DTSジャパンは本日、「IMAX Enhanced Sound by DTS:X」の体験会を開催した。DTSは今年1月のアメリカ、ラスベガスのCESにおいて、動画配信サービスのDisney+がDTS:X音声による配信をスタートすると発表していた。Disney+のコンテンツのうち、「IMAX Enhanced」のタグのついたタイトルについて、一部作品の音声がDTS:Xで配信されるというものだ。

dts japanの視聴室にセットされた再生システム

 実際に今年5月には、北米でIMAX Enhancedによる『QUEEN ROCK MONTREAL』の配信がスタートしたとアナウンスされたが、日本での再生方法や対応機器については発表がなく、Amazon Fire TVなどからDisney+の該当コンテンツを再生してもDTS:X音声で再生することはできなかった。今回の体験会ではそれらの現状について詳しい説明がなされるとともに、実際に配信コンテンツを使ったデモも行われている。

 まず、dts japan(株)マーケティング担当の津司紀子さんから、IMAX Enhancedについての紹介があった。IMAX Enhancedは、2019年に日本でのサービスを開始した配信プログラムで、IMAX独自の映像、サウンド、スケールを家庭で唯一体験できるものとなる。同社ではそこには3つのテーマを込めているそうだ。

 その第一は「IMAGE」で、ここでは色鮮やかで格調の高い映像を目指すという。第二が、迫力ある低音再生を実現する「SOUND」で、配信ではここでDTS:Xのフォーマットが使われることになる。第三は「SCALE」で、IMAX独自のアスペクト比を活かした迫力ある映像だ。いずれも映画製作者の意図を、劇場からそのままホームシアターに届けたいという思いが込められている。

 IMAX Enhancedは、本日時点では「Disney+」「SONY PICTURE CORE」「Rakten TV」など6つの動画配信サービスで採用されており、このうち日本でサービスを展開しているのはDisney+とSONY PICTURE COREのふたつとなる。今回はDisney+を使って体験デモが行われている。

 では実際に日本でIMAX EnhancedをDTS:X音声で楽しみたいと思ったらどうすればいいのか? 今回はそのためのステップも紹介された。

 まずIMAX Enhanced + DTS:X音声を再生するには、対応テレビとAVアンプ/サウンドバーが必要となる。

 対応テレビとは “DTS:X対応のIMAX Enhanced認証Android/Googleテレビ” で、具体的には今年発売されたソニー「BRAVIA9/8/7」「A95L」シリーズやXiaomiの「S Mini LED」シリーズ、TCLの「C755/855」「X955」シリーズとなる(XiaomiとTCLの製品はアプリのアップデートで対応予定)。AVアンプはデノン、マランツ、オンキヨー、パイオニアの主要モデルが、サウンドバーはソニー「BRAVIA Theatre Bar」シリーズが対応済みという。

 IMAX Enhancedについては、津司さんの説明にもあったように劇場の体験をホームシアターで再現することを重視しており、絵と音をセットできちんと提供したいという思いも強かったようだ。現状の再生環境がテレビを核として設定されているのも、映像品質をきちんと担保したうえで音声を提供するという考え方なのかもしれない。

 上記の対応テレビとAVアンプ/サウンドバーをHDMIケーブルで接続し(eARC)、Disney+のアプリを立ち上げてIMAX Enhancedのコンテンツを選ぶと、初回にはDTS:X音声を再生するかの確認メッセージが表示される。ここでDTS:Xを有効にしておけば、以後は自動的にDTS:X音声が選ばれる仕組みだ(オプション操作で切替えも可能)。

 なお現時点で日本のDisney+でDTS:X音声で視聴できるIMAX Enhancedコンテンツは上記のQUEENの他にマーベル作品(『ドクター・ストレンジ』『アベンジャーズ/エンドゲーム』など)の合計17タイトルとのことで、同時にDisney+のプレミアムプラン(月額¥1,320、税込)で契約している必要がある。

 そして今回は、IMAX Enhanced対応テレビやAVアンプを発売しているメーカー担当者も同席しており、各社製品の特長も紹介された。

ソニーの2024年モデルでは、これら7シリーズがIMAX Enhancedに対応している

 まずソニー(株)共創戦略推進部門 パートナー戦略部 宮川琴恵さんから2024年TV/Home Audio製品についての説明が行われた。ソニーの2024年IMAX Enhanced対応ラインナップはBRAVIA、サウンドバーなど7シリーズを揃えている。

