10月4日(金)に公開される、『シビル・ウォー アメリカ最後の日』。A24史上最高のオープニング記録を樹立し、更に興行収入ランキングで2週連続1位を獲得した注目作品だ。

 メガホンを執ったのは、長編デビュー作『エクス・マキナ』で 第88回アカデミー賞視覚効果賞を受賞したアレックス・ガーランド監督。先日、ガーランド監督の来日を記念し、映画評論家の町山智浩さんが作品にまつわる疑問を監督本人にぶつける記者会見が開催された。

 プレミア試写会に続いて登壇したガーランド監督に町山さんから、日本に対してどんな感想を持っているかという質問があった。

 するとガーランド監督は、「私と日本の初めての出会いは、1988年公開のアニメーション映画『AKIRA』でした。見たことがあるような、馴染のある世界でありながら、微妙に自分が知っているのとは違う世界が描かれていて、その奇妙さに惹かれました。その後、1996年に初めて日本を訪れましたが、なるほどこういう世界を『AKIRA』では描いていたのかと納得しました」と、日本との出会いについて語ってくれた。

 続いて『シビル・ウォー』でのアメリカ内戦というアイデアはどのようにして出てきたのかについて質問があった。

 これに対しては、「この作品は僕の空想から生まれたものではなく、本当に世界で起こっていることを反映しているつもりです。僕の若い頃と比べても、今の世の中はだいぶ違う様相を呈していると思っていて、そういったことが着想になっています。ここで問うべきは、描かれているのが本当かどうかではなく、いつ、どこで止まるのかということだと思います」という返事があった。

 「つまり、この映画で描かれたことは既に起こっている、これを止めなくてはいけないということですか?」という町山さんの質問に対しては、「近未来のフィクションという部分もありますが、50%は現実かなと思っております」と厳しい返事も帰ってきた。

 ちなみに作品中では、アメリカでもっとも保守的といわれるテキサス州と、もっともリベラルなカリフォルニア州が手を組んでいる設定になっている。

 「観客の皆さんに、テキサスとカリフォルニアが手を組むということが、そんなに想像しがたいですかという問いかけをしてみたいと思いました。この作品では、大統領が法治国家であるアメリカを崩壊に追いやって、独裁政権を設立しているわけです。それに対し、テキサス州とカリフォルニア州が手を組んでファシズムに抗うことが、僕には理にかなったことだと思うんです。

 もしこれがありえないことだと思うのであれば、それはなぜでしょうかと、皆さん自分自身で考えていただきたいです。この作品では、ファシズム対デモクラシーという構造を描いているつもりです」とのことだった。

 また主人公を軍人ではなく、ジャーナリストにした理由も尋ねられた。

 「今の時代、ジャーナリストが敵視されがちであると思うんです。これは腐敗した政治家がそのジャーナリズム、ジャーナリストたちを矮小化しようとしているからだと思うのですが、こういった現象がイギリスだけではなくて、他の国でも繰り広げられていると思います。これは本当に狂気の沙汰だと僕は思っています。

 というのも、やっぱり国を守るため、そして自由な生活を守るためにジャーナリズムは必須だと思うんです。現実の世界では、政治家が彼らを悪者に仕立て上げているわけで、そんな世の中ですからこの映画では、ジャーナリストたちをヒーローとして描きたかったんです」と、明確な見解が示された。

 なお本作では、4人の主人公の中で一番若いジャーナリスト志望のジェシー(ケイリー・スピーニー)がフィルムカメラを使っている。この理由についても町山さんから質問があった。

 「いろんな時代のジャーナリズムを対比したかったという狙いがあります。彼女はスチールフォトグラフィーで事実を報じようとしているわけですが、一方で年長のリー(キルスティン・ダンスト)はデジタルカメラを使っている。ここでスチールとデジタルの対比をしたかったんです。

