アメリカJBLから、イマーシブサウラウンドに対応したAVアンプが2モデル発売された。同ブランド初のカテゴリーながら、JBLらしい音の魅力を備えた注目モデルに仕上がっているという。今回は輸入元であるハーマンインターナショナルの視聴室にお邪魔し、同じくJBLのホームシアター向けスピーカー「Stage 2」シリーズと組み合わせたパフォーマンスを探ってみた。(StereoSound ONLINE編集部)

●AVアンプ:JBL MA9100HP ¥253,000(税込)
●仕様:9.2ch
●定格出力(20Hz〜20kHz、2ch駆動時、最大0.5%THD):140W(8Ω)
●接続端子:HDMI入力6系統(8K✕3、4K✕3)、HDMI出力2系統(1系統eARC)、デジタル音声入力2系統(同軸、光)、アナログ音声入力2系統(RCA)、フォノ入力(MM)、USB Type-A、LAN、サブウーファー出力2系統、ゾーン2出力2系統、他
●寸法/質量:W432×H135×D396.4mm/7.6kg
※7.1chモデル MA710 ¥121,000(税込)

 米国を代表するスピーカーメーカー、JBL。オーディオファンならこの名前を知らない人はいないと思う。1946年に産声を上げ、既に78年の歴史を持つブランドだが、これまで彼らは専らスピーカー作りに注力して来た。1970年代に入り、自社のスピーカーをドライブするためのアンプは手掛けたものの、それ以外のジャンルには脇目もふらなかった。

 近年経営形態が変わってからは、イヤホン、ヘッドホンやサウンドバーといったジャンルも手掛けており、その変貌には目を見張る。例えば「TT350 Classic」もその一例だ。JBLにとって初となるアナログプレーヤーだが、それでも1960年代の黄金時代を知る人にとっては、オーディオくくりとしてなんとなく許せる範囲である。さらにCDプレーヤー「CD350 Classic」も、時代的な背景は別にして、じっくり聴いてみたいという気分にさせてくれるモデルでもあった。

 それではAVアンプはというと……これはもう突然変異としか言いようがない。そして実際に、その “突然変異” が起こったのだから驚いた。グループ企業ARCAM(アーカム)との共同開発とのことだが、この秋の新製品としてJBLブランドから「MA710」と「MA9100HP」の2モデルがリリースされたのだ。

 今回は上位機のMA9100HPを視聴してきたので紹介する。まず、そのデザインと仕様に驚かされた。一般的にAVセンターはダークカラー、もしくはシルバー系の仕上げが多いが、今回の2モデルは、掟破りともいえるラテ(ホワイト系)での登場である。ボリュウムのノブや入力切り替えのつまみもラテ仕上げで、素材には樹脂が使われている。

MA9100HPは本体下部にLEDを搭載し、ライトアップも可能。照明の色が選べるほか、ディマー機能も備える

 さらにユニークなのが、フロントネル下部に照明が仕込まれており、フロントパネルのインジケーター同様、JBLカラーであるオレンジにほんわかと光るのである。またアプリから紫やブルーなど異なる色も選択できる。

 「ちょっとばかり演出が過ぎるんじゃないの?」と担当者に尋ねると、「リビングで使うことを前提にしているので、エンタテインメント性を盛り込んだ結果です」との返事。いやはやこれまでにない発想だなと感心したが、インジケーターについてはちゃんと消灯もできるように設計されているので、本格シアターでも心配は無用ということだ。

 ちなみに最近のAVアンプで多く搭載されているオートセットアップ機能は付いていないので、距離やレベルの設定はマニュアルで行なう。こういった合理的な設計は、コストとの関係からなのだと思う。

 技術的な背景は明かされていないのでDSPやDACの詳細は不明だが、このあたりはアーカムの製品と共通と考えていいだろう。パワーアンプブロックはクラスD増幅アンプによる9chチャンネル構成で、強化されたスイッチング電源で駆動されている。アナログ出力はサブウーファー用✕2とZone2という簡潔な作りで、あくまでも本機一台で最大5.2.4/7.2.2の3Dオーディオ再生をまかないたいという思いが現れている。

