躍動感

 映画と音楽でセンタースピーカーが演じる役割は同じではない。映画はセンターレスだと、特に正面から外れた位置で聴いたときに、台詞の定位が気になって落ち着かない。一方、音楽ライヴはセンターがなくても、多くの場合はそれほど気にならない。サラウンドスピーカーをバーチャルで鳴らすと物足りないが、センターレスはそこまで不満を感じないのだ。

 同じ部屋でピュアオーディオとシアターを両立させることにこだわっていたときは、ステレオ+リア2本の4.0chシステムをかなり長く使っていた。そのときはサブウーファーもあえて使っていなかった。フロントにワイドレンジのスピーカーを使っていたので必要性を感じなかったのだ。音楽ソフトでは中途半端な重低音はかえって不満の種になることがある。

 ということで、音楽ライヴ音源をあえて4.0chシステムで聴いてみようというのがこの記事のテーマだ。スピーカーも大型モデルではなく、設置の自由度が高いブックシェルフ型で揃える。最大で65インチ前後のテレビを核にしたリビングシアターなら、ミドルレンジ以上の本格派を揃えるまでもなく、エントリークラスの手頃なスピーカーでかなりの満足度が得られるに違いない。

 そう考えてしばし悩んだ結果、フランス産のエリプソンHORUS 6Bにたどり着いた。ステレオ再生では何度か聴いているものの、サラウンドは未体験。とはいえ素直な帯域バランスとダイナミックレンジの大きさは音楽ライヴのサラウンド再生にうってつけと思える。4本揃えても税込17万6,000円。AVセンターを組み合わせてもなんとか30万円で収まる範囲だろう。クォリティの期待値が高いうえに、財布に優しいシステムが組めそうだ。

 

Speaker System
Elipson HORUS 6B
¥88,000 (ペア)税込

●型式 : 2ウェイ2スピーカー・バスレフ型
●使用ユニット : 25mmドーム型トゥイーター、130mmコーン型ウーファー
●出力音圧レベル : 87dB/W/m
●クロスオーバー周波数 : 3kHz
●インピーダンス : 8Ω
●寸法/質量 : W175×H340×D250mm/5kg
●カラリング : ブラック・カーボン(写真左)、ライト・ウッド・ベージュ(写真右)、ウォルナット・ダーク・グレイ
●問合せ先 : フューレンコーディネート TEL. 0120-004-884

 

 

あまりに自然な音のつながり。特別なライヴの雰囲気を味わえた

 パナソニックDMR-ZR1、デノンAVC-A1Hのリファレンスシステムとパナソニックの有機ELテレビTV-65Z95Aに、HORUS 6Bを組み合わせ、エリック・クラプトン『TO SAVE A CHILD』を再生する。ガザの子どもたちを支援するために2023年12月にロンドンで行なわれた限定ライヴで、CDパッケージに同梱されたブルーレイを観る。冒頭、ガザの子どもたちの映像が流れた後、「ティアーズ・イン・ヘヴン」を歌うクラプトンの表情には複雑な陰影が刻まれ、「レイラ」のテンポもいつもより足取りが重い。

 ライヴの雰囲気が一変するのは「Key To The Highway」からだ。パレスチナカラーのエレキギターに持ち替えたクラプトンはヴォーカルもまだまだ現役で、ドイル・ブラムホール2世の支えを得ながらのソロのフレーズは、少し枯れてはいるものの十分に力強い。

 聴衆の拍手に包まれた瞬間、ドルビートゥルーHD音声を4.0chで再生していることを思い出した。ステージの重心はフロントにあるし、インティメイト(親密)な空気感があまりに自然なので、サラウンドスピーカーの存在を意識させないのだ。同じスピーカー4本の組合せだから当然とはいえ、各チャンネルがスムーズにつながり、特別なライヴの雰囲気を味わえた。

 

CD+BD『TO SAVE A CHILD/ERIC CLAPTON』
(Surfdog Records) 輸入盤

●演奏 : エリック・クラプトン、ネイザン・イースト、ダニー・ハリスン、ほか
●収録 : 2023年12月ロンドン
●本編 : 1時間9分
●音声 : リニアPCM2ch、ドルビーデジタル5.1ch、ドルビーアトモス
※そのほかBD『Live In Prague/Hans Zimmer』なども再生

BD『ジョン・ウィリアムズ ライヴ・イン・ウィーン』
(グラモフォン/ユニバーサル・ミュージックUCXG-1006)
¥5,500 税込

●演奏 : ジョン・ウイリアムズ指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団、アンネ=ゾフィー・ムター(Vn)
●収録 : 2020年1月ウィーン、楽友協会ホール
●本編 : 1時間55分
●音声 : DTS-HDMA2ch/5.1ch、ドルビーアトモス
●日本語字幕付き

 

 

瑞々しい音色で旋律を歌い上げる。重量級の低音も大きな魅力だ

 次に、ジョン・ウィリアムズ指揮のコンサート映像『ジョン・ウィリアムズ・ライヴ・イン・ウィーン』を聴き、ムジークフェラインの豊かな残響に包まれる快感に浸る。ウィーン・フィルの弦楽器群が奏でる音色に普段の定期演奏会より潤いが感じられるのは、どんな音量で聴いてもドライな音を出さないHORUS 6Bの美点だ。ムターの独奏ヴァイオリンは瑞々しい音色で旋律をたっぷり歌い上げ、弱音の美しさも堪能した。

 究極のサラウンド効果を狙ったライヴ音源も聴いてみたくなり、ハンス・ジマーの『ライヴ・イン・プラハ』を再生した。4本のスピーカーにほぼ均等に音圧を分配した映画「インセプション」のメドレーは、分厚いベースとスケールの大きなオーケストラが高揚感をもたらし、ステージと客席の一体感が半端ではない。隙間なく部屋を満たすサウンドを狙ってさらに音量を上げると、コンパクトなスピーカーにはあるまじき重量級の低音を繰り出す。部屋を揺るがすところまではいかないが、4.0chスピーカーが作り出すサラウンド音場の密度の高さは予想を大きく上回った。

 HORUS 6Bのステレオ再生だけでも充実したリスニング環境が手に入るが、もう1ペア追加すれば臨場感は一気に別次元に到達し、演奏の躍動感が飛躍的に高まる。ライヴ音源の再生では同じスピーカーを4本揃えるメリットが思いがけず大きいこともあらためて実感した。高額な大型スピーカーでは真似できない小型スピーカーならではの楽しみだ。

その他の視聴システム

●有機ELディスプレイ : パナソニックTV-65Z95A
●AVセンター : デノンAVC-A1H
●4Kレコーダー : パナソニックDMR-ZR1

 

>本記事の掲載は『HiVi 2025年冬号』