フランス発の高音質音楽ストリーミングサービス「Qobuz(コバズ)」が、遂に日本でも楽しめるようになった。かなり以前から予告されていたこともあり、早く自分のシステムで楽しみたいと思っている方も多いだろう。そこで重要なのが、“どの機器で再生するか” だ。今回は山本浩司さんのオーディオルームにお邪魔し、Eversolo(エバーソロ)の「DMP-A8」で聴くQobuzの音質&操作性を確認していただいた。専用アプリに加え、Roon経由の操作で音が変化するか、という使いこなしにも挑戦している。(StereoSound ONLINE編集部、撮影:相澤利一)

ネットワークプレーヤー/プリアンプ:「DMP-A8」 ¥363,300(税込)

●ディスプレイ:6インチ・タッチスクリーン●内部メモリー:4GDDR4+64GeMMC●DAC:AK4191EQ+AK4499EX●オーディオプロセッサー:XMOS XU316●オペアンプチップ:OPA1612●SSDスロット:M.2 NVME 3.0 2280サポート 4Tバイトまで●接続端子:USB Type-A(USB3.0)×2、RJ-45(10/100/1000Mbps)●対応フォーマット:最大768kHz/32ビット リニアPCM、DSD512●対応ストリーミングサービス:Qobuz、Tidal、Highresaudio、Amazon Music、Deezer、RadioParadise、WebDAV、UPnP●接続端子:デジタル音声入力4系統(光×2、同軸×2)、UBS Type-B、ARC対応HDMI端子、アナログ音声入力2系統(XLR、RCA)、HDMI IIS出力、USB Type-A×2、デジタル音声出力2系統(光、同軸)、アナログ音声出力2系統(XLR、RCA)、LAN●寸法:W399×H90×D248mm

山本邸での取材時の接続。ソウルノート「S-3 Ver.2」とは、アコースティックリバイブのUSBケーブルで、リンの「KLIAMX LP12」とはXLRバランスケーブルでつないでいる。プリアンプ/パワーアンプとの接続にもXLRケーブルを使っている

 「来るぞ、来るぞ」と言われながら、なかなか日本上陸が果たせなかったフランス発の定額制高音質音楽ストリーミングサービス「Qobuz」が10月24日、ついに我が国にローンチした。

 CDスペック以上の高音質音楽ファイルを月々¥1,480で1億曲(!)以上聴けるというこのサブスク、少しでもいい音で音楽を楽しみたいというオーディオ感度の高い人たちの大きな注目を集めている。

 我が国ではハイレゾが聴ける音楽ストリーミングサービスとしてAmazonMusicが先行していた。しかしながら、ぼくたちにとって馴染深いオーディオメーカーの多くがAmazon対応できていなかったのはご承知の通り(その理由は色々あるのだろう)。

 しかしQobuzは違う。真摯に音質を追求しているオーディオメーカーの多くがQobuzと良好な関係を結んでいて、ここにご紹介するエバーソロのネットワークプレーヤー/ミュージックストリーマー「DMP-A8」もQobuz対応を果たしている。

今回発表されたQobuzのプラン

●試聴料金(税込)
Solo:1アカウントで試聴可能(月額¥1,480、12ヵ月返還不可サブスクリプション¥15,360)
Duo:2アカウントで試聴可能(月額¥1,980、12ヵ月返還不可サブスクリプション¥20,160)
Family:最大6アカウントまで使用可能(1ヵ月の無料体験後、月額¥2,080)
●ダウンロード可能なフォーマット
 DSD/DXD
 WAV/AIFF/ALAC/FLAC(192kHz/24ビット、96kHz/24ビット、ロスレス)
 WAV/WMA/AIFF/ALAC/FLAC(44.1kHz/16ビット、ロスレス)
 MP3/WMA/AAC(320kbps、128kbps、ロッシー)
※購入にはQobuzアカウントの登録が必要。

 ところでぼくは、10年近く前から高音質音楽ストリーミングサービス「TIDAL(タイダル)」を利用してきた(日本未サービス。海外アカウントを取得すれば我が国でも聴取可能)。またQobuzについても上陸後すぐにアカウントを取って、その音楽ファイルを日常的に楽しんでいる。

