重鎮メル・ギブソンが製作総指揮を務めた社会派作品。実話に基づいたストーリーであるということだが、描かれる「現実のむごさ」には驚かされるばかりだ。心もアイデンティティもあるのは児童も大人も同様、だが、この映画に登場する「犯罪組織」やそこに属している者には、そんなことなど関係ない。国際的スケールで児童の誘拐、児童の人身売買、児童への性的虐待を繰り返し、儲けを得る。誘拐や拉致といった言葉も浮かんでくるが、親や親せきの立場から言えば、ある日突然、かけがえのない子供が目の前から消えてしまうことになり、子供の立場から言えば、ある日突然見知らぬ人に連れ去られて、船に乗せられ、知らない国の知らない宿に連れていかれて、小児性愛症の大人のえじきになるのだ。利益をせしめるのは、その「組織」。もっとも1回ぐらいは労働のごほうびとして、児童の食事に何か1品ぐらい追加されるかもしれないが。
ジム・カヴィーゼルが演じる主人公・ティムは、「児童への犯罪の現実」と戦った実在の人物ティム・バラードがモデル。時には小児性愛症のふりをして組織の中に入り込み、英語やスペイン語、さらにアクションも駆使しながら、犯罪の膿を出してゆく。見ていて心がつらくなるような描写も、子供を持ったことのある親なら目を伏せたくなる場面も間違いなくある。そうした「つらく重い部分」と、アクション・シーン、(時に登場する)ジョーク交じりのセリフ、子供との心温まる会話などの対比も、映画としては第一級だ。物語が進むにつれて、「サウンド・オブ・フリーダム」(自由の音)の意味するところも明らかになる。
本編が終わったあとも、決して一息つくことはできないない。「制作陣は、ひとりでも多くに、この現実を伝えたいと思った。ゆえに、まさに命がけでこの作品に取りかかったのだ」ということが改めてわかるからだ。監督と共同脚本はアレハンドロ・モンテベルデ。
映画『サウンド・オブ・フリーダム』
9月27日(金)より、TOHOシネマズ シャンテ他にて全国公開
出演:ジム・カヴィーゼル、ミラ・ソルヴィーノ、ビル・キャンプ
監督:アレハンドロ・モンテベルデ
共同脚本:ロッド・バール、アレハンドロ・モンテベルデ 製作:エドゥアルド・ベラステーギ 撮影:ゴルカ・ゴメス・アンドリュー 音楽:ハビエル・ナヴァレテ 編集:ブライアン・スコフィールド 配給:ハーク 配給協力:FLICK
2023年/アメリカ/英語・スペイン語/131分/カラー/5.1chデジタル/スコープサイズ
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