リンの最高峰システムでQobuzの実力を徹底的に試す

 リンの最高峰トータルネットワークシステム360 EXAKT SYSTEMでQobuzストリーミングを聴く。EXAKTはスピーカーユニットの直前で、ロスレス伝送されたデジタル信号をアナログに変換する、リン独自の伝送環境。リンが考える最も高効率でハイリニアリティな接続形態だ。360 EXAKT SYSTEMは司令塔のKLIMAX SYSTEM HUBと 360 EXAKTスピーカーの組合せのシステムだ。

 KLIMAX SYSTEM HUBは、構造的にはKLIMAX DSM/3からDACを省いたEXAKT専用ヘッドユニット。LAN、USB、HDMI、同軸/光と多くのデジタル入力を持ち、アナログ信号もデジタル変換(192kHz/24ビット)する。上面のボリュウムダイヤルも含めて機能的にはリモコンとなる。実際の音量調整は、スピーカー内部のDSPが行なう。ビット拡張、アップサンプリング処理、マルチユニットの帯域分割などの作業もスピーカー内で処理される。360 EXAKTスピーカーはブランド創立50周年を記念した、アクティブ4ウェイの新フラッグシップ。これらに加え、試聴には、スイッチングハブはデラS1-X-J、LANケーブルはエイムNA9を使用した。ストリーミング再生としては、斯界の最高級のシステムといえよう。

 360 EXAKT SYSTEMでQobuzを再生するアプリは「LINN App」。Qobuz以外のTIDALなど多くの配信サイトに対応。グローバルサーチ機能で、複数のサイトや自分のNAS音源からプレイリストがつくれる。ローカルファイルとストリーミング音源のシームレス再生が可能だ。

 

Network Audio System
LINN 360 EXAKT SYSTEM
¥20,900,0000(セット)税込

●360 EXAKT SYSTEMはKLIMAX EXAKT SYSTEM HUB(単体価格¥3,410,000税込)+360 EXAKT(単品価格¥18,700,000ペア/税込)の組合せ製品
●問合せ先:(株)リンジャパン TEL. 0120-126173

 

ラック最上段にKLIMAX EXAKT SYSTEM HUBをセット。ストリーミング音源は、デラのフラッグシップスイッチングハブS1経由で再生される。KLIMAX EXAXT SYSTEM HUBは、Exakt Link経由で360 EXAKTスピーカーに信号が送られる。KLIMAX DSM/3からDAC回路を取り除いた機器構成であり、EXAKT出力に専念するためのコンポーネントだ

 

圧倒的な情報量。クリーンで躍動的な低域再現。広大な音場空間再現。力強くナチュラルな音像描写。スピーカー再生に関わるどの要素をとってもリンのフラッグシップスピーカーの名に恥じない性能を誇るのが360 EXAKTスピーカー。本機はパワーアンプを搭載した大規模な4ウェイスピーカーだが、単にアンプを内蔵したアクティブスピーカーという存在にとどまらない。D/A変換、音響調整、音量調整、帯域分割など、様々な信号処理をすべてスピーカー内部で行なう。いわば「インテグレーテッドスピーカー」と理解すべき製品だ

 

 

 ではQobuz発進にふさわしいハイエンドシステムで、Qobuzストリーミング音源を試聴する。まず、Spotifyとの比較からはじめよう。ロッシー圧縮とロスレス圧縮音源の比較だ。

「アイ・キャン・シー・クリアリー・ナウ/ホリー・コール」(44.1kHz/16ビット/FLAC)

 Spotifyは320kbpsのロッシー圧縮音源、Qobuzは44.1kHz/16ビットFLAC、ロスレス圧縮音源となる。

 Spotifyは、ロッシー圧縮なのだから当然ではあるが、音質はそれなり。ベースのキレが鈍いし、空間の見渡しも曇っている。本音源には広くアンビエントに拡散する響き成分が含まれているのだが、その量はたいへん少ない。ホリー・コールのヴォーカルも鮮鋭感が薄く、フォルテが粗い。本作のもうひとりの主役、アーロン・デイビスのピアノも本来は高剛性で、キレが抜群なのだが、やはり弱い。リンの最高峰システムによるスーパーパワーを持ってしても、ロッシー圧縮の軛(くびき)からは逃れられない。