 そんなわけで「QobuzとTIDAL、どっちが音いいですか」と聞かれることが多いが、TIDALがMQAの他にFLACファイルでのハイレゾストリーミングを開始した現在、音質は甲乙付け難し、と言うほかない。

 というか、どちらのストリーミングサービスも、ネットワーク上流のノイズ対策をきちんと施せば、ディスク再生やローカルサーバーに保存した音楽ファイル再生と優劣を付けづらい高音質が得られると言っていい(ちなみに我が家ではネットワーク上流のノイズ対策として、光絶縁ツールや音質を吟味したネットワークスイッチを導入している)。

 また、Qobuzアプリで感心したのは、楽曲ごとに参加ミュージシャン、録音スタッフのクレジットが表示されること。これはデータを確認したい熱心な音楽愛好家から好感を持って迎えられるはず。まあいずれにしても、QobuzはAmazon Musicを凌ぐ高音質ストリーミングサービスとして今後我が国で定着していくことは間違いないだろう。

Eversolo Controlアプリの「音楽サービス」から「Qobuz」を選ぶだけで再生が可能(ユーザー登録は必要)

●専用アプリとRoon経由で、Qobuzの音に違いがあるか?

 さてここでのテーマは、今年日本での輸入販売が始まり、瞬く間に人気ブランドとなったエバーソロ(中国・深セン)のDMP-A8を用いて、ぼくの部屋でQobuzの音をさまざまに聴いてみようというものだ。

 DMP-A8は、フロントパネルに6インチのLCDディスプレイを備え、アンドロイドOSを用いたストリーマー。独自開発のオーディオエンジンを搭載し、アンドロイドOSの制約に縛られないハイレゾ再生が可能だ。入力切替えとボリュウム機能を内蔵しているので、ネットワークプレーヤー機能付プリアンプとして活用することもできる。

 また、発売後のファームウェアアップデートでRoonReady機となったのも注目ポイント。HDMI ARC端子も備えているので、リビングルームに置いてテレビとの連携を図ることもできる。

 普段ぼくはルーミンのネットワークトランスポート「U2」を使っているので、まずその使い方と同じようにDMP-A8とソウルノートのSACD/CDプレーヤー「S-3 Ver.2」をUSB接続し(S-3Ver.2のD/Aコンバーター機能を用いる)、まずはエバーソロの専用操作アプリ「Eversolo Control」を用いて、Qobuzの音楽ファイルを聴いてみた。

今回試聴した主な楽曲。Eversolo ControlアプリとRoonアプリのそれぞれで再生し、音の違いを確認している

 歌うジャズ・ドラマー、ジェイミソン・ロスの「ドント・ゴー・トゥ・ストレンジャーズ」(96kHz/24ビット、FLAC)を再生して実感したのは、そのやわらかでしなやかな音調。伸びやかなヴォーカルの質感のよさは、ふだん使っているU2以上かもしれないと思った。

 内田光子がクリーブランド管弦楽団を弾き振りした『モーツァルト:ピアノ協奏曲第17番』(96kHz/24ビット、FLAC)でも木管楽器のふっくらとした響きの美しさに感心させられた。ピアノの高音部も抑制されていて、音量を上げて聴いても聴き心地のよさは変わらないのも本機の美点だ。

 メロディ・ガルドーのベスト・アルバムから「Baby, I’m a fool」(96kHz/24ビット、FLAC)を聴いたが、ヴォーカルの濡れたような質感、親密さが好ましい。DMP-A8の魅力は、シャープさや鮮烈さを際立てない、穏やかでやわらかい、しなやかなサウンドにあると言えそうだ。

 次に、Roonの音声処理を行なう「Roon core」をインストールしたPCをネットワーク接続し、Roonアプリから先ほど聴いたQobuzの音楽ファイルを再生してみた(接続方法は同じ)。

