去る3月14日にTCエンタテインメントから発売されたUHDブルーレイ『パリ、テキサス』は、映画ファンに注目して欲しい一枚だ。新たにドイツで制作された4K/HDR映像マスターを使い、音声はオノ セイゲンさんがリマスターを担当した日本独自の素材が使われている。そこで、本作を愛する山本浩司さんのシアタールームにUHDブルーレイを持ち込み、どれほどの感動を得られるかを体験していただいた。今回のUHDブルーレイの制作協力を務めた山下泰司さんと、発売元のTCエンタテインメント株式会社 事業本部 第1制作部の滝本 龍さんにもお付き合いいただき、様々な角度から徹底検証している。

『パリ、テキサス【4Kレストア版】 4K UHD Blu-ray』¥6,600(税込)

●1984年●西ドイツ・フランス作品●カラー●16:9/ヨーロッパビスタ●本編146分●ディスク仕様:3層●映像圧縮方式:HEVC●HDR方式:ドルビービジョン●音声:リニアPCM 96kHz/24ビット/2ch(英語、スペイン語)、リニアPCM 48kHz/24ビット/5.1ch(英語、スペイン語)、DTS-HD Master Audio/2.0ch(コメンタリー・英語)●字幕:日本語、コメンタリー用日本語※特典:ヴェンダース監督本編コメンタリー、解説リーフレット

山本 ヴィム・ヴェンダース監督『パリ、テキサス』のUHDブルーレイが発売されました。僕も大好きな作品で、以前「ヴィム・ヴェンダースBlu-ray Box」が発売された時に、音声のリマスターを担当したオノ セイゲンさんと一緒にわが家で視聴会を開いたこともありました(関連リンク参照)。

 今回は本ディスクを作るにあたって制作に協力された山下泰司さんと、TCエンタテインメントの滝本 龍さんにわが家においでいただき、UHDブルーレイの完成度を検証したいと思います。

 まず、今回このタイミングで『パリ、テキサス』がUHDブルーレイ化された理由は何だったんでしょう?

滝本 4Kマスターが入手できたことが大きいですね。もともと本作はヴェンダース監督作品の中でも人気が高く、ブルーレイの販売枚数も飛び抜けています。それもあって、UHDブルーレイの高画質で観てみたいというファンの方も多いんじゃないかと考えました。

 同時にブルーレイをお持ちの方も多くいらっしゃるだろうということで、特典ディスクなどは同梱しておらず、本編を楽しんでいただく仕様になっています。

山下 『パリ、テキサス』のUHDブルーレイは、イギリスやアメリカで先行して発売されています。大元の4Kのデータは同じはずですが、盤にする際の圧縮作業=エンコードはそれぞれの国のオーサリング・スタジオで行なっている。今回、日本盤はヴェンダースのお膝元のドイツ盤と同じエンコード・データを共用しています。

山本 リーフレットを見ると、2014 年にオリジナルネガから 4Kでデジタイズしたと書かれています。

山下 既にブルーレイでリリースされている2K修復版が作られた時に、フィルムスキャン自体は4Kで行われていたんですね。その当時は4Kスキャンデータを2Kにダウンコンバートして、2Kでレストア、2Kでグレーディングしたものが使われていました。今回のUHDブルーレイでは、同じ4Kのスキャンデータを使って、改めてドイツで4Kレストア、4K/HDRグレーディングが行なわれています。

滝本 余談ですが、今回のUHDブルーレイでは1ヵ所、映像の内容に修正が加えられています。トラヴィス(ハリー・ディーン・スタントン)が、ジェーン(ナスターシャ・キンスキー)が働いている店に到着した時に、建物の右側の窓に撮影スタッフらしき人影が映り込んでいたんです。2Kブルーレイではなんとなくわかるんですが、UHDブルーレイでは、窓が黒く潰されて人影も消されています。

山本 ということは、今回の4Kレストアの際に修正したということだよね。

滝本 そうだと思います。ヴェンダース監督も前から気がついていたのでしょうけれど、4Kの解像度や大画面で見られることを考えると、さすがに気になったのではないでしょうか。UHDブルーレイを買った方は、以前のブルーレイや配信の2Kと見比べてみてください。

