ネットワークオーディオ愛好家の間で大注目なのが、EVERSOLO(エバーソロ)のミュージックストリーマー製品だ。Qobuz、Amazon Music、Apple Music、Spotifyといった各種ストリーミングサービスの再生が可能で、しかもハイレゾ音源をビットパーフェクトで出力できる、他の製品にはないスペックを備えている。USB DACやプリアンプ機能も備えているので、様々な使い方も可能だ。
それに加えてフラッグシップモデルの「DMP-A10」には、測定用マイク「EM-01」が付属しており、これを使って試聴環境を分析・補正するデジタルルームコレクション(音場補正)も可能だ。近年のAVアンプにはオートセットアップ機能が搭載されているが、2ch用オーディオの世界ではこういった機能を搭載しているアンプは少ない。しかしDMP-A10のデジタルルームコレクションを使えば、自宅オーディオルームに合わせた環境でステレオ音声を楽しめる可能性もあるわけだ。
付属マイクの「EM-01」(単品販売時の価格は¥22,000、税込)。マイクとDMP-A10を、同梱のUSBケーブルでつないでアプリを立ち上げるだけで測定ができる。測定用のマイク補正ファイルは箱の側面についているQRコードからダウンロード可能
僕も自宅で映画ソフトを楽しむ場合はAVアンプ、ヤマハ「CX-A5200」の音場補正を使っているが、2ch再生ではピュアダイレクトモード(音場補正はオフ)を選ぶことが多く、部屋の影響がどうなっているのか気になっていたのは事実。そこでDMP-A10を借用し、2ch再生時のルームチューニングを試してみた。
今回はDMP−A10のバランス出力をAVアンプのヤマハ「CX-A5200」につなぎ、パワーアンプのリン「KLIMAX CHAKRA TWIN」でスピーカーの「AKURATE 242SE」をドライブする。CX-A5200は上記の通りピュアダイレクトにセット。
エバーソロの輸入元であるブライトーンの福林羊一さんに手順を教えてもらいながら測定を試してみる。その大まかな流れは以下の通り。
1)DMP-A10を自宅ネットワーク環境につなぎ、音楽を試聴できる状態にセット。
マイクをDMP-A10にUSBケーブルでつないだところ。なお、市販のUSBマイクやスマホでも測定は可能とか
2)マイクの「EM-01」を付属USBケーブルでDMP-A10につなぎ、マイクの箱に書かれているQRコードを読み込んで、エバーソロのサイトにアクセスする。サイトに準備されている2種類(HORIZONTAL/VERTICAL)のマイク補正ファイルをダウンロードして、ネットワーク経由でDMP-A10の内蔵ストレージにコピー(自分でわかりやすい場所を選ぶ)。
マイク補正ファイルのダウンロードサイト。付属マイクごとに測定に適したデータが準備されている。Horizontal/Verticalの区別ができるように、ダウンロード後に自分で名前を付けておくこと
3)操作アプリ「EversoloControl」を立ち上げ、左下の項目から「DSP」を選ぶ。続いてページ右上にある「+」をクリックして、新しい設定項目を作る(今回は『TEST1』)。
「EversoloControl」アプリの左サイドメニューから「DSP」を選んだところ。ここで画面右上の「+」を押して新しい設定項目を作る
4)『TEST1』をクリックし、「ルームレコクション」を選ぶと測定手順が表示されるので、指示に従って作業を進める。マイクは「EVERSOLO EM-01」、マイク補正ファイルはDMP-A10に保存したデータを、マイクの置き方に応じて選べばいい。
設定項目メニューで「ルームレコクション」を選ぶとこちらの画面が表示される
付属マイクを使う場合、マイク補正ファイルでダウンロードしたデータを指定する。マイクをスピーカーに向けて設置するか(Horizontal)、縦に配置して部屋全体の音を拾うか(Vertical)に応じてデータを選ぶ
今回はマイクを三脚に、Horizontalの状態で固定している
5)メニュー画面から「音量テスト」を行い、その後測定に入る。正確を期すために測定メニュー下にある「L/Rの同時測定」はオフがお勧め。
測定開始の前に、テストトーンのレベルが許容範囲(レベルメーターの赤いアンダーバーのあるエリア)に収まっているかを確認
実際の測定は片方20秒ほど、合計でも1分かからずに終了する
6)測定が終わったら、「デザイン」→「コンフィグレーションに適用」を押すと、測定結果がDMP-A10に反映される。ここでメニュー下側の「エクスポート」を選べば補正内容を本体ストレージに保存可能で、後からこれを元に別の補正データを編集できる。
測定が終わったら、この画面で「デザイン」を押すと補正内容の設定に進む。測定中にノイズなどが入ったら迷わず測定をやり直しましょう
