10月19日(土)、20日(日)の二日間、東京・目黒の老舗オーディオショップ、ホーム商会で台湾のスピーカーブランドLu Kang Audio(ルーカンオーディオ=鹿港音響)の試聴会が開催された。

 19日のイベントにはルーカンオーディオ(鹿港國際音響有限公司)の代表であるロックス・シーさんと、同ブランドの日本での販売を手掛けているWAPAN株式会社の代表取締役 マックス・リーさんも同席しており、冒頭にロックスさんからブランドの歴史が紹介された。

左が一番小型の「Spoey 155」で、右が「Spoey 200」

 ルーカンオーディオは40年以上前に台湾で創業、当初は販売店として世界各国のオーディオ製品の輸入販売を手掛けていた。その後、2000年代にスピーカーの研究と自社開発をスタート、台湾市場で認知を広げていった。

 2018年から「Spoey」スピーカーの海外展開をスタートし、アメリカ、中国、ロシア、シンガポール、マレーシアなどの展示会で好評を博したという。現在はこれらの国々やイギリス、香港、フランス、オーストリア、ドイツなどでも販売をスタートしている。

 日本市場には昨年末に参入、StereoSound ONLINEでも第一報として山本浩司さんによる「Spoey 155」のリポートをお届けした。その後大型モデルの「Spoey 200」について山之内 正さんに試聴いただき、インプレッションを紹介している。今回のイベントはその際のシステムを再現し、山之内さんのお薦めレコードや配信音源を体験しようという企画となる。

Spoey 200による試聴システム。右下のスピーカーケーブルもルーカンオーディオ製で、今回もこのケーブルを組み合わせている。写真のAVラックはMYST【J】製で、こちらもWAPAN株式会社で取り扱っている

 今回、ホーム商会に準備されたシステムは以下の通り。
●レコードプレーヤー:デノン DP-3000NE
●フォノイコライザー:アキュフェーズ C-47
●ストリーミングプレーヤー:エバーソロ DMP-A8
●セパレートアンプ:アキュフェーズ C-2900+A-80
●オーディオラック:MYST【J】 CMS ¥399,400(税込、3段システム)、他

 山之内さんがルーカンオーディオの音を初めて聴いたのは今年5月のベルリンオーディオショウだったとかで、そこでのヴォーカルの再現が印象に残っていたそうだ。

 その言葉を受けロックスさんは、「ルーカンオーディオのスピーカーは、音がクリアーでバランスのいい、リアルな声を皆さんに伝えたいと思っています。今日は3台のモデルを展示していますが、まずは22cnウーファーを搭載したSpoey 200を、その後に23cmウーファー搭載のSpoey 230をお聴きいただきます」と音作りの狙いを語ってくれた。

 ここから試聴がスタート。山之内さんのアナログレコードコレクションから、リンダ・ロンシュタット『Love is a Rose』やLIVING STEREO盤のフリッツ・ライナー指揮・シカゴ交響楽団『ドビッシー/IBERIA』をSpoey 200で再生してくれた。

左のエバーソロ「DMP-A8」でストリーミング音源を、右のデノン「DP-3000NE」でアナログレコードを再生

 「リンダ・ロンシュタットのヴォーカルがとてもいいですね。ナチュラルで艶があり、それでいてウォームです。『IBERIA』も金管楽器から打楽器まで、ひと昔前の録音とは思えないほど、ワイドレンジで伸びやかに再現しています。スピーカーの構成としてはシンプルな2ウェイで、搭載しているユニットはデンマーク製ということですが、そのあたりについて教えていただけますか」と山之内さんから質問があった。

 これを受けてロックスさんは、「スピーカーづくりは、ウーファーユニットの選定から始めました。たくさんのユニットを聴き比べて、デンマークのAudio Technologyのウーファーを選びました。このユニットは音のスピードや反応が速く、声の再現にも適していました。その後、このウーファーに合ったツイーターを探しました。10社以上のツイーターを試して、最後にHiquphonのユニットを選んでいます。Audio Technologyのウーファーは高価ですが、音のよさを考えて選んでいます」と説明してくれた。

 すると山之内さんから、「ユニットの反応が速いという点は、音の立ち上がりのよさからもわかります。こういった音は聴き疲れしないんです。というのも、楽器と同じで電気的な要因による位相のズレなども発生しません。ルーカンオーディオは、こういった点を音作りの規範にしているのでしょう」と解説があった。

