個性豊かな新製品が続々と登場してきているイヤホンの世界。市場の拡大にともなって、中国系の新興メーカーも続々と増えている。ただし、新興メーカーと言っても、何の実績もないのではなく、元々は大手メーカー向けにOEM供給をしてきたり、大手メーカーでの活動後に自らの会社を設立するなど、その出自もさまざまだ。玉石混交の様相も呈しているイヤホン市場だが、それだけに優れた音や美しいデザインなど、他に埋もれない強い個性を主張するモデルが次々と生み出されている。個性派イヤホン企画の第2弾として、新たに登場する2つのモデルを紹介しよう。Juzear「Dragonfly 81T」とdd HiFi「Surface(E14D)」だ。
多ドライバーを駆使し、美麗なサウンドチューニングを施した個性際立つイヤホン
Juzear(ジュゼアー)「Dragonfly 81T」は、高域用、中低域用に8基のカスタムBAドライバーを、低域用にダイナミックドライバーを組み合わせた多ドライバー構成のモデルだ。しかも、BAドライバーはそれぞれ受け持つ帯域に合わせた専用設計で、特に高域用は音のクリアさにこだわった仕様にしているという。一方、ダイナミックドライバーはカーボンベースのコーティングがされた第二世代のPUダイアフラムを採用し、ネオジム磁石や大型ボイスコイルをぜいたくに使用。これらを高強度合金フレームに収め、力強い低域再生を実現している。
有線イヤホン
Juzear 「Dragonfly 81T」
¥42,100(税込)
Dragonfly 81Tの主な仕様
ドライバー:1DD+8BA
周波数特性:20Hz~20kHz
インピーダンス:32Ω
感度:117dB±1dB SLP/mW
ケーブル:6N単結晶銅 シルバーコーティング
プラグ:3.5/4.4mmジャックスイッチ式
コネクター:0.78 2Pin
Juzearは2016年に設立されたメーカーで、音質に対する妥協のない追求を続けるオーディオ愛好家が創業者だ。高級カスタムインイヤーモニター(IEM)を得意としており、2016年に3ドライバー同軸ハイブリッドIEMでスタートして以来、5ドライバー、6ドライバーといった高級カスタムIEMを次々と発表。2023には「41T」を発売し、グローバル展開を開始。そして、最新モデルが今回紹介する「Dragonfly 81T」となる。大きな特徴は各ドライバーの音を耳に届ける滑らかなリードパイプ。より自然な音質を追求すると同時に高調波歪みを低減し、明瞭さと音の純度をキープしているという。
そして、もう一モデルがdd HiFi「Surface(E14D)」。日本でも名前を知る人が増えてきたdd HiFiブランドの最新モデルで、4BA+1DDのハイブリッドタイプとなる。ダイナミックドライバーは口径8mmのPU+LCP複合ダイアフラムを搭載。ドライバーの供給と音のチューニングはMOONDROP(水月雨)が担当している。これにdd HiFiが独自に設計した3ウェイクロスオーバー回路を組み合わせているのだが、このクロスオーバー設計は、さまざまな国のユーザーからのフィードバックをもとに綿密に設計されているという。ハウジング部分は3Dプリント技術で作成され、音導管部分には音を調整する高精度なフィルターも備えている。
有線イヤホン
dd HiFi 「Surface(E14D)」
¥55,000(税込)
Surface(E14D)の主な仕様
ドライバー:1DD(8mmPU+LCP複合ダイアフラム搭載)+4BAハイブリッド
周波数特性:10Hz~30kHz
インピーダンス:15Ω
感度:118dB/Vrms(@1kHz)
ケーブル:dd HiFi「BC120S」が付属 銀メッキ高純度無酸素銅4ストランド編み
プラグ:4.4mmバランス
コネクター:0.78mm 2pin
質量:約60g
着脱時に大きなストレスを受けやすいコネクター(接続端子部)には、CNC加工されたアルミニウム製保護カバーを備えており、高い耐久性を確保。そして、平面的な形状になりがちなフェイスプレートは、メタル製で立体的な形状とし、さらに格子模様のようなテクスチャーを加えることで深みのあるデザインに仕上げている。接続ケーブルには、dd HiFiの「BC120S」を標準装備。銀メッキ高純度無酸素銅を導体とした4ストランド編みとしている。接続端子は4.4mmのバランスプラグだ。透明で中が透けてみえるハウジングと表情豊かなメタルフェイスプレートの仕上げも美しく、高級感のある意匠となっている。