取材はハーマンインターナショナルの試聴室にお邪魔し、JBLのStage 2シリーズとの組み合わせで行った

 イマーシブフォーマットはドルビーアトモスとDTS:Xに対応し、AURO-3Dには未対応。この他にネットワーク機能を装備しており、Spotify ConnectやTIDAL Connect、AirPlayなども楽しめる。

 今回視聴には今年の7月に登場したStage 2シリーズから、AVアンプと同時期に追加されたラテカラー仕様のモデルを使った。フロントには「STAGE 280F」を、センターには「STAGE 245C」、サラウンドに「STAGE 260F」、トップスピーカーには「STAGE 240H」✕4、サブウーファー「STAGE 200P」✕2という5.2.4システムというラインナップである。

 最初に、19世紀に活躍した興行師P・Tバーナムの生涯を描いた『グレイテスト・ショーマン』のUHDブルーレイから、オープニングとch(チャプター)12のジェニー・リンドがニューヨークの歌劇場で歌を披露するシーンを再生してみた。

 アグレッシブさはあるが、正直なところ粗さも目立つ。ディテイル表現はあまり得意とは言えないようだが、それ以上に躍動感を伴った音の表情を描き出す。読者がどんなイメージの音をJBLに抱いているのかわからないが、全体にはこうした部分にJBLらしい部分がよく出ているようにも思った。

 続いてアダム・ドライバーが主演を務める『フェラーリ』を視聴したが、イタリア全土を縦断する過酷なロードレース、ミッレミリアのシーンにおけるフェラーリとマセラティの排気音の違いがよくわかるし、ダイアローグも若干の太くはなるもののハリウッドらしいニュアンスが聴きとれる。

7.2ch対応の弟機「MA710」も展示されていた。こっちもかわいいね、と潮さん

 アニメーション作品『ブルー・ジャイアント』を再生すると、“やっぱりJBLにはジャズがよく似合う” と思わせる(AVアンプであってもそういう感じがする!)。

 『グレイテスト・ショーマン』同様に、ややもすると大味に感じられるところもあるが、逆にその大胆さが堪らないというファンもいることだろう。まさに、“この価格帯で驚異のサウンド” と言ってもいいほど、ダイナミックな表現力でこちらに迫ってくる。Stage 2シリーズスピーカーとの相性もよかったということだろう。

 映像出力はAVセンター経由でディスプレイにつないでいるが、8K対応を謳っているだけに画質の劣化は少ないように感じた。

 ドルビーデジタルが立体音響の新たなる幕開けを告げた頃、米国にはランコやエンライテッド・オーディオデザイン、プロシードと言った錚々たるメーカーがAVアンプでしのぎを削っていた。MA9100HPはそんな時代の再来を思わせる、国産モデルとは一味違うエンタテインメント性の高いサウンドが楽しめるAVアンプである。

リビングにも馴染むカラリングで、心地いいサラウンドを再現!
JBLのStage 2シリーズに新色ラテが追加

 今回の視聴は、MA9100HPとJBL Stage 2スピーカーシリーズの組み合わせで実施した。AVアンプと一緒にラテカラーが発売され、リビングでも違和感のないサラウンド環境を構築できます、という提案が行われている。

●Stage 2シリーズのラインナップ
STAGE 280F ¥165,000(ペア、税込)
STAGE 260F ¥136,400(ペア、税込)
STAGE 250B ¥55,000(ペア、税込)
STAGE 240B ¥40,700(ペア、税込)
STAGE 245C ¥55,000(1本、税込)※センタースピーカー
STAGE 240H ¥55,000(ペア、税込)※イネーブルドスピーカー
STAGE 200P ¥68,200(1本、税込)※サブウーファー

取材時のフロントサイド。フロントL/RはSTAGE 280F WHT、センターがSTAGE 245C WHT、サブウーファーはSTAGE 200P WHTの2本使いという構成

トップスピーカーには、STAGE 240H WHTをライティングレールに取り付けている。STAGE 240Hシリーズは本体スイッチでイネーブルドと通常のスピーカーモードを切り替えが可能で、今回は通常モードで使っている

フロアー型スピーカーのSTAGE 280FやSTAGE 260Fには、イネーブルドスピーカーと組み合わせるためのスピーカー端子も用意されている。STAGE 280Fの本体下部の端子にイネーブルドスピーカー用の信号をつなぎ、上側の出力からその信号をSTAGE 240Hに送り出す仕組みだ