ストリーミングの人気が高まるいっぽうで、レコードやCDなどディスクメディアの良さを見直す動きもある。ネット経由で好きな曲を聴けるのは便利この上ないが、手元に音源を確保してじっくり良い音を追求したいと考える音楽ファンも少なくないのだ。

 その需要に応えるために、高級機を中心にディスクプレーヤーはいまもそれなりのペースで製品開発が進められているのだが、入門機や中級機は以前に比べて製品数が減り、特にSACDが再生できるプレーヤーは選択肢が限られているのが現状だ。名録音のリマスター盤がリリースされるなど、再び注目が高まりつつあるSACDをこれから先も不安なく聴き続けたい。そう望む音楽ファンは少なくないと思う。

ディスク再生に加え、USB DAC、ネットワーク再生にも対応。さまざまな音源を楽しめる

 そんななか中国の深圳に本拠を置く中堅オーディオメーカーのシャンリン(SHANLING)から手頃な価格のCD/SACDプレーヤー「SCD1.3」が登場し、ディスク愛好家の注目を集めている。同社は1980年代後半に創業した歴史あるメーカーで、アンプ、スピーカーなどハイファイの幅広いジャンルで高い技術力を発揮してきた。日本市場でもDAPやイヤフォンなど多様な製品群を販売しており、モバイルオーディオとホームオーディオを幅広くカヴァーするブランドとして知名度が高まりつつある。

 現在、CD/SACDプレーヤーの心臓部を構成するチップセットやピックアップを供給する企業は限られている。SCD1.3では、信頼性を考慮してメディアテックのME1389EEと三洋電機製ピックアップ(HD870)を組み合せ、スムーズな動きのトレイローディング型メカドライブシステムを完成させた。セパレート方式のAKM製DAC(AK4191EQ+ AK4499EX)など最先端のデバイスを導入しながら、ディスク再生に加えてUSB DAC、ネットワーク再生にも対応するなど、既存のディスクプレーヤーの枠を超える用途の広い製品に仕上げている。RJ45端子は非搭載で有線LAN接続はできないが、Wi-FiをオンにしておけばLANにつないだNASを自動的に認識するなど、DLNA再生の使い勝手は良い。専用操作アプリ「Eddict Player」の完成度も高い。

 機能を増やすことで操作がわかりにくくなるのを避けるために、フロントパネルには大型のタッチディスプレイを導入した。さらに、Wi-FiとaptX HD対応のBluetooth、XLRバランス出力など一定のスペースが必要な装備を揃えているにもかかわらず、本体は280x280x110ミリとコンパクトで、フルサイズの製品に比べると設置しやすく扱いやすい。

 タッチディスプレイは上下のスワイプ操作で設定メニューを瞬時に呼び出せるほか、ディスク再生時はシンプルな経過時間表示、ファイル再生時はジャケット画像やアナログライクなVUメーターという具合に表示内容を選ぶこともできる。メインの用途はディスク再生だが、ファイル再生プレーヤーとしても楽しく使える工夫を凝らしているのだ。

 ボリュウムを内蔵しており、プリアンプとしても使えるので、アクティヴスピーカーと組み合せてミニマムな再生システムを狙うのもいいだろう。本体前面にはCDとSACDのレイヤーを切り替える専用ボタンを配置しており、再生中のレイヤーはボタンに内蔵したLEDの色で識別できる。赤はCD、青はSACDを表し、切り替えはとてもスムーズだ。ボリュウムダイヤル周囲の照明は色や明るさを自由に変えられる。

 SCD1.3は豊富な機能を実現している半面、SACD再生にギャップレス再生ができないという制約がある。それが問題になるのは一部の音源だけとはいえ、曲間に無音部がないライヴ録音や各パートを切れ目なく演奏するクラシックの作品では、曲が切り替わるときに音が一瞬途切れてしまうのだ。ピンク・フロイドの『狂気』やストラヴィンスキー『春の祭典』など、SACDで聴きたいディスクが手元にたくさんあるなら、その制約があることを頭に入れておきたい。なお、CDでは普通にギャップレスで再生できるし、ファイル再生も設定画面で「ギャップレス再生」をオンにしておけば問題なく連続して再生できる。

SACDは楽器の残響や弱音部まで引き出す

 SCD1.3を自宅の再生システムに接続し、CDとSACDで再生音を確認した。トレイの動きは高速でTOCの読み取り時間も短い。リモコンと本体タッチパネルどちらで操作しても待たされることはなく、まずは快適な動作に好印象を持った。ディスクの回転音は本体に耳を近付けなければ聞こえないレベルで、高速回転時に本体が振動することもない。

 CDで聴いた『アークブラス』の金管アンサンブルは演奏が始まる前のブレスから忠実に再生し、トランペット、トロンボーン、ホルン、テューバそれぞれの音色を正確に鳴らし分ける。この録音で重要なもう一つの要素は、岐阜のサラマンカホールの残響をどこまで引き出すことができるかという点。SCD1.3は木質のウォームな余韻をリアルに再現し、トロンボーンの鋭いアタックを保ちつつ、アンサンブル全体を柔らかい響きで包み込む。残響と溶け合うホルンや弱音で演奏するトランペットの柔らかい音色も聴き取れる。高音部が痩せ細ったり、鋭さを強調することがないのがSCD1.3の長所の一つだ。

