評論家・柳沢功力氏選りすぐりの愛聴曲。PCM/DSD録音の混在もまた魅力

 2008年発売の本盤は「REFERENCE RECORD」シリーズ・ハイブリッドSACD/CDの記念すべき第1弾で、ユニバーサル ミュージックが保有するドイツ・グラモフォンやデッカのカタログの中から、柳沢功力氏が選りすぐった全14曲が収録されたコンピレーション盤である。ステレオサウンド誌で長年健筆を奮った柳沢氏は、2022年に筆を折られているが、クラシックのオーケストラやオペラ曲を試聴用ソースとして好んで使われてきた。本盤はいわばその愛聴曲を集約したものといえよう。

『BEST SOUND SELECTION 柳沢功力』
SACD/CDハイブリッド盤

(ユニバーサル ミュージック/ステレオサウンドSSRR1)¥3,981 税込

[収録曲]
1.ヴェルディ:歌劇《椿姫》 導入部:招待の時はとっくに過ぎた
2.同 乾杯の歌:酒を汲もう、美しい人が
 カルロス・クライバー指揮 バイエルン国立管弦楽団、他
3.ヘンデル:歌劇《セルセ》 オンブラ・マイ・フ(樹木の蔭で)
 ハリー・ビケット指揮 エイジ・オブ・インライトゥンメント管弦楽団
4.オッフェンバック:喜歌劇《ジェロルスタン女大公殿下》 第4曲:ああ、これが有名な連隊ね(軍人たちの歌)
 マルク・ミンコフスキ指揮 レ・ミュジシャン・デュ・ルーヴル管弦楽団・合唱団
5.J.S.バッハ:平安なんじにあれ BWV158 復活第3日のためのカンタータ アリアとコラール「世よ、さらば! われは汝に倦みたり」
 ライナー・クスマウル指揮ベルリン・バロック・ゾリステン、他
6.マーラー:交響曲《大地の歌》 III.青春について
 ピエール・ブーレーズ指揮  ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
7.シューベルト:楽興の時 D.780 第5曲 アレグロ・ヴィヴァーチェ
 内田光子(ピアノ)
8.プロコフィエフ:組曲《シンデレラ》作品87 いさかい
 マルタ・アルゲリッチ、ミハイル・プレトニョフ(ピアノ)
9.エドゥアール・ラロ:ギター 作品28
 シャルル・デュトワ指揮 フィルハーモニア管弦楽団
10.バルトーク:弦楽四重奏曲第5番 Sz 102 第5楽章
 ハーゲン弦楽四重奏団
11.ヴィヴァルディ:ヴァイオリンと弦楽のための協奏曲ホ短調 RV278 第3楽章
 アンドレーア・マルコン指揮 ヴェニス・バロック・オーケストラ
12.ドヴォルザーク:交響曲第8番 ト長調 作品88 第1楽章
 イヴァン・フィッシャー指揮 ブダペスト祝祭管弦楽団
13.ベルリオーズ:幻想交響曲 作品14 第4楽章:刑場への行進
 ワレリー・ゲルギエフ指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
14.ヨハン・シュトラウス I世:ラデツキー行進曲 作品228
 小澤征爾指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

●選曲・構成:柳沢功力
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 収録された音源の中には、PCM録音とDSD録音という異なるフォーマットが混在するが、ヨーロッパのエンジニアによって本盤のために改めてマスタリングが実施されたのがセールスポイント。とりわけ4曲目のアンネ・ソフィー・フォン・オッターが歌うオッフェンバックの歌劇と、10曲目のハーゲン弦楽四重奏団によるバルトークは、初のDSDマスタリングによるSACD化だ。

 SACD層の試聴から印象深かった楽曲を記していこう。3曲目『ヘンデル:歌劇《セルセ》』から「オンブラ・マイ・フ」は、フレミングのソプラノの歌唱が優しく慈愛に満ちており、くっきりとセンターにファントム定位する歌声の瑞々しさと潤いにも引き込まれる。管弦楽の調べも実に柔らかだ。

 6曲目の『マーラー:交響曲《大地の歌》』からの『青春について』はゆったりとしたイメージの中に、東洋的な旋律のミヒャエル・シャーデの歌声が牧歌的に響く。伸びやかでスケールが大きい歌唱を支える緻密なアンサンブルは、ブーレーズ指揮ならではで、細部まで隈無く目配りされているのがわかる。

 13曲目はオーディオファイルご用達の『ベルリオーズ:幻想交響曲』、「第4楽章」。重厚な筆致はゲルギエフが得意とするところで、ゴージャスな響きもウィーン・フィル特有だ。ダイナミックレンジが広く、打楽器の咆哮がとりわけ凄まじい。

 各楽曲に対する柳沢氏の的確な解説を読みながら聴き込むのも一興の一枚だ。