ヘッドホンの世界は、今や<スピーカーを用いた、据え置きハイファイオーディオ>同様の再生手法として確かな地位を確立している。コアなマニア達は、耳とドライバー間がわずか数cmとなる、ほぼ密閉されたリスニング空間のなかで、「いかに音楽の深奥へと迫れるか」を探究している。

 とはいえ、隆盛を極めるジャンルゆえに、この市場の競争は熾烈を極めている。そうした攻防の中で、明確な存在感を示し、国際的な地位を築いてきたのが、HIFIMANである。

 

Headphone Amplifier
EF400
¥51,800 税込

●型式:D/Aコンバーター内蔵ヘッドホンアンプ
●接続端子:デジタル音声入力2系統(USB Type B、USB Type C)、ヘッドホン出力4系統(6.35mm標準フォーン、3.5mmミニフォーン、4.4mmバランス、XLR4ピンバランス)、アナログ音声出力2系統(RCA、XLR)
●寸法/質量:W228×H61×D246.5mm/3.08kg

 

Headphone
DEVA Pro
¥36,300 税込

●型式:平面磁界型・開放型ヘッドホン
●使用ユニット:平面磁界型
●インピーダンス:18Ω
●質量:360g
●備考:Bluetooth対応USB-DACアンプBluemini R2R付属(LDAC、aptX-HD、aptX、AAC、SBC対応)

 

Sundara-C
¥31,560 税込

●型式:平面磁界型・密閉型ヘッドホン
●使用ユニット:平面磁界型
●インピーダンス:20Ω
●質量:432g

 

 

 ドクター・ファン・ビアン博士によってアメリカ・ニューヨークで創業され、2007年に自社ブランド「HIFIMAN」を立ち上げ、本格的な製品開発に着手。その後、本社機能を中国・天津、さらに製造拠点を東莞(トンガン)に移し、米国の思想/技術と中国の製造能力を掛け合わせることで、急速に技術力と商品力を高めてきた。

 HIFIMANの最大の強みは、振動膜素材と構造の研究開発力に長けていることにある、「ナノグラフェン・ダイアフラム」や、「ステルスマグネット」といった多くの独自技術を持ち、平面型や静電型などのヘッドホンを実に幅広いレンジで揃え、イヤホン、ヘッドホンアンプ、ポータブルプレーヤーもラインナップしている。

 つまりHIFIMANは、今最も勢いのあるポータブルオーディオブランドのひとつなのだが、今回はそのHIFIMANのエントリークラスに属する2モデル「DEVA Pro」と「Sundara-C」を、同社製のヘッドホンアンプ「EF400」と組み合わせてQobuzを再生した。

 

フラットかつニュートラル。シャープな音調のDEVA Pro

 最初に試したのはDEVA Pro。平面磁界型を採用しながら、3万円台という価格を実現したモデルだ。外観はシンプルだが、搭載されているのはHIFIMAN独自のステルスマグネット構造とネオ・スーパーナノ振動板(Neo Supernano Diaphragm)。マテリアルに妥協はない。加えて、HIFIMANが独自開発したR2R方式DAC「Himalaya DAC」を内蔵するBluetoothアダプターが付属しており、有線/無線両方で使うことができる。まずデラのミュージックライブラリーN1A/3とUSBの有線接続でレディー・ガガの「アブラカダブラ」を聞いた。帯域バランスがフラットで、色付けを排したニュートラルな質感が際立つ。平面型特有の小音量でのリニアリティの高さと、繊細なディテイルで、開放型でありながらも音像の“中心”がしっかりと据わる定位の明瞭さも印象的だ。高域には若干の硬質なタッチが感じられるが、それをシャープな音調に繋がっている。

 シャオミのスマートフォン11T ProとBluetooth(LDAC)接続して聴いたハンス・ジマー「The Rock Suite」では、大太鼓の立体感や壮大な音場の広がりも秀逸、絶対的な音質については、ワイヤード接続にはおよばないものの、ケーブルの煩わしさから解放されるのは見逃せないメリットだろう。

 

高級感漂うSundara-Cのクリアネスの高さに驚かされた

 続いて試したのは、密閉型のSundara-C。こちらも価格は3万円台前半ながら、美しい木目が際立つリアルウッドのハウジングを採用しており、見た目からして高級感が漂う。

 まず何よりもクリアネスの高い音に驚かされた。密閉型とは思えないほど、空間的な見通しがよく、音場の奥行が感じられるのだ。高域から低域まで、音色のトーンが揃っており、木の響きが少し音に転写されたような、密度のある余韻が加わる。

 「恋風/幾田りら」を再生すると冒頭のギターのきらめきとタッチの質感、そしてヴォーカルのセンター定位の明瞭さを両立。サウンドステージも左右に大きく広がるが、その広がりに曖昧さがなく、しかも定位の精度が非常に高く、製品価格を考えると左右ふたつのドライバーの特性が驚異的に揃っているように感じられた。

 ポータブルオーディオの世界は、2000年代初頭のブームを契機に、一気に拡大と多様化を遂げた。無数のブランドやベンチャーが雨後の筍のように登場し、市場は瞬く間に熱気を帯びたが、その裏では激しい淘汰の波も同時に進行していた。結局のところ、「本当に聴かれるべき音」を鳴らすブランド、製品だけが、時代の荒波を生き残ったともいえる。私自身、これまで数多くのヘッドホンと対峙してきたが、HIFIMANの、この2機種のコストパフォーマンスは圧巻で、そのような厳しい競争の先に残ったブランドとしての真価を、改めて実感させるものだった。

 

>本記事の掲載は『HiVi 2025年夏号』