 もうひとつ、古い時代のジャーナリズムを想起するような描写を今回は意識しています。ジェシーは若い世代ですけれども、彼女の報じ方、写真の撮り方が60〜70年代のジャーナリストたちのスタイルなんですね。目の前で繰り広げられていることを淡々と記録していくという、リポーターとしてのジャーナリストを、彼女を介して描いているつもりです。そして、そこで記録したことをテレビや新聞を通じて公に報じる。そういう役割を彼女に背負わせているわけなんです。

 特に西洋諸国において、最近は撮ったものをそのまま報じるという原則が放棄されているように僕は思うんです。つまり、今の大手メディアは社会的責任を放棄してしまっているわけで、だから一番若いジェシーに、ジャーナリストに対する僕の思いを託しているわけです」と、ここでもかなりシビアな見解も示されていた。

 また劇中でジャーナリストと兵士、敵味方の描き分けがはっきりしていないことについては、「ここでは、意識して混沌とした状況を描いています。この戦争は白黒はっきりとしたものが崩壊しているわけで、ひじょうに複雑で答が見いだせないような状況です。さらに、どこにモラルの線を導いたらいいのかもはっきりしていない。そういう世界を描いているつもりです」と語ってくれた。

 その混沌の象徴とも言える存在として、ジェシー・プレモンスが演じる兵士が登場する。ここは本作でももっとも印象に残るシークエンスで、町山さんから、このシーンがどうやって作られたという質問もあった。

 「ここで描きたかったのは、人種差別です。誰が射殺されるのか、誰が生き残るのかは単純に人種による、そういうシーンなんです。本作は社会の分断を描いているわけですが、社会の分断を描くのなら、それはレイシズム(人種主義)なしに描くことはできないので、こういうシーンを入れているわけです」とのことで、ぜひこの部分に込められた意図については劇場で熟考してもらいたい。

 また町山さんから、作品に登場する兵士たちの動きがひじょうにリアルだったという指摘もあった。

 「本編に登場する兵士は、実際に従軍経験のある米兵です。なので、武器の構え方であったり、お互いの会話は、本当に戦場通りに再現しています。体の動きも、リアルな動作なんです。監督としてあのシーンを撮影していてひじょうに面白いと思いましたし、一番撮影しやすかったシーンでもありました。

 終盤、ホワイトハウスの中で廊下を走っていくシーンがありますが、あのうち3人はアメリカ海軍特殊部隊で、監督としての演出は “普段やっていることをやってください” と言っただけでした。ドキュメンタリーのように撮っただけなんですけれども、あのシーンを撮った体験が、実は次回作の着想点になりました。次回作は低予算作品ですが、とてもリアルな戦闘を描いた映画になります」と、新たな展開についても語られた。

 最後に町山さんから、作品の音の凄さについての質問も投げかけられた。すると、「こういう戦争映画を撮るためにはリアルさが大切なので、せめて空砲を使うべきだと思っています。空砲を使うと俳優もびっくりしますし、発射の閃光が顔に反射したりするので、そういうリアリティを残すように心がけました」とリアルさへのこだわりも語ってくれた。なおその空砲自体も爆薬の量を通常の撮影時より増やしていたそうだ。

 さてStereoSound ONLINEでは、ここでも語られた音、サウンドデザインの素晴らしさにも注目しており、本作の音響監督を担当したグレン・フリーマントルさんにもインタビューをお願いしている。その内容も近日ご紹介するので、お楽しみに。 (取材・まとめ・撮影:泉 哲也)

『シビル・ウォー アメリカ最後の日』
●10月4日(金) TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開
●監督/脚本:アレックス・ガーランド
●キャスト:キルステン・ダンスト、ワグネル・モウラ、スティーヴン・マッキンリー・ヘンダーソン、ケイリー・スピーニ―
●配給:ハピネットファントム・スタジオ
●原題:CIVIL WAR|2024年|アメリカ・イギリス映画|109分|PG12

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