開発陣の英知と伝統と愛情に満ちたワザを鮮明な役割と見事な音質設計で実感した!

 ここでのテーマは、マランツの一体型AVセンター全4モデルの一気視聴の報告である。これらのAVセンターは同じような顔つきで似たような内容、仕様に思えるが、同一環境でそのパフォーマンスと使い勝手を試し、どういう方々におすすめなのかを探ってみたい。

 

スリムなCINEMA 70sはシンプルでしかも本格的な音を備えた魅力機だ

 トップバッターは、価格順ということで、CINEMA 70s。CD試聴ではデノンDCD-SX1 LIMITEDからアナログ・アンバランスで接続し、音量調整機能やパワーアンプ部などの、いわゆるAVセンターの音の土台を確認する。ちなみにモデル名末尾の「s」はスリムの「s」で、高さ109mmのスリム筐体のモデルだ。

 その薄型筐体から、CD「高瀬アキ」のフリージャズピアノの魅力が切れ味とスピード感をもってリファレンスのBowers & Wilkins 802 D4スピーカーを鳴らす。欲を言えば、ピアノの最低音域の、太くて長い低音弦の、その震えのニュアンスがもう少し感じられたらと思う。

 SACD/CD『石川さゆり』は、まず決めるべきことはSACD層とCD層の“どちらの層”を使うかである……。聴き比べて厚み感や滑らかさの点でCD層を選択、全機種で使うことにした。その音は、巻き舌も駆使した男歌の勢いが魅力的だ。少々細かいが、「♪転がる石〜♪」の<し>の音のヌケが良く、歌の世界観を鮮明にする。願わくば、ドス声の感じがもう少し備わると最高に嬉しい。

 BD/UHDブルーレイ視聴はパナソニックの4KレコーダーDMR-ZR1とHDMI接続の5.1.2スピーカー構成で行なう(サブウーファーはパラレル設置)。オーバーヘッドスピーカーは、トップ2基のシンプル構成……なのだが、UHDブルーレイ『バッドボーイズ フォー・ライフ』チャプター14の1時間30分からのド派手な5分間は、5基のメインスピーカーと2基のサブウーファーの威力もあり、予想外の迫力。爆発音、銃撃音、音楽等々が全周囲で鳴り響き、迫ってくる。もちろんトップ2基が生み出す三次元立体音場効果も、ド派手描写の重要な要素。特筆すべきは、そんな激しい音群の中で、センタースピーカーのセリフがクリアーに聴き取れること。AVセンターの本分に忠実な、その能力に感激した。

 三次元立体音場の激しさは、ドルビーアトモス音声収録のBD『ゼロ・グラビティ スペシャルエディション』チャプター5の43分からの場面で圧巻だった。誰もいなくなった静寂な宇宙船の中での“独り言”から一転、衝撃音、爆発音、軋み音、移動感、緊迫感、危機感……等々が次から次へと迫ってくる。こんな「三次元立体音響」映画を初めて体験したら、間違いなく“驚愕”だろう。

 もちろん日常的に6.0.6スピーカー構成で楽しんでいる小生の耳には、シビアに聞けば後方や天井の動きがやや弱く、範囲も狭いとは感じた。しかし“これからサラウンドを始めたい”と思う映画ファンには、音の芯をきちっと捉えた本機の三次元立体音響の描写は必ずや衝撃的体験となろう。欲をいえば恐怖を煽るボトムエンドのエネルギー感はもう少しあればと思うが、本機得意のクッキリ描写で、映画の意図は十分過ぎるほどに伝わってくる。

 当たり前だが、全ての映画が三次元立体音響で作られてはいるわけではない。邦画BD『九十歳。何がめでたい』は、ベーシックな5.1ch音声仕様で、効果音も音楽も最小限にした、セリフ中心のシンプルな組み立てが特徴的。『バッドボーイズ~』などを観た後では拍子抜けするほど静かな映画に思う。セリフのほとんどはセンターチャンネルが担うわけだが、たとえばチャプター5の編集者と90歳の作家が繰り広げる、執筆を依頼する側とそれをどう断るかのやりとりの<五番勝負>は、役者の腕の見せどころであり、AVファンの見どころであり、映画の白眉でもある。この場面のセリフの投げ合いをCINEMA 70sは、ストレートかつ快活に提示し、五番勝負の世界に引き込んでいくのである。

