ソニーが提案する、ブラビアシリーズを中心にしたサラウンドシステムの体験リポート、その後編をお届けする。今回はサウンドバーの「BRAVIA Theatre Bar」とホームシアターシステム「BRAVIA Theatre Quad」から合計3製品をピックアップ、オプションスピーカーを加えた発展型のパフォーマンスも確認させてもらった。(StereoSound ONLINE編集部)

サウンドバー:BRAVIATheatre Bar HT-A9000 (想定市場価格¥210,000前後)

●使用スピーカー:45✕90mmウーファー✕4、10mmツイーター✕2、22mmツイーター✕1、ビームツイーター✕2、46✕54mmイネーブルドスピーカー✕4、パッシブラジエーター✕2
●接続端子:HDMI入力✕1(eARC/ARC)、HDMI出力✕1
●対応ワイヤレス:IEEE802.11 a/b/g/n/ac
●Bluetoothコーデック(受信):AAC、SBC
●対応フォーマット:360 Reality Audio、ドルビーアトモス、DTS:X、リニアPCM(2ch/5.1ch/7.1ch)、MPEG-2 AAC、MPEG-4 AAC
●内蔵アンプ:S-Master HX(45W✕13)
●寸法/質量:W1300✕H64✕D113mm/5.5kg
●消費電力:62W(待機時3W)
※BRAVIA Theatre Bar HT-A8000(想定市場価格¥140,000前後)

麻倉 さてここまでは個人で楽しむためのワイヤレスネックバンドスピーカーでしたが、次はサウンドバーを聴かせていただけるんですよね。

尾木 BRAVIA Theatre Barを担当した商品企画の尾木です。ここからは「HT-A9000」と「HT-A8000」についてご説明します。

 2024年の進化ポイントとしては、サウンドバー単体で立体音響技術の360 Spatial Sound Mapping技術が使えるようになりました。従来モデルではリアスピーカーを追加しないと360 Spatial Sound Mappingが有効にならなかったのですが、今回はサウンドバーだけでこの効果をお楽しみいただけます。

 360 Spatial Sound Mappingは、お部屋の環境を測定し、空間内に複数のファントムスピーカーを創出するものです。メリットとしては、映画館のような広い音場を生成できる事と、ファントムスピーカーを理想的な位置に配置できることです。

 またバーチャル再生とも違って広いスイートスポットを実現できますので、部屋のどこにお座りいただいても立体環境を体験可能です。実際のリビングなどでは、なかなか理想的な位置にスピーカーを設置できませんが、そんな環境下でも最適なサラウンドを楽しんでいただけます。

麻倉 2024年モデルを単体で使った時と、リアスピーカーを追加した場合ではどんな違いがあるのでしょうか?

尾木 サウンドバー単体で360 Spatial Sound Mappingを有効にした場合は、主に前方にファントムスピーカーを創出します。ただし、従来モデルをバー単体で使った時よりも広い音場をお楽しみいただけますし、リアスピーカーを追加すれば、後方にもファントムスピーカーが創出されますので、包み込まれる体験がいっそう豊かになります。

麻倉 リアスピーカーを追加すれば、そこからイネーブルドスピーカーの情報も再現できるということですか?

尾木 サウンドバー単体でもイネーブルドスピーカーの情報を再現できますが、主に前方の情報になります。リアスピーカーを追加いただくと、後方の高さ情報も加わって、より広いサラウンド環境が生成できます。

 ハードウェア面では、前モデルより本体サイズがコンパクトになりました。同時にスピーカーレイアウトを見直して、音質もより、サラウンド感も改善されています。

 測定機能も進化しました。今回のモデルは「Sony|BRAVIA CONNECT」アプリから操作でき、スマホのマイクを使って視聴位置の測距・最適化が可能になっています。

橋本 BRAVIA Theatre Quadを担当した商品企画の橋本です。ここからは「HT-A9M2」について説明いたします。システムとしては前モデルの「HT-A9」と同様に、4本のスピーカー+コントロールボックスという構成です。

 ただし、HT-A9は2ウェイスピーカーでしたが、HT-A9M2では3ウェイスピーカーを採用して音質向上を図っています。またHT-A9のスピーカーは円筒形だったのに対し、今回は薄型スピーカーを採用しました。この価格帯の製品では、お客様がインテリアに合わせることを意識されるケースが増えてきます。そういった声にお応えできるよう、スピーカーを55mmまで薄くしてインテリアに馴染みやすいデザインを目指しました。

麻倉 HT-A9のスピーカーも壁掛けは可能でしたよね?

