テクニクスから、ワイヤレスアクティブスピーカー「SC-CX700」(¥352,000、ペア、税込)が今月下旬に発売される。同ブランド初のワイヤレススピーカーで、しかもプレミアムクラスから登場したということもあり、注目を集めているモデルだ。

左がテラコッタブラウンで、右がチャコールブラック

 そして昨日、そのSC-CX700の音を体験できる製品説明会が開催され、パナソニック株式会社 テクニクスブランド事業推進室 室長の小川理子さんから改めてSC-CX700の概要が紹介された。

 テクニクスは2014年のブランド復活から10年が過ぎた。その間様々な製品ジャンルで、デジタル技術を駆使して従来のアナログ技術では達成できなかった進化を実現してきたという。そして今回のSC-CX700では、それらの知見、体験を凝縮して次世代に届ける新しいハイファイオーディオを目指している。

 テクニクスでは2014年にブランドメッセージとして “Rediscover Music” を提唱した。これは音楽を愛するすべての人に、再び心を震わせる喜びを届けたいという思いが込められており、それは今でも変わらないそうだ。

パナソニック株式会社 テクニクスブランド事業推進室 室長の小川理子さん

 一方で音楽の楽しみ方は、この10年で大きく変化している。実際に音楽ストリーミングでのサブスクリプションの売上は2014年から2023年の10年間で13倍以上、アナログレコードも6倍以上に伸びており(日本オーディオ協会調べ)、テクニクスではこれらのライフスタイルに合わせた選択肢を提供するそうだ。

 小川さん自身も1980年代後半からテクニクスに関わっており、ブランド復活の際にもアナログレコードプレーヤーをどうやって復活させるかで悩んだ経験があるそうだ。その時に、なぜ今アナログが人気なのかについて20〜30代のスタッフに理由を聞いたことがあったそうだ。

 そこでのキーワードが “新鮮” で、フィジカルメディアに触れてレコードに針を落とすという経験がなかった世代にはその行為がクールで格好いいと感じられていた。小川さんは、こういった普遍的な価値はどの世代にも伝わると確信し、テクニクスのレコードプレーヤーも復活させたわけだが、これはオーディオ業界にとっても良い結果につながったと思っているそうだ。

 実際に今のテクニクスには、若い世代でオーディオが好きなスタッフも多く集まっているそうで、彼らを中心にネクスト・ジェネレーションのハイファイを考えるプロジェクトをスタートしている。そこで30〜40代にとっての次のハイファイ、ちょっと憧れる、上質で豊かな生活がイメージできる製品を検討していく中で出てきたのが、ワイヤレスアクティブスピーカーシステムだったそうだ。

 さらにこのジャンルであれば、テクニクスがこれまで開発してきた技術を凝縮し、最高の形でユーザーに届けることができるという提案もあった。具体的には自宅にオーディオを置こうと考えた場合に障害となるケーブルを排除し、さらに暮らしの中に溶け込むデザインも実現している。

 ワイヤレス・オーディオ製品はテクニクスとして初めてだったが、そこでも新しい領域に踏み込み、ストリーミングやLANといったデジタル伝送だけでなく、アナログレコード用のMMフォノ入力も装備した。同ブランドが持つスピーカー、アンプ、信号処理の各要素を理想的にパッケージ化しており、日本の精緻な物作りがあってこその仕上がりになっているとのことだ。

パナソニック株式会社 テクニクスブランド事業推進室 商品開発部 CTOの奥田忠義さん

 その物作りについては、テクニクスブランド事業推進室 商品開発部 CTOの奥田忠義さんから説明があった。まず、シンプルな構成でハイクォリティな音を楽しんでもらいたいということで、L/Rスピーカーはワイヤレスで接続可能として設置性を向上させている(無線接続時は96kHz/24ビットまで。有線LANでつないだ場合は192kHz/24ビットで伝送)。

 次にデザイン面では旭化成の人工スウェード調の素材である「Dinamica」を採用した。これは再生材料を使った素材で、手触りがよく、落ちついた印象の外観に仕上げられている。国内ではテラコッタブラウンとチャコールブラックの2色が準備される。