山本 音声マスターは、2022年に発売された「ヴィム・ヴェンダースBlu-ray Box」でオノ セイゲンさんがレストアしたデータが使われていると。

山下 基本的にはそうなんですが、今回のUHDブルーレイとブルーレイでは映像マスターのフレームレートが違っていたんです。UHDブルーレイの4K映像は24fですが、ブルーレイの時は23.98fだったんです。

山本 すごく微妙な違いですね。

山下 そうなんですが、音をフレームレートに合わせて調整しないと画とずれてしまいます。先程申し上げた通り、今回は映像マスター(エンコードデータ)をドイツで制作していますが、その時点では音が入ってないわけです。それもあり、映像マスターと音声マスターを合わせてみて、初めてズレがあることが分かったんです。

山本 でも、なぜ23.98fと24fの2種類のフレームレートが存在するんだろう?

山下 23.98fはもともとSD時代の放送やビデオの記録方式NTSCのフレームレートとの互換性を確保するためのレートでした。DVDの時にも映画フィルムのフレームレートと同じ「24p収録」という言葉を使っていましたが、実は23.98fで記録されていたんです。ブルーレイになってから本当の24fが記録できるようになりましたが、23.98fpsで収録されているブルーレイも多々あります。

山本 ということは、ブルーレイは23.98fのマスターを使っていて、今回のUHDブルーレイは24fマスターになったというわけだ。その0.02fの差を埋めるために音を伸ばさなきゃいけないと。

“『パリ、テキサス』のUHDブルーレイをこの空間で確認してみたかったんです”
山下さんも気になっていた、山本さんのシアタールーム

山本邸のUHDブルーレイ再生環境。プレーヤー用パナソニック「DMR-ZR1」を使い、音声はデノン「AVC-A1」に入力している

山本邸はドルビーアトモスの再生にも対応しているが、今回は5.1chのリニアPCM信号をセンターレスの6.1chで再生した

山下 音声データをストレッチする、伸ばすという変換作業はコンピュータにお任せで出来るんですが、音のピッチは微妙に下る。セイゲンさんには全体の尺を調整してもらいつつ、ピッチも元と変わらないように修正してもらいました。

 なんですが、その出来上がったマスターの仕上がりをチェックに行ったら、登場人物の口とセリフの音のリップシンクが合わないところがあったんです。最初は、単純に画と音をあわせたデータができたと聞いて、「じゃあちょっと見せてください」ぐらいのつもりで確認に出かけたんですが、2箇所ほどずれてるシークエンスがあった。ほんの1〜2フレームですけど、リップシンクって完全に合ってないと確実に違和感が出るんですよ。それで、これは全体をもう一回ちゃんとチェックした方がいいということになった。

 なんでそんなことになったかって言うと、今回は既にエンコードされた映像データをドイツから送ってもらったんで、そこには音声データが入ってないんですよ。ディスクには映像のデータと音声のデータは別々に入ってますからね。なので、到着した映像のデータにはガイドとなる音が一切ついてなかったわけです。結局、実際に映像と音を合わせて流してみないとちゃんと合っているかどうかが分からない。通常は映像と音が完全にシンクロしたMOVデータなんかをもらって日本でエンコードするので、こういう心配はしなくていいんですが。

山本 確かにフレームレートが違っていたら、ズレは出てくるよね。

山下 そのズレの存在を指摘したら、結局セイゲンさんのところで全尺、カットごとに画と音が合っているかをチェック、ズレていれば修正、ということになってしまったんです(笑)。

山本 遠景だとわからないけど、後半の会話シーンだとかなり気になるでしょうね。でもよかったね、山下さんが気が付かなかったらリップシンクがずれたままで発売される可能性もあったわけだ。

山下 そうですね、よかったです。セイゲンさんは、音質優先でSEQUOIA(音楽マスタリング専用のDAW)で作業してるのですが、それでもほんの少しでも音質が劣化する可能性があるタイムストレッチは一切使わずに、全尺カットごとに音を貼り直していました。最後のひと手間ということで、ライ・クーダーのギターが流れているシーンには、もう1回手を入れたとおっしゃっていました。

滝本 UHDブルーレイも、前回のブルーレイ同様にセイゲンさんが仕上げてくれた音を最良の状態で収めたいと思い、96kHz/24ビットの2chと48kHz/24ビットの5.1chをリニアPCMで収録しています。

山本 圧縮は許さん、と(笑)。ということは、ビットレートもかなり必要だったでしょう?