 そんなソニーではDTSを重要なパートナーと考えているという。同社では以前から、BRAVIAユーザーのための独自の映像配信サービス「SONY PICTURES CORE」を展開しているのもその一因だろう。

 そのSONY PICTURES COREでは、『スパイダーマン』などの人気タイトルを最大80Mbpsの高画質ストリーミングで楽しむことができる。加えてIMAX Enhanced対応作品も多く、これまではDTS音声による配信が中心だったが、2024年モデルの登場を受け、DTS:X音声でも楽しめるようになってきているという(過去作品も順次DTS:X音声に対応予定)。

dts japan マーケティング担当の津司紀子さん(左)と、ソニー 共創戦略推進部門 パートナー戦略部の宮川琴恵さん(右)

 続いて小米技術日本(株)マーケティング本部IMCマネージャーの北村拓巳さんから、Xiaomi製品の紹介が行われた。

 Xiaomiはスマホを始めとするIoT家電も多くリリースしており、全世界で8億2,200万台以上のデバイスがネットに接続されているそうだ。スマートテレビについても、グローバルでトップ5に入る売上を達成しており、日本国内でも昨年チューナーレステレビを発売し、話題を集めた。

 現在は「MAX 100」「S Mini LED」「A Pro」「A」の4シリーズを展開しており、上記の通りS Mini LEDがIMAX Enhanced対応モデルとなっている。その名の通りバックライトにMini LEDを作用したモデル(最大512分割)で、最大1200mitsの明るさと美しい映像を再現できるという。

XiaomiのS Mini LEDシリーズは、11月頃のアップデートでDTS:XによるIMAX Enhancedの再生に対応予定

 現在はIMAX Enhancedコンテンツも2chのみの再生だが、DTS:X音声への対応に向けて調整を進めているとかで、実現の暁には家庭でのエンタテインメント体験が、より映画化に近いものになると北村さんは説明していた。

 最後に、プレミアムオーディオカンパニーテクノロジーセンター(株)の渡邉彰久さんから、AVアンプの取り組みも紹介された。同社はオンキヨーとパイオニアの両ブランドの製品を設計している会社だ。

 渡邉さんはロサンゼルスのIMAX本社を訪問したこともあるそうで、IMAX Enhancedの音作りについても語ってくれた。映画の音は、一般的には劇場公開用と家庭用(ディスクや配信など)でミックスの内容が異なっている。家庭用ではスピーカーからの距離が近いこともあり、ニアフィールド用のミックスがされることが多いそうだ。

小米技術日本 マーケティング本部IMCマネージャーの北村拓巳さん(左)と、プレミアムオーディオカンパニーテクノロジーセンターの渡邉彰久さん(右)

 しかしIMAX Enhancedではニアフィールドミックス(ダイナミックレンジコンプレッションやダイアローグの調整など)を行わないそうで、劇場のサウンドバランスをそのまま家庭でも楽しめるのがポイントだそうだ。

 そしてオンキヨーやパイオニアのIMAX Enhanced対応AVアンプでは、このIMAX作品のポテンシャルを最大限に引き出すことに注力した物づくりが行われているそうだ。さらにフェーズコントロールやルームキャリブレーションなどの機能も組み合わせてクォリティ向上を実現している。

 現在オンキヨーのAVアンプでは「TX-RZ70」「TX-RZ50」が、パイオニアでは「VSA-LX805」「VSX-LX305」がIMAX Enhancedに対応している。

 そしてここから、実際の製品を使ってIMAX Enhancedのコンテンツが上映された。再生システムは、テレビがソニーBRAVIA 9「K-85XR90」、AVアンプはマランツ「AV8805」と「MM8077」✕2、スピーカーはKEFの「Q」シリーズで7.2.4環境が構築されていた。

 K-85XR90のDinsey+アプリからIMAX Enhancedタイトルを再生する。先程説明があった通り該当コンテンツを選ぶとDTS:X音声で再生するかの確認が表示され、ここを「有効」にするとIMAXの画角とDTS:X音声でコンテンツを楽しめるわけだ。

 なお担当者に確認したところ、IMAX Enhancedの配信で使われているDTS:Xのコーデックは専用に開発されたもので、ブルーレイなどで使われているDTS-HDマスターオーディオとも処理内容が異なるそうだ(IMAX Enhanced対応AVアンプ等ならデコードに対応済み)。ビットレートも配信用に最適化されており、抑えたデータ量ながら “聴感上のロスレス” 品質を実現したという。