橋本 壁への取り付けは可能でしたが、スピーカーが出っ張るのが嫌だという声もありました。HT-A9M2では壁掛けはもちろん、スタンドも付属しておりますので、環境に合わせてお好きな置き方を選んでいただけます。

山本 本プロジェクトのリーディングを担当した山本です。ここからは、設計部の方から説明させていただきます。

加藤 音響設計の加藤です。先ほどご説明した通り、HT-A9000、HT-A8000はサウンドバーだけで360 Spatial Sound Mappingに対応しました。スピーカー構成は、HT-A8000が合計11基、HT-A9000は合計13基のユニットを搭載しています。

 両モデルとも、本体をスリム化しながら低域再現性を実現するために、ウーファーユニットを新開発しました。昨年モデルの「HT-A7000」「HT-A5000」はウーファーが2基でしたが、HT-A9000、HT-A8000は小さいサイズを4基搭載することで低域の再現性を確保しています。

 また、L/C/Rスピーカーのすべてが2ウェイ構成になりました。センターチャンネルはウーファー2基+ツイーターの2ウェイ3スピーカーで、L/Rチャンネルは2ウェイ2スピーカーです。L/R用のツイーターは小口径のハイレゾ対応タイプで、高解像度のサウンドを再現できます。センター用のツイーターは大口径でf0(最低共振周波数)が低いものを採用しており、豊かな声を再現できるように配慮しました。

 他にも上向きのイネーブルドスピーカーやサイドスピーカーを搭載しています。HT-A9000にはビームツイーターとパッシブラジエーターも追加され、さらなる音場拡大と豊かな低音の再現を狙っています。これらの改良によって、部屋の中のどの場所で、聴いても、クリアーで広大なサウンドステージを感じられる製品となっております。

 ブラビアとの連携機能としては、サウンドバーとブラビア内蔵スピーカーの両方から音を再現する「アコースティックセンターシンク」機能も進化しました。両者の音色をマッチさせることで、さらなる高音質を実現しようという狙いです。

 また「ボイスズーム3」機能も追加しています。これは対応ブラビアに搭載したAIで声の成分を抽出し、声の音量だけを大きくしたり、あるいはアナウンスを消したりできるものです。

HT-A9000の取材に協力いただいた方々。左から、ソニー株式会社 技術センター 音響システム技術部門 音響デバイス技術開発部 加藤智也さん、技術センター 音響システム技術部門 音響コア技術開発2部 増渕和典さん、技術センター 音響システム技術部門 音響デバイス技術開発部 國方直也さん、麻倉さん、共創戦略推進部門ホームエンタテインメント商品企画部 尾木加奈子さん、技術センター 商品設計第2部門 商品設計1部 山本 総さん

麻倉 ボイスズーム3は2024年ブラビアの新機能ですよね。それをサウンドバーと連携できるということですか?

加藤 はい。ブラビアの機能を、サウンドバーで拡張しようというものです。

増渕 音響設計の増渕です。本体サイズについては、昨年モデルと比べるとスピーカーの数が増えているので、基本的には大きくなる方向ですが、今回は音質に配慮した上で小さくしています。

麻倉 市場から、サイズを小さくして欲しいという要望があったんですか?

増渕 テレビスタンドの間に設置したいという要望があり、今回はそこに取り組みました。

 スピーカーとしての内部容積は確保しなくてはなりませんので、部品配置や回路部分にも工夫しています。また筐体を薄くすると剛性が落ちてしまいますので、材料にグラスファイバーを追加して、強度をキープしました。

 ユニットの数が増えているのでアンプの回路基板は大きくなります。そこについては、従来モデルではデジタルアンプのLCフィルターのコイルを横に並べていたのに対し、今回は基板の表裏の同じ位置に配置しています。これによりコイルの磁束をキャンセルさせる省スペース化と音質に配慮した設計に変更しました。

山本 デザインについては、空間に溶け込むというコンセプトで開発を行いました。本体の角に特徴的なアールを設けることで、前面から見た時に圧迫感がなく、流線的なデザインを実現しています。

 材質にも注目しました。全面布張りで、空間に対して自然に溶け込むようにという狙いです。音質や耐久性、品質全体のバランスを見ながら専用の布を選定しています。

ホームシアターシステム:BRAVIA Theatre Quad HT-A9M2 (想定市場価格¥330,000前後)

