アユートは、Astell&Kern(アステル&ケルン)の最新フラッグシップDAP「A&ultima SP4000」の体験会を開催した。「A&ultima SP3000」の後継機で、内部回路をリニューアルしてさらなる高音質を目指したモデルとなっている。価格は未定だが、69万3000円前後になる見込みとのこと。発売は7月12日を予定している。
本体デザインはSP3000を踏襲。スクリーンサイズは6インチになり、操作性が改善された
本体にはSP3000同様にStainless Steel 904Lを採用。Stainless Steel 904Lは一般的なステンレスよりも硬く、加工が難しい素材という。しかし、優れた耐久性と耐食性を持っていることから高級時計などに使われている。SP4000は日常使いされるアイテムでもあるので、こういった配慮は嬉しいだろう。本体カラーはシルバーとブラックが準備される。
デザインはSP3000と共通だが、本体サイズはW85×H149.8×D19.5mmとSP3000から幅2.6mm、高さ10.4mm、奥行1.2mm大きくなり、重さは約615gと約122gアップしている。これに合わせてタッチスクリーンは6インチ/1080×2160画素(SP3000は5.46インチ/1080×1920画素)に変更された。
サンプリングレートはPCMが最大768kHz/32ビット、DSD 512(DSD 22.4MHz)にも対応。フォーマットもWAV、FLAC、WMA、MP3、OGG、APE、AAC、ALAC、AIFF、DFF、DSFと多様な再生が可能だ。
ヘッドホン出力は4.4mmバランスと3.5mmアンバランスを搭載
DACチップには、AKM(旭化成エレクトロニクス)のAK4191EQとAK4499EXをどちらも4基搭載したReal Quad DAC構成を搭載。SP3000ではAK4191EQ×2とAK4499EX×4という構成だったので、ここが一番の進化点と言ってもいいだろう。
通常のDAPやオーディオプレーヤーでは、DACチップの内部でデジタル/アナログ信号を処理している。しかしアステル&ケルン、AKMと「HEXAオーディオ回路構造」を共同開発、SP3000に搭載した。
これは入力信号に対してデジタル・デルタシグマ・モジュレーターの「AK4191EQ」でデジタルノイズを分離、その後DACチップの「AK4499EX」でアナログ変換するというもので、デジタル信号処理とアナログ信号処理を完全に分けることで圧倒的なS/Nを実現できるという。上記の通りSP3000ではAK4191EQを2基、AK4499EXを4基使った回路構成だったが、SP4000ではAK4191EQとAK4499EXをそれぞれ4ペアとすることで、さらに高品質なD/A変換を実現している。
充電とデータ転送用にはUSB Type-Cコネクターを使用。その右はMicro USBスロット
またSP4000ではオペアンプの数を増やし(SP3000の2倍)、DACチップからの出力を並列処理できるようになった。その結果、再生時に出力レベルを上げてもノイズが増えることがなく、クリーンなサウンドを楽しむことができるようになっている。
ただし、オペアンプをすべて使った場合、どうしても消費電力が増えてしまうので、バッテリー持続時間は短くなるそうだ。そこでオペアンプをすべて使う場合とSP3000と同じ処理を行うふたつのモードが準備された。これは「High driving mode」のオン/オフで切り替え可能だ。
入力信号に対してアップサンプリング処理を行うDAR(デジタルオーディオリマスター)機能も継承される。PCMとDSDのどちらに変換するかが選択でき、最大PCM384kHz/DSD256のアップサウンプリングに対応している。このDAR機能もオン/オフ可能だ。
出力端子は3.5mm 3極アンバランス(光デジタル出力と兼用)と4.4mm 5極バランスを搭載。2.5mmバランス出力は省略された。なお、アンバランス・バランス完全独立回路はSP3000から踏襲されている。
SP4000の豪華パッケージ
SP4000と、13mm平面ドライバーを搭載したイヤホン「LUNA」の組み合わせで音を体験した。4.4mmバランス接続で、ハイレゾ音源のクラシックや男性ヴォーカルを再生すると、どちらもひじょうにクリアーで情報量の多いサウンドが楽しめた。コンサートホールの空気が澄んでいて、オーケストラの楽器ひとつひとつまでしっかり聴き取れる。ハイレゾファイルを楽しんでいることを納得できるクォリティだろう。
High driving modeをオンにして、音の違いも確認した。上記のようにオフでも充分高音質だったが、オンにすると音がいっそうパワフルになって、低音の安定感も増してくる。音場もわずかながら広くなったように感じられ、力強くて繊細な音を聴ける。お気に入りの楽曲はHigh driving mode/オンがオススメだ。
SP3000は音の明瞭さ、ディテイル再現の細やかさを備えたハイエンドDAPとして人気を集めた。SP4000はその進化版として、多くのポータブルファンの気になる存在になりそうだ。なおSP4000は今週末に開催される「夏のヘッドホン祭mini 2025」で展示、試聴も予定されている。
アステル&ケルンと64 AUDIOのコラボレーションモデル「XIO」
なお今回の体験会では、アステル&ケルンと64 AUDIOのコラボレーションによるプレミアムIEM「XIO」も展示されていた。こちらは10ドライバーを搭載したハイエンドイヤホンで、価格は60万円前後、8月頃の発売を予定している。
ユニット構成は低域が2DDドライバー、中域はBAドライバーを6基、中高域もBAドライバー1基、超高域には64 AUDIOの独自技術を採用したtia(tubeless In-ear Audio)オープン型BAドライバーを搭載する。
また、イヤホン本体の構造を工夫し、鼓膜にかかる空気圧を外に逃がすことで耳の疲労感を抑えるapex(Air Pressure Exchanged Technology)テクノロジーも採用、4種類の付属交換モジュールを好みに応じて使い分けられるという。
SP4000とXIOをバランス接続して音を聴いてみた(High driving mode/オン)。先程のLUNAとの組み合わせから、さらに実体感、音圧感が上がっている。クラシックもステージ感がさらに増して、会場の雰囲気がより楽しめるし、男性ヴォーカルは軽やかなのに、生々しさも感じ取れる。この組み合わせを手に入れたいと思うハイレゾファンは(きっと)多いだろうと感じた次第だ。