヌール」は、2018年に発売された『エトレーヌ』に次ぐ情家みえさんのアルバム第2弾で、スタンダードジャズの名曲を、徹底的に高音質にこだわるUAレコードらしく、信号方式はMQACD、ディスク構造はUHQCDという贅沢なフォーマットに収めている。
レコーディングスタジオは、『エトレーヌ』同様にポニーキャニオン代々木スタジオで、レコーディング・エンジニアも塩澤利安氏が担当した。生成りの素直な音を得るため、手直し、編集なしのワンテイクで、イコライジングやコンプレッションは使用せず、192kHz/32ビットのハイレゾフォーマットにて録音を行っている。同時に往年の名レコーダー、スチューダ「A-800」によるアナログ録音を実施、今後のアナログLP、SACDの音源として使用する計画だそうだ。
そして昨日、表参道のKEF Music Gallery TOKYOでプレス向け発表会が、さらに学芸大学の老舗オーディオショップ ホーム商会では実際に『ボヌール』の音を体験できる試聴会が開催された。どちらにも麻倉怜士さんと潮晴男さん、さらに情家みえさんが登場し、第二弾CDにかける思いと、製作時の苦労話を披露してくれた。
ホーム商会イベントの再生システム
●CDプレーヤー:エソテリック K-03XD SE
●D/Aコンバーター:メリディアン ULTRA DAC
●ターンテーブル+カートリッジ:EMT EMT928+TONDOSE TSD Novel
●フォノイコライザー:アキュフェーズ C-57
●プリメインアンプ:アキュフェーズ E-800S
●スピーカーシステム:ピエガ Premiun701
以下では、ホーム商会での試聴会の様子を中心に紹介したい。同店のエントランススペースには、麻倉さんと潮さんが選んだハイエンド・オーディオ機器が並び、CD『ボヌール』とLP『エトレーヌ』が再生されるという内容だった。
まず潮さんから、『ボヌール』発売までの経緯が紹介された。
潮さんは、「UAレコードでは、2018年に『エトレーヌ』のCDを発売しました。さらにアナログレコードやSACDもラインナップしてきています。他にもジャズピアニストの小川理子さんの演奏を収めた『バルーション』のCDとアナログレコード、さらに78回転盤まで発売しています。
この2タイトルで7年間運営しているというのは、世界的にひじょうに珍しいブランドなんです。多くの方は、多分もう会社がなくなるだろうと思ってたでしょうが、なんと今回奇跡の復活を果たしております(笑)」と語った。
続いて情家さんは、「今日はお越しいただきありがとうございます。今回も一発録りということで、前回もそうでしたけど、現場では結構ピリピリしながら、両先生を睨みつけながら歌いました(笑)。でも、私の歌をこんなに大事に、2作目も作ってくださったことに本当に感謝しています」と収録現場での(辛い?)思い出を語っていた。
和気あいあいに、お笑いトリオ(?)のようなテンポのいいイベントを繰り広げた3名
これを受けて潮さんは、「われわれがレコードレーベルを作った理由は、最近の音楽制作は、デジタル音源を集めてくればCDでも何でも作れちゃうけど、それじゃせっかくの音楽が死んじゃうと思ったからです。なので、今はデジタル録音してから編集やオーバーダビングもするんですけど、UAレコードでは基本的に一発録音です。もちろんアーティストが間違えることもあるけど、それも味だし、演奏のパッションの方が大事だから、そのまま皆さんに聞いていただければいいと思って、編集は加えていません」と、敢えて難しい収録を行っている理由を語っていた。
ここから試聴タイムがスタート。K-03XD SEで『ボヌール』を再生し、そのデジタル信号をULTRA DACに入力、MQAデコードを行って176.4kHz/24ビットに展開した後、2chアナログ出力をプリメインアンプE-800Sに送って、Premium701をドライブしている。ちなみにK-03XD SEもMQAデコード機能を備えているが、今回はより高品位な再生を行いたいということで、ULTRA DACを組み合わせたそうだ。
