数々の話題作を世に送り出し、国内外で高い評価を得ている柚木麻子の小説『早稲女、女、男』が映画化され、2025年3月14日(金)に『早乙女カナコの場合は』として全国公開される。
主人公・早乙女カナコ役を橋本愛、その彼氏・長津田役を中川大志が演じる。そして監督には『三月のライオン』『ストロベリーショートケイクス』などで知られる矢崎仁司。その他に山田杏奈、臼田あさ美、中村蒼、根矢涼香、久保田紗友、平井亜門、吉岡睦雄、草野康太、のんといった若手から実力派まで幅広い俳優陣らが出演する。
公開を前した2月6日、本作のオフィシャルライターである映画文筆家の児玉美月が、本作の企画・プロデューサーの登山里紗と、目白大学メディア学部の公開講座に登壇した。
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公開講座の冒頭から、今は「女優」「Actress」などの男女を分ける言葉が避けられつつある話や、2021年から、世界3大映画祭のひとつであるベルリン国際映画祭が、「男優賞」「女優賞」を廃止し、性的区別のない「主演俳優賞」「助演俳優賞」を新設した話に。
『早乙女カナコの場合は』の主人公のカナコは、女性だけれどワンピースを持っていないという設定で、たまに親友の三千子に借りる。登山Pによると、バイクのヘルメットも、意図的にピンクや赤でなく、青のヘルメットにしたそう。また、物語上、性別は関係ない演劇サークルのメンバーの役は、矢崎監督が、男女を問わずに、男性の俳優でも女性の俳優でもいいように、蓮、鼎(かなえ)、早(さき)と命名し、オーディションで男女を問わずいい役者さんを選んだと話した。
原作は、早稲田大学、日本女子大学、立教大学、学習院大学、青山学院大学の女性と、慶應義塾大学卒の女性が各章の主人公で、各大学のあるあるが描かれているのが面白いが、登山Pは、「原作は、各章、主人公の女性が一歩前に進む話で、各主人公の性格は違うのに、共感するところがあった。多様性の時代に合わせて、各大学のあるある要素はカットして、登場人物の性格・行動重視で映画化した」と説明した。
また、登山Pが「より幅広い年代の方に観てもらいたいと思って、未婚の女性の直面する問題を体現している亜依子(演:臼田あさ美)の設定は、28歳から30代に変更した」と話すと、児玉は「若くて綺麗な女性が出てくる映画が多くて、もっと上の世代の女性が描かれてきていなかったので、年齢層を上げるというのはすごくいい改変だと思う」と賛同した。
登山Pは、2019年4月に日本の女性学の第一人者である上野千鶴子先生が東大の入学式の祝辞で、東大でも東大女子が入れないサークルがあると言って話題になり、奇しくも、世の興味が原作の内容に追いついてきたと感じたそう。児玉は、エマ・ワトソンの2014年の国連の「HeForShe」のスピーチを紹介。「私がこのスピーチで最も感動したのは、フェミニズムというのは、女性だけのものでもないし、フェミニストというのは女性だけがなるものではない中で、『ジェンダーの平等を願う気持ちがあれば、誰でもすでに無意識的にフェミニストなんだ』と話したこと。恐らく今の時代、ジェンダー平等を願っている人は多いはずで、私たちの社会は潜在的にはフェミニストが多いはず。私たちみんながカジュアルにフェミニストを名乗ったり、フェミニズムについて語っていけば、もっとフェミニズムやフェミニストのイメージが多様化すると思うので、あまり言葉に身構えずに、語っていってほしい」とアドバイスした。
劇中で山田杏奈演じる麻衣子が体現する”ルッキズム”に関する問題について児玉は、「“ルッキズム”は“外見至上主義”と訳されていますが、自分が知らなくても勝手に巻き込まれている。大事なシーンだと思うので、映画を観る時はぜひそのシーンにも注目していただければ」と話した。
児玉は、“シスターフッド”という言葉に関しては、「今自分たちが置かれている、男性中心的な社会や、家父長制社会に対して自覚的であることを前提に、女性同士で連帯していくという姿勢が下地になっている概念」と説明。「本作を観た時に、例えば麻衣子とカナコは恋のライバル関係でもあるわけですけれど、本来ならば男性をめぐって対立しそうな女性同士が、対立ではなく、手を取り合っていくというのは、ひじょうに“シスターフッド”的だと思った。女性同士というのは、“キャットファイト”という言葉があるように、男性中心的な社会の中で、対立させられやすい。その方が男性中心社会には都合がいいから。そうじゃなくて、彼女たちが連帯なり、共に助け合っていくというのは、“シスターフッド”なのではないかと思う」と解説した。
