Qobuzを楽しむための最もベーシックな組合せがパソコン+ヘッドホン or アクティブスピーカー
Qobuzを楽しむための最もベーショックなシステムとして考えられるのが、Qobuz純正アプリをインストールしたパソコンと、ヘッドホンもしくはアクティブスピーカーの組合せだ。いずれもパソコンのヘッドホン出力との接続が可能。さらにハイレゾ対応のUSB DAC、あるいはUSB接続可能なアクティブスピーカーであれば、Qobuzの特徴となるハイレゾ音源本来のクォリティを引き出し、楽しむことができる。
そこで今回はデル製Windows PCとMacBook Airの2製品を用意して、スマホ/タブレットでの試聴でも使用したクロスゾーンのヘッドホンCZ-8Aと、家庭用アクティブスピーカーの人気モデル、エアパルスA80の組合せで、Qobuzが配信している楽曲を再生し、そのサウンドを確認していくことにしよう。
ヘッドホン出力端子からの音はMacとWindowsでの差は少ない
こちらのページで述べたようにQobuzではWindows OSとMac OS、それぞれ専用のアプリを用意しており、内容的にもほぼ同一。唯一の違いは、「排他モード」の有無だ。これはローカルの音楽ファイル、音楽配信に関わらず、DACやアンプといったサウンドデバイスを特定のアプリで占有できるというもの。
Qobuz再生時でも、排他モードオンの状態では、他のアプリによるオーディオ出力を処理するサウンドミキサーやオーディオエンジンを経由せずに、Qobuzアプリが再生する音声データを直接オーディオドライバー/オーディオデバイスに出力することが可能。当然、音質的にも有利になる。
パソコンでの高音質再生には非常に重要な役割を果たす機能だが、現段階でQobuz純正アプリとして排他モードが活用できるのは、Windows OS用のみ。ここでは排他モードの音質への影響も含めて、そのパフォーマンスを検証していく。
まずパソコンのヘッドホン出力にCZ-8Aヘッドホンを接続して、それぞれのサウンドを確認してみよう。「Doolin-Dalton/イーグルス」、「From A Distance/ベット・ミドラー」、「ニューイヤーコンサート2025/ムーティ指揮ウィーン・フィル」などの楽曲で、Windowsパソコン(排他モード/オン)とMacBook Airの比較試聴を行なった。
躍動感に富んだ生きのいいサウンドが持ち味のWindows PC に対して、贅肉のない引き締まった音像をくっきりと描き出すMacBook Airという印象で、この状態では意外にも音質差は少なく実力は拮抗している。音の勢い、透明感、空間の拡がり、雄大さではWindows PCがやや優勢。ただ軽快なリズム感で、音の骨格を明確に描き出した「ニューイヤー〜」や、伸びやかで力強いベット・ミドラーの歌声など、MacBook Airのパフォーマンスも決して悪くなかった。
続いて基本的な設定を変えずに、このままアステル&ケルンのスティック型USB DAC、PEE51を加えて、同じ曲を聴き比べてみよう。独特の厚み、奥行を感じさせるベット・ミドラーの声の質感や、寂しげで、一体感のあるイーグルスのコーラスの響きなど、総じてWindows PCの方が好ましい。
「ニューイヤー~」の再生ではWindows PCは管弦楽の複雑な響きが立体的な空間を構築し、その質感も細やか。楽友協会大ホールの気配、空気感まで伝わってくるような生々しい音場空間が体感できた。試しに排他モード/オフも確認したが、目の前に拡がる音場がひと回り小さくなり、響きの躍動も抑えられるなど、情報量の欠落は明らかだった。
MacBook Airはバランスのとれた聴きやすいサウンドだが、響き、ニュアンスの表現が淡白で、あっさりした印象だ。音離れの良さ、空間の立体的な拡がりも含めて、総合的な表現力は、やはり排他モードが有効となるWindows PCの方が優勢だった。
Windows PCのQobuzアプリ画面。画面右下の機器アイコンをクリックすると再生可能なオーディオ出力が表示される。再生能力と再生モードも表示されるのでわかりやすい
Qobuzアプリで、高音質を満喫したいときは、「スペック」を「Hi-Res 24bit / 176.4kHz-192kHz」にしよう。さらにWindows用アプリでは「排他モード」に設定したい。OS内のオーディオエンジンなどを経由せずにQobuzの再生が可能となり、音質的に非常に有利だ
Mac用Qobuzアプリ。画面設計などはWindows用アプリとほとんど同じ
Mac用Qobuzアプリでは「排他モード」が実装されていない。この部分は惜しいところだ。条件を整えて聴き比べるとWindows用Qobuzアプリで「排他モード」をオンした状態とは差が感じられた
ヘッドホン同様にUSB接続ではWindowsアプリが音質面で有利
ではUSB DAC内蔵のアクティブスピーカー、エアパルスA80との組合せで聴いてみよう。A80は、リボン型トゥイーターと11.5cm口径のメタルコーン・ウーファーによる小型2ウェイシステムで、内蔵アンプは専用に開発されたバイアンプ仕様だ。接続端子は2系統のデジタル入力(USB Type Bと光。ともに最高192kHz/24ビットに対応)と、2系統のアナログ・アンバランス入力を備えている。
Windows PCとUSB接続でエアパルスA80に繋ぎ、アプリの設定を行なう。文字が読みづらいかもしれないが、「Wasapi(Exclusive Mode)」の表示となっている。「Exclusive Mode」とは排他モードの意味だ
まずWindows PCで、ヘッドホン再生時と同じ楽曲を再生したが、量感豊かな低音といい、スムーズな響きの拡がりといい、ヘッドホン再生とはまた違うハイレゾの世界が拡がる。「ニューイヤー~」の「ラデツキー行進曲」の再生では、明るく、軽快に力強いリズムが刻まれ、そこに手拍子が重なっても響きが混濁することなく、空間の見通しが晴れやかだ。
MacBook Airとのコンビネーションでは低域の力強さや空間の拡がりはやや控えめながら、刺激を抑えた穏やかな音調で、リズム感も軽やか。クラシック、ジャズ、ヴォーカルと、ジャンルの枠を越えて、長時間、じっくり良質な音楽が楽しめることは確かだ。ただ空間の静けさ、響きの緻密さ、低音の吹き上がりといった部分では、やはり排他モードが使えるWindows PCに分が有る。
チョ・ソンジンの『モーツァルト:ピアノ協奏曲第20番』(96kHz/24ビット)をWindows PCを介して再生。ここでも繊細さと力強さを併せ持った独特の鍵盤のタッチといい、瞬発力に溢れるアタックといい、彼の持ち味をしっかりと捉え、描き出してみせた。雄大、かつ軽やかに躍動するハイレゾサウンドに、すっかり魅せられてしまった。
USBデジタル出力時には排他モードの有無が重要になる
ヘッドホン再生では、Windows PCとMacBook Airのクォリティ差は僅少だったが、そこにUSB DAC(アステル&ケルンPEE 51)が加わると、音場の深さ、スケール、声のニュアンスといった部分で排他モードが使えるWindows PCの音質面の優位性が明らかになった。USB DAC内蔵のアクティブスピーカー、エアパルスA80での再生になると、ダイナミックレンジの余裕、微小信号を描き上げる解像力の違いが鮮明で、Windows PC再生時のサウンドはとにかく聴いていて楽しい。この楽しさこそQobuzの真骨頂。パソコンを使ったQobuz再生は、現時点ではWidows PCでの排他モードなしでは考えづらいというのが今回の試聴取材での結論だ。
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>本記事の掲載は『HiVi 2025年春号』