 さらに技術面では、「Technics Orchestration Concept」も盛り込んでいる。これはテクニクスが培ってきたスピーカー、アンプ、信号処理技術をパッケージ化したもの。

SC-CX700の内部構造。通常はエンクロージャーの内部にアンプなどの回路を入れることが多いが、本機ではスピーカー部分と電気部分を物理的に分け、間に空気層も挟むことで振動などの影響を抑えている

 第一にはアクティブスピーカーの理想的な内部構造として「Acoustic Solitude Construction」を採用。一般的なアクティブスピーカーはエンクロージャーの中に電気回路をセットしているが、それでは電気回路も音の振動の影響を受けてしまう。SC-CX700では内部をふたつの空間に分け、さらに間に空気層を設けて振動を排除、同時に放熱も行っている。

 独自のMBDC(Model Based Diaphragm Control)も搭載する。小型スピーカーで豊かな低域を再生するには振動板の大きなストロークが必要になるが、それに伴ってエッジの突っ張りや磁束の不均一に由来する高調波歪みが発生してしまう。

 MBDCはレーザー変位計で振動板の動きを測定、理想的な振動板の動きと実際の動きの差分を検出して、逆特性をスピーカーに入れ込むことで高調波歪みを排除している。これはまさに、アンプ内蔵スピーカーだからこそできる技術だ。

 SC-CX700は同軸型ユニットを採用しているが、そこには新開発のリング型ツイーターを搭載している。従来のドーム型よりも軽量で音の立ち上がりと収束が速いとかで、今回は中央部にLinear Phase Equalizerを搭載して理想的な球面波の再生も可能になったそうだ。振動板もSmooth Flow Diaphragm技術によりツイーター振動板からエッジ、バッフル面までなめらかで障害物のない形状を実現している。

 他にもエンクロージャー内部に設置用バッフルを設けて、ユニットを重心位置で支える重心マウント構造や、航空機の翼断面形状に着目して空気の流れを最適化するSmooth Flow Portも採用する。

 もうひとつ、エンクロージャー内部の圧力分布解析に基づいてポートの開口位置を調整することで吸音材を使わずに定在波のピークディップの影響を排除している。吸音材は定在波以外の音も抑えてしまうことがあるが、この方法により情報量豊かな中低域を再現できているそうだ。

 なおSC-CX700は片方のスピーカーに各種入力や信号処理回路、パワーアンプ、電源回路を、もう片方にはD/A変換部とパワーアンプを搭載しており、どちらをL/Rスピーカーに使うかはリアパネルで設定できる。

 パワーアンプには独自のJENO Engineを搭載しており、それを含めた回路はすべて独立基板が使われている。またパワーアンプ部と信号処理部に独立した電源を奢るなど、単品コンポーネントで培った技術が投入されている。

 接続端子は有線LAN、USB Type-C、光デジタル入力、フォノ入力(MM)、3.5mmアナログ入力で、さらにHDMI端子も備えている。このHDMIはARCに対応し、そこではネットワークオーディオアンプ「SU-GX70」などで使われているHDMIの高音質化技術も盛り込まれている。

 ここからSC-CX700を使った試聴タイムがスタートした。会場には、ハイレゾとアナログレコードを楽しめるシステムを設置、L/Rスピーカー間はワイヤレスでつないでいる。ミュージックサーバーは「ST-G30」、レコードプレーヤーには「SL-1500C」が使われている。

 ST-G30に保存したジェニファー・ウォーンズの44.1kHZ/16ビット音源を再生すると、ひじょうにクリーンで透明感のあるヴォーカルが再生される。ウーファーサイズが15cmということもあり、朗々とした低音再生というわけではないが、低音感と高域再現のバランスのいい、整った空間を再現している。

 続いて特別デモとしてMBDCのオン/オフでの音の変化を聴き比べさせてもらった(製品版はMBDCは常時オン)。リッキー・リー・ジョーンズの「POP POP」では、MBDCオフでも1990年代らしいにぎやかさ、軽妙さを楽しめるが、MBDCをオンにすると楽器の混濁感がなくなり、音場の抜けも向上する。子どもの声の響き方が大きく変わって、音の要素にフォーカスが合ってくる印象だ。ヴォーカルの奥行感も増している。