▲コネクター部には、ピンを保護する堅牢なカバー付き
▲「Surface(E14D)」のハウジングは中身が見えるスケルトン仕様
「Dragonfly 81T」――高解像でダイナミック。躍動感豊かな音が魅力
まずは「Dragonfly 81T」から聴いた。こちらはプラグが交換式で、3.5mmステレオミニ(アンバランス)と4.4mmバランスに対応。3.5mm端子を試した後、4.4mmでも聴いている。使用したプレーヤーはアステル&ケルンの「A&futura SE300」だ。
クラシックのオーケストラ曲を聴いてみると、解像感が高く空間感まで広々と描く。中高域のクリアさが印象的で、オーケストラの各楽器の音をきめ細かく描き分ける。緻密さとダイナミックさをうまく両立した鳴り方で、細部まで気持ちよく聴き取れると同時に、オーケストラ全体のスケール感や迫力もしっかりと伝わってくる。
4.4mmバランス接続で聴くと、その音はさらに解像感が高まり、音場もスムーズに広がる。ダイナミックな迫力もより瞬発力が上がってスピード感のあるものになる。8基ものBAドライバーを使っているが、音のまとまりはスムーズで音色のつながりも良い。このあたりは多ドライバーを得意とするメーカーならではのもので、リードパイプの設計なども含めて完成度の高い仕上がりだ。
Qobuzで「Aimer/SCOPE」を聴くと、ロック調のメロディをスピード感豊かに鳴らす。Aimerのハスキーな声もくもることなく明瞭。声の質感も豊かだ。ドラムスの力強さと反応のいい鳴り方が気持ちよく、ロックを爽快に楽しめる。一方で落ち着いたムードの「近藤利樹/こまりわらい」では、弾き語り調のギターの音もなめらか。声のニュアンスも豊かに描く。
どちらかというと音楽を生き生きと楽しく描写するタイプだが、解像感の高さや細かな再現もしっかりとしていて、モニターとしても実力は優秀。高性能だけでなく音楽としての楽しさや聴き応えを感じるまとめ方は好感が持てる。8BAというと、他ならば10万円を超えるような超高級イヤホンばかりになるが、およそ4.2万円という価格としているのはちょっと驚きだ。コストパフォーマンスの点でも注目だ。
「Surface(E14D)」――ナチュラルな感触で正統派のHiFiサウンド
続いては「Surface(E14D)」。こちらは付属ケーブルの4.4mmバランス接続で聴いた。クラシックのオーケストラ曲はナチュラルな再現で、木管や金管といった楽器の音の響きの違いを明瞭に描き分ける。リズム感も切れ味の良さを鮮やかに描く一方で、ゆったりとしたテンポのメロディもスムーズに鳴らすなど、不要な色づけをせずに忠実に再現をする。まさに正統派のHiFiサウンドだ。低音部はもたつかない範囲でしっかりと量感もあり、オーケストラのスケールも雄大。どっしりと安定感のある演奏だが、切れ味の良さも充分に伝わる。
スピード感のある演奏の「Aimer/SCOPE」でも、勢いやエネルギー感は充分。声はとてもクリアで声の質感もよく出ている。「近藤利樹/こまりわらい」では、落ち着いたムードの歌声を質感豊かに再現し、抑揚感も豊かだ。アコースティック楽器主体の演奏をナチュラルな感触で楽しめるのもよい。「ヨルシカ/へび」は特徴的なピアノのテンポ感が正確で気持ちよい。低音がややふっくらとしているのも聴き心地がよく、楽曲の特徴をしっかりと再現している。声の伸びや抑揚感もリアルな再現だ。
色づけの少ない忠実感のある鳴り方で、モニターとしての正確さがよく分かる音になっている。解像感や音数の多さなどを含めてかなりの実力の高さだが、それでいて音楽を小難しく分析するような鳴り方をせず、音楽をありのままに気持ちよく楽しめる。親しみやすさと、幅広い楽曲を楽しめる懐の深さもある。モニター的に細かく聴くような楽しみ方でも不満はないが、アコースティック楽器のナチュラルな感触と聴き心地の良い鳴り方が大きな特徴と言えるだろう。
個性が音質に昇華した完成度の高いイヤホン。ミドルクラスの実力の高さを確実に実感できる逸品
今やイヤホンの世界は高級機となると50万円を超えるものも珍しくないが、今回のような4~5万円前後のミドルクラスモデルの実力の高さに改めて驚かされた。性能的には高級機に匹敵するし、きちんと楽しめる音に仕上がっている。音にもそれぞれの個性がしっかりと出ているので、いろいろと聴き比べて好みの音のモデルを探すのも楽しいだろう。有線イヤホンならではの情報量や音の再現性を求める人に、ぜひとも試して(聴いて)ほしいモデルだ。