Zidoo(ジドゥ)から登場したストリーミングプレーヤーの「UHD8000」は、セパレート型HDMI端子を搭載し、ストリーミングサービスで配信されている空間オーディオの楽曲を、ドルビーアトモスのままで出力できる貴重なモデルだ。というのも、空間オーディオはアップルミュージックなどで近年対応タイトルが充実してきているが、その多くはヘッドホンなどを使ったバーチャル再生のため本来のパフォーマンスを再現できていないことが多いからだ。そこで今回は、UHD8000と7.1.4システムの組合わせで空間オーディオを再生したらどんな楽しさが得られるのか、山之内正さんに体験していただいた。(StereoSound ONLINE編集部)
ミュージックストリーマー:Zidoo「UHD8000」 ¥330,000(税込)
●搭載OS:Android 11
●CPU:Amlogic S928X-K ARM Cortex-A76+Cortex-A55(Penta-core)
●GPU:ARM Mali-G57 MC2
●対応ハイレゾフォーマット(2ch):最大 DSD512、PCM 768KHz/32ビット
●接続端子:LAN(10/100/1000Mbps)、HDMI出力2系統(メイン、オーディオ専用)、USB Type-A✕2、USB Type-B、デジタル音声出力(同軸、光)、アナログ音声出力(RCA、XLR)
※WiFi機能及びBluetooth機能はつかえません
●ストレージ:8GバイトDDR4+64GバイトeMMC
●寸法/質量:W430✕H80✕D312mm/5.9kg
ロスレス・ハイレゾ音源を好きなだけ聴けることがストリーミングサービス最大の長所だが、もうひとつ、「空間オーディオ」の音源が豊富に揃っていることにも注目したい。こちらはイヤホンやヘッドホンのリスナーが主なターゲットなのだが、自宅でドルビーアトモスが聴けるAVファンなら、スピーカーで鳴らす3Dオーディオの面白さや可能性を体験しない手はない。
本格派システムで空間オーディオを再生するうえで唯一の課題は再生機器が限られることだ。市販のストリーマーの多くはドルビーアトモスの出力に対応しておらず、MacとAVアンプの組合せもOSの制約があり、ハードルが高い。もっとも手軽なのはApple TVとAVアンプをHDMIでつなぐ方法だが、操作時にテレビとの接続が不可欠なので音楽ファンにはお薦めしにくい。
そんな状況に風穴を開けてくれそうな多機能ミュージックストリーマーがジドゥ(Zidoo)から登場した。ジドゥは中国のZidoo TechnologyCo.,Ltdが展開するホームAVブランドで、先行して日本に導入されたエバーソロとは姉妹ブランドの関係にある。
「UHD8000」は同社が手がけるAndroid OSベースのストリーマーで、Qobuz、アマゾンミュージック、TIDALなど主要なストリーミングサービスのほか、アプリをインストールすることでアップルミュージックやアップルミュージック・クラシカルの再生ができることがエバーソロと共通する長所だ。さらに、アップルミュージックの空間オーディオ音源(ドルビーアトモス)をHDMI経由でAVアンプに出力できることが重要なアドバンテージで、本機を選ぶ理由はそこにある。
なお空間オーディオ音源の再生はアップルミュージックとTIDALに対応し、現状ではアマゾンミュージックには対応していない。また、日本向けの製品はWi-FiとBluetoothが利用できない状態で出荷される点にも注意が必要だ。
ストリーマーに加えて充実した機能を内蔵する点はエバーソロの製品と同様だ。最大16TバイトのHDDを格納できるベイを2基そなえ、最大32TバイトのストレージにCDリッピングの音源や映像ファイルを保存できるなど、拡張性も高い。DACはESSのES9069Qを採用しており、USBメモリー再生時やUSB DACとして利用した場合、最大でDSD 22.4MHz、PCM 768kHz/32ビットまで再生できる。
フルサイズのボディは堅固で高級感があり、デジタルとアナログを独立させた2電源構成、アナログRCAに加えてXLR出力も積むなど、音質と装備へのこだわりも目を引く。ディスプレイの表示内容はシンプルだが音楽プレーヤーとしては必要十分な機能をそなえ、文字も読みやすい。選曲や機能の選択は操作アプリで行うスタイルで、特にローカル音源の再生時はレスポンスが良く、待たされることがない。日本語表示には未対応だが、タブレットでの操作はわかりやすく、豊富な機能をスムーズに使いこなすことができた。