 こうしたパフォーマンスに接しながら、ふと、子育てが落ち着いた甥っ子に本機をすすめてもいいかなあと思った。部屋はそう広くはないが、工夫すればベーシックな5.1chと2基の天井スピーカーは設置できそうだ。そう思った何よりのポイントは高さ109mmのスリムさ。大型のAVセンターでは二の足を踏むだろうが、このサイズならかなり敷居が低いというもの。価格も何よりの大きなおすすめ要点である。

写真(左)CINEMA 70s、写真(右)CINEMA 50

CINEMA 70s
¥154,000 税込
● 型式 : 7chアンプ内蔵、7.2chプロセッシング対応AVセンター
● 寸法/質量 : W442×H109×D384mm/8.7kg

https://www.marantz.com/ja-jp/product/av-receivers/cinema-70s/CINEMA70SJP.html

CINEMA 50
¥286,000 税込
● 型式 : 9chアンプ内蔵、11.4chプロセッシング対応AVセンター
● 寸法/質量 : W 442×H165×D404mm/13.5kg

https://www.marantz.com/ja-jp/product/av-receivers/cinema-50/CINEMA50JP.html

 

CINEMA 70s。スリムな筐体に7chパワーアンプを搭載したマランツで最も手頃なAVセンター。豊富なHDMI端子やネットワークオーディオ機能HEOSを活かして、テレビを中心にリビングルームでの本格シアター向けに最適だろう

 

CINEMA 50。8K対応のHDMI端子が入力6系統、出力3系統と非常に豊富な装備を誇る。11.4chプリ出力にも注目。本機単体で5.1.4あるいは7.1.2構成の再生が可能で、さらにプリ出力を使って外部2chアンプを追加すれば、7.1.4再生もできる

 

CINEMA 50は、サブウーファーを最大4台まで使用可能。「モード」を『指向性』にすると、スモール設定(クロスオーバー設定で「フルレンジ」以外を選んだスピーカー)の低音を、そのスピーカー位置に準じたサブウーファーに割り当てる。ラージ設定(=フルレンジを選択したスピーカー)の低音も振り分けたい場合は、「設定」-「マニュアルセットアップ」-「サブウーファー出力」を初期設定の『LFE』から『LFE+メイン』とする

 

 

音の魅力が大きなCINEMA 50はまさにハイコストパフォーマンス機だ

 二番手のCINEMA 50は、機能と質を大きく追求した、いわゆる本格派向け。9台のパワーアンプを搭載し、7.1.2または5.1.4が構成可能だ。プロセッシング能力は11.4chを有し、2chパワーアンプを追加すれば7.1.4または5.1.6も可能。外観は高さ165mmと大型化し、質量もグーンと増した13.5kgを誇る。ちなみにプロセッシング能力11.4chの<.4>は、LFEの出力チャンネル数が4系統という意味だが、留意すべきは、メディアの規格上のチャンネル数は1であること。マランツ表示の<4>は、マランツAVセンターが創り出すLFE信号のチャンネル数で、いわゆるローカル規格。ここでは規格通りの1つのチャンネルを使う。ただし、サブウーファーは中央に置くことができないので、センタースピーカーの左右に置くパラレル接続の2基設置。スペースや予算に余裕があればオススメの使い方で、LFEの重低音が視聴者正面に安定する。

 さてCINEMA 50の音だが、CD「高瀬アキ」では、外観通り、ピアノのスケール感、とりわけ低音弦のリアルさが素晴らしい。音域を広く使ったフリージャズのピアノ音像は、弱音から最強音まで、そのダイナミズムを誇って魅了する。「石川さゆり」は、男歌の象徴、巻き舌の勢いを増しつつ、サ行もヌケ良く抜群の実在感。それを支えるキックドラムとベースの8ビートが心地よい。

 BDは、まずは上下も左右も存在しない宇宙もの『ゼロ・グラビティ』を、オーバーヘッドスピーカーを部屋の天井四隅に配置した5.1.4構成で視聴。予想通り、頭上の方々から次々迫ってくる衝撃音や爆発音が怖い。とりわけ周回の動きには効果てきめんの威力。天井スピーカー4本設置を一度体験すれば、もう手放せないはず……。