測定結果と補正内容もグラフィックに表示してくれる。ここで「コンフィグレーション適用」を押せば補正内容が設定項目に反映される仕組みだ。「エクスポート」で補正の内容をDMP-A10のメモリーに保存も可能
以上でデジタルルームコレクションの測定は終了。測定自体は1分ほどで、マイク設置を含めても20分あれば完了する。なおDMP-A10では、「本体プレーヤー」「USB-B入力」といった入力ごとに、補正結果を反映するかを選べる。「DSP」メニューから入力の種類を選び、「Config」から測定内容(今回は『TEST1』)を指定して、オンにするだけなので、補正効果のオン/オフの違いも簡単に確認できる。
測定終了後に、ストリーミングサービスQobuzで補正オン/オフを聴き比べてみる(AVアンプは『ピュアダイレクト』)。補正オフの状態でイーグルス「ホテル・カリフォルニア」、ジェニファー・ウォーンズ「フェイマス・ブルー・レインコート」(どちらも44.1kHz/16ビット/FLAC)、KISS「ブラック・ダイヤモンド」(192kHz/24ビット/FLAC)などをチェック。
補正オフの状態でも、見通しがいいサウンドが再生されている(はず)。ドン・ヘンリーやピーター・クリスの太い男声、ジェニファー・ウォーンズの抜けるようなヴォーカルも自然で、自分好みのバランスになっていると思った次第。
わが家の測定結果。上が左スピーカーで、下が右スピーカーのもの。どちらも中〜高域は同じような特性だが、左スピーカーでは60〜100Hz近辺に盛り上がりが見える
個人的にはこの音に不満はなかったんだけど、補正をオンにすると、「ホテル・カリフォルニア」や「ブラック・ダイヤモンド」でドラムの定位がより明確になり、より深い位置から響いてくるように変化した。スネアもにじみが減っていっそう綺麗に再現されているし、ヴォーカルもクリアネスが上がってきた気がする。
DMP-A10の測定結果は、アプリ上で確認できる。わが家の測定結果を呼び出してみると、左チャンネルの70Hzと100Hz近辺に音のふくらみがあるようで、補正を入れるとここがフラットになっている。これは左スピーカーを部屋のコーナーに置いているのが原因と思われ、それによって低域の定位や音の被りが発生していたようだ。
ただ、補正をオンにした状態では音圧が下がったように感じる。ブライトーン福林さんによると、補正の「目標ゲイン」が初期状態で低めに設定されているため、こういった結果になることも多いそうだ。
「フィルター設定」メニュー右上のアイコンを押すと、詳細な設定も行える。補正オンの際に音量が小さくなると感じたら、ここで測定時の「目標ゲイン」を調整する
補正オン時の音量を上げたい場合は一度測定を行い、「コンフィグレーションに適用」のボタンを押す前に、画面右上のメニューアイコンから「フィルター設定」を呼び出し、「目標ゲイン」を上げて、測定をやり直す。試しに-10dBにセットして測定し直すと、音量低下が抑えられた。ここについては数回測定を行い、自分の好みに合う「目標ゲイン」の値を探していただきたい。
測定をやりなおした状態で、Qobuzの楽曲やSSDに保存したCDリッピングの「ルパン三世のテーマ」、DSD11.2MHzの「ホルスト/惑星」を聴くと、やはり低域がこれまでよりクリアーで、音場のバランスも整ってきたように感じる。配信コンテンツを聴くことが増えてきた昨今、ミュージックストリーマーがデジタルルームコレクション機能を備えているのはとてもありがたいし、この効果であればびっくりする方も多いはず。
弟機の「DMP-A8」も、ファームウェアアップデートでデジタルルームコレクション機能に対応した。測定用マイクは別売だが、スマホで代用できるので、DMP-A8ユーザーは、まずは測定効果を確認していただきたい
なおDMP-A10の弟機「DMP-A8」もファームウェアアップデート(v1.4.01)でデジタルルームコレクションに対応しているし、新製品の「PLAY」と「PLAY CD Edition」でも本機能が使用可能。マイクの「EM-01」(¥22,000、税込)は別売だが、福林さんによると市販のUSBマイクやスマホも使えるという。
試しにDMP-A10にiPhone16をつないでみたところ、ちゃんと認識されて、測定もできた。ただ低域の集音能力は付属マイクの方が上で、やや粗めの測定結果になっている。DMP-A8やPLAY、PLAY CD Editionのユーザーは、まずスマホなどでデジタルルームコレクションを試して、結果が気に入ったら別売マイクの購入を検討してみてはいかがでしょう。この機能、使わないのは勿体ないですよ。(取材・文・撮影:泉哲也)
「PLAY」「PLAY CD Edition」での測定方法はこちら
「PLAY」「PLAY CD Edition」のアプリ画面には「DSP」の設定は準備されていないので、アプリの「EQ」画面、または本体画面のアイコンからルームコレクションを起動できるそうです