●スピーカー構造:フロント/リアスピーカー各2+コントロールボックス
●使用スピーカー
 フロント:85mmウーファー、60mmミッドレンジ、19mmツイーター、36✕79mmイネーブルドスピーカー
 サラウンド=85mmウーファー、19mmツイーター、36✕79mmイネーブルドスピーカー
●接続端子(コントロールユニット):HDMI入力✕1(eARC)、LAN端子
●対応ワイヤレス:IEEE802.11 a/b/g/n/ac
●対応フォーマット:360 Reality Audio、ドルビーアトモス、DTS:X、リニアPCM(2ch/5.1ch/7.1ch)、MPEG-2 AAC、MPEG-4 AAC
●内蔵アンプ:S-Master HX(31.5W✕16)
●寸法/質量:W289✕H275✕D55mm/2.4kg(スピーカー)、W160✕H56✕D160mm/770g(コントロールボックス)
●消費電力:スピーカー20W(ネットワークスタンバイ時1.1W)、コントロールボックス13W(ネットワークスタンバイ時2.8W)

中村 BRAVIA Theatre Quadのプロジェクトリーダーを担当した中村です。ここからは、「HT-A9M2」について紹介します。

 先ほど橋本から、HT-A9M2ではスピーカーの壁掛け設置をしやすいように工夫したと申し上げました。付属ブラケットも壁掛けとスタンド設置の両方で使えるようになっています。そこでは音にも配慮しており、壁掛け設置時には本体の上部に壁とスピーカーの間に隙間を作ることで、壁の振動を低減させるといった効果を持たせました。

長濱 音響設計を担当した長濱です。HT-A9M2では理想的な立体音響、全方位から音に包まれる体験を提供することを目指しています。

 第一に、360 Spatial Sound Mapping技術を用いて、スピーカー設置位置や視聴位置の測定を行い、理想的な位置にファントムスピーカーを創出します。さらにHT-A9M2では、部屋に応じた音響特性の補正も盛り込んでいます。

 HT-A9M2は4基のスピーカーとコントロールユニットから構成されていますが、すべてのスピーカーが同じ仕様なので、手軽に統一性とつながりのある音場を実現できます。さらにリスニングエリアをカバーするために、指向性の広いスピーカーユニットを採用しました。これらの要素が、理想的な立体音響の実現に寄与していくと考えています。

 スピーカー構造は、前モデルが2ウェイだったのに対し、今回はミッドレンジも搭載した3ウェイに進化しています。HT-A9では主にウーファーで声の帯域を再生していたのに対し、HT-A9M2ではミッドレンジユニットに受け持たせることで、声の明瞭度の向上を狙っています。

 ツイーター以外のスピーカーユニットをすべて新規に開発しましたが、そこでは広い指向性を意識しています。ユニットのレイアウトも、筐体構造も含めて指向性が最大化されるように最適化を図りました。

 もうひとつ、イネーブルドスピーカー用にスリムなユニットを開発しました。限られたスペースですが、ある程度の音圧は必要なので、振動板面積を確保した上で、薄型形状に収めています。

 ウーファーユニットも、薄型の筐体で豊かな低音が得られるような工夫を盛り込みました。豊かな低域を再生させるためには振幅量が必要ですが、その振幅量と薄さを両立できる構造を採用しています。

 磁気回路には大型ネオジムマグネットを使って、ボイスコイルもこの口径にしては大型の35mm径を採用しています。そういった部分で機動力を高くすることを狙いました。

麻倉 磁気回路自体も小さくなったんですね。

長濱 前モデルはフェライト磁石でしたが、今回はネオジムなので磁石自体が小さくできました。

 アップミキサー機能では、2ch音声をマルチチャンネルに変換していますが、特に注目いただきたいポイントとして声の音源分離機能を搭載しています。AIを使って人の声を抽出し、明瞭度高く再生できます。それによって声の聞き取りやすさと臨場感の向上を両立しました。

中村 その他のハードウェアの進化点としては、無線の安定性向上があります。HT-A9M2のスピーカーはすべて無線接続ですが、そこでの接続安定性の向上を図っています。

麻倉 通信ではWi-Fiを使っているんですか?

中村 Wi-Fiの無線帯域を使った独自規格です。まずチャンネルホッピングを進化させ、常に無線環境を監視して、通信状態が悪くなると空いているチャンネルに自動的に移行する機能を設けています。周波数帯域を40MHzから20MHzに変更することで、妨害電波と被りにくくするといったことも行っております。

 コントロールボックスには、新規に開発した無線モジュールを3種類搭載しました。ひとつはインターネットなどのネットワークに接続するモジュールで、もうひとつはワイヤレススピーカー用のモジュールです。こちらは送信出力の方を上げて、外来ノイズにも強くなるようにしました。3つ目が新たに設けた、無線監視用モジュールになります。スピーカー側では、アンテナを2本搭載して、水平偏波、垂直偏波から受信感度の高い電波を選択して、接続安定性の改善を図っています。

麻倉 妨害というのは、冷蔵庫や電子レンジなどを想定しているのでしょうか?

