イヤホンの世界は奥が深い。音を出すドライバーだけでも、ダイナミック型やバランスド・アーマチュア(BA)型などさまざまな種類がある。どんなドライバーを使用するか、複数のドライバーを組み合わせるかなど、さまざまな設計によってたくさんのイヤホンが発売されている。今回は、Binary Acoustics「DYNAQUATTRO JP Ver」GEEK WOLD「GK300」という、ちょっと個性派のイヤホンを紹介したい。それぞれの持ち味を詳しく紹介するとともに、適している音楽なども披露していこう。

「DYNAQUATTRO JP Ver」(左)と「GK300」

ダイナミック型4発、異種混合12発という、独創的なイヤホン

 まずは、「DYNAQUATTRO JP Ver」。こちらは4つのダイナミック型ドライバーを組み合わせたもの。一般的には、ダイナミック型は低域用として使われることが多いし、周波数特性が広いのでフルレンジを1つのドライバーでカバーすることも可能だ。これを高域や中域、低域に帯域を分割して組み合わせているのがユニーク。加えて、従来の製品開発で培ったダイアフラム(振動板)のコントロール技術を用い、かつ、さまざまなダイアフラム素材を組み合わせることで、全体的な音のバランスを整えているという。

有線イヤホン
Binary Acoustics「DYNAQUATTRO JP Ver」
¥51,350(税込)

DYNAQUATTRO JP Verの主な仕様
ドライバー:4DD(10mm DD「デュアルダイアフラム搭載」+8mm DD「サーメット素材ダイアフラム」+6.8mm DD「純アルミ・ダイアフラム+スターリングシルバーコイル」+6mm DD「ウールペーパーコーン・ダイアフラム【パッシブ】」)
周波数特性:20Hz~20kHz
インピーダンス:23Ω
感度:111dB/Vrms@1kHz
ケーブル:リッツケーブル+シルバーコーティング・リッツのハイブリッドケーブル
コネクター:カスタム2ピン
プラグ:4.4mmバランス

https://mimisola.com/product/binary-acoustics-dynaquattro-4dd/

 構成は、10mm径デュアルダイヤフラム・デュアルマグネット構造ドライバー(低域)、8mm径サーメット素材のテクスチャレス・ダイヤフラム搭載ユニット(中域)、6.8mm径純アルミニウム・ダイヤフラム+スターリングシルバーコイル採用ユニット(高域)、6mm径ウールペーパーコーン振動板のパッシブラジエーターとなる。独自の音響シミュレーションにより、精密なダイアフラム制御を実現しているという。ハウジング外側のフェイスプレートはアルミ合金のCNC削り出しで、歯車をモチーフとしたデザインになっているのもユニーク。

 そして「GK300」。こちらはまだ新しいブランドで、本機が第3弾となる。複数のドライバーを多数組み合わせて構成したイヤホンを得意とするブランドで、「GK300」はなんと12ドライバー構成になっている。その内容は、BA型×4(超高域)、カスタマイズされたコンポジットBA型×2(高域)、同じくカスタマイズされたコンポジットBA型×2(中域)、ピエゾドライバー×2(高域、超高域)、8mm口径平面ドライバー×1(高域)、8mmダブルマグネット回路+液晶ポリマー/シリカゲル複合ダイアフラム搭載ダイナミックドライバー(低域)というもの。

有線イヤホン
GEEK WOLD「GK300」
¥76,300(税込)

GK300の主な仕様
ドライバー:8BA+1DD(8mmLCPダイアフラム+チタンコンポジット・ダイアフラム)+1プラナー(平面)ドライバー+2 Piezoelectricドライバー
周波数特性:20Hz~40kHz
インピーダンス:16Ω
感度:105dB
ケーブル:OFC(シルバーコーティング)+OCC 4コア
コネクター:カスタム2ピン
プラグ:4.4mmバランス
付属品:イヤーチップ2種 各1セット、イヤホンケース

 さまざまな種類のドライバーをかき集めて詰め込んだかのような仕様だが、独自設計の4ウェイクロスオーバー回路を搭載、音導管も4つ用意される複雑な構造になっている。しかもシェル内にあるダクトは音波が綺麗に流れるように設計されていて、多くのドライバーが配置されながらも、自然なまとまりが感じられる音に仕上げられているという。

「DYNAQUATTRO JP Ver」は低域の質が高く、ボーカルの再現も良好!