 続いてSpoey 200でハイレゾ音源も再生された。エバーソロDMP-A8でTIDALからAnette Askvikの『Liberty』を選ぶと、ひじょうにクリーンで伸びやかなヴォーカルが飛び出してきた。

ロックスさん自ら、スピーカーのセッティングを行っていた

 「やはり声の再現がいいですね。ナチュラルで、ノリもいいし、音の骨格がしっかりしている。弦楽器もよく歌っています。見た目はクラシカルですが、音としては現代的な情報量をきちんと再現できています。こういったスピーカーはなかなかありません」と山之内さん。

 ここでSpoey 200と組み合わせている、ルーカンオーディオの純正スピーカーケーブルとスタンドについても紹介された。スピーカーケーブルは6N単結晶OCC銅導体を使っているとかで、こちらも声の素直な再現に注意して素材を選んでいるそうだ。

 一方のスピーカースタンドは、高さ48cmと62cmの2種類がラインナップされており、今回は48cmタイプを使っている。どちらも自社設計で、安定性を重視しているそうだ。上下のプレートと支柱はアルミ製で、支柱の内部は空洞になっており、そこに細かい鉄の砂を充填することで余分な共振を防いでいる。そのため、今回使用したスタンドは重さが28kgもある。

 ここで一旦休憩を挟んで、スピーカーを上位モデルのSpoey 230と交換した。こちらはウーファーが23cmサイズで、ツイーターも表面にチタンコーティングが施されたタイプになっている。本体サイズもひとまわり大きくなった。

23cmウーファーを搭載した「Spoey 230」

 山之内さんがSpoey 230で再生したのは、アンタル・ドラティ指揮・デトロイト交響楽団の『春の祭典』と、デッカの『1812 overture』ステレオ録音の初期盤だ。

 「『春の祭典』はだいぶスケールが大きくなりますね。太鼓の連打もそうですけれど、ウーファーが大きくなったぶん余裕があるということでしょう。またツイーターもシルクドームにチタンコーティングが施されたことで、音の印象も変わっているように感じました。

 『1812 overture』からはB面のスラヴ行進曲を再生しましたが、これは大きなスピーカーで再生したら、ロンドンシンフォニーの当時の実力とか音のキレの良さがお分かりいただけるのではないかと思って選んでいます。その期待通り、たいへん賑やかで、音色も明るく鋭い音が楽しめました。低弦の分厚い表現も、アナログならではでしたね」と言う言葉に、来場者もみんな頷いていた。

 さらに女性ヴォーカルからリッキー・リー・ジョーンズ『ShowBiz Kids』を再生し、「このスピーカーは、ベースの鳴り方がとてもいいですね。タイトなんだけど、量感もある。そして変な膨らみとか共振とかない。エンクロージャーはMDFということですが、かなり厚みがようですね」と山之内さん。

 これを受けてロックスさんは、「MDFには密度の違うタイプがありますが、われわれは超高密度タイプを選んでおり、さらに厚さも2.5〜3cmあります。そのためルーカンオーディオのスピーカーは一般的な製品の1.5〜1.8倍の重量があります」と、見えない部分へのこだわりも紹介してくれた。

 続いて来場者からのリクエストに応えて、『ベートーヴェン/ピアノ協奏曲第3番』とコルトレーンの『至上の愛』が再生された。

 「ピアノ協奏曲はテンポがゆったりとして、ひじょうに柔らかい再現でした。深みのある音で、楽器の板が鳴っているというニュアンスがとてもよく出てきました。コルトレーンも音にハリがあってよかったですね。中域の力強さも気持ちよかったと思います」と山之内さんからそれぞれの感想が語られた。

 最後にロックスさんから、「日本の皆さんにもルーカンオーディオをもっと知っていただきたいと思っています。もしご質問がありましたら、いつでもお問い合わせ下さい。今日参加していただいた方が台北にいらっしゃることがあったら、弊社に尋ねて来て下さい(笑)」と挨拶があり、イベントは終了となった。

 なおホーム商会には、Spoey 200が常設展示されているそうで、事前に予約すれば試聴も可能とのことだ。興味のある方はぜお問い合わせいただきたい。

左から鹿港國際音響有限公司代表 ロックス・シーさん、山之内さん、WAPAN株式会社の代表取締役 マックス・リーさん