滝本 もともと本編も146分ありますから、UHDブルーレイでは3層100Gバイトディスクを使っています。

山本 ところで、『パリ、テキサス』って劇場公開時はステレオでしたっけ?

山下 いえ、当時はモノーラルでした。ドルビーステレオですらない普通の光学録音。2000年代に入ってからステレオや5.1ch音声が制作されたはずですが、疑似ステレオではないので、元々のセリフや効果音、音楽の素材が別々に残っていて、リミックスされたんじゃないでしょうか。

山本 なるほど。ではそろそろUHDブルーレイの実力拝見といきましょう。今日はパナソニック「DMR-ZR1」で再生して、ビクター「DLA-V9R」の110インチ映像で投写します。音はデノン「AVC-A1」のストレート再生にセットしています。

山下 このディスクを作りながら、山本邸のシステムで見たらどうなるのか考えていたんです。それが叶うのは嬉しいなぁ。

山本 へへへ。音は2chと5.1chどっちがいい?

山下 5.1chも印象が良かったですよ。スペック的には2chがいいんですが、映画としての迫力が出るし、ライ・クーダーの低音なんかも深みが出てます。

山本 じゃあ5.1ch音声にしましょう。おぉ、タイトル文字の赤色がいいねぇ。

山下 オープニングの荒野にこんなに奥行きがあったとは、驚きです。トラヴィスの手や足の動きまでわかるんだから凄い解像度! あまりにも見えすぎるんで、手前のキャラじゃなくて遠景を見てしまう(笑)。

山本 空や岩肌のグレイン(フィルムの粒子)感もいいじゃないですか。4Kになるとグレインノイズが細かくなって、画面全体の抜け感も向上する。この映像を見ていると、“これぞテキサス” って気がします。行ったことないけど(笑)。

スクリーン映像に見入る3名。ナスターシャ・キンスキーのアップでは全員から思わずため息が

滝本 ウォルト(ディーン・ストックウェル)がトラヴィスを見つけて声をかけるシーンで、背景に小さな鳥が飛んでいるんですが、それもちゃんとわかります。レストア作業で消しそびれたパラノイズかと思ったら、鳥だった(笑)。あれは驚きました。

山下 この作品は、基本的にロケーション撮影で、最後の覗き部屋の中だけセットらしいんですけど、それにしては天気といい、列車が通り過ぎるタイミングといい、すごく整ったカットが多いですね。

滝本 チャプター4の踏切シーンは、貨物列車が1日1本しか通らないので、ワンチャンスで撮影したようです。最初の10分を見ただけでも、ルックも映像編集も素晴らしいですね。やっぱり巨匠が撮った作品はレベルが違う。

山本 ハンター役の子役(ハンター・カーソン)もいい演技をしているよね。この子は別に役者じゃなくて、この映画の脚本を手伝ったL.M.キット・カーソンの息子なんだそうです。それを起用したヴェンダース監督もやっぱり凄いね。ヴェンダースは子役を使うのがすごく上手い。

 さあ、ジェーンの登場シーンを見よう。本当にこの作品のナスターシャ・キンスキーは神々しいとしか言えないよね。よくぞ、この時の彼女を撮っておいてくれた!

山下 本当ですね。役者も監督によって変わるとはよくいいますが、そもそも彼女はヴェンダースの『まわり道』(1975)がデビュー作でその時が13歳くらい。その後『テス』(1979)とか『ワン・フロム・ザ・ハート』『キャット・ピープル』(共に1982)を経て、この『パリ、テキサス』でもまだ22〜23歳なんだけど、演技も脂の乗り切った感じでね。

山本 チャプター9のトラヴィスがマジックミラー越しに会話をするシーンで、ジェーンが着ている赤いモヘアのセーターが凄くリアル。また彼女が居る部屋は赤で統一されているんだけど、そこに置かれた赤い電話機やライト、カーテンの配置具なども凝っている。この完成度たるや、ちょっと驚きですよ。