 まずは「DYNAQUATTRO JP Ver」から聴いてみた。本機は、日本のみの特別仕様として、4.4.mmバランス端子のケーブルが付属しているので、プレーヤーにはアステル&ケルンの「A&Futura SE300」を組み合わせてバランス接続で聴いた。よく聴くクラシック曲では、自然な音場感で心地のよい音が楽しめた。低域から高域の音色の繋がりがスムーズで、高域はややソフトで滑らかな感触。低域はなかなか力強い音だが、ふくらみすぎることもなく、芯の通った力強いものになっている。打楽器をバチで叩く感じや、弦楽器の低音の重層的な重なりの再現が見事だ。

 ボーカル曲は宇多田ヒカルの『Science Fiction』から「二時間だけのバカンス」を聴いた。宇多田ヒカルと椎名林檎のふたりのボーカルの描き分けもよく出来ているし、声の強弱やニュアンスがしっかりと出て、なかなかの表現力だ。高域がしなやかなこともあって、音像に変な輪郭強調がなく、自然な佇まいになるのが好ましい。

 アニメ映画『ルックバック』のサントラから「Light Song」を聴くと、聖歌を思わせる高く澄んだ声が気持ち良く広がるし、包囲感も良好。中盤から聖歌隊によるコーラスが加わるが、コーラスの広がりと奥行の再現が見事で、教会で聴いているような感覚になる。

 スピードの速いロック調の音楽などを聴くと、アタックが少しおとなしいのでゆったりとした印象にはなるが、ドラムやパーカッションといったリズム楽器は、弾力のあるダイナミックな鳴り方でリズムをしっかりと刻む。力強さやボリューム感のバランスも良く、なかなか質の高い低音が楽しめた。

 情報量が多く高解像度な音でありながら、その音色はナチュラルで、気持ち良く音楽を楽しめる再現性となる。どんなジャンルも似合いそうだが、特にアコースティック楽器を主体とした音楽とは相性が良い。クラシックやジャズも、その演奏のダイナミックな力感や躍動感をたっぷり味わえるはず。もちろん、ボーカル曲も表現力が豊かで、声の魅力をたっぷりと堪能できるだろう。

「GK300」は広帯域で情報量が豊か、華のある音色で鮮明な音を楽しめる

 次は12ドライバー構成の「GK300」。これだけのドライバーが入ったイヤホンというと、音の繋がりや音色の統一感はどうなのだろうかと、いろいろな先入観を持ってしまいがちだが、音は鮮明でリアルな再現。楽器の音色の鳴らしわけも上手い。このあたりは、マルチドライバーならではの感触が活きている。

 高域はキリっと輪郭が立った解像感の高い鳴り方で、中低域も重厚ながらもキビキビとよく反応する。テンポの速さ、力強いリズムを重厚に響かせながら、金管楽器や弦楽器が艶のある音を奏でてくれる。ややドンシャリ気味のバランスではあるが、違和感を覚えるほどではなく、生き生きとした元気のよい鳴り方をする。

 宇多田ヒカルの「二時間だけのバカンス」では、声の感触は自然で、吐息や声の響きまできめ細かく描写する。繊細なだけではなく、力感もしっかりと出て聴き応えがある。音場定位も明瞭で、音場の広がりや空間感も見通しの良い再現となる。

 『ルックバック』サントラの「Light Song」は、ミュートピアノの独特な音色や響きの感触もていねいに再現し、ペダルを踏んだときの音やかすかなノイズも鮮やか。ピアノのそばで聴いている感じになる。声の透明な伸びの美しさ、コーラスの広がりや奥行感、それらが一体になって響くコーラスの美しさも見事だ。

 ロックポップスのテンポ感のある曲はスピード感もしっかりと出て、キレ味のよい再現になる。低域がたっぷり出ることもあって、より豪華なステージになった印象がある。アニメソングに限らないが、最近のポップス曲に多い、音数をたっぷり詰め込んでちょっとガチャガチャした感じになりがちな曲も、混濁させずにきめ細かく再現するし、そのうえで高域に華のあるアクセント、低域は重厚で力強いボディ感を加えて、ゴージャスに楽しませてくれる。

 サウンドチューニング的には、少し華やかな演出を加えるタイプではあるが、それが不自然に感じるほどではなく、ちょうどいい塩梅の味付けになっているところが面白い。人気のポップス曲やアニメソングも楽しい音で聴かせてくれるだろう。アコースティック楽器の演奏が苦手というわけではないが(ヴァイオリンの艶のある音色はかなり魅力的)、電子楽器を多用したハイテンポな楽曲が似合うと思う。スピード感のある、キレ味のよい演奏を楽しめるはずだ。

 なにより、12ドライバーという構成で8万円を切る価格というのもかなり珍しい。マルチドライバーらしさも実感できる音だし、興味のある人はぜひとも試してみてほしい。

イヤホンの世界の奥の深さがよくわかる個性派モデル。ぜひ一度聴いてほしい

 どちらのモデルもドライバー構成を見るとかなり個性的だが、音の点ではしっかりとまとまっていた。これも最新の測定技術やコンピューターによる解析などの進化の賜物なのだろう。イヤホンというか、オーディオの世界の奥の深さがよくわかる取材だった。

 ハイテクというか、最新の技術に関心のある人にとっては気になる製品だと思うし、そのわりには超高価格というわけではないのもうれしい。このあたりも、人気の高いイヤホンの世界ならではの面白さと言える。人気の定番モデルを使うのもいいけれど、他の人とは違う、独特の個性を持った製品を探している人には、ぜひとも注目してほしい。