中村 それもありますし、最近はスマートフォンもWi-Fiにつながれますので、そういったケースも干渉してしまうことを想定しています。

 アンプ回路も、ユニットの増加に伴って増えています。ユニットごとに独立駆動するなど音作りの工夫もしており、音質部品に関してもHT-A9M2に最適化した形で、フィルムコンデンサーや低インピーダンスコンデンサーの選定を行っています。

國方 ではここから、サウンドバーの音を聴いていただきます。HT-A9000で、UHDブルーレイ『ボヘミアン・ラプソディ』のライブシーンを再生します。その後HT-A9000でアコースティックセンターシンクの効果もご確認下さい。『グレイテスト・ショーマン』チャプター10のパーティシーンでの声の違いをお聴きいただきたいと思います。

麻倉 確かにサウンドバー単体でのサラウンド感、イマーシブ感の再現性は向上していますね。前方の空間が中心にはなりますが、音に包まれるイメージを感じました。ただ、『グレイテスト・ショーマン』の冒頭部分の低音はもう少し欲しかったかな。特に拍手などが減衰していく時の質感がややあっさり気味に感じられました。このシーンは音の減衰時に豊かな情報が含まれているんだけど、そこが聴き取りにくかったのがもったいないですね。

 アコースティックセンターシンクの進歩も確認できましたし、いいところがかなりありました。まず従来モデルに比べて、声を含めた音声の一体感が向上しています。そもそもテレビ内蔵スピーカーの音には限界があるので、サウンドバーがそこを補ってくれるのは有用です。この機能自体は以前からありましたが、これまでの中で、テレビとの一体感は一番よかったと思います。

加藤 続いてHT-A9000単体で『グランツーリスモ』のチャプター8を再生します。その後に、リアスピーカー「SA-R5」とサブウーファーの「SA-SW5」を加えたシステムも体験いただきます。

麻倉 このシーンには、サウンドチェックに必要な要素がすべて入っています。特にリアスピーカーとサブウーファーを加えたシステムでは、主人公がエンヤの楽曲をイヤホンで音楽を聴いている時と、その後に音楽が実際の空間に広がった時の音場感の差がきちんと描き分けられていたし、音の密度感も向上しています。もうちょっと音数や情報量が増えてくると、低音の解像感もでてきて、さらによくなると思いました。

長濱 HT-A9M2にもボイスズーム3が搭載されていますので、この機能についてご確認ください。2chの野球放送からアナウンサーの声だけを小さくすることで、あたかもスタジアムにいるかのような包囲感が体験できます。なお今日は、サブウーファーのSA-SW5を追加した5スピーカー環境で再生します。

麻倉 確かに、声のボリュウムだけが変化して面白いですね。スポーツなどでは面白い使い方ができそうです。ただ、声を大きくするとそれに連動して全体の音量感も変化するので、そのあたりはうまく調整しないといけませんね。逆にAIで歓声だけとか、声だけを残すといった操作ができるといいですね。

Ht-A9M2の取材に協力いただいた方々。左から、ソニー株式会社 技術センター 音響システム技術部門 音響デバイス技術開発部 長濱幸雄さん、技術センター 商品設計第2部門 商品設計1部 中村祐喜さん、麻倉さん、共創戦略推進部門ホームエンタテインメント商品企画部 橋本琢磨さん

長濱 映画ソフトも再生します。先程と同じく、『グレイテスト・ショーマン』のチャプター1とチャプター10、『グランツーリスモ』のチャプター8を御覧ください。

 コントロールボックスにHDMIケーブルで音声信号を入力し、そこでドルビーアトモスや5.1chをデコード、360 Spatial Sound Mapping処理を行ってから再生するという流れになります。

麻倉 HT-A9M2は、音のまとまりが素晴らしいですね。低音から高音までバランスよく出ているので、そこは大きな魅力だと思います。とても真面目に作った音で、音場にも “真面目さ” が溢れています。

 一方でしっかりしすぎているが故に、もうちょっとワクワクさが欲しいところもある。現代の映画の音はとてもハイクォリティで濃い音ですが、それが少しあっさりするのがもったいないですね。

 例えば『グレイテスト・ショーマン』のチャプター10はヒュー・グラントの賭博師的なニュアンスやジェリー・リンドの上流階級らしさなど、それぞれのキャラクター性が声に出ているんだけど、そこがちょっと控えめになっていました。

 基本的な情報量や、包囲感の再現性は充分すばらしいので、後は映画の興奮、面白さみたいなところまで再現できるようになると、嬉しいですね。

長濱 なるほど、ワクワク感というのも映画サラウンドでは大切な要素かもしれません。次世代モデルについて参考にさせていただきます。