 ディスプレイをレグザ「65X9400S」に変えて、有機ELテレビで再生したらどんな映像になるのかを確認しましょう。プレーヤーはマグネター「UDP900」で、ラストの母と子の再会シーン(チャプター12)を再生します。本作はドルビービジョン収録なので、映像モードは「ドルビービジョン・ダーク」を選びました。

110インチ映像の再生にはビクターのD-ILAプロジェクター「DLA-V9R」を使用。こちらはHDR10対応モデルなので、UHDブルーレイもHDR10でチェックしている

山本邸には有機ELテレビのレグザ「65X9400S」も準備されているので、直視型テレビで『パリ、テキサス』のUHDブルーレイはどんな印象になるかも確認した。こちらはドルビービジョンモードで再生している

山下 グレインノイズの見え方が違うなぁ。駐車場の空の色とか赤い照明のグラデーションなどでは、グレインがスクリーンの時よりも目に付きます。

山本 色の再現はいいよね。ジェーンがハンターが待つホテルの部屋に入ってくるカットで、DVD時代まではずっと黒い服を着ていると思っていたんです。でも、ブルーレイで見たら濃い緑色だった。今日のUHDブルーレイでも、その違いがさらにはっきりわかりました。

 このシーンではハンターも緑系の服を着ているんだよね。実はこの親子3人は作品のあちこちで同系統の色を身にまとっていて、そこにはいろんなメッセージが込められているんですよ。

 「色の秘密 最新色彩学入門」(野村順一・著、文春文庫PLUS)という本によると、緑色には<許し>というメッセージがあるそうです。赤は活動的な色で、どこかに向かって行くという意味もある。だから最初にトラヴィスが赤いキャップをかぶっていたり、トラヴィスとハンターが母親を探しに行く時にはふたりとも赤い服を来ている。ヴェンダース監督は何も語っていないけれど、それぞれのシーンにそんな意味を込めていたかもしれないですね。

山下 なるほど。グレインの印象、落ち着き具合は、UHDブルーレイをプロジェクターに投写した時が好みでした。実際、同じ4Kマスターでも、映画館のスクリーンで見るのと、65インチ画面で見るのとでは印象が変わるんですよね。大きいスクリーンだとグレインもいい具合に散らばってくれるんだけど、65インチだと凝縮されて、どうしても目立ってしまう。ただ、フィルム作品をデジタルで保存するという意味では、グレインも重要な情報なので残すべきだと思っています。

滝本 ヴェンダース監督は、『ベルリン・天使の詩』の4Kレストアマスターでは、グレインを完全に消す画作りを希望していましたが、今回はグレインを残しています。やはり作品によって適切なルックを考えているんじゃないでしょうか。

山本 そうですね、確かにグレインをどう扱うかは、難しいところだよね。でも今回の『パリ、テキサス』ではこれくらいのグレインで正解だと思うな。

山下 いやー、それにしてもこのディスクはいい仕上がりです。人生で最後に買う円盤がこれだったとしても悔いはないと思う。

山本 それは重要な一言だね。確かに、UHDブルーレイとしてのフォーマットを活かしきっている一枚かもしれない。

滝本 『パリ、テキサス』そのものが、色々な意味で奇跡の映画だと思いますが、このUHDブルーレイも奇跡の一枚になっているかもしれません。ヴェンダース監督の『PERFECT DAYS』が話題になって、そんなタイミングで『パリ、テキサス』の4K/HDRマスターが出てきて、さらにセイゲンさんのスケジュールも押さえることができた。そういった条件がうまくまとまったのは、ある意味奇跡ですよ。

山本 2022年に発売された『ヴィム・ヴェンダースBlu-ray Box』とも見比べましたが、UHDブルーレイでは、色とコントラストの魅力が俄然上がっていました。テキサスの荒涼とした風景をロングで捉えているシーンの精細感とか、ノイズ感の少なさも凄く魅力的だと思いました。

山下 同じスキャンデータから作ってここまで変わるのかって、ちょっと驚きましたね。その意味では、映画会社は4Kでスキャンしたデータは大切に持っていてね、と言いたい。後でやり直したくなっても、もう1回そこから出来るので。

山本 UHDブルーレイ『パリ、テキサス』を見て、改めてこの作品は音と色の映画だと思いました。特に色はUHDブルーレイになると、フォーマットとしての色域の差による再現性の違いが活きてきて、色のインパクトに驚きます。

