東京・表参道のKEF Music Gallery Tokyoでは、“いい音” をキーにした様々な異業種コラボイベントを開催している。もともと同社ではKEF Music Gallery Tokyoをオープンするに際し、様々な業種とのコラボレーションをテーマに掲げていたが、1年を過ぎてその思いが具体化されているのは間違いない。

12月9日(金)に開催された「みなべクラフト梅酒」の様子。写真はCU9代表の高田 遼さん

 そのひとつとして、去る12月9日(金)には和歌山の「みなべクラフト梅酒」を手掛けるCU9代表の高田 遼さんをゲストに、厳選されたクラフト梅酒とマッチングする音楽をペアリングしながらテイスティングを楽しむイベントを開催した。

 同社スピーカーと同様に、クラフツマンシップと細部までこだわりを持って生み出される最高峰の梅酒の魅力(6種類の味わいの違いも楽しめた)と、それぞれに見合った音楽セレクションで、味わいある世界を体験させてくれた。

「Miho Osawa plays Debussy」

【アナログレコード】
A面:2つのアラベスク、亜麻色の髪の乙女、金色の魚、水の反映
B面:月の光、メヌエット、喜びの島、レントより遅く

【SACD/CD】
水の反映、亜麻色の髪の乙女、2つのアラベスク、葉ずえを渡る鐘の音、金色の魚、塔、グラナダの夕べ、音と香りは夕暮れの大気に漂う、メヌエット、月の光、人形のセレナーデ、雪は踊っている、ゴリウォーグのケークウォーク、喜びの島、レントより遅く

 それに続いて12月20日(金)には、クラシック音楽家の大澤美穂さんを迎えたCD/SACD/アナログレコードの聴き比べ会も開催された。大澤さんはクラシック音楽家として20年以上活動してきたそうで、今回その集大成として、音質に徹底的にこだわったアナログレコードとSACD/CDハイブリッド盤をリリースした。その際にクラウドファンディングで資金を調達したそうで、今回のイベントはその支援へのリターンの一貫として企画されている。

 なおアナログレコードを発売しようと思ったきっかけは、ライブ会場でファンの男性から「アナログレコードも出してください」と言われたことだったそうで、さらにとある縁で知り合いになった潮 晴男さんからのアドバイスもあり、SACDも制作することになったようだ。

 収録曲はドビュッシーの楽曲で、その演奏にはドビュッシーが「ピアノ音楽は、ベヒシュタインのためだけに書かれるべきだ」とまで愛したピアノ、ベヒシュタインを使用した。演奏で使うピアノにもこだわり、新潟県魚沼市小出郷文化会館まで出かけて演奏・収録を行っている。ちなみに潮さんはこの収録にも立ち会っているそうで、現場でも色々なアドバイス(横槍?)をいれている模様だ。

当日の再生システム。スピーカーは、普段は3Fの試聴室に設置されている「Blade2」を使用

 こうして完成したSACD/CDとアナログレコードでどのような音の違いがあるのかをクラウドファンディングの支援者と一緒に体験しようというのが今回の主旨で、再生システムはスピーカーがKEF「Blade2」、プリメインアンプはトライオード「EVOLUTION」、SACD/CDプレーヤーがマッキントッシュ「MCD550」、レコードプレーヤーはティアック「TN-350-SE」というラインナップだ。

 KEF Music Gallery Tokyoの2Fイベントスペース正面に再生システムが準備され、潮さんと大澤さんによるディスク制作時についてのトークを交えながら試聴が進められた。

 まず先述した小出郷文化会館の印象について大澤さんは、「最初に3時間お借りして試し弾きをさせてもらったんですが、本当に楽しくて楽しくて最高でした」とのこと。さらに潮さんから「ピアノの調律もベヒシュタインジャパンの社長が自ら担当してくれたんですが、この人(大澤さん)は社長に現場でかみつくんです。もっとこんな音にしてくれって(笑)」と現場でのエピソードが披露された。これに対し、「でも、さすが皆さんプロですよね。私がお願いしたら、本当にそんな音に調節してくれたんです」と大澤さんは自分のイメージ通りの演奏ができたことに満足している様子だった。

KEFジャパンの滝澤さんからイベントの説明が行われた後、潮さんと大澤さんのトークを交えた試聴がスタート

 そうして完成したディスクの比較試聴がスタート。まずSACD/CD盤のCD層、続いてSACD層、アナログレコードの順番で「2つのアラベスク」他が再生された。

 今回の来場者は15名ほどだったが、みんな音の違いがわかったようで、「CDは少しきつい感じもしましたが、SACDではそれがやわらかくなって、音がなめらかに感じました」「アナログレコードは懐かしい感じがしていいですね」といった感想があちこちから聞こえてきた。

 「CDで聴いていると、自分の演奏なのにもうちょっとこうすればよかったかなと気になる部分があったんです。音楽の流れというか、つながりが滑らかじゃない気がしていました。でもSACDではそのつながりがよくなって、あ、ちゃんと演奏できていたじゃんと安心しました(笑)」と大澤さんも演奏者ならではの観点から感想を話してくれた。

ダブルバースデーケーキを手に喜ぶおふたり

 潮さんからは、「今日お聴きいただいたKEFのスピーカーは、独自のUni-Qドライバーが特長です。ツイーターとミッドレンジのふたつを一体化した同軸型と呼ばれるドライバーで、日本が開発したネオジム磁石が使われているんですよ。同軸型は音の定位もよく、今日のようなピアノ・ソロもひじょうに細やかに再現してくれていたと思います」と、KEF製品についての説明も行われ、来場者もスピーカーによってそんな違いがあるのかと驚いている様子だった。

 そこから「亜麻色の髪の乙女」を含む数曲を同じくCD層、SACD層、アナログレコードの順番で再生、来場者はみんな、それぞれのメディアの奏でる音に耳を傾けていた。

 ちなみにイベントが開催された12月20日は大澤さんの誕生日で、さらにその3日前(12月17日)は潮さんの誕生日だったということで、KEFジャパンのスタッフから、サプライズでバースデーケーキがプレゼントされた。これにはふたりとも大喜びで、来場者も含めて会場は大いに盛り上がっていた。(取材・文・撮影:泉 哲也)