1曲目の「ラバー・カムバック・トゥ・ミー」が再生されると、思わず前のめりになって音に聴き入る参加者も多数。L/Rスピーカーの間に情家さんのボーカルが綺麗に定位し、ピアノ、ベースといった楽器もひじょうに自然に再現されている。等身大の音像が出現し、あたかも生の演奏を聴いているようだ。
この再生音を聴いた情家さんも、「今でもよく歌ったなと、収録を思い出してちょっとドキドキしますね。最初はベースソロで歌う予定はなかったんですけど、前の日に決まったんです。当初はテンポももうちょっとゆっくりだったはずなんですけど、だんだんスピードが上がっていったんですよ。まさにクリックを使っていない証拠です」と収録時の盛り上がりがうかがえるエピソードを話していた。
エソテリックK-03XD SEのデジタル出力を、メリディアンのULTRA DACに入力してMQACDを再生した
ここで麻倉さんが登場し、収録時の様子を画像を交えて解説してくれた。「UAレコードの規範というのは、まずレコーディングスタジオを最高のものにします、レコーディングエンジニアも世界最高にしますということです。さらこここからが大事な点で、生成りの素直な音を得るためにワンテイク録音で、イコライジングもオーバーダビングしません。というわけで、情家さんたちは嫌がっていましたが、演奏家をともかくギリギリまで追い込んで、最高のものを作ってもらっています。じゃないと、それが一生残るわけですからね」と、プロデューサーの立場からの見解も示された。
また「ラバー・カムバック・トゥ・ミー」は3テイク収録したそうで、今回はそれぞれの違いを体験してもらおうと、3バージョンのラフミックスが再生された。このラフミックスはCDクォリティとのことだったが、それでもS/Nのいい情報量の多い音が聴けた。テイク1〜3の違いは音質というよりも、演奏と情家さんのテンポ感、ノリのよさといったところにあるようにも感じられる。
ピエガのトールボーイスピーカー、Premium701とANSUZのスピーカーケーブルを使用
麻倉さんは、「やっぱりテイク3が一番いいですよね。情家さんの声も一番かわいいし、演奏とも馴染んでいる」と、本番用にテイク3を選んだ理由を紹介していた。
さらに、「今回のMQACDは、技術を開発したボブ・スチュワートさん自身にエンコード作業をしてもらいました。ひと言で言うと、時間軸の変動を少なくして、音をよりクリアーに聴かせてくれるものです。さらにハイレゾ成分を44.1kHz/16ビットデータの中に記録していますので、対応DACをつかってもらえれば176.4kHz/24ビットで楽しんでいただけます」(麻倉さん)とメディアに対する深いこだわりも披露してくれている。
さらにトラック3の「ホワット・ザ・ワールド・ニード・イズ・ラブ」やトラック4「オーバー・ザ・レインボウ」も再生された。「オーバー・ザ・レインボウ」については情家さんも、「世界的に有名な曲で、下手をこいたらたいへんなので、相当気を使いました。バラードで長い曲だし、ルパート(テンポを揺らすこと)から始まるので、もうドキドキしながら歌ってました」と歌い手ならではの難しさも話していた。
イベントには、熱心なオーディオファン、情家ファンが詰めかけていた
コーヒーブレイクを挟んで、後半パートは『エトレーヌ』のLPレコード試聴からスタートした。なおこのLPはアナログテープで録音、ミックス作業もフルアナログ工程で仕上げたとのことだ。
A面から「ユー・ドント・ノウ・ミー」、B面は「キャラバン」を選んで再生。「キャラバン」についてはそれまで情家さんがライブでもほとんど歌ったことがなかったのに、潮さんからの無茶ぶり(?)で歌う羽目になったことが語られた。「録音すると決まってから、1〜2回ライブで歌っただけでしたから、もちろん今の方が上手いですよ(笑)。本当は歌う曲については1年前に教えて欲しいんです」と、ごくごくまっとうな要望も飛び出していた。