 リッキー・リー・ジョーンズ『ショウビズ・キッズ』(CD)は骨太のベースと粒立ち明瞭なパーカッションがヴォーカルを支え、歌の表情とリズムの面白さを同時に味わうことができた。男声を加えたデュオで歌うクレッシェンドはテンションが高く、スタジオの高揚した空気や息遣いの生々しさを再現。整理されたきれいなサウンドにまとめるというより、演出を加えずディスクに刻まれた情報をそのまま音にするというアプローチを感じさせる。ディスクプレーヤーとして正統的な設計手法である。

 ジョン・ウィルソン指揮シンフォニア・オブ・ロンドンによるラフマニノフの交響曲第2番(SACD)は手前から奥への扇型に展開するオーケストラの楽器配置が立体的で、直接音とホール空間に広がる余韻が一体となって溶け合う様子も正確に再現した。CDレイヤーの再生音と聴き比べると、弱音器を付けた弦楽器の柔らかい感触やピチカートの余韻など、SACD再生のアドヴァンテージを明確に聴き取ることができる。ステージの遠近感や低弦や大太鼓の余韻の広がりなど、空間描写の水準はかなり高いと感じた。

 F.P.ツィンマーマンとヘルムヒェンによるベートーヴェンのスプリングソナタ(SACD)は、ヴァイオリンとピアノの関係を音量バランスと楽器配置ともに的確にとらえ、立体的なステージが目の前に展開した。このディスクでもCDレイヤーとの音の違いを積極的に引き出していて、SACDの方が音色と強弱の変化の幅が明らかに大きく感じられた。ヴァイオリンは中音域から高音域にかけて付帯音や歪みっぽさがまるで感じられず、勢いよく弾き切ったフレーズでアタックが飽和することがない。ツィンマーマンの長所である高密度でテンションの高い音色を正確に聴き取ることができた。ピアノは低音部の弦を斜めに重ねず平行に配置した特殊な楽器を使っているのだが、その平行弦ピアノならではの澄んだ響きもSACD再生ではもらさず引き出している。

ハイレゾ音源は音楽を立体的に聴かせる。SACD再生のハードルを下げてくれる注目製品

 ディスク再生ではSACDの長所を明瞭に聴き取ることができたが、ハイレゾ音源はどうだろうか。DLNA再生に切り替えてfidataのNASから再生したセリア・ネルゴール『マイ・クラウデッド・ハウス』(96kHz/24bit)は、スティールパン、ヴィブラフォン、キーボードがめまぐるしく動き回るリズムの動きが聴きどころのヴォーカル作品。錯綜したリズムの動きを見通し良く描きながら、バックグラウンドに挿入された立体的なエフェクトが広大な音場を再現し、安定したヴォーカルとの対比が実に鮮やかだ。たんに音数が多いだけでなく、各楽器の音の個性を正確に聴き分けられるのがハイレゾの良さなのだが、SCD1.3はその描き分けが実に上手く、立体的な音の動きを強く印象付ける。

 音の良いCD/SACDプレーヤーはフルサイズの高額なコンポーネントが大半で、手軽に楽しむにはハードルが高いと感じることが多かった。ハーフサイズに近いコンパクトなSCD1.3は、導入しやすく音も良いので、SACDのハードルを一気に下げてくれそうだ。

 

シャンリン SCD1.3
オープン価格(実勢価格¥240,000前後)

Specification
サイズ:W280×H110×D280mm ※脚の長さを含む
重量:5.7kg
消費電力:40W

プロセッサー:Ingenic X2000
DACチップ:AKM社 AK4191EQ & AK4499EX
USB入力:XMOS XU316
Bluetooth:5.0(受信機能のみ)
Bluetooth対応コーデック:LDAC / aptXHD / aptX / AAC / SBC
ディスプレイ:5.1-inch LG製タッチスクリーン(854px×358px)
コントロール:タッチスクリーン、物理ボタン操作 + ボリュームホイール、リモコン操作、SyncLinkリモートコントロール
入力系統(ソース):SACD / CD / USBドライブストレージ / USB DAC(USB-B)、Bluetoothレシーブ機能、 Wi-Fi(DLNA / AirPlay / NAS)/ SPDIF Coaxial & Optical
デジタル出力系統:I2S / SPDIF Coaxial & Optical (※SACD再生時はPCM 88.2 kHzに制限されます)
アナログ出力:RCA (Line-Out / Pre-Out) 、XLRバランス(Line-Out / Pre-Out)、6.35mmヘッドフォン

 

USBドライブ対応フォーマット:DSD(“.iso”,“.dsf”,“.dff”,doesnot support “DST”) / ISO / DXD / APE / FLAC / WAV / AIFF / AlF / DTS / MP3 / WMA / AAC / OGG / ALAC / MP2 / M4A / AC3 / M3U / M3U8 / OPUS USBドライブ対応サンプリング:32bit / 768kHz | DSD512 Native

 

 

シャンリン SCD1.3製品ページ

https://musinltd.com/Importbrands/769.html