 ところが次いで聴いた7.1.2構成は、床面の5.1chから7.1chへのグレードアップ効果が想像以上の威力で、激烈なインパクトである。舌の乾かぬうちの前言撤回で恐縮だが、記録されている情報量からすれば当然かもしれない。天井スピーカーが2本になろうとも、フロアースピーカーにサラウンドバックを加えた7.1ch設置が可能ならば、ぜひおすすめである。

 『バッドボーイズ〜』も7.1.2で視聴。怒濤のドンパチ場面では、セリフの聴き取りやすさが印象的だ。CINEMA 70sと同様に最大の美点だと感じた次第。経験的にいえば、こうしたセリフの描写力はパワーアンプの優れた駆動力の証だと思っている。本機の駆動力は、重低音域もしっかりグリップし、トータルの分離感や解像感を高めて、映画をいい音で観る醍醐味に誘う。

 『九十歳。~』は、5.1chのストレートデコードでまず再生。再生チャンネルはCINEMA 70sと同じだが、セリフは俄然、熱い生命感を宿す、言い合いの五番勝負の場面ではスーッと笑いに誘われる。過剰な音遣いを排した邦画の魅力がしっかりと堪能できた次第。サラウンドバックをサラウンドと同じ信号を再生して7.1chの全スピーカーを活用する「DTS-HD」モードを試すと、サラウンド信号がより後方に広がるイメージとなった。セリフはわずかにソフト傾向になったが、音楽や効果音などは後方音場への広がりが増す。せっかく設置したサラウンドバックを活かす方法として面白いが、使うかどうかは、ケースバイケースともいえそうだ。

 音の魅力が大きいCINEMA 50は、旧製品からの買い換えやグレードアップなど、本格シアターの第一歩にふさわしいモデル。充実の機能も含めて、お買い得感に富む、まさにハイコストパフォーマンス機であり、広くおすすめしたい。

 

スピーカー駆動力が大幅向上したハイグレード機CINEMA 40

 CINEMA 40は、パワーアンプを9台搭載し、7.1.2または5.1.4が可能なAVセンター。プロセッシング能力は11.4chを有し、2chパワーアンプを追加すれば7.1.4または5.1.6も構成可能だ。つまり、チャンネル仕様は弟機のCINEMA 50と同等である。しかし、仕様を子細に見れば、実は音質に関係する部分は大きくグレードアップしている。

 まず、ボディは高さが188mmと大型化、質量も電源トランスの大型化などで13.5kgから15.1kgに増。そして駆動能力の一翼を担う電源コンデンサーの大容量化も図り、質感やパワー感を追求。その音やいかに……。

 「高瀬アキ」はピアノの左手に驚いた。ピアノの低弦がズーンと沈み込むように鳴るのだ。こういう音を聴くと、ちょっと興奮してくる。気分がいいので音量を上げれば、テナーサックスとのデュオ音像が原寸大感覚の生々しさで迫ってくる。フリーなパートの即興は、大暴れのパワーとキレで魅せて、実力を見せつける。「石川さゆり」も低声部の肉厚な表情が特徴的。欲を言えば少しだけ引き締めたい気もするが、全体のスケール感やパワー感は抗しがたい魅力である。

 『ゼロ・グラビティ』の5.1.4再生は、またもや前言撤回のようで恥ずかしいが、衝撃音や爆発音は天井スピーカーの四隅とも連動し、重量級の恐怖感や緊迫感を生み出す。今回は天井スピーカーは110Hzのスモール設定にしていたが、サブウーファーとの繋がりもスムーズで、高い質感描写に寄与していた。物量投入の強力電源の威力を改めて知るチャプターである。

 7.1.2の接続替えをして確認するとフロアースピーカーの濃密音像による抜群のつながり感に感嘆した。水平方向の音の周回や移動音の迫力、あるいは音場の広大さはさすがの7.1.2と納得。しかし天井スピーカーが2本では少々寂しい……。天井スピーカー4本での再生も捨てがたいなァ、と悩んでしまう。そんな時は、2chパワーアンプを追加することで、求める7.1.4を手にしたい。この発展性は見逃せないし、ありがたくもある。