続いて機材の選択理由が紹介された。会場にはメリディアンの輸入代理店であるハイレスミュージックの鈴木秀一郎氏も駆けつけて、「今日はこういう機会をいただきましてありがとうございました。部屋に入ってきた瞬間に本当に素晴らしい音で鳴っていて、驚きました。MQAやMQACDも、音を聞いていただくとお分かりの通り、魅力のある音源のひとつになると思いますので、どんどん楽しんでいければと思ってます」と感想を話していた。
ハイレスミュージックの鈴木秀一郎氏(左)とフューレンコーディネートの北村浩志氏(右)
またスピーカーを準備してくれたフューレンコーディネートの北村浩志氏も登壇し、「ピエガのスピーカーは来年で創業40年になります。今日お聴きいただいたのはPremiumシリーズのトップモデルで、最近のラインナップとしては評論家さんからも高い評価をいただいています」と試聴モデルについて紹介してくれた。
「ピエガの特徴はリボンツイーターにあって、中高域がすごく綺麗なんです。最近のモデルでは低音もそれにふさわしいバランスになってきています。決してお手軽な価格ではないけれど、頑張って手に入れられるモデルとして、ぜひ皆さんに音を聴いてもらいたいと思って選びました」と潮さんも太鼓判を押していた。
ここからCD『ボヌール』の再生に戻り、情家さんのリクエストで「ラブ・イズ・メニー・スプレンディド・シング」を再生。1955年の映画『慕情』のテーマ曲で、「これも超有名な曲で、すごくシンプルだけに難しい、ごまかしがきかない曲なので、素直に歌わせてもらいました」と、情家さんが歌唱のポイントを解説してくれた。
イベント後にはCDやLPの即売会も開催され、情家さんを始めとする登壇者3人がサインをしていた
再生後には自然と拍手が起こり、「CDを聴いている感じは全然なくて、メディアじゃなくて生の歌を聴いてるような気分になりますね。やはりMQAのよさというのもありますね」と麻倉さんも感想を話していた。
さらに「アルフィー」「イット・ドント・ミーン・ア・シング」も再生し、最後の曲は「アイ・キャン・シー・クリアリー・ナウ」に決定。「これもライブでも歌ったことない曲でした」(情家さん)、「この曲はテイク6ぐらいやったんですが、5回目が1番良かったんです。我々がよく知っている歌い方とも感じが違う、情家みえバージョンを楽しんでください」(麻倉さん)と紹介された。
曲が終わると情家さんが、「なかなか自分の声を、しかもこんなに凄いシステムで聴く機会もなくて、本当に私のそのままの声で聴こえることに驚きました。皆さんがどの曲を好きになってくれるか、ひとつでも好きになってくれる曲があれば嬉しいと思います」と話してイベントは終了となった。
『ボヌール』には10曲収録されているが、そのうち8曲を聴けるという贅沢な内容で、そのインパクトもあってか、イベント後に行われたCD&LP即売会ではほとんどの参加者がディスクを手に販売の列に並んでいた。 (取材・文・撮影:泉 哲也)
KEF Music Gallery TOKYOでも “凄い音” が聴けました!
今回のKEF Music Gallery TOKYOの試聴システム。メインスピーカーは「Blade Two Meta」
CD再生には、メリディアンの「808 Signature Reference CD Player」を使用
表参道のKEF Music Gallery TOKYOでも、各社プレスを招いてCD『ボヌール』試聴会が開催された。3Fオーディオルームには、メリディアンのMQAデコード機能を搭載したCDプレーヤー「808 Signature Reference CD Player」が持ち込まれ、このアナログ出力をマッキントッシュのプリメインアンプ「MA5200」に入力、KEFのフラッグシップスピーカー「Blade Two Meta」をドライブしていた。
ホーム商会での試聴会同様に、見通しの良いクリーンなサウンドで情家さんの声が再現され、ピアノやドラム、ベースそれぞれの定位もきわめて明瞭だ。Blade Two Metaらしい優れた情報再現力で、『ボヌール』の魅力が十全に引き出されていた。