Roonアプリから再生機器に「DMP-A8」を指定することで、簡単に操作可能。この手軽さも魅力だろう

 Eversolo Controlアプリでの再生と比べて、明らかな音の違いがあった。Roonで再生すると、よりハイエンドライクな再生音になったというべきか、先述したやわらかでしなやかな音調はそのままに、サウンドステージが一回り大きくなり、ローレベルのリニアリティの向上がリアルに実感できるようになるのである。つまり、音の消え際がより精妙に描かれるようになり、音楽の細部とニュアンスの表現が豊かになったという実感が得られるのだ。

 これはやはりRoonがRAAT(Roon Advanced Audio Transport)と呼ばれるノイズ面で有利な転送プロトコルを採用しているからだろうし、Roon coreにより多くのデジタル処理を任せて再生機器(ここではDMP-A8)の負荷を軽くしているからだろう。本格的なオーディオ機器、性能の高いスピーカーなどをお使いの方は、おそらくみなさんRoon再生の音質面でのアドバンテージを実感されるのではないかと思う。

 続いて、DMP-A8のアナログ出力の音もチェックしてみよう。本機にはRCAアンバランス出力の他にXLRバランス出力があるので、それを用いてぼくの愛用プリアンプ、オクターブ「Jubilee Pre」とつないでみた。この場合、本機の設定を、ボリュウムを通らないパススルーモードに設定しておくことが肝要だ。

Eversolo Controlアプリから、入力や出力の詳細な設定が可能。「ボリュームパススルーモード」のオン/オフもこのメニューから可能

 この状態で聴いたQobuzのハイレゾファイルの音は、予想以上の健闘ぶりだった。S-3 Ver.2のDAC回路を経由したUSB接続時と比較しても、音の厚みとか実在感で引けを取らない印象だ。注意深く聴くと、音場のスムーズな広がりや音数の多さでS-3 Ver.2とのUSB接続が優位という印象はあるが、これはこれでハイエンドオーディオとして通用する十分立派な音だ。

 次にDMP-A8のパススルーをオフにし、XLRバランス出力をオクターブのモノブロック・パワーアンプ「MRE220」と直結して鳴らしてみよう。つまり本機のプリアンプ込みの実力を確認してみようというわけだ。

 Jubilee Preという超本格派プリアンプ(約600万円です……)との比較となるので、やはりそこには大きな実力差があった。ステレオイメージが縮退し、音の力感が削がれる印象にはなるが、値段を考えたら比較するほうがどうかしているわけで……。

 DMP-A8のプリ出力は、中低域から中域にエネルギーが蝟集したサウンドキャラクター。聴き飽きしないオーソドックスな音と言っていいだろう。最近人気の高いアクティブスピーカーと組み合わせるのも面白いのではないかと思う。

ハイレゾストリーミングからアナログレコードまで、DMP-A8を様々なソースで試聴いただいた

 Qobuzを用いたハイレゾストリーミングの魅力が味わえるDMP-A8の仕上がりのよさを実感させられた今回の取材だったが、とりわけRoon再生時の高音質には感心させられた。ぜひ多くの方にお試しいただきたいと思う。

●ストリーミングとアナログの両方を、DMP-A8で!

 さてここからはアフター・アワーズ。DMP-A8のリアパネルを見ると、XLRバランス入力がある。そこでフォノイコライザー「URIKA」をビルトインしたぼくのアナログプレーヤー、リン「KLIMAX LP12」とつないでその音も聴いてみた。

 ラダー型のアナログ電子ボリュウムを採用したDMP-A8の場合、アナログ入力信号はそのままアナログ処理される模様で、その音も文句なくすばらしかった。レコード演奏らしい実体感に富んだ力強い音が聴けて、おおいに楽しんだ次第。

 音のいいアクティブスピーカーとつないだDMP-A8でアナログレコードを楽しみ、QobuzでハイレゾストリーミングをRoon再生する。再生機器はDMP-A8とアクティブスピーカーだけで完結するこの2ピース・スタイル、シンプルの極みでとてもスマート。力いっぱいお勧めしたい。

フォノイコライザーを内蔵したリンのアナログプレーヤーをDMP-A8につないでみた