金管の鮮烈な輝きや弦の濃密な表情に秀でた。メータ&ロスフィルの不朽の名録音・名盤

 メータが1978年に録音したマーラーの交響曲第3番は、16年に及ぶロスフィル音楽監督在任中に成し遂げた業績を象徴する名演で、この作品の代表的録音の一つとして揺るぎない評価を獲得した。金管の鮮烈な輝きや弦の濃密な表情はロスフィルが世界屈指のオーケストラに成長したことを証明し、この時期のデッカで重要なポジションにいたジェームズ・ロックによる克明かつ写実的な録音手法はその後のマーラーの録音に影響を及ぼした。マーラーの交響曲は優れた録音で聴くことがいかに重要か、音楽ファンはその事実をこの録音で思いしらされたのだ。

Stereo Sound REFERENCE RECORD
SACD+CD 4枚組 シングルレイヤー『マーラー:交響曲第三番/メータ指揮:ロサンゼルス・フィルハーモニー管弦楽団』

(ステレオサウンド SSHRS-035~038)¥10,120 税込

[収録曲]
グスタフ・マーラー:交響曲 第3番 ニ短調
Disc 1
1.第1楽章:Kräftig. Entscheiden
2.第2楽章:Tempo di minuetto. Sehr mäßig
Disc 2
1.第3楽章:Comodo. Scherzando. Ohne Hast
2.第4楽章:Sehr langsam. Misterioso
 「おお、人間よ! 心せよ!」
 »O Mensch! Gib acht!«
3.第5楽章:Lustig im Tempo und keck im Ausdruck
 「ビム、バム。3人の天使が楽しい歌をうたい」
 »Bimm Bamm. Es sungen drei Engel einen süßen Gesang«
4.第6楽章:Langsam. Ruhevoll. Empfunden

●マスタリングエンジニア:ジョナサン・ストークス、ニール・ハッチンソン(Classic Sound Ltd UK)
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 1980年代以降、マーラーの交響曲群の体系的な録音が本格化し、多くが優秀録音として聴き継がれて現代に至る。数々の名録音に接してきた現代の聴き手の耳で聴いても、46年前のメータ&ロス・フィルの録音が色褪せないのはなぜか。オリジナルのアナログマスターからの忠実なDSDリマスタリング音源であらためて聴くと、この録音の長所が浮かび上がってくる。

 第1楽章から第3楽章まで頻繁に登場する森や動物などの自然描写は、明瞭なダイナミクスと速めのテンポによって、輝く夏の陽射しを強く印象付ける。ポストホルンのソロをはじめ、遠近表現のうまさも際立つ。「音の遠近法」はデッカがこだわるテーマの一つで、マーラーならではのパースペクティブの再現にあらゆる工夫を盛り込み、成果を挙げている。

 第2部後半に入ると、空間的な遠近描写と音色の陰影表現を同時に追求し、この作品の壮大な世界観の提示に録音が大きな役割を演じる。独唱を手前に引き寄せる手法は現代の録音とは方向が異なるが、遠近感を際立たせる効果は大きい。舞台の広がりを最大限に引き出す合唱の配置も巧みだ。そして第6楽章、感情表現の制約を解き放った弦楽器の濃密な音色が最大級の高揚感を引き出し、無類の感動をもたらす。

 演奏の真価をもらさず伝える不朽の名録音だ。