①「J.S.バッハ:平均律クラヴィーア曲集 第2巻 プレリュード/Aaron Pilsan(pf)」 48kHz/24ビット
②「フランツ・ワックスマン:カルメン幻想曲/HIMARI(vn)」 96kHz/24ビット
③「ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲 第1楽章/Nicola Benedetti(vn)」 96kHz/24ビット
④「マーラー:交響曲第5番 第1楽章/パーヴォ・ヤルヴィ指揮チューリッヒ・トーンハレ管弦楽団」 96kHz/24ビット
⑤「スティーブ・ライヒ:拍手の音楽/ルス・ハルテンベルガー、スティーブ・ライヒ」 44.1kHz/16ビット
⑥「ルック・アット・ザ・ステート・オブ・ミー・ナウ/Maya Delilah」 96kHz/24ビット
⑦「My Centennial/挾間美帆」 48kHz/24ビット
⑧「Yes! Ramen!!/Hiromi」 96kHz/24ビット
⑨「ローラ・ニーロの薔薇/Elton John」 96kHz/24ビット
⑩「サムデイ(The Circle Tour Final 日本武道館ライブ 1994.4.24)/佐野元春」 44.1kHz/16ビット
今回紹介する10曲のプレイリストはこちら> https://open.qobuz.com/playlist/31854840
①「平均律」と言いながら、1オクターブの完全12等分調律ではなく、その調に最も合うように不等調律されたピアノを弾く。響きが実にピュアだ。左右に大きく拡がった音像はまるでピアノの中に頭を突っ込んで聴いているよう。響きを伴なう音場は三角形頂点の聴き手のところまで、鋭く浸透。音場の中をバッハが縦横に疾走する。鮮烈さは演奏も、録音も。ワイドレンジで、低音が雄大かつ弾力的。高域も尖鋭。ポリフォニーが躍動する。
②超話題の少女ヴァイオリニストHIMARI。序奏から度肝を抜く。高域のシャープな伸びと低音の量感との対比が快感的。技巧の確かさ、意志の勁さ、感情移入の大きさは群を抜く。音像的にはヴァイオリンが中央に屹立し、ピアノは左右に大胆に展開。細部まで切れ込みが鋭く、音の体積が大きい。
③イギリスのスターヴァイオリニスト、ニコラ・ベネデッティと若手のニコラス・コロン指揮オーロラ管弦楽団の共演。素晴らしくソノリティが豊かだ。冒頭、右奥からのティンパニに中央の木管が鮮やかに応え、左右の第1、第2ヴァイオリンのステレオ分離が鮮やか。ベネデッティのヴァイオリンはキレ味が鋭く、抱擁力に富み、躍動感に溢れる。強弱のコントラストを明確に付与し、進行力が勁い。音質は細部まで気配りが行き届き、ピリオドスタイルの鮮明な演奏を、くっきりと浮かび上がらせている。ホールトーンは豊かだが、ヴァイオリン、オーケストラともに実に明瞭。
④スイス・チューリッヒのトーンハレホールの音響の素晴らしさが、冒頭のトランペットの三連符で、まざまざと分かる。中央右のトランペットの少しくぐもった音が、広くホールに拡散し、左奥のホルンも深い響きを残して消えゆく。トゥッティでは微視的な解像ではなく、包容感に溢れた深い響き。まさに芳醇サウンド。楽器までの距離が分かるほどの豊潤な奥行感だ。左の第1ヴァイオリンの響きの透徹した、しなやかな輝きは特筆。マーラーを巨視的に捉えた新解釈だ。
⑤は『Steve Reich Collected Works』からの代表曲(1987年ニューヨークRCAスタジオで録音)。一方の演奏者は、12/8拍子の基本的なリズムを手拍子で刻み、もう片方は同じパターンを8小節ごとに8分音符1つ分だけ前にずれて叩く。このリズムの齟齬が音響的なにじみを生む。左右の拍手の音色と、アクセント位置が異なるから、音のモアレが鮮烈。音質も素晴らしい。完全に左右に分かれた二人の拍手音はリスナーの聴取位置まで、さらに後ろにまでせり出してくる。まるでサラウンドだ。さすがノンサッチ。
⑥ロンドンのギタリスト、シンガーソングライターのマヤ・デライラのデビュー・アルバム『The Long Way Round』からのシングルカット。自身の今の感情を素直に表現した等身大の作品。フィンガー・ピッキングの繊細なギターから生じる擦れがラブリーだ。オンマイクなウィスパー・ボイスが、耳許で囁いている。冒頭のソロ歌唱からダブルトラックに、コーラスが加わり、さらに楽器が増え、音場が厚くなっていく息の長いクレッシェンド。センターフォーカスした声の音像を左右に拡がるバンドが支える構図がダイナミック。
⑦狭間美帆率いるDanish Radio Big BandとDR放送交響楽団の合同演奏。16ビートリズムに乗って、ストリングスが悠々たる大河的な旋律をレガートに紡ぐ。まるで、フランスの映画音楽のようにおしゃれ。両翼に拡がるビッグバンド、センターのサックスのソロ、小刻みなパーカッション……などが織りなす快適な音進行は、まさに最先端のイージーリスニングだ。
⑧上原ひろみの最新作からの1曲。先鋭な旋律とリズムで味わえるラーメン愛。スカのバックビートに乗って刻まれた麺が、煮えたぎった鍋の中で踊る。スタッカートが躍動し、キーボード旋律の中華風味が食欲をそそる。ベースやミュートトランペットの速弾き、上原のハイスピードアルペジオ、シンバルの炸裂、チャルメラ旋律……とまさにラーメンワンダーランド! 鋭敏な音模様が美味しい。
⑨エルトン・ジョンとブランディ・カーライルによるコラボ。ニューヨークの孤高のシンガーソングライター、ローラ・ニーロを歌った佳曲だ。ギターの咆吼、ベースの音階の明瞭さ、コーラスの躍動感、ダブルトラックのヴォーカルの偉容さ……など音数が非常に多く、エネルギーが充満した音像たちが音場空間にひとつの隙間もなく展開している。シンフォニックとも形容したい大スケールだ。
⑩佐野元春の1993〜94年ツアーの最終日、1994年4月24日、日本武道館のライヴ音源。もの凄く、鮮明。キレ味がシャープで、音の進行がスピーディ。ヴォーカルの輪郭が鋭く、寄らば切るぞの勢いだ。ヴォーカル、ドラムス、ベース、キーボード、金管……が実に明瞭。会場の大合唱に歓声も加わり、ライヴの興奮が、クリアーかつ熱く伝わる。
候補として試聴した曲のプレイリストはこちら> https://open.qobuz.com/playlist/31840260
>本記事の掲載は『HiVi 2025年夏号』