現在、ニューヨークを拠点に活動しているダンサーのマニーシュ・チャウハンを中心とするドキュメンタリー映画。彼はインドのムンバイに生まれ育ち、テレビのダンス番組で称賛を浴びた後、ムンバイのダンススクールでイェフダ・マオール(イスラエル系アメリカ人)からバレエを学んだ。強いバレエ愛と人間的信頼がうかがえるマニーシュとイェフダのやりとり、どんなレベルの生徒であっても妥協を許さないスクールでの風景、ケガの克服やスランプからの脱出、“ブラウン”の肌を持つ人間としてのバレエとの向き合い方などが、作品内で事細かく描かれていく。そして、英語を話せる、芸術に理解のある、お金を持つ後援者の存在がいかに重要であるかということも。

 監督・プロデューサーのレスリー・シャンパインは、自身も元バレエダンサーで、かつてイェフダのレッスンを受けた経験もあるという。つまりこの映画は「ダンスをわかっている者」が「ダンスをわかっている者」を主役にしたドキュメンタリーであるのだが、展開が非常に歯切れ良いので、私のように「ダンスに精通しない者」でも、なんというか、ひとつのレクチャーを受けたような充実した気持ちになってくる。と同時に、『ネネ -エトワールに憧れてー』(こちらはドラマ映画)を思い出し、非ホワイト・スキンの人々にとって、ヨーロッパで学ぶバレエというものがいかに高い壁の向こうにあるかを、またも思い知らされた心境だ。

 マニーシュが活躍の場をニューヨークに選んだのは、「エスニシティを生かした、創造的なダンス表現」が可能な多人種・多カルチャーのサラダボウルだからだろうし、結局それが快適に生きる道ということなのだろう。

映画『コール・ミー・ダンサー』

11月29日(金) 新宿シネマカリテほか全国公開

原題:Call Me Dancer/2023年/米/87分/5.1ch/HDサイズ/カラー/デジタル/字幕翻訳:藤井美佳/配給:東映ビデオ
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