 Qobuzで聴く本曲はまったく違った。ハイレゾではないけれど、CDレベルとしても素晴らしい。音のヴェールを二、三枚剥がしたような鮮明さ。冒頭のベースのピッチカートの切れ味が鮮明。低音の塊感がリジッドになり、密度が稠密。弦のしなりも真に迫る。ベース音が消えゆく滞空時間も断然長い。ホリー・コールの声の表情に艶と奥行感があり、歌い回しの巧さもリアルに。気怠い色気も聴けた。

 アーロン・デイビスのピアノは確実にエッジが立ち、ブライトな進行が、曲に彩りを与える。立ち上がりも速く、音色感がカラフルに、粒子に輝きと彩度が増す。音場の見渡しが圧倒的に深く、透明度が高い。Spotifyで不満だった響き成分が空間に解き放たれる量も十分。もう横綱相撲で、比較にもならない。

「ルック・オブ・ラブ/ダイアナ・クラール」(96kHz/24ビット/FLAC)

 次にハイレゾ曲同士を他の配信サービスと比べる。Apple MusicはAirPlay経由となり本質的な比較はできず、Amazon MusicはLINN Appでは対応していない。そこで日本では未サービスではあるが、TIDALと比べる。

 『ルック・オブ・ラブ』はダイアナ・クラールの2001年の大ヒット曲。TIDALは表情がリッチで、感情が深い。声の艶と奥行感があり、歌い回しの巧さもリアル。ニュアンスも精妙で、思いの込め方も濃密だ。ピアノはタッチ感が確実で、音の粒子が躍動する。TIDALでは、まさにハイレゾらしい繊細さと音情報の豊穣さが、この名歌手独特の大人のテイストを色濃く感じさせてくれた。

 Qobuzも、実に魅力的だ。同じスペックで配信されている音源だが、TIDALと同様なのがピアノの清潔さ、オーケストラの厚みと深みだ。少し異なるのがヴォーカルの再現性。Qobuzはヌケがクリアーで天井が高く、階調が豊富でしかも木理が細かい。表面にある微細な凹凸模様が、耳触りを心地好くしている。ヴォーカルの輪郭は明確に描かれ、音のグラデーションも細やかにして、情感がたっぷりと聴ける。96kHz/24ビットのハイレゾらしさという点では共通しているが、細部の表現、特にヴォーカルのニュアンスが少し異なる。

 こうした差はどこから来るか。そもそもサーバー、伝送機器、途中経路が異なるのだから、たとえ同一の音源ファイルだとしても、アナログ波形に違いが生じ、ユーザーの手許の最終段階のアナログ変換部で変化が生じるのだろう。とはいえ、どちらのダイアナ・クラールも、たいそう魅力的であることには違いはない。

接続は図のように行なった。ルーター/S1-X-Jハブ、S1-X-Jハブ/KLIMAX SYSTEM HUBの間のLANケーブルはエイムNA9を用いた

 

 

名曲、名録音の感動を躍動的に描くQobuz×リン

 ではここからQobuz単独で様々な楽曲を聴こう。

「ジョン・ウィリアムズ:帝国のマーチ/ジョン・ウイリアムス指揮サイトウ・キネン・オーケストラ」(96kHz/24ビット/FLAC)

 サントリーホールらしい透明感の高い空間性と、大編成でありながら透明でヌケの良いソノリティが聴ける。空気感が清潔で、天井のヌケがクリアーだ。金管がくっきり、はっきりとし、同時に繊細なグラデーションを聴かせ、弦の剛性感も高い。左右に拡がった弦の低音部の量感も十分。深田晃氏の手による録音は音像位置が明確で、ステレオ効果も高い。細部までの丁寧な描写され、内声部のハーモニーの動きも、まさにスコアを見るように、あるいは手に取るように判別できる。奥に位置する音像への距離感も確実だ。比較せずとも、絶対的にQobuzの音はまことに素晴らしい。