山下 ヴェンダース監督も、服や車の赤と、空の青と白でアメリカ国旗の3色になると言っていましたね。やっぱりこういう、本当によくできたディスクだと、作品に隠された意味や狙いが分かってくるから、手元に置いておく価値が出てきますね。

『パリ、テキサス』の高画質・高音質を堪能した皆さん。写真手前右はHiViでもお馴染みの山下泰司さん、左はTCエンタテインメント株式会社 事業本部 第1制作部の滝本 龍さん。中央奥は山本浩司さん

山本 この映画では、いくつかのポイントで涙が印象的に映るシーンがあるじゃない。みんなで8mmフィルムを見ている時とか、後半でジェーンがトラヴィスの話を聞きながら涙を流すとか。それらのカットが本当に綺麗で感動しました。こんなに見えちゃうんだって。

 またUHDブルーレイならではの特長として、HDRの表現がはまっていた。白ピークばかりを立てるような使い方であれば、映画にはHDRはいらないんじゃないの、といった話もありますよね。車がやたらとテカテカしているとか、金属の質感を出しました、みたいな。しかしこの作品はそういうことではなく、トラヴィスの顔の陰影とか室内の黒の階調再現といったあたりまで考えられている。映画のHDRの使い方として、ひじょうに上手いなぁと思いました。

山下 ヴェンダースとしても、既に鬼籍に入ったロビー・ミューラーという稀なる撮影監督が撮った映像を、いい形で残したいという気持ちがあって、相当気合が入っていたんじゃないでしょうか。リーフレットにもヴェンダースのコメントとして、ロビーは凄い奴だったといったことが書いてありますからね。

滝本 ヴェンダースの作品はHDRでもごくわずかにリリースされていますが、本人が監修したと明記されているのは『パリ、テキサス』くらいです。現時点では唯一の本人公認HDR作品かもしれません。

山本 HDRがこんなにはまる作品はなかったんじゃないかな。僕自身もHDRは映画のためのものじゃないと思っていたから、まさかこういった映像を見せてもらえるとは予想もしなかったですね。

滝本 読者の皆さんには本作のUHDブルーレイを手に取っていただいて、その凄さを体験していただきたいですね。そして繰り返しになりますが、非圧縮の音声も素晴らしいので。

 マスタリングされたセイゲンさんからは、「映像が24fになったら、音も涙が止まらないくらいよくなったように聴こえる」という感想をいただいています。「そこを解説して欲しい」ともおっしゃっていました。

山本 僕も同じ経験をしたことがあります。同じ音でも、画質がよくなると、余計音楽が心に染みたりする。考えてみれば、画も音も脳の同じところで処理しているわけだし、僕は脳科学者ではないので詳しくはわからないけど、そこには何らかの相乗効果があるんじゃないかな。

山下 UHDブルーレイでは、ライ・クーダーのギターの音が大きくなったように感じられたんです。セイゲンさんに「ボリュウム上げてません?」 と聞いたら「いや、監督に無断でそんな改変はしてないよ!」って笑ってたんですが、ギターがより立ってきたように感じました。

山本 人間の耳にはラウドネス特性というものがあって、中低域がちょっと持ち上がると、音圧が大きくなったように聞こえるんです。全体の音量としては変わっていなくても、帯域的にちょっとピークを作ると大きくなったように聞こえる。セイゲンさんのことだから、そういう味付けをやっているのかも。

山下 作品自体も、基本的にはライ・クーダーのギターと、ちょっとした効果音を使っているくらいで、映画の音の三要素(セリフ、音楽、効果音)で言えば音楽が一番キーになるかもしれないですね。

山本 やっぱり、『パリ、テキサス』は、“色と音の映画” だね。

山下 今日、山本さんのホームシアターで見せていただいて、UHDブルーレイとしての完成度も際立っているなぁと安心しました。これ、家宝にします!

滝本 ありがとうございます。そのようにおっしゃっていただけてホッとしました。

山本 ところで、『パリ、テキサス』のサントラレコードを聴いたことあります? 中古レコード店で見つけて買ったんだけど、これが凄く泣けるんだよ。ちょっと聴いていきませんか?

山下 それはいい。ぜひお願いします。

(まとめ・撮影:泉 哲也)

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