写真(左)CINEMA 40、写真(右)CINEMA 30

CINEMA 40
¥506,000 税込
● 型式 : 9chアンプ内蔵、11.4chプロセッシング対応AVセンター
● 寸法/質量 : W 442×H188×D413mm/15.1kg

https://www.marantz.com/ja-jp/product/av-receivers/cinema-40/CINEMA40JP.html

CINEMA 30
¥770,000 税込
● 型式 : 11chアンプ内蔵、13.4chプロセッシング対応AVセンター
● 寸法/質量 : W 442×H189×D457mm/19.4kg

https://www.marantz.com/ja-jp/product/av-receivers/cinema-30/CINEMA30JP.html

 

CINEMA 40。チャンネル構成が似ているためか、CINEMA 50と背面端子の装備は相違が少ない。ただし、アナログ映像入力端子の装備や制御系端子の充実などの点が異なるほか、ネジに銅メッキタイプを使うなどのグレード差はある

 

CINEMA 30。CINEMA40と比較して、「HEIGHT3/FRONT WIDE」用スピーカー端子が増えたほか、MMフォノ端子が筐体左側に独立搭載されている点や、端子板の印刷が銅色となっている点が異なっている。本機の生産は、D&Mの本拠地福島県の白河オーディオワークスで行なわれている

 

CINEMA 30は、単体で5.1.6もしくは7.1.4再生が可能。オーバーヘッド(頭上)スピーカー6本に対応しているのは、マランツでは本機とセパレート型AVセンターのAV 10のみとなる。外部2chアンプを追加することで、7.1.6再生も可能だ

 

 

CINEMA 30はハイスペックに注目だが真のポイントはクォリティ重視の設計

 ここまでの3機種はチューナー付きの、いわゆる「AVレシーバー」スタイルのモデルだが、CINEMA 30はチューナーなしのプリメインアンプ型で、いっそうのこだわり派に向けたモデル。チャンネル構成も規模を増し、11台のパワーアンプを積み、7.1.4もしくは5.1.6が可能だ。プロセッシング能力は13.4chを有し、2chパワーアンプの追加で7.1.6も構成可能となる。定格出力は140Wと、一体型最上位にふさわしいハイスペック。

 しかしながら本機のウリはスペックではなく、そのクォリティ重視の設計にある。銅メッキシャーシや大型のトロイダル電源トランスなど、パーツも技術手法も、最上位セパレート型から多くが継承され搭載されている。

 「高瀬アキ」は、ズーンと沈み込むように鳴らす左手も、繊細にして力強い右手の高域鍵盤も、まさに見えるような生々しさ。音量を上げても音像は凜としつつ、豪快に、フリージャズの醍醐味を表出する。その優れたパワーリニアリティは本機の大きな魅力だ。「石川さゆり」も、声の音像はゆるぎなく、リアル。男になりきった、切ない心の叫びが、抜群の録音クォリティと強力電源によって浮かび上がる。

 『ゼログラビティ』まず5.1.6構成を先に視聴。続いて天井スピーカーを6台から4台に減らした7.1.4構成を比較した。結果は予想通り、フロアースピーカーを7.1ch構成とした7.1.4でのサラウンド効果が絶大であった。本作のチャプター5は衝撃音や爆発音が次から次に襲ってくるが、高品質パーツや物量投入、強力電源などに支えられて、質と量の圧倒的な訴求力で魅せる。

 『バッドボーイズ〜』のこれまでの爆発音はボトムエンドにやや過剰感を覚えなくもなかったが、本機はそこをビシッと引き締めて、リアルな恐怖感に仕上げる。本機は低域の制御能力、スピーカーのグリップ力が素晴らしいのである。『九十歳。~』のセリフも、ニュアンスが実に豊かである。

 マランツの一体型全4モデル一気視聴で思ったことは、価格を起点に、仕様や意匠、音を入念に創り、各機種の役割を鮮明にしたこと。そこに開発陣の英知と伝統と愛情を強く感じた次第。CINEMAシリーズの魅力を、ぜひ専門店で体感していただきたい。

視聴に使った機器
● 8Kプロジェクター : ビクターDLA-V90R
● スクリーン : キクチDressty 4K/G2
● 4Kレコーダー : パナソニックDMR-ZR1
● SACD-CDプレーヤー: デノンDCD-SX1 LIMITED
● スピーカーシステム : Bowers & Wilkins 802 D4、HTM 81 D4、805 D4、イクリプスTD508MK4、TD725SWMK2

>本記事の掲載は『HiVi 2025年春号』