会場にはテクニクスのミュージックサーバーやレコードプレーヤーと組み合わせたシステムも準備されていた

 続いてSL-1500CをSC-CX700に直結したアナログ再生の音を聴く(SC-CX700の内蔵フォノイコライザーを使用)。

 メロディ・ガルドーは、これがアナログ再生かと思うほどクリーンで、どちらかというとハイレゾ音源っぽい現代的なサウンドで再生される。わずかにヒスノイズがあるが、情報量も豊かでとにかくS/Nが高い。さらに玉置浩二のライブ盤から「メロディー」をかけてもらうと、ライブらしい残響感、ホールの空間感などのディテイルをきちんと描きつつ、玉置さんの憂いを帯びたヴォーカルが綺麗に再現されてきた。細かい情報やニュアンスも聴き取ることができた。

 SC-CX700は、デジタルファイルからアナログレコードまでクリーンで綺麗な音として聴かせてくれる。上記の通り低音再生は欲張っていないが、サブウーファー出力も備えているので、もっと迫力がほしいという場合はこれを活用してもいいだろう。

SC-CX700はMMフォノイコライザーも内蔵しており、レコードプレーヤーを直接つないでLPを楽しめる

 さて、体験会の最後のQ&Aタイムで、小川さんにSC-CX700についていくつか質問をしてみた。

 まずSC-CX700をワイヤレスシステムとしては高級ゾーンとも思われる¥352,000(税込)という価格帯で発売したことについて尋ねてみた。

 「価格については難しかったのですが、“ワイヤレスは音が悪い” という発想を変えないと、この先50年、100年のオーディオの新しい世界を切り拓いていけないんじゃないかと考えました。

 “ワイヤレスでもハイファイ” というテーマを達成するために、妥協しないで技術を入れ込むということで、この価格帯になりました。日本の製造業が頑張って、価値の高い製品をちゃんとした価格帯でやっていかないと、日本もしんどいなって思いますので、ここは頑張りました」と小川さん。

本体表面には、旭化成の人工スウェード調の素材である「Dinamica」を採用

 さらに音作りについて、若い世代が中心になったことでどんな変化があったかも聞いてみた。

 小川さんによると、「SC-CX700では若い世代のエンジニアが中心になって製品づくりを行いましたので、音にも彼らの考えが反映されていると思います。ガッツがあるというか、テクニクスとして担保しないといけない音のクォリティも確認しつつ、若干ながらそういった設計者の意向も入っているのかなと思っています」とのことだった。

 さらに奥田さんも、「音がフレッシュなことかなと思っています。クリアーでありながら、質感を高く保っている部分が新しいと思います」と話していた。

SC-CX700は左右のスピーカー(任意にアサイン可能)の間はワイヤレスでも伝送でき、電源ケーブルをつなぐだけでストリーミングサービスなどを楽しめる

 加えて小川さんから、「音作りについては厳しいトレーニングをしているんです。“上質な音” って何なのかっていうのをちゃんと解釈して、自分なりの考えを持って欲しいと思っています。その上質とは、音が出た瞬間の生命力、エネルギー感や、聴き続けても飽きが来ない、もっと聴きたいと思ってくれるものでしょう。

 また今回はワイヤレスと有線で音を比べた時も、どっちがいいかじゃなくて、どっちもいいというレベルを目指しています。昔からのオーディオマニアの方もワイヤレスで大丈夫だって言ってくれるくらいのとこまで突き詰めたということは、若い人たちの一生懸命さが出た結果じゃないでしょうか」という説明があり、SC-CX700の完成度に自信を持っていることがうかがえた。

 またストリーミングに対応した製品ということもあり、先日サービスを開始したQobuzへの対応はどうなっているかという質問もあった。こちらについてはファームウェアアップデートを考えているようで、近日のリリースを目指したいとのことだった。