原作では、香夏子と亜依子がナンパされそうになった時に香夏子が、「私達、二人とも死ぬ気で就活してきたんです」と言って、男性二人を追っ払って二人が仲良くなるという場面がある。登山Pによると、映画版では亜依子を30代にしたため、同じセリフにはできず、カナコが、亜依子にセクハラ・パワハラをしてくる大御所の作家から亜依子を守るというシーンを脚本の知 愛に書いてもらったが、予算などの関係でカットになったそうで、「セクハラ・パワハラから同じ女性を守るシーンを提示できていたら、フジテレビ問題で揺れる今の日本に、どんなに救いになったのかなと思う」と残念がった。
本作『早乙女カナコの場合は』に登場する大学1年生の麻衣子は、“男性にモテる服や仕草”などを真似していて、大学4年生のカナコは、自意識過剰で人がどう思うかを気にしすぎていて、30代の亜依子は、結婚は早い方がいいという世間体や自分自身の計画性に縛られていて、自分らしさや自分の本当の気持ちや現実が見えなくなってしまっていて、生きづらさを抱えている。児玉は、中川大志が演じる長津田の生きづらさも描かれていることに着目し、「例えば、カナコとペアリングを買う時に、長津田は、自分が買わなくちゃいけないと思っていて、結局カナコに買われたことに怒る。“男性が買うべき”という刷り込みみたいなものが長津田の中にある。女性の方が、女性というジェンダーを意識させられる局面が多いので、そういう意味でジェンダー規範に気付きやすいけれど、男性はそういう局面は女性に比べて少ないので、『男らしくいなきゃ』だとか、『弱さを見せてはいけない』だとか、自分自身がジェンダー規範に従って生きている可能性になかなか気づけないことも多い。本作は、長津田が映画の中で徐々に、そういったものに縛られていたなと気づいていくという話になっている」と解説した。
登山Pは、「フェミニズムを体現している『バービー』という映画が話題になったけれど、それを観た時に、10年以上前に書いた小説で、柚木さんは男性側の生きづらさも書いていてすごいと改めて思った」と話した。
最後に登山Pは、映画にとって口コミがどれだけ重要かを説き、「面白い映画を観たら、感想を書くのは難しかったとしても、『面白かった』『オススメ』だけでもいいから、SNSにアップして欲しい」とメッセージを送った。
映画『早乙女カナコの場合は』
2025年3月14日、新宿ピカデリー ほか全国公開
【あらすじ】
大学進学と同時に友達と二人暮らしを始めた早乙女カナコ。入学式で演劇サークル「チャリングクロス」で脚本家を目指す長津田と出会い、そのまま付き合うことに。
就職活動を終え、念願の大手出版社に就職が決まる。長津田とも3年の付き合いになるが、このところ口げんかが絶えない。長津田は、口ばかりで脚本を最後まで書かず、卒業もする気はなさそう。サークルに入ってきた女子大の1年生・麻衣子と浮気疑惑さえある。そんなとき、カナコは内定先の先輩・吉沢から告白される。
編集者になる夢を追うカナコは、長津田の生き方とだんだんとすれ違っていく。大学入学から10年――それぞれが抱える葛藤、迷い、そして二人の恋の行方は――。
橋本愛 中川大志 山田杏奈 根矢涼香 久保田紗友 平井亜門 /吉岡睦雄 草野康太/ のん 臼田あさ美 中村蒼
監督:矢崎仁司
原作:柚木麻子『早稲女、女、男』(祥伝社文庫刊)
脚本:朝西真砂 知 愛 音楽:田中拓人 主題歌:中嶋イッキュウ「Our last step」(SHIRAFUJI RECORDS) 製作:石井紹良 髙橋紀行 宮西克典 プロデュース:中村優子 金 山 企画・プロデューサー:登山里紗 プロデューサー:古賀奏一郎 撮影:石井勲 照明:大坂章夫 音響:弥栄裕樹 美術:高草聡太 装飾:杉崎匠平 編集:目見田健 衣裳:篠塚奈美 ヘアメイク:酒井夢月 キャスティング:北田由利子 助監督:古畑耕平 制作担当:福島伸司 宣伝協力:FINOR 製作幹事:murmur KDDI 配給: 日活/KDDI 制作:SS工房 企画協力:祥伝社
2024/日本/DCP/2:1/5.1ch/119min 映倫区分:G
(C)2015柚木麻子/祥伝社
(C)2025「早乙女カナコの場合は」製作委員会
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