 マーベル作品から、『ソー:ラブ&サンダー』のソーがムジョルニア(ハンマー)で敵の軍団をなぎ倒すシーンと、『アベンジャーズ/エンドゲーム』の “アベンジャーズ・アッセンブル!” のシーンを再生してもらう。

 『ラブ&サンダー』では、戦闘シーンや神殿が崩れ落ちるカットでの重低音が勢いを持って再現される。ソーの投げたムジョルニアが半円を描いて戻って来るシーンでも、移動の軌跡が明瞭だ。いかにも最近のアクションらしいキレのよさ、イマーシブオーディオならではの臨場感が楽しめる。

 『エンドゲーム』は、敗色濃厚で静まり返った戦場に徐々にアベンジャーズの面々が復活してくる、そのカタルシス、湧き上がる興奮をダイナミックレンジの広い音楽とSEが見事に盛り上げていく。キャプテン・アメリカの抑えた決め台詞とともに、新たなバトルが広がり、知らず知らずに作品世界にのめり込んでしまう。この興奮、ダイナミックレンジに優れた音場を家庭用システムで体験できるのは確かに貴重だろう。

2024年の対応BRAVIAでは、独自のSONY PICTURES CORE配信サービスでもDTS:XによるIMAX Enhancedコンテンツの再生が可能

 最後に音楽作品の『QUEEN ROCK MONTREAL』から「Somebody To Love」が上映された。ここでは大のQUEENファンだという津司さんから作品についての解説が行われた。

 『QUEEN ROCK MONTREAL』は1981年に開催されたコンサートで、35mmフィルムを使ってスタンダード(4:3)画角で撮影されている。今回の配信では、2014年に4Kリマスターされ、さらに今年IMAX劇場で公開されたのと同じマスターが使われているようだ。コンサート自体は1981年11月24〜25日に開催されており、フレディ・マーキュリーが亡くなるちょうど10年前に当たるという。

 K-85XR90に映し出された映像は、フィルムグレインがまったくない、びっくりするほどクリーンなもの。ピアノやマイクの光沢、フレディの肌や衣装の質感も明瞭に再現されている。4Kスキャンの際に徹底したレストアが施されたのだろうが、35mmフィルムの情報量の多さを改めて納得させられる仕上がりになっている。

オンキヨー「TX-RZ70」(左)とパイオニア「VSA-LX805」。どちらもIMAX Enhanced対応モデルだ

 「このコンサートの中で、私は『Somebody To Love』がベストパフォーマンスだと思っているんです。フレディは、最初革ジャンを着ているんですが、この曲ではスーパーマンのマークの付いたランニング姿になっていて、他にも短パン姿の映像もあったりして、そんなところもファンとしては嬉しいんですよね。

 サウンドでは、2000年頃に当時のOTOTENでDTS-ES 6.1chサラウンドのデモをやったことがあるんですが、その時には『ボヘミアン・ラプソディ』を7分間ノーカットで上映したんです。当時からDTSは音楽のサラウンドにも力を入れており、DTS-CDやDVDオーディオも色々出していました。時が経って今、IMAX映像で、しかも音声がDTS:Xでこのライブを楽しめるということで、ひじょうに感慨深いものがあります。

 音もパワフルですよね。ベースの低音とか、ドラムがずんずん響いてきてかと思えば、フレディの弾くピアノの細かいニュアンスまでちゃんと聴き取ることができて、これを家庭で聞けるなんて本当に幸せな時代だなと思います」と津司さんもファンらしい感想を聞かせてくれた。

 最近は配信サービスでもイマーシブサラウンドを採用したタイトルが増えており、家庭で手軽に臨場感に優れた映画体験ができるようになってきた。一方で品質についてはビットレートなどの点でパッケージメディアの優位性は残っており、その点を気にする映画ファンも多い。IMAX Enhancedコンテンツは、映画の作り手が劇場と同じ体験を家庭でも再現しようという思いで実現したものでもあり、今回の体験会でもそのメリットは充分あることが感じられた。

 現状では対応テレビで再生する必要があるが、Amazon Fire TVのようなストリーミングデバイスでもIMAX Enhanced Sound by DTS:Xで再生できるようになれば、その実力を体験したいというユーザーは増えると思うので、アプリのアップデートなどでの対応を期待したい。(取材・文:泉 哲也)