透明感

 2007年、熱心なオーディオ愛好家でもあったFang Bian氏によって、米国にニューヨークの地に産声を上げたハイファイマン(ブランドの設立は2017年)。彼が目指したのは、音質面で高級ホームオーディオ機器に見劣りしないポータブルオーディオ機器の開発。特に最終的な音質に大きな影響力を持つヘッドホンへの思いが強かったという。

 2009年、無垢材のイヤーカップが特徴的だったHE5が登場し、世界的に高い評価を獲得。以降、平面駆動型磁気ドライバーを採用した魅力的なヘッドホンを意欲的に開発し、同ブランドへの注目度は益々高まっている。なお2011年に中国南部に二つの工場を開設、その後、本社も中国、天津に移転している。

 ここで取り上げるHE1000 UNVEILEDは同社が最高峰として今年リリースしたSUSVARA UNVEILEDの開発で培った技術/ノウハウを積極的に生かして開発されたフルオープンバック(完全開放型)ヘッドホンだ。

 完全開放型としたのは、音波の反射、屈折による悪影響を排除するため。HE1000 UNVEILEDでは、優れたトランジェント特性、低歪み、素早い反応を追求するために、ナノメートル厚(100万分の1メートル以下)の振動板を採用しているが、どうしても反射して戻る音波の影響を受けやすい。そこでドライバー背面が手軽に開放できる着脱式バックカバーという手法を採用。

 また磁気回路についても、音波がマグネットを通過する際の干渉がほとんど問題にならないという特殊形状のステルスマグネットを組み込むというこだわりようだ。

 

Headphone
HIFIMAN HE1000 UNVEILED
¥456,500 税込
●型式 : 開放型・平面磁界型ヘッドホン
●質量 : 450g

 

Headphone Amplifier
GOLDENWAVE GA-10
¥255,500 税込
●型式 : ハイブリッド(真空管+トランジスター)型ヘッドホンアンプ
●寸法/質量 : W380×H110×D330mm/11.9kg

高品位なヘッドホンシステムで、シンプルかつ超ハイクォリティなAV再生を狙うために、ハイファイマンの最新の平面磁界型ヘッドホンをチョイス。最上位のSUSVARA UNVEILED開発で培った技術を用いたハイグレードモデルだ。ダイヤフラムが外側にも露出しており、開放感に優れた再生を実現。使用しないとき使う、振動板保護のためのカバーが付属する。アンプはハイファイマンのグループブランド、ゴールデンウェイブの新製品GA-10を用いた

 

●両モデルの問合せ先 : (株)HIFIMAN JAPAN EMAIL : info@hifiman.jp

 

 

その場の音に触れそうなほどの高い鮮度の表現力に驚く

 では早速、その音を確認していくことにしよう。なお今回はソース機器にマグネターのユニバーサルプレーヤーUDP900を用いてそのアナログ・バランス音声出力を、HIFIMANの傘下のアンプブランドであるGOLDENWAVEの10周年記念モデルとして登場した真空管ヘッドホンアンプGA-10に入力している。

 まずボブ・ジェームスのスタジオ・ライヴを収録したUHDブルーレイ『Feel Like Making LIVE!』(リニアPCM96kHz/24ビット音声)から「ロケット・マン」を再生してみたが、まずその音の透明感、響きの繊細さにドキッとさせられる。

 シンプルかつストレートな録音で、エルトン・ジョンの名曲を淡々と弾き進めていくが、ドラムスのハイハットとベースが的確にリズムを刻み、そこにボブの軽やかなピアノの響きが加わり、そのライヴ感の生々しいこと。手を伸ばせば、その場の音(演奏)に触れられるような、鮮度の高さだった。

 ザ・バンドが多彩なゲストとともに行なった解散ライヴを収めた音楽映画『ラスト・ワルツ』のUHDブルーレイから「ザ・ウェイト」を再生(リニアPCM48kHz/24ビット/2ch音声)。生きのいいピアノの響きがスッと立ち上がり、ステイプル・シンガーズの歌声は温度感があり、押し出しが強い。

 とは言え、単に明るく開放的に聴かせるというわけではなく、落ち着きのあるトーンで、響き、余韻、ニュアンスを冷静に描き出していく感じだ。低域は程度に締まり、音階の変化を鮮明に描き出す。強い個性を押し出すのではなく、音源の持ち味を素直に引き出すというまさに「ハイファイ」な高忠実度表現を地で行くようなタイプで、極端な味付けはない。

 

視聴したソフト

UHDブルーレイ『Feel Like Making LIVE!/ボブ・ジェームス・トリオ』
(evosound)

●収録 : 2018年10月8、9日ワシントン州 アーリントンSAGE ARTS STUDIO
●本編 : 1時間29分+特典27分
●音声 : リニアPCM2ch、Auro-3D、ドルビーアトモス

UHDブルーレイ『The Last Waltz/The Band』
(Criterion Collection)

●収録 : 1976年11月サンフランシスコ・ウィンターランド
●本編 : 1時間57分
●音声 : リニアPCM2.0ch、DTS-HDMA5.1ch

BD『ショスタコーヴィチ:交響曲第5番/小澤征爾指揮サイトウ・キネン・オーケストラ』
(NHKエンタープライズ14719AA)
¥7,480 税込

●収録:2006年9月長野県松本市松本文化会館
●本編 : 1時間49分+特典33分
●音声 : リニアPCM2.0ch、リニアPCM5.0ch、ドルビーデジタル5.0ch

 

 

総合的な表現力に優れている。音楽は当然、映画にも最適

 最後にクラシックコンサート。ブルーレイ『ショスタコーヴィチ:交響曲第5番/小澤征爾指揮サイトウ・キネン・オーケストラ』(リニアPCM48kHz/24ビット2ch)でも、持ち前の豊富な情報量は健在だ。ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバスと、柔らかな弦楽の感触を伴ないながら、響きの音の芯を明確に出し、しかも緻密な響きが大きな空間にスッと吸い込まれるように消えていく様子が新鮮だ。

 微小信号の描写力は傑出しているが、ディテイルを際立たせると言うより、繊細な質感を大切にしつつ、雰囲気よく聴かせる。複雑な空気の動きが感じ取れるほどの圧倒的な情報量で、ホールの気配や雰囲気が伝わってくる。いつまでも聴き続けていたい、と思わせるような心地よさだった。

 結論。HE1000 UNVEILEDは総合的な表現力が優れているため、音源による得意/不得意はなく、音楽ライヴはもちろん、映画再生でもその持ち味を素直に引き出す。アンプを選り好みするタイプではないが、GA-10との相性は極めて良好。この価格でこのクォリティは立派だ。

 

その他の視聴システム

●有機ELディスプレイ : パナソニックTV-65Z95A
●4Kレコーダー : マグネターUHDP900

 

>本記事の掲載は『HiVi 2025年冬号』