「モーツァルト:オペラ『フィガロの結婚』序曲/クルレンツィス指揮ムジカ・エテルナ』(44.1kHz/16ビット/FLAC)※

 鬼才の『フィガロの結婚』序曲はアグレッシブで闊達、躍動、ハイスピード、溌剌……な演奏と評価が高い。強靭な表現意欲と、このテンポ感でなけれぱならないという強い思いが痛感される高熱量の音だ。俊速にして、細部の彫塑が行き届き、クルレンツィスが本曲に込めた意欲と強い意志がひたひたと伝わってくる。音場の眺めも抜群にクリアーで、広く、深い。手前から奥への方向に音場が立体的に展開し、その内部に各パートが確実に配置されている。木管群とヴァイオリン群の対比が鮮やかだ。Qobuzの音は剛性感と質感の高さが見事にハイバランスし、本作の美点を、最大限に再現している。

「テキーラ・サンライズ/イーグルス」(192kHz/24ビット/FLAC)

 冒頭のギターの粒立ちが良い。直接音と倍音、そして弦の間のハーモニーが豊潤だ。特に倍音方向の音情報が多い。明瞭度も高い。全体のヌケもすっきりとし、輪郭感がきちんと整い、レンジも広い。ベースの動きから倍音の様子まで、幅広い帯域で解像感が非常に高い。Qobuzからは情報量的な凄みだけでなく、音楽の情緒もたっぷりと感じることができた。

「BIRDS/Dominique Fils-Aime」(88.2kHz/24ビット/FLAC)

 冒頭のベース単音とハミングが静謐で、意味が深い。男女のデュエットは、まるでメロディを朗読するようなインティメイト(親密)さ。音場の透明感が非常に高く、センターに位置するドミニク・フィス・エメのヴォーカルは盤石で、左右の女性コーラスのハーモニーが明瞭で透明、心地好い。鮮鋭感も高く、拍手のキレが鮮明だ。クラップとベース、鳥の声を中心にして、これほどの躍動的なサウンドに仕立て上げたのに驚く。まさにハイレゾをシンプルに明瞭に実感できる名曲、名録音をQobuzは感動的に伝えている。

 

https://open.qobuz.com/playlist/25681048

ページ内で紹介した音源のプレイリストは上のQRコードからアクセスできる。ぜひQobuzのアカウント登録を行ない、貴方のオーディオシステムで体験していただきたい

 

ここでの再生は、リン純正のLINN Appで行なった。Qobuzの再生がLINN Appの中にスムーズに統合されている。Qobuzの日本サービススタート前からLINN AppでのQobuz再生はサポートされており、動作は極めて快適。ファイルフォーマットが異なる楽曲での切り替わりなどの際にノイズがでることもなく、非常に洗練されている

 

アースティスト名、楽曲名、アルバム名のほか、アルバムアートや再生フォーマットが一覧で表示される。そのほか、中央付近の丸マークを押すとアーティストの詳細情報が表示される。また楽曲名の右端にある点が3つ並ぶアイコンを押すと、プレイリストへの登録やトラック情報などのメニューが表示される

 

 

 リンの最高級ネットワークシステムでのQobuz再生で分かったことは二点。ひとつが、そのトップシステムを、遺憾なくフルワークで鳴らせる音源クォリティをQobuzは有していたこと、そしてリン最高峰システムがそのQobuzクォリティを最大限に再生したこと……である。

 この結論は、今後のネットワーク・セントリック(中心)時代においては、音源側の高音質ストリーミングと再生側の高品位システムの両軸が揃わなければならないことを明示している。そんなQobuzの発進を慶びたい。

>本記事の掲載は『HiVi 2025年冬号』