ドルビーアトモス音源を再生するためには、アップルミュージックの設定画面で「Spatial Audio」を「オン」に切り替えるだけでなく、UHD8000の本体設定メニューでも「Apple Music」の「ATMOS audio output」を「オン」にする必要がある。また、ステレオ再生時はアナログ出力、ドルビーアトモス再生時はHDMIという具合に2系統の出力を使い分けたい場合、本機の出力端子が排他仕様になっているため、メニューから出力切り替えの項目を呼び出さなければならない。頻繁に切り替える場合、この操作はかなり面倒なので、できればアップデートなどで同時出力への対応を期待したい。
UHD8000でApple Musicの空間オーディオを再生する方法(1)
UHD8000では現在Apple MusicとTIDALで配信されている空間オーディオのドルビーアトモス信号の出力が可能だ。ただし、Apple Musicで空間オーディオを再生するにはいくつか設定を変更しておく必要がある。以下でその手順を紹介しておくので、UHD8000で空間オーディオを楽しもうという方は参考にしていただきたい。(StereoSoundONLINE編集部)
本機のHDMI端子は映像信号の出力に対応しているので、テレビやプロジェクターにつなげば操作画面を大画面で表示できる。また、アップルミュージックにアップされているビデオクリップなどの動画もスムーズに再生できるので、音楽だけでなく映像コンテンツを楽しむ用途にも活用できる。
ホームメニューのアプリ一覧からアップルミュージックを起動し、空間オーディオのプレイリストを再生する。デノン「AVC-A1H」の本体ディスプレイに「Dolby Atmos」の表示が現れ、7.1.4環境で正常に再生がスタート。HDMI経由で3Dオーディオ再生ができる点はApple TVと同様だが、タブレットで選曲できるので、UHD8000の方が使い勝手は良い。
空間オーディオの音源はリスナー側が追い付けないほどのペースで増え続け、特にポップスやロックの音源は勢いが加速している。ドルビーアトモスでの配信がスタートした当初は音像の移動を多用した曲が目立っていた記憶があるが、いまはそれよりもヴォーカルとコーラスの関係を立体的に表現したり、空間の広がりや奥行きを再現するなど、より自然な効果を狙った作品が増えている。空間オーディオの効果についてアーティストや制作チームの理解が進み、ミキシングのノウハウが蓄積されてきたのかもしれない。
洋楽ポップスではマイリー・サイラス「パーティ・イン・ザ・USA」やデュア・リパの「イリュージョン」などがその代表的な例だ。前者は斜め前にコーラスを配置して広がりとステージの遠近感を演出し、後者は自然なアンビエンスが部屋を満たす効果が著しい。エド・シーラン「Boat」のように、ステレオ以上にヴォーカルの自然な距離感を追求する例もある。UHD8000で聴くと、これらの音源を空間オーディオで聴くメリットを鮮やかに描き出す。
クラシックはドイツグラモフォンなどユニバーサルミュージックの音源が充実し、デュダメルの「くるみ割り人形」やジョン・ウィリアムズのベルリン・ライヴなどの人気作品が並ぶ。ステレオ音源とは異なるミキシングでホールトーンの3次元の広がりやステージの立体感を引き出し、コンサートで聴いている体験に近い空気感を味わうことができた。クラシックでは特別な意図がない限り、実際のステージとは異なる位置に楽器を定位させることはないが、録音によって音場の広がりや間接音を取り込む割合には違いがあり、UHD8000ではその微妙な差を聴き取ることができる。
UHD8000でApple Musicの空間オーディオを再生する方法(2)
全方向に音を配置して幻想的な空間を構築したピンク・フロイドの「狂気」も聴いてみた。ドルビーアトモス版「マネー」のエフェクトは空中で交錯する音同士の関係が精密で、スムーズにつながる。この曲だけでもUHD8000を試す価値があると思えるほどで、ステレオ再生では味わえない高揚感が押し寄せてきた。
アナログ出力からのステレオ再生でUSBメモリーに保存したハイレゾ音源を聴くと、UHD8000のオーディオ回路の基本性能の高さがよくわかる。ローリング・ストーンズ「ベガーズ・バンケット」はパーカッションの粒立ちがクリアーでヴォーカルの生々しさに息を呑む。DSD 11.2MHz音源で聴くアルベニスの管弦楽曲は、音数が豊富で細部の動きが鮮明に浮かび上がってきた。どちらも相当に古いアナログ録音をハイレゾ化した音源だが、時間の経過を感じさせない鮮度の高さがある。ストリーミングだけでなく、ローカル音源の再生でもメイン機種として活用できる頼もしいプレーヤーである